2016 Vol.28 No.1
 
 
第28巻第1号(通巻352号)
2017年1月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
人心の劣化を憂う
堀口 淳
特集 知的活動と認知機能
高齢者の知的活動とその影響
松田 修
脳予備能と認知予備能
品川俊一郎
知的活動と脳の関連
橋本照男ほか
地域高齢者に対する認知的介入
佐久間尚子
知的活動による認知症の予防
山上徹也ほか
知的活動による認知症の進行抑制
朝田 隆
高齢者や認知症の人が知的活動を継続するには
繁田雅弘
原著論文
地域包括支援センターの専門職を対象とした認知症専門医のいる医療機関との連携の実践状況とその関連要因
杉山 京ほか
症例報告
在宅医療において精神科医の役割が重要であった3症例
内田直樹ほか
連  載
わが国の認知症施策の未来J一般病院における認知症高齢者の支援体制を整備するために
小田原俊成
文献抄録
山本泰司
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編集後記

 
 
論文名 高齢者の知的活動とその影響
著者名 松田 修
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0011-0018,2017
抄録 本特集「知的活動と認知機能」のイントロダクションとして,まず,『高齢社会白書(平成28年版)』や『レジャー白書2016』などの資料に基づき,高齢者の学習活動や余暇活動の実態を概観した.次に,知的活動が高齢者の認知機能低下やアルツハイマー病の発症に関連することを示唆する研究を紹介した.しかし,どのような知的活動に効果があるのか,また,知的活動そのものに効果があるのか,それとも,知的活動に参加することに伴う諸活動に効果があるのかなど,知的活動の内容や効果のメカニズムについては今後さらに解明しなくてはならない点が少なくない.
キーワード 知的活動,生涯学習,余暇活動,認知機能低下
 
論文名 脳予備能と認知予備能
著者名 品川俊一郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0019-0023,2017
抄録 1980年代後半からの研究によってアルツハイマー病(AD)などの病理学的変化があっても認知機能低下をきたさない例が報告されるようになった.これらの例では病理学的な変化に対して何らかの拮抗する力をもっていると注目され,その機序について検討されるようになった.そこで出てきたのが脳予備能(brain reserve)あるいは認知予備能(cognitive reserve)の仮説である.前者は脳重量や脳容積などより形態学的なパラメーターに注目した概念である一方,後者はより機能的な側面に注目した概念で,脳内ネットワークを効率的に使用できる能力が想定されている.認知予備能は直接計測できないため,教育歴や知能,ライフスタイルなどのさまざまな代理尺度が用いられている.期待されたADの根本治療薬は依然として開発途中であり,それゆえどのようにこれらの予備能を高めるかというテーマが再び注目を集めている.
キーワード 脳予備能,認知予備能,知的活動,認知機能,アルツハイマー病
 
論文名 知的活動と脳の関連
著者名 橋本照男・川島隆太
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0024-0028,2017
抄録 知的活動と脳との間にはどのような関連があるのか,知的活動が脳活動・脳形態に与える影響についての知見を紹介した.本稿では認知活動として研究されている内容を知的活動として扱い,子どもや成人,そして高齢者での研究から明らかにされてきている知的活動の脳内機序を概観し,知的活動と脳との関係を論考した.
キーワード MRI,読書,テレビゲーム,音楽,認知訓練
 
論文名 地域高齢者に対する認知的介入
著者名 佐久間尚子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0029-0036,2017
抄録 長寿の現代,生涯にわたる活力と健康が望まれる.この健康長寿のテーマのひとつとして,地域高齢者の認知機能における“Use it or lose it”(使わないと失う)を検討した.地域高齢者を対象とする知的活動,生活スタイル,認知訓練,認知的介入などの研究を通して,健常加齢で低下しやすい記憶や処理速度,実行機能などを中心に認知機能の維持・向上に関する証拠が集まっている.なかでも,社会貢献や次世代育成などの参加意義をもつボランティア活動や知的能動性を使い続ける参加型プログラムの有効性が実証されつつある.高齢者が生涯にわたり知的能動性を養成し発揮する環境の整備が望まれる.
キーワード 認知加齢,健常高齢者,認知的介入,社会貢献,知的能動性
 
論文名 知的活動による認知症の予防
著者名 山上徹也・山口晴保
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0037-0043,2017
抄録 近年,エビデンスレベルの高い研究手法で知的活動・認知的介入による認知機能低下や認知症予防(発症遅延)効果が報告されている.その機序に関して,若年・中年期からの知的活動による脳の機能・構造的変化や,認知症病変の抑制が示されている.認知的介入に運動・社会交流などを組み合わせた複合的介入による認知機能全般,ADL,心理面等の維持・向上効果が報告されており,単独介入よりも認知症予防効果が高い可能性がある.
キーワード 知的活動,認知的介入,認知症,認知機能低下,予防
 
論文名 知的活動による認知症の進行抑制
著者名 朝田 隆
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0044-0050,2017
抄録 認知症患者に対する知的活動による介入効果を扱った過去の総説では,知的活動は有望であるとしたものもある.しかし個々の研究報告をみると,それは容易に首肯できない.事実,2013年になされた最新の総説は効果に否定的である.そもそも認知的介入は,これを通して他の認知領域への効果波及を目指している.また認知症において生活障害の改善は本質的なものである.さらに介入対象となる個人の特性,たとえば自分のもの忘れに関する認識は重要である.ところが従来は,これらのポイントがほぼ検討されていない.
キーワード 認知症,認知トレーニング,認知リハビリテーション,介入,効果
 
論文名 高齢者や認知症の人が知的活動を継続するには
著者名 繁田雅弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0051-0055,2017
抄録 高齢者の知的活動は加齢による知的機能の減退や認知症疾患の予防を目的として行われることもあるが,それらに関しては十分なエビデンスがあるとはいえない.したがって知的活動自体は,楽しむため,自己実現や生きがいのため,あるいは対人交流の手段として,少なくとも現時点では行われるべきではないか.一方,アルツハイマー病などの認知症疾患の病名には先入観や偏見が伴い自尊感情や自己効力感を低下させる.知的活動を継続するには,低下しがちな自尊感情や自己効力感を支えることが重要と考えられる.
キーワード アルツハイマー病,生きがい,自尊感情,自己効力感,あきらめ
 
論文名 地域包括支援センターの専門職を対象とした認知症専門医のいる医療機関との連携の実践状況とその関連要因
著者名 杉山 京・竹本与志人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0057-0070,2017
抄録 地域包括支援センターの専門職を対象に認知症専門医のいる医療機関との連携の実践状況とその関連要因を明らかにすることを目的とした.35都道府県に設置されている地域包括支援センターの専門職6,000人を対象とした「質問紙調査」と,行政等のデータを参考とした「医療資源に関する調査」を実施した.調査内容は,属性,認知症の受診に関する知識,認知症専門医のいる医療機関との連携の実践状況,各都道府県の認知症疾患医療センター数ならびに認定専門医数等である.統計解析では,認知症専門医のいる医療機関との連携の実践状況に関連する要因を専門職レベルと都道府県レベルの2つのレベルから検討するマルチレベル構造方程式モデリング(パス解析)を行った.その結果,専門職レベルでは「雇用形態」や「認知症専門医療機関への受診方法について」の知識などの5つが,都道府県レベルでは「認知症疾患医療センター比」「認定専門医比」が有意な関連を示した.認知症の受診には医療機関との連携が不可欠であることから,今後は専門職への研修活動に加え,本研究結果に基づいた環境整備を展開することが重要である.
キーワード 地域包括支援センター,認知症,連携
 
論文名 在宅医療において精神科医の役割が重要であった3症例
著者名 内田直樹・園田 薫・勢島奏子・浦島 創
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(1):0071-0077,2017
抄録 超高齢化と多死社会の到来,医療費の増大,社会のニーズなどを背景に在宅医療が推進され,入院医療,外来医療と並ぶ第3の医療として注目されている.在宅医療を提供する医療機関も年々増加し全国に15,640施設の在宅療養支援診療所が存在するが,このうち精神科を標榜しているのはわずか4%である.一方で,在宅医療の対象となるのは大部分が高齢者であり,認知症の診断,認知症の行動・心理症状(BPSD)への対応,疲弊した介護家族のケアなど,精神科医による介入が必要となる場面は多い.このように,在宅医療を提供する精神科医療機関は限られている一方で,在宅医療において精神科医に期待されている役割は大きい.このため今回は,筆者らが経験した在宅医療の3症例を紹介し,在宅医療における精神科医の役割について考察する.
キーワード 在宅医療,往診,医師の役割,認知症,介護者