論文名 | 家族支援を期待できない低所得高齢者世帯に対する社会政策 |
著者名 | 齋藤正彦 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(3):0227-0237,2017 |
抄録 | 日本社会は,格差の小さい社会だという認識は現実に反しており,高齢者世帯においてはとくにその様相が顕著である.高齢者の所得に関するジニ係数は比較的低値を維持しているが,不動産,金融資産のジニ係数は0.5を超えており,高齢者世帯間の格差が拡大して,低所得,無資産層が拡大している.住宅政策においては,公的施設から,営利企業が運営する施設にシフトしつつあるが,ここでも家族支援のない,低所得高齢者が置き去りにされている. |
キーワード | 高齢者,相対的貧困,ジニ係数,経済格差,住宅政策 |
論文名 | 核家族・低所得高齢者のケアマネジメント |
著者名 | 畑 亮輔 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(3):0238-0246,2017 |
抄録 | 核家族・低所得高齢者への支援では,限られた経済的資源で全世帯員の生活を保障する必要があり,支援の選択肢が限定されることになる.そこで,経済的負担を最小限に抑えつつも世帯全体の安定した生活を支援するためには,ストレングス視点を踏まえたケアマネジメントが必要である.その際,地域全体の連携により世帯へ包括的な支援をすることが求められており,そのためにも地域包括ケアシステムとしての地域の連携体制構築が望まれる. |
キーワード | 核家族,低所得,ケアマネジメント |
論文名 | 家族介護力の欠如と経済的困難を抱える認知症高齢者の医療サービスマネジメント |
著者名 | 井藤佳恵 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(3):0247-0253,2017 |
抄録 | 自分の力で医療サービスにアクセスできない,あるいはしない高齢者がいて,彼らを医療サービスにつなげることが地域保健の一つの課題とされる.抱える困難が複雑であるほど,保護あるいは権利擁護という言葉のもとに本人の意思は無視される傾向にあり,それは医療サービスの利用についても同様である.しかしどのように困難な経過であっても,あらゆる支援は本来の目的である本人の支援として集約されなければならない.医療サービスへのアクセスが困難な認知症高齢者の受診勧奨においては,本人が望まない医療によって本人にもたらされるものが何であるのか,私たちは対峙する個々人にとっての医療の意味をもう一度考え直す必要があるのではないだろうか. |
キーワード | 認知症高齢者,低所得,独居,虐待,非自発的入院,身体合併症医療 |
論文名 | 地域包括支援センターの機能,現状と展望 |
著者名 | 福島喜代子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(3):0254-0261,2017 |
抄録 | 本論では地域包括支援センターの機能と,サービス利用に拒否的な高齢者への支援に焦点をあてて論じた.地域包括支援センターは,担当圏域の高齢者の支援に責任を負うので,家族の相互支援機能が脆弱な世帯で,認知機能の低下をきたしている高齢者がサービス利用に拒否的である場合,アウトリーチして専門的な支援を行う.地域包括支援センターは,「支援困難」であると認識しつつ,高齢者に継続的に働きかけてサービス利用に結びつけ,これらの高齢者の生活の質を向上させ安定させていることが示唆された. |
キーワード | 認知症高齢者,サービス利用に拒否的,アウトリーチ,地域包括支援センター,セルフネグレクト |
論文名 | 日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業),成年後見制度 |
著者名 | 門司 晃 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(3):0262-0269,2017 |
抄録 | 日常生活自立支援事業および成年後見制度は,狭義の権利擁護制度として,認知機能の低下した高齢者を地域において支援する重要な制度である.しかし,いずれの制度も施行後10年以上を経過してさまざまな課題に直面している.理念としては,自己決定権の尊重に基づく本人の自由や権利の非実現状態を解消するよう徹底した検討が必要であり,運用としては,地方自治体による財政的な基盤整備をもって受け皿を充実させていくべき現状にある. |
キーワード | 権利擁護,自己決定権,愚行権,権利侵害,基盤整備 |
論文名 | 自己決定論を超えて |
著者名 | 秋葉悦子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(3):0270-0279,2017 |
抄録 | 個人の自己決定権を最高原理とする個人主義生命倫理学は,一方が「癒やし」を業とし,他方が「癒やし」を必要とする本来不均衡な関係にある医師・患者関係を,対等な法的権利・義務関係に引き戻して規制しようとするため,とくに脆弱な患者を窮地に追い込んでいる.不均衡な人間関係を調整するのは法ではなく倫理の役割である.人格主義倫理学は医師が専門職として特別に担ってきた「高貴な義務」の伝統を継受して現代化し,いっそう発展させる歩みを続けている. |
キーワード | 人格主義倫理学,医師の職業義務,ヒポクラテスの誓い,人格の尊厳,自律,自由意思 |
論文名 | 頭部外傷後に抽象的態度の障害によると思われる発話と描画の障害を呈した一例 |
著者名 | 小栗涼子・古木ひとみ・原 寛美・今村 徹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,28(3):0281-0290,2017 |
抄録 | 症例は57歳,右利き男性,高校教諭.頭部外傷により発症し,頭部MRIでは下側頭回前方部〜頭頂葉に挫傷性変化を認めた.発症3週時点で,自発話および単語や物品の定義説明などの課題で,内容が複雑になると関連してはいるが的を射ない発話となり情報量が乏しかった.物品,線画の呼称や言語的定義課題などで同カテゴリー内での誤反応が目立った.色名呼称では中間色で誤反応がみられた.また,構成障害はみられないにもかかわらず,描画は著しく貧困で,対象の個別の形態的特徴が表現されていなかった.発症9週以降は発話と描画の障害はほぼ消失した.本症例における,@関連してはいるが的を射ていないために情報量に乏しい発話,A同カテゴリー内での誤答が目立つ呼称障害,B対象の個別の形態的特徴を表現できない貧困な描画という症状は,いずれも抽象的態度の障害との関連が考えられた.すなわち,抽象的態度と具象的態度を適切に使い分け,対象から必要な抽象的,具象的属性を過不足なく抽出して操作する機能の低下によって説明できると考えられた. |
キーワード | 抽象的態度,範疇的態度,具象的態度,頭部外傷 |