論文名 | エイジズムから尊厳に満ちた地域社会へ |
著者名 | 松下正明 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0447-0457,2017 |
抄録 | 現代社会に根強くはびこる高齢者差別(elderly ageism),高齢者虐待(elderly abuse),高齢者排除(elderly exclusion)の現状を明らかにし,それらに強い関心と憤りをもって生涯を送ってきたバトラー(Robert N. Butler)の研究を紹介しながら,それらの現状に抗して闘うことこそが,高齢者や認知症の人の人間としての尊厳を守ることに通じるという基本的な考えを述べた.さらに,2016年7月に発生した相模原障害者施設殺傷事件は,これからの認知症の人の抹殺思想に通じるおそれがあり,そのことを含めた3A現象について言及した. |
キーワード | 高齢者差別,高齢者虐待,高齢者排除,高齢者抹殺思想,R.N. バトラー |
論文名 | Dementia Friendly Community の理念と世界の動き |
著者名 | 粟田主一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0458-0465,2017 |
抄録 | 21世紀の初頭より,Dementia Friendly Community(DFC)は,認知症に対する偏見の解消,差別の撤廃,認知症とともに生きる人々の包摂,社会参加の促進を目指す活動を表す用語として使用されてきたが,その理念と戦略は,認知症とともに生きる本人の主体的な参加と発言,諸国間の相互影響を通して深化している.今日のDFCの理念において最も重要なことは,「人権に基づくアプローチ」を基礎にして,新たな地域・環境・社会・文化を創り出そうとしている点にある. |
キーワード | Dementia Friendly Community,国際アルツハイマー病協会,国際認知症同盟,人権に基づくアプローチ |
論文名 | 認知症フレンドシップクラブ |
著者名 | 徳田雄人 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0466-0470,2017 |
抄録 | 認知症フレンドシップクラブは,日本におけるDementia Friendly Community(DFC)の全国ネットワークである.日本では,古くから実績をあげてきたDFCがある一方で,評価やプロセスの標準化が行われておらず,水平展開に課題がある.認知症フレンドシップクラブでは,RUN伴(ランとも)などの事業を通じて,課題解決にチャレンジしてきたが,今後は海外のDFCとの連携も含め,変化を加速させていく必要がある |
キーワード | Dementia Friendly Community,ハブ機能,水平展開,RUN伴,社会的インパクト |
論文名 | 認知症とともに,よりよく生きる |
著者名 | 水谷佳子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0471-0476,2017 |
抄録 | ・「認知症と,どう付き合うか」という態度は,認知症がある人自身の生き方,暮らしのありようをつくる. ・「人と,どう付き合うか」という態度は,認知症がある人自身と身近な人との関係をつくる. ・認知症がある人も,身近な人も,それぞれ変化しながらお互いによい関係をつくり続けていくなかで,「認知症とともに,よりよく生きる」可能性がみえてくる. |
キーワード | 認知症,人間関係,生きる,希望 |
論文名 | Dementia Friendly Social-Resources の創生 |
著者名 | 小川敬之・呑海沙織・成合進也 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0477-0484,2017 |
抄録 | 2004年,認知症に対する偏見を払拭することを一つの狙いとして「痴呆症」から「認知症」に名称が変更された.しかしながら社会的スティグマの背景には人間の究極の本能,つまり生存競争の原理(弱者を排除する)も働いており,そこに攻め入るには「真に豊かな社会の構築を行う」という理念を掲げながら,「我が事」として認知症のことをとらえる方略を開発することが不可欠である.図書館はそうした方略を推進するうえで重要な社会資源となりうる.また,より積極的に社会参加を促す(認知症であっても働いて賃金がもらえる)ことで認知症に対するパラダイムシフトのきっかけになるのではないか.その実践報告をした. |
キーワード | 認知症,社会資源,図書館,仕事,スティグマ(偏見),パラダイムシフト |
論文名 | Dementia Friendly Community(認知症にやさしい社会)は,私たち一人ひとりのなかにある |
著者名 | 早田雅美 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0485-0495,2017 |
抄録 | 認知症の人や家族にとって,画一的でない選択肢の広い人生を送れる社会でなくてはなりません.「痴呆」時代のネガティブな歴史は,人の心のなかに高い壁をつくってしまいました.自分事として,認知症の人をよく見,よく聞き,慮ることの大切さを広く市民に向けて段階的かつ戦略的に啓発すること.安心して老いを寿げる社会を獲得するために,既存の制度,組織の枠を超えた柔軟な認知症の人と家族の支援策,経済界,企業を含む社会全体の応援が必要です. |
キーワード | 選択肢,啓発,心の壁,老いを寿ぐ社会,お出かけ促進 |
論文名 | 認知症の人にやさしいまちの実現に向けて |
著者名 | 川北雄一郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0496-0502,2017 |
抄録 | 宇治市では「認知症の人にやさしいまち」の実現を市長自らが掲げ,認知症カフェの開設や認知症初期集中支援チームの運営等,認知症の早期発見・早期対応のシステム化に取り組んでいる.その基本となるのは認知症の誤ったイメージ(疾病観)を変えることであり,そのためには認知症の当事者が安心して地域のなかに登場し,自らの言葉で語れるようになることが重要であると考えている.本稿では,宇治市での試みについて述べた. |
キーワード | 認知症カフェ,認知症初期集中支援チーム,認知症アクションアライアンス,認知症当事者の活動 |
論文名 | 宮城県仙台市の経験 |
著者名 | 山崎英樹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0503-0510,2017 |
抄録 | 1人の認知症当事者の参画が宮城にもたらしたインパクトを報告し,Dementia Friendly Community(DFC)について考察した.DFCは,認知症の本人が市民として参画し,貢献することが権利として大切にされ,推進される地域社会をいう.それは,認知症の本人が人生の当事者として生きることが権利として擁護され,力づけられる地域社会でもある.そうした地域社会では,認知症当事者との水平な出会いを通してパートナーと呼ばれる人々にも「市民」としての深い自覚が促され,地域の大きな変革へとつながっていく.DFCは,たった1人の「当事者」から始まってよいし,むしろ1人の「当事者」との出会いから始められなければならないであろう. |
キーワード | 丹野智文,認知症当事者,参画,貢献,権利,RBA,DFC |
論文名 | 就労支援と自立支援とこれから |
著者名 | 前田隆行 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0511-0518,2017 |
抄録 | DAYS BLG!では,以下のような考えをもっていることを紹介した.「働く」「はたらく」「ハタラク」―― これらの言葉はなにかの場面で使い分けているわけではないが,さまざまなバリエーションがあることで,本人の想いをかたちにすることにつながる.つまり,ミクロで考えるのではなく,もっとマクロな視点に立って考えることが大切なのである. |
キーワード | 社会参加型就労,地域,就労支援,自立支援,はたらく |
論文名 | 視覚遮断とトラゾドン塩酸塩治療によりKl?ver-Bucy症候群に伴う摂食障害が改善した脳炎後遺症の1 症例 |
著者名 | 香川 潔・羽原弘造・江原 嵩・河上靖登・南谷和樹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(5):0521-0526,2017 |
抄録 | 発症後10年以上を経過する脳炎後遺症と考えられる83歳の男性において,眼近辺からの視覚刺激により惹起される威嚇的な唸り声・口唇傾向・噛み付き・衝動的攻撃性行為・強制的握り行為などからなる前頭側頭型認知症(ピック病)のKluver-Bucy症候群に酷似した神経心理学的症候がみられた.加えて,摂食嚥下障害と反復する誤嚥性肺炎を発症していたが,視覚遮断とトラゾドン塩酸塩治療により強制行動を含む神経心理学的症候が軽症化したために,全介助ではあるが摂食が可能となった.それゆえ,本症例の摂食障害は視覚失認や変形過多に起因する不安と恐怖に基づく口腔期摂食障害であり,嚥下障害は口部関連の神経症候より橋障害に起因する球麻痺に由来すると考察した. |
キーワード | Kluver-Bucy症候群,脳炎後遺症,摂食障害,視覚遮断,トラゾドン治療 |