論文名 | 認知症の臨床 |
著者名 | 松田 実 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0585-0589,2017 |
抄録 | 認知症の初期診断に失敗した事例を報告し,そこから学ぶべき教訓を述べた.アルツハイマー病(AD)の典型例の診断は慣れてくると容易そうにみえるが自信をもちすぎると失敗すること,ADの診断は除外診断が基本であり,とくに若年例では検査を省略すべきではないし,関連疾患についての知識を常に更新しておく姿勢も重要である.レビー小体型認知症(DLB)は過剰診断も多いが,初期例を見落とさないためには「DLBかもしれない」と疑うことが重要である.認知症の啓発が進み,認知症ではない病態が認知症と誤診される可能性も多くなっている.そのなかでも,発達障害の成人例には注意を要する. |
キーワード | アルツハイマー病,悪性リンパ腫,CADASIL,レビー小体型認知症,発達障害 |
論文名 | レビー小体型認知症のBPSD のマネジメントの困難症例 |
著者名 | 太田一実,井関栄三 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0590-0592,2017 |
抄録 | 幻視が出現したレビー小体型認知症の2症例を呈示した.症例1ではレム睡眠行動障害に伴い夜間覚醒時に幻視が出現し,本人は幻視を夢のなかで見ているのか,現実で見ているのかを明確に区別することが困難であった.症例2では幻視は日中に出現し,本人も明確に覚えており,視覚認知機能の低下が幻視に関連していると考えられた.幻視の出現機序は環境状況や時間帯によって異なる可能性があり,人によって対応方法を工夫する必要があると考えられた. |
キーワード | レビー小体型認知症,幻視,レム睡眠行動障害,視覚認知障害 |
論文名 | 数年の経過を経てレビー小体型認知症の診断に至った若年性認知症の1 例 |
著者名 | 小田原俊成 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0593-0596,2017 |
抄録 | 早発性アルツハイマー型認知症として通院開始4年後,レビー小体型認知症(DLB)に診断が変更となった症例を呈示した.認知機能障害に加えて,病初期から抑うつ症状(大うつ病)および嗅覚異常を併存していた点が特徴的であった.DLBの診断基準を満たさない症例に対しても,前駆症状を理解し,移行を念頭においた検査や診察を注意深く行う診療姿勢が望まれる. |
キーワード | 早発性アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,うつ病,嗅覚異常,前駆症状 |
論文名 | The gas-light phenomenon の経験 |
著者名 | 角 徳文 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0597-0599,2017 |
抄録 | 自分の失敗した症例を公にすることを雑談のなかで話すのはまだしも,文章にして表すのは多少なりともためらうのは自分だけであろうか.実際には存在しないような精神症状が家族やまわりの者によって誇張され表現されることにより,本人が精神疾患と判断され不利益を被るような状況を「ガス灯現象(the gas-light phenomenon)」というが,筆者の経験した症例を自戒の念も込めて呈示した. |
キーワード | 認知症,ガス灯現象 |
論文名 | 認知症の人の自動車運転に関連する支援の失敗から |
著者名 | 上村直人 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0600-0604,2017 |
抄録 | 認知症の人の自動車運転に関連する支援において経験した失敗例を呈示し,現状の法整備に関する制度を踏まえた対応のあり方について私見を述べた.2002年の改正道路交通法の施行,2009年の講習予備検査導入(認知機能検査),2014年からの医師の任意通報制度,そして2017年3月からの新たな改正道路交通法の施行など,認知症医療への影響も大きい.今後,認知症と自動車運転の問題はますます臨床現場でも遭遇する問題であり,臨床医は道路交通法などの法改正の内容を熟知しておく必要があると思われる. |
キーワード | 認知症,自動車運転,運転免許,改正道路交通法,倫理的課題 |
論文名 | かかりつけ医・認知症サポート医との連携における失敗から学んだこと |
著者名 | 田久保秀樹・鈴木謙一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0605-0610,2017 |
抄録 | もの忘れ外来ではかかりつけ医師からの紹介が多く,予約待ちが数か月に及んだために医師会・認知症サポート医が中心となって認知症連携パスを作成し,認知症連携先を3段階に分けて対応した.また認知症疾患医療センター指定後は外来枠を大幅に増やし予約待ち時間の短縮を実現した.認知症の疑いがあるが受診が困難な人に対するアウトリーチ事業ではかかりつけ医師が存在する割合が多く,訪問前に報告・連携をすることが必要である. |
キーワード | かかりつけ医,認知症サポート医,認知症連携,認知症疾患医療センター,アウトリーチ |
論文名 | 虐待のあった症例の失敗に学ぶこと |
著者名 | 竹内真弓 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0611-0614,2017 |
抄録 | 高齢者虐待介入において,被虐待者も虐待者もかかわりを拒否する場合,支援は困難を極める.拒否の強い症例に介入する際には被虐待者,虐待者の判断能力の程度が問題となる.協力する医師は法的な裏づけや解釈と実用について専門外であり,不慣れなことが多い.本稿では認知症,精神疾患のある虐待症例を呈示し,医師を含む支援者に起こりがちである失敗のパターンを分析した. |
キーワード | 高齢者虐待防止法,判断能力の有無,養護者の支援,立ち入り調査,支援者の姿勢 |
論文名 | 認知症作業療法における失敗とリカバリー |
著者名 | 上城憲司 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0615-0618,2017 |
抄録 | 本稿では認知症の人に対する作業療法実践での失敗とリカバリーについて報告した.作業活動プログラムでは,病前に好んでいた作業活動が,病後すぐに受け入れられるとは限らないことを,日常生活動作プログラムでは,行動障害に対する介入において,「正の報酬」がやめてほしい行動の改善にはつながらないことを学んだ.2事例を通して認知症の作業療法では,失敗の現象ととらえ,悪循環を整理し,試行錯誤を繰り返すことが重要であると考えた. |
キーワード | 認知症,作業療法,認知症の行動・心理症状(BPSD),日常生活動作(ADL) |
論文名 | 地域連携型認知症疾患医療センターにおけるソーシャルワーカー介入ケースの特徴と失敗 |
著者名 | 近藤康寛・阿部哲夫 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0619-0624,2017 |
抄録 | あべクリニック認知症疾患医療センターは,地域連携型認知症疾患医療センターとして,認知症の当事者が可能な限り地域生活を維持できるように,社会的孤立の状況にあるケース等に介入して改善を図ってきた.当センターの新患168人を分析した結果,認知症が進行した段階で医療につながるケースが多く,その対策が万全ではないことが一つの失敗である.そこからみえてくる将来に向けた活動の可能性は,認知症における地域包括ケアシステムの新たな好循環を創出するであろう. |
キーワード | 地域連携型認知症疾患医療センター,ソーシャルワーカー,医療相談室,社会的孤立,地域包括ケアシステム |
論文名 | 薬物療法の失敗から |
著者名 | 稲村圭亮 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0625-0628,2017 |
抄録 | 認知症患者に対する薬物療法の前提として,適正使用はもちろんのこと,老年期特性を十分に把握することが必要である.身体機能の低下のみならず,身体合併症の罹患,服薬アドヒアランスといったさまざまな側面を考慮したうえでの加療が原則となる.そのような考慮をせずに抗認知症薬を用いた場合,さまざまな有害事象が起こりうることを念頭におかなければならない.本稿では,筆者の経験した症例を通じて,薬物療法における留意点を述べた. |
キーワード | 認知症,抗認知症薬,副作用,コリンエステラーゼ阻害薬,NMDA受容体拮抗薬 |
論文名 | 認知症治療病棟におけるマネジメントの失敗から |
著者名 | 互 健二 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0629-0632,2017 |
抄録 | 認知症治療病棟では暴力や興奮などの対応困難な症状のみならず,転倒などのリスクの高い患者が多い.安全面への配慮から隔離や拘束などの行動制限が必要となるが,漫然とした行動制限は患者のQOL低下や廃用性症候群の進行といった事態を招いてしまう.本稿では認知症治療病棟において遭遇することが多いであろう,行動制限を要するマネジメント困難な症例を呈示し,そのような症例に対して筆者らが行った試みについても紹介しながら考察を行った. |
キーワード | 認知症治療病棟,行動・心理症状,行動制限,転倒予防 |
論文名 | 認知症の人の合併身体疾患のコントロールの失敗から |
著者名 | 英 裕雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0633-0636,2017 |
抄録 | 在宅医療では,中等度以上の認知障害患者のケアを行うことが多く,必然,合併身体疾患の管理が不可欠になる.在宅でさまざまな合併疾患管理が行えた場合,患者の社会生活維持改善につながるばかりか,家族にとっても治療理解が深まり,結果,在宅療養の質の向上につながる.しかし在宅の特性を知ったうえで,家族やケアチームのコンセンサスをつくりながら,治療を行っていく必要がある. |
キーワード | 認知症,在宅医療,往診,身体合併症,ケアチーム |
論文名 | 顕著な前頭葉症状がみられる一方,他者への配慮がみられた一例 |
著者名 | 谷向 知・樫林哲雄・園田亜希・福原竜治・小森憲治郎・石川智久 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0637-0640,2017 |
抄録 | 初老期以降に前頭葉症状が顕在化した場合,前頭側頭型認知症の診断名がつけられていることが少なくない.進行性核上性麻痺は,その診断基準に垂直性眼球運動障害と転倒が挙げられているが,神経学的所見が出現する以前に,前頭葉症状が出現することが知られている.どちらも,若年発症のことが少なくないため,早期に診断し速やかな傷病手当や難病指定などの申請を行うことが望まれる.しかし,発達障害の鑑別も含め過剰診断にならないように慎重にならざるを得えない現状もある. |
キーワード | 前頭葉症状,前頭側頭型認知症,進行性核上性麻痺,他者への配慮,社会保障制度 |
論文名 | 認知症の人の自死(自殺)から学ぶこと |
著者名 | 松本一生 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0641-0644,2017 |
抄録 | 精神科の臨床医をしていると認知症の人の自死(自殺)に出会うことがある.うつ病や統合失調症に対する認識と比べると,認知症の人は自死しないといった誤解も残っている.本稿では筆者が担当した人の自死を振り返り,社会的なサポートの必要性を再確認したことを報告した.また,これまで自死した認知症の人の企図を振り返り,支援をする際の精神療法のポイントについて考えるとともに,どのような覚悟をもって支援すべきかについて考えた. |
キーワード | 認知症の人,自死(自殺),初期の絶望,精神療法,生活を支える支援 |
論文名 | 認知機能低下のある人はなにを求めて受診をするのか |
著者名 | 神戸泰紀 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0645-0648,2017 |
抄録 | 臨床の場で重ねてきた失敗が私にはある.そのなかから本稿では2つの場面を取り上げた.まず,個別性や多様性に耐えうる態度の必要性を突き付けられた,告知にまつわる失敗があった.次に,関係性に対する不誠実さに恥じ入った,二人主治医制にまつわる失敗があった.そしてそれぞれからの学びは共通して,認知機能低下がある人はなにを求めて受診をするのか,を考える素材となった. |
キーワード | 認知症,認知機能低下,告知,二人主治医制,失敗 |
論文名 | メマンチン塩酸塩のアルツハイマー型認知症患者における長期使用の安全性および有効性 |
著者名 | 本間 昭・早川晶子・関根 亨・塩境一仁・薄井 勲・荒井美由紀 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(6):0651-0662,2017 |
抄録 | メマンチンの特定使用成績調査は,中等度および高度のアルツハイマー型認知症患者における本剤の長期使用時の安全性および有効性の確認を目的として,2011年12月に開始された.本調査の観察期間はメマンチンの投与開始から12か月間の第一期,および最長36か月間の第二期で構成されており,第一期および第二期24か月時点までの安全性と有効性についてはすでに報告している.今回,全症例の36か月間の観察が終了したため,第二期観察対象症例2,527例について解析を行った.その結果,副作用は36か月までに18.65%発現し,主な事象は浮動性めまいおよび傾眠であった.なお,大部分は投与開始後3か月以内に発現していた.また,長期投与に関連する副作用の増大は認められず,36か月時点でも85.7%が維持量20 mg/日を継続していた.有効性については,投与開始時からのMMSEスコアの変化量は36か月時点では-1.7点であり,主治医判定においても36か月時点の有効率は87.6%と判定されたことから,認知機能の低下は自然経過と比較して,長期にわたって抑制されていると考えられた.さらに,36か月時点では42.7%の症例でMMSEスコアの維持・改善が認められた.以上の結果から,メマンチン投与開始後3か月までは副作用の発現に注意を要するが,それ以降の忍容性は良好であり,36か月の長期にわたる認知機能の維持が実臨床で確認された. |
キーワード | メマンチン,アルツハイマー型認知症,MMSE,安全性,有効性,長期投与 |