2016 Vol.28 No.2
 
 
第28巻第2号(通巻354号)
2017年2月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
華やかな世界の中心ではなく,貧しい社会の周縁にこそ
寺田整司
特集 認知症の生物学的研究 ― Update
アミロイド蓄積とタウタンパク,タウオパチーに関する最近の知見
田中稔久
シヌクレイノパチー,TDP-43プロテイノパチー,およびポリグルタミン病
東 晋二・新井哲明
神経変性疾患におけるプリオン様伝播
樽谷愛理ほか
認知症の血管性要因
長田 乾ほか
神経炎症 ― アルツハイマー病の病態生理を中心に
門司 晃
認知症と小胞体(ER)ストレス応答
赤嶺祥真・工藤 喬
認知症における酸化ストレスの役割
布村明彦・玉置寿男
原著論文
レビー小体型認知症の初発症状と関連症状の発現率・性差,および前駆段階との関連
― 脳血流SPECT・MIBG心筋シンチ・DaTスキャンシンチ検査と症状の関連性を通して
内海久美子ほか
連  載
わが国の認知症施策の未来K 身体救急疾患をきたした認知症の人の支援体制を整備するために
武田章敬
文献抄録
松田 修
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編集後記

 
 
論文名 アミロイド蓄積とタウタンパク,タウオパチーに関する最近の知見
著者名 田中稔久
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(2):0115-0122,2017
抄録 アルツハイマー病の神経病理学的所見は老人斑と神経原線維変化であり,それぞれの構成成分であるアミロイド?タンパクとタウタンパクはどちらも認知症の発症にかかわっていることが知られている.それぞれのタンパクは単独でも神経毒性を有し,異常に産生あるいは蓄積することにより神経変性をきたすことが知られている.しかし,最近はシナプス機能への影響という観点から両者の相互作用に関して関心が高まっている.本稿では,タウとアミロイドがどのように相乗的に神経変性を引き起こすかに関して,今までの知見を概説した.
キーワード アミロイド,タウタンパク,アルツハイマー病,タウオパチー,神経毒性
 
論文名 シヌクレイノパチー,TDP-43 プロテイノパチー,およびポリグルタミン病
著者名 東 晋二・新井哲明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(2):0123-0128,2017
抄録 神経変性疾患は進行性に神経細胞が変性・脱落する疾患群であるが,その病理学的特徴としてタンパク質の立体構造が変化し,細胞内に凝集体を形成するという共通点がある.近年の遺伝学的および病理生化学的研究成果の集積により,凝集体を形成する特定のタンパク質が神経変性を誘導する原因分子であることが明らかとなり,神経変性疾患は凝集体の主要構成タンパク質によって分類されるようになるとともに,これらをターゲットとした診断法および治療法の開発が進んでいる.
キーワード パーキンソン病,レビー小体型認知症,前頭側頭葉変性症,筋萎縮性側索硬化症,ハンチントン病
 
論文名 神経変性疾患におけるプリオン様伝播
著者名 樽谷愛理・久永眞市・長谷川成人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(2):0129-0135,2017
抄録 アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では,特定のタンパク質が疾患特徴的構造物として神経細胞やグリア細胞に蓄積する.近年,これらの病理を構成する異常型タンパク質がプリオンのように自己触媒的に増殖し,細胞間を伝播する“プリオン様伝播”が,神経変性疾患の発症,進行の根底にあるメカニズムとして注目されている.このメカニズムの解明は新規治療薬の開発につながると期待されている.
キーワード プリオン様伝播,タウ,α-シヌクレイン,TDP-43,神経変性疾患
 
論文名 認知症の血管性要因
著者名 長田 乾・山ア貴史・高野大樹・纉c千尋・下邨華菜
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(2):0136-0143,2017
抄録 認知症と血管性要因との結びつきは,脳卒中により認知機能低下をきたす血管性認知症と,高血圧,糖尿病,うっ血性心不全,心房細動などの血管性因子がアルツハイマー病(AD)などの変性疾患の病態を増悪させる場合が挙げられる.高齢者においては一見無症候性脳血管病変とみなされるようなラクナ梗塞や皮質微小梗塞もADの病態を悪化させることから,ADをはじめとする変性疾患の根本的治療が困難な現時点においては,血管性要因の厳格な管理・治療の重要性が増している.
キーワード post-stroke dementia,vascular dementia,cerebral infarction,multi-infarct dementia,vascular cognitive impairment
 
論文名 神経炎症
著者名 門司 晃
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(2):0144-0152,2017
抄録 すでに認知症の過半数を占め,人口の高齢化とともにますますその数が激増すると考えられているアルツハイマー病(AD)であるが,現在の治療薬は「対症療法薬」のレベルにとどまるものであり,「根本的治療薬」の開発が待たれている.神経炎症の観点からみたADの病態生理については,自然免疫(innate immunity)の中枢神経系の主役であるミクログリア活性化の役割が従来から重視されている.神経炎症のプロセスはADの危険因子とされる糖尿病や気分障害とも関連が深い.どちらかといえばADの病態生理における付随的現象(epiphenomenon)とされてきたADにおける神経炎症(neuroinflammation)であるが,近年の知見の集積により,ADにおける神経炎症のメカニズムが新たな治療ターゲットとして期待されつつある.
キーワード ミクログリア,慢性炎症,糖尿病,気分障害,neurovascular unit(NVU)
 
論文名 認知症と小胞体(ER)ストレス応答
著者名 赤嶺祥真・工藤 喬
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(2):0153-0161,2017
抄録 認知症の多くは折り畳み異常タンパクがその病理に深くかかわっているとされる.小胞体(ER)はタンパクの正常な折り畳みを司る細胞内小器官である.ER内に折り畳みが異常なタンパクが蓄積した状態(ERストレス)下では,ERストレス応答と呼ばれるタンパクの品質維持機構が働き,その是正を行う.本稿では,認知症や生活習慣病における共通の病態基盤としてERストレス応答機構の異常という観点から解説した.
キーワード 小胞体ストレス,アルツハイマー病,糖尿病,アポトーシス,プレセニリン-1
 
論文名 認知症における酸化ストレスの役割
著者名 布村明彦・玉置寿男
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(2):0162-0170,2017
抄録 アルツハイマー病では,患者試料や遺伝子改変動物あるいはiPS細胞モデルの検討から,早期病態における酸化ストレス(OS)の関与が解明されている.近年,レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症においても同様の知見が集積されつつあり,血管性認知症の基盤となる脳虚血の病態もOSとの関連が深い.今後,認知症診療において,OSを指標にした発症予測マーカーの確立やOSを標的にした早期介入戦略の構築が期待される.
キーワード 酸化ストレス,アルツハイマー病,血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症
 
論文名 レビー小体型認知症の初発症状と関連症状の発現率・性差,および前駆段階との関連
著者名 内海久美子・畠山茂樹・洞野綾子・岩本 倫・竹浪美紗子・姫野大作・安村修一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(2):0173-0186,2017
抄録 レビー小体型認知症(DLB)の臨床診断基準(2005年)においてprobable DLBおよびpossible DLBと診断され,かつ脳血流SPECT・MIBG心筋シンチグラフィー・DaTスキャンシンチグラフィーのいずれかのRI(核医学)検査でDLB陽性所見が得られた214例について,初発症状および診断時における関連症状の発現率を後方視的に検討した.その結果,初発症状としては,認知障害が最も多いものの,幻視・うつ・幻聴・妄想などの精神症状も多く,これらの4つの精神症状を合算すると認知障害とほぼ同率であり,精神症状から始まる症例が非常に多いことが示された.特に女性にその傾向が多かった.男性では女性に比べてレム睡眠行動障害(RBD)で始まる傾向がみられた.また診断時にみられたDLB関連症状の発現については,幻視が最も多く,嗅覚低下も高率にみられた.男性ではRBDと嗅覚低下・失神が,女性では幻聴が有意に多かった.認知障害はなく精神症状が主症状である13例においてもDLBの中核症状がみられ,脳血流SPECTなどで陽性所見を認めた.また,認知障害やパーキンソン症状・精神症状などはなくRBDのみを認めた9例においては,全例にMIBG陽性所見を認めた.これらの例はDLBの前駆状態と考えられた.
キーワード レビー小体型認知症(DLB),初発症状,性差,Lewy body disease(LBD),RI検査