2017 Vol.28 No.11
 
 
第28巻第11号(通巻364号)
2017年11月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
分子神経症候学の視点から
吉山容正
特集 高齢者の反社会的行動
高齢者の反社会的行動をめぐって  ―― 高齢受刑者の増加問題を中心に
野村俊明
高齢者の犯罪  ―― 刑事法の観点から
太田達也
高齢者の犯罪  ―― 精神科医の立場から
五十嵐禎人
高齢者にみられる迷惑行為
樫村正美
高齢者の反社会性パーソナリティ障害
林 直樹
高齢者の刑事責任能力
村松太郎
高齢者の反社会的行為とその処遇
原 祐子ほか
原著論文
理学療法士・作業療法士が認識する脳卒中者をもつ 家族の介護負担感に関する要因とその対応策 ―― 半構造化面接法を用いた質的研究
杉田 翔ほか
症例報告
ビタミンB12 欠乏による緩徐進行性の認知症を呈した一例
―― 認知機能障害の臨床像と補充療法後の回復過程
市野千恵ほか
基礎講座
老年精神科専門医のための臨床神経病理学G嗜銀顆粒病・tangle-predominant dementia・DNTC
寺田整司ほか
連  載
わが国の認知症施策の未来S認知症介護専門職の育成
加藤伸司
文献抄録
松田 修
書  評
繁田雅弘 「これからの対人援助を考える くらしの中の心理臨床D 認知症」
学会NEWS
第33回日本老年精神医学会開催のご案内
平成30年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ
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投稿規定
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編集後記

 
 
論文名 高齢者の反社会的行動をめぐって
著者名 野村俊明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1193-1199,2017
抄録 交通事故をはじめとして高齢者によるさまざまな迷惑行為や犯罪がしばしば報道されている.また,わが国に限らず先進諸国では高齢受刑者数増加が問題になっている.本稿では高齢者の反社会的行動について簡単な言葉の整理を行った.また,刑務所で施行した調査結果に基づいて高齢受刑者とはどのような人たちなのかを紹介し,高齢受刑者が増加している背景と望まれる対応を考察した.
キーワード 高齢者,反社会的行動,高齢受刑者,認知症,地域生活支援事業
 
論文名 高齢者の犯罪
著者名 太田達也
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1200-1209,2017
抄録 日本では高齢者による犯罪が増加しているが,その多くが初犯者であり,犯行の背景に高齢者の社会的孤立がある.万引きなど高齢者による軽微な犯罪に対しては,微罪処分や起訴猶予に際し再犯防止に向けた一定の処置や条件を付する制度が検討されるべきある.高齢受刑者の増加は刑事施設の負担となっているが,高齢者に特化した矯正処遇や,出所後の一定の期間,司法と福祉が協働して社会復帰を見守る仕組みが必要である.
キーワード 高齢犯罪者,社会的孤立,万引き,入口支援,特別調整,地域生活定着支援
 
論文名 高齢者の犯罪
著者名 五十嵐禎人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1210-1221,2017
抄録 本格的な高齢社会となったわが国における高齢犯罪者について,犯罪白書等の統計をもとに検討した.高齢者犯罪,とくに女性と70歳以上の者による犯罪の増加が顕著であり,その多くは万引き等の軽微な犯罪で占められており,出所後に社会福祉的な支援がないために再犯を繰り返す者も少なくないこと,近年,再犯防止の観点から,刑事司法手続の各段階において社会福祉的支援につなげるための施策がなされていることなどを述べた.
キーワード 高齢者,認知症,犯罪,社会福祉,再犯防止
 
論文名 高齢者にみられる迷惑行為
著者名 樫村正美
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1222-1228,2017
抄録 近年,高齢者による迷惑行為が注目されている.「迷惑」という概念は,行為者側の要因とそれを認知する側の要因に分けられ,迷惑の解決には双方へのアプローチが不可欠である.わが国では,高齢者の迷惑行為に関する研究はほとんどみられない.本稿では,筆者を含む研究班が実施した地域包括支援センターの専門職員を対象とした調査を紹介した.困難事例化する前に,問題の早期発見と早期介入を実現するためにも,各領域の機関の連携が不可欠である.
キーワード 迷惑行為,社会的迷惑,高齢者,地域包括支援センター,認知機能
 
論文名 高齢者の反社会性パーソナリティ障害
著者名 林 直樹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1229-1234,2017
抄録 反社会性パーソナリティ障害(ASPD)もしくはサイコパス(psychopath)は,他者の権利を無視,侵害する反社会的行動パターンを主徴とするパーソナリティ障害の一類型である.これは一般に,生涯にわたる障害だと認識されているが,疫学研究からASPDの高齢者での比率が少ないこと,予後研究からその衝動性や暴力傾向が加齢によって減少することが知られている.ただし,対人関係や感情のあり方の問題は,比較的持続的であることに留意する必要がある.また,ASPDの経過は,合併する物質使用障害や配偶者などの周囲の人々のかかわりによって大きく影響されることが指摘されている.高齢者ASPDの臨床では,その特徴と加齢に伴って生じる変化とを把握し,対人関係や合併精神障害などを多面的に評価して働きかけを行うことが重要である.
キーワード 反社会性パーソナリティ障害,サイコパス,高齢者,精神科治療
 
論文名 高齢者の刑事責任能力
著者名 村松太郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1235-1241,2017
抄録 わが国の裁判での認定の実際に沿って,認知症の刑事責任能力をめぐる問題を解説した.法律用語である心神喪失・心神耗弱は一種の認知機能低下と解しうる概念であるが,その実態は医学でいう認知機能とは別次元であることに常に留意が必要である.とくに認知症を被告人とする裁判においては,画像等の診断技術の進歩に伴い,新しい複雑な論点も多数発生している.この混乱を収束するためには,法と医の相互理解が不可欠である.
キーワード 刑事責任能力,認知症,心神喪失,心神耗弱
 
論文名 高齢者の反社会的行為とその処遇
著者名 原 祐子,深津 亮,野村俊明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1242-1252,2017
抄録 超高齢社会を迎えたわが国では,@高齢者の検挙人員の増加,A高齢者の入所受刑者人員の増加,B高齢者の刑務所への再入率の高さ,再犯期間の短さ,C高齢者の仮釈放率の低さ等が指摘されており(犯罪対策閣僚会議,2012),高齢者の反社会的行為への対応は重要な課題といえる.本稿では,近隣住民に影響を及ぼす迷惑行為から触法行為までをスペクトラムとして「反社会的行為」ととらえ,その実態とそれへの対応についてダイバージョンを主に概観した.反社会的行為は社会から排除されれば事足れりとするのでは解決につながらない.小澤(1995)の指摘するように「犯罪は彼らに対する地域援助体制の不備を反映している」側面があることを忘れてはならない.生活に困難さを抱える高齢者への地域援助体制について,行政,認知症初期集中支援チーム,地域包括支援センター,保健所,医療機関,地域などが柔軟に連携し,社会全体として有効な体制を構築していくことが望まれる.
キーワード 反社会的行為,触法行為,ダイバージョン,地域援助体制,社会復帰支援室,地域生活定着支援事業
 
論文名 理学療法士・作業療法士が認識する脳卒中者をもつ家族の介護負担感に関する要因とその対応策
著者名 杉田 翔,藤本修平,小向佳奈子,小林資英
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1255-1266,2017
抄録 【目的】本研究の目的は,脳卒中者をもつ家族の介護負担感に関連する要因とその対応策について理学療法士(PT)・作業療法士(OT)の認識を把握することである.【方法】対象は回復期リハビリテーション病棟に在籍しているPT・OT 17人とした.インタビューガイドを用いた半構造化面接を実施し,帰納的内容分析を行い,脳卒中者をもつ家族の介護負担感に関連する要因とその対応策を抽出した.【結果】PT・OTは介護負担感の要因として,日常生活を支援するうえで生じる身体的な介助量,介護により余暇活動や就業に制限が生じるといった社会的制約に着目していた.その対応策として,身体的な介助方法に関する家族指導,退院後に必要であると考えられるレスパイトケアの情報を提供していることが明らかとなった.【結論】PT・OTは介護負担感を軽減させるために,家族介護者の身体的な負担や,介護による社会的制約に着目し,介助方法の指導や介護サービスの情報提供を行っていた.
キーワード 介護うつ,家族介護者,テーマ分析,在宅,実態調査
 
論文名 ビタミンB12 欠乏による緩徐進行性の認知症を呈した一例
著者名 市野千恵,佐藤卓也,今村 徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(11):1267-1274,2017
抄録 症例は72歳,右利き男性.3年前からもの忘れが徐々に出現・進行した.2年前から怒りっぽく,もの忘れやセルフケアの障害といった日常生活上の障害もみられ,当院受診.神経学的所見として両下肢の筋伸張反射亢進,Chaddock徴候,振動覚低下,ごく軽度の痙性歩行を認めた.神経精神症状としてNPIで興奮と易刺激性に該当.神経心理学的所見は,数唱順唱5桁,逆唱2桁.MMSE得点28/30.ADAS減点7/70.FAB得点16/18.注意障害,遂行機能障害,近時記憶障害を認めた.血液生化学検査では大球性貧血とビタミンB12血中濃度低下を認め,頭部MRIは側脳室の拡大と大脳皮質全体の軽度萎縮がみられた.ビタミンB12(メコバラミン1,500 μg/日)の経口投与を開始した.投与開始4〜7か月時点で神経精神症状と日常生活上の障害に改善がみられ始めた.初診1年後再評価では,神経学的所見は一部残存していたが,神経精神症状と日常生活上の障害は消失し,認知機能障害はまったく検出されなかった.本症例および過去の報告例から,ビタミンB12欠乏による緩徐進行性の認知症の特徴は,遂行機能障害や注意障害が前景に立ち記憶障害が目立たず,また初期から神経精神症状が日常生活上で大きな支障となる臨床像である可能性が示唆される.
キーワード ビタミンB12欠乏,認知機能障害,緩徐進行性,認知症