2016 Vol.27 No.6
 
 
第27巻第6号(通巻345号)
2016年6月20日 発行
 
 
 
老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
超高齢者の軽度認知障害と今後の人生
高橋 恵
特集 MCIとプレクリニカル・アルツハイマー病
MCIとプレクリニカルADの概念と疫学
布村明彦
MCIとプレクリニカルAD―― 診断基準と神経心理学的評価
東海林幹夫
MCIとプレクリニカルADの神経画像バイオマーカーと神経病理学的背景
樋口真人ほか
MCIとプレクリニカルADの血液・髄液バイオマーカーとその病態生理学的背景
内田和彦
非AD認知症の前段階
和田健二・中島健二
MCIとプレクリニカルADへの介入―― 現在実施可能なアプローチ
島田裕之
MCIとプレクリニカルADへの介入―― 近未来に期待されること
松原悦朗
MCIとプレクリニカルAD概念の「いかがわしさ」
松下正明
原著論文
認知症者の要介護度とADL,BPSDならびに認知症高齢者の日常生活自立度との関連
半田幸子・今井幸充
連  載
わが国の認知症施策の未来D認知症施策とこれからの介護保険制度のあり方
松田晋哉
文献抄録
松田 修
書  評
「介護のこころが虐待に向かうとき;その真実を知る」
加藤伸司
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編集後記

 
 
論文名 MCIとプレクリニカルADの概念と疫学
著者名 布村明彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0607-0615,2016
抄録 正常ではないが認知症でもないグレイゾーンの認知機能低下を表す概念として,軽度認知障害(MCI)が広く用いられ,MCI due to Alzheimer’s disease(AD)やvascular MCIなど背景疾患ごとの診断基準も提唱されている.他方ADに関しては,認知機能障害は認められないが,バイオマーカー変化が検出されるプレクリニカル期のADも注目されている.プレクリニカルAD概念が期待どおりに先制医療の確立に寄与するかどうか,進行中の大規模介入試験の成否が待たれる.
キーワード アルツハイマー病,軽度認知障害,mild cognitive impairment,プレクリニカル期,先制医療
 
論文名 MCIとプレクリニカルAD
著者名 東海林幹夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0616-0623,2016
抄録 MCIとpreclinical ADについて,これまでに提案された診断基準の経緯と概念について紹介した.すでにバイオマーカーと新たに整備された神経心理検査を用いたpreclinical ADの段階からの観察研究結果が続々と発表され,早期予防介入の準備は終了し,実際に欧米では大規模共同研究が開始されている.わが国ではこれらの整備は遅れていたが,新たなグローバル研究として一部で開始されている.
キーワード Alzheimer’s disease,preclinical AD,MCI due to AD,AD dementia,diagnosis,neuropsychological tests
 
論文名 MCIとプレクリニカルADの神経画像バイオマーカーと神経病理学的背景
著者名 樋口真人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0624-0630,2016
抄録 アルツハイマー病(AD)の中核病理は,アミロイドβペプチド(Aβ)とタウタンパクの脳内蓄積であり,これらの異常タンパク蓄積は,分子病態カスケードの最上流に位置すると考えられている.ADの診断補助として以前より用いられてきたMRIや脳血流・脳糖代謝画像検査は,このカスケードの最下流プロセスである神経細胞死を反映すると考えられるが,ADと正常高齢者を十分な精度で鑑別し,MCIからADへの移行予測にも役立ちうる.一方,カスケード上流をとらえるべく,Aβ病変(老人斑)やタウ病変に結合するポジトロン断層撮影(PET)薬剤が開発されてきた.これにより,正常高齢者やMCI患者におけるAβ蓄積とタウ蓄積の相互独立性ないしは相互作用が明らかになりつつあり,プレクリニカルADやAβ蓄積を伴わないタウ病態(primary age-related tauopathy ; PART)など,多様な異常タンパク蓄積病理の進展様式がとらえられてきている.抗Aβ療法や抗タウ療法による治療介入を早期に行う戦略においては,正常高齢者やMCI患者のPETで検出されるAβおよびタウ病態の多様性に応じて,治療法の選択や介入ポイントの決定を行う必要があると考えられる.
キーワード ポジトロン断層撮影(PET),老人斑PET,タウPET,primary age-related tauopathy(PART),suspected non-amyloid pathology(SNAP)
 
論文名 MCIとプレクリニカルADの血液・髄液バイオマーカーとその病態生理学的背景
著者名 内田和彦 ほか
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0631-0639,2016
抄録 2015年の世界の認知症の患者数は4680万人で,このままなにもしなければ高齢化社会の進行とともにその数は20年ごとに倍になり,2030年には7470万人,2050年には1億3150万人になると推計されている.認知症の60〜80%を占めるアルツハイマー型認知症(AD)は連続性(continuum)のある疾患で,前段階の軽度認知障害(MCI due to AD),さらに臨床症状のないプレクリニカル期(プレクリニカルAD)での介入が,その発症予防において重要である.現状のADの医療は,糖尿病において血糖値が測れない状況で診断・治療を行うに等しい.プレクリニカルADからMCI,ADへの病態進行を反映する血液バイオマーカーはADの予防を実現できるきわめて有効な手段であり,世界中で研究が進んでいる.本稿では,プレクリニカルADを含めたADの病態と,最近のわれわれの知見も含め,AD,MCIのバイオマーカーとその病態生理学的背景について述べた.
キーワード オミックス解析,コホート研究,シークエスタータンパク質,補体,ミクログリア
 
論文名 非AD認知症の前段階
著者名 和田健二,中島健二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0640-0648,2016
抄録 認知症の代表的疾患であるアルツハイマー型認知症(AD認知症)を中心に,軽度の段階で認知機能低下をとらえて予防介入・先制医療の対象とする考え方が広まってきた.AD認知症以外の認知症においても,軽度認知障害(MCI)を伴うパーキンソン病(PD-MCI)や,血管性軽度認知障害(VaMCI)から血管性認知症(VaD)までを包含するvascular cognitive impairment(VCI)のほか,レビー小体型認知症(DLB)や前頭側頭型認知症(FTD)の前段階も注目されるようになってきている.本稿では非AD認知症の前段階に関する臨床症状,診断基準やバイオマーカー研究について概説した.
キーワード パーキンソン病,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症,血管性認知障害
 
論文名 MCIとプレクリニカルADへの介入
著者名 島田裕之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0649-0654,2016
抄録 認知症予防のために現在実施可能なアプローチとしては,中年期からは@禁煙,A活動の向上,Bアルコール摂取の減少,C食事バランスの改善,D必要に応じた体重調整が重要であろう.また,高齢期においては,これらに加えて@身体活動,A知的活動,B社会的活動を通した生活の活性化が課題となる.ただし,これらの介入が認知症の予防にとって効果があるかどうかの確証は得られていないため,大規模な比較試験によって検証を進めていく必要がある.
キーワード 認知症,非薬物療法,健康行動,活動,MCI
 
論文名 MCIとプレクリニカルADへの介入
著者名 松原悦朗
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0655-0659,2016
抄録 アルツハイマー病(AD)はコンフォメーション病の代表的な疾患のひとつで,原因タンパクの立体構造異常に起因した発症基盤を有している.その基本病態はミスホールディングタンパクの細胞内外への蓄積であり,抗体を起点とした生体の免疫系を駆使して,この蓄積に対峙する疾患修飾薬としての免疫療法が開発されている.生体内での蓄積タンパクの可視化技術の進歩と相まって,ADへの治療介入は,軽度認知障害(MCI)や認知機能は正常でもAD病理を有するプレクリニカルADの段階からの二次予防へと意識改革がなされている.
キーワード アミロイドβ(Aβ),軽度認知障害(MCI),プレクリニカルAD,抗体療法,preventive trials
 
論文名 MCIとプレクリニカルAD概念の「いかがわしさ」
著者名 松下正明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0660-0666,2016
抄録 軽度認知障害(MCI)は,正常加齢−MCI−アルツハイマー型認知症という連続性を考えるとき,それぞれの境界をどのように設定するのかがきわめて曖昧となることをもってその概念の妥当性を疑い,プレクリニカルADでは,バイオマーカーとなるAβ,タウタンパク,神経細胞障害がアルツハイマー型認知症に特異的所見でなく,脳の老化現象を示す所見にすぎないことをもって,その概念のいかがわしいことを指摘した.
キーワード アルツハイマー型認知症,MCI,プレクリニカルAD,バイオマーカー
 
論文名 認知症者の要介護度とADL,BPSDならびに認知症高齢者の日常生活自立度との関連
著者名 半田幸子,今井幸充
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(6):0667-0676,2016
抄録 要介護認定を受けた認知症者の日常生活動作(ADL)と行動・心理症状(BPSD)ならびに認知症高齢者の日常生活自立度(認知症自立度)と要介護度との関連を「認知機能障害に伴う日常生活動作評価票(ADL-cog)」「認知機能障害に伴う行動・心理症状評価票(BPS-cog)」ならびにFAST,BEHAVE-ADの尺度を用いて検討した.結果は,要介護度ならびに認知症自立度は,BPSDの影響を除いても他の尺度と相関は変わらなかったことから,ADLの影響を強く受けていた.重回帰分析を用いて要介護度に対する評価測度の寄与率をみたところ,認知症自立度と障害自立度の決定係数は0.419,ADL-cog・BPS-cogは0.351であったが,認知症自立度にADL-cog・BPS-cogを加えると0.417であった.以上から,現行の要介護度は,ADLが大きく反映され,BPSDの影響は少ないことが明らかになった.それゆえ,要介護度評価に際しては,BPSDの評価も加える必要があると考えられた.
キーワード 要介護度,認知症,認知症高齢者の日常生活自立度,ADL-cog,BPS-cog