論文名 | フレイルの概念 |
著者名 | 佐竹昭介・荒井秀典 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0489-0496,2016 |
抄録 | フレイルは恒常性維持機構の低下により,外乱因子に対する多系統の生理機構が破綻しやすい状態を指すとされ,小さなストレスでも容易に健康障害や身体機能障害を引き起こすと考えられる.これらの状態は,社会的活動の縮小や抑うつ気分の増悪を起こしやすく,高齢者の健康を阻害する危険信号である.超高齢社会に突入したわが国で,健康寿命の延伸を考えるとき,フレイルの概念を診療に取り入れることは重要と考えられる. |
キーワード | frailty,表現型モデル,累積障害モデル,総合評価モデル,老年症候群 |
論文名 | フレイルと認知機能障害 |
著者名 | 荒木 厚 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0497-0503,2016 |
抄録 | ・フレイルは加齢とともに予備能が低下し,要介護,死亡をきたしやすい状態である. ・身体的フレイルと認知機能障害などを含んだCGAに基づいたフレイルとがある. ・フレイルと認知機能障害は相互に関連し,インスリン抵抗性,耐糖能異常,腹部肥満,血管性危険因子,脳白質病変,炎症,身体活動低下,低栄養などの共通の病因を有する. ・両者の対策として,運動,栄養,認知トレーニング,血糖コントロール,血管性危険因子の治療などの多因子の介入を行うことが大切である. |
キーワード | フレイル,認知機能障害,インスリン抵抗性,高齢者総合機能評価,運動療法 |
論文名 | フレイルとうつ |
著者名 | 井原一成 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0504-0510,2016 |
抄録 | フレイルのいくつかの定義はうつを包含するが,フレイル概念の発展により,多くの定義でうつは除かれるようになった.しかし,うつを含まなくともフレイルの特徴は,うつ病の症状に重なる.うつとフレイルとが重複する高齢者が地域には存在し,うつ病とフレイルの関係性が研究課題となる.フレイル概念の登場は,うつ病予防の実践と研究のスペクトラムを体の衰えを防ぐという分野に広げることの重要性を示唆するものかもしれない. |
キーワード | 大うつ病性障害,疫学,共存症(comorbidity),高齢者,うつ尺度 |
論文名 | 高齢者における睡眠の問題とフレイル |
著者名 | 内山 真,金野倫子,鈴木貴浩,金森 正 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0511-0520,2016 |
抄録 | フレイルとは,高齢期における生活機能障害,要介護状態,死亡など不良な転帰のリスクとなる臨床的脆弱性亢進状態を広く包括する概念である.本稿では,高齢者における睡眠の問題とフレイルについて検討するため,加齢による睡眠の量的・質的変化について睡眠障害との関連で解説し,各種睡眠障害の身体疾患や精神疾患への影響をまとめ,最近の睡眠とフレイルに関する研究を紹介した. |
キーワード | フレイル,睡眠,不眠,睡眠不足,生活習慣病 |
論文名 | フレイルと貧困 |
著者名 | 岡村 毅・的場由木 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0521-0527,2016 |
抄録 | 地域在住一般高齢者のフレイル研究は大きな成果を上げているが,社会的辺縁に生活する脆弱な集団(たとえばホームレス)におけるフレイル研究もまた重要である.わが国は人口の高齢化に伴い経済的格差が拡大しているとされる.であれば,高齢化のいっそうの進行とともに,脆弱な集団は増加するのではないか.フレイルと貧困の関連は,われわれの社会の未来の重要な課題と思われる.本稿ではとくに,独居,経済的困窮,精神障害に注目して論じた. |
キーワード | フレイル,貧困,独居,経済的困窮,精神障害 |
論文名 | かかりつけ医の認知症初期支援 |
著者名 | 平原佐斗司 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0528-0534,2016 |
抄録 | 近年,認知症予防における生活習慣病対策の有効性,軽度認知障害(MCI)に対する有酸素運動を軸としたリハビリテーションの効果が注目され,認知症発症予防や認知症進行防止のための包括的な初期介入の重要性が認識されてきている.本稿では,当院が認知症の初期支援として行っている診断のシェアと初期の教育的支援のプロセス,薬剤的介入と環境調整,軽度アルツハイマー型認知症を対象とした包括的リハビリテーションプログラム(LIFE PACE)の実際とその効果を提示した. |
キーワード | dementia,early intervention,a comprehensive rehabilitation program |
論文名 | フレイルと精神科在宅医療 |
著者名 | 大澤 誠 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0535-0539,2016 |
抄録 | フレイルという病態を,高齢者の寝たきり・認知症・要介護状態を予防するという視点でとらえる重要性は認識しつつ,老年期に至った統合失調症および双極性障害の患者においては,フレイルという病態が,統合失調症における産出性症状の減少,双極性障害における躁転の減少にそれぞれ役立っていたと思われた症例を経験した.本稿ではそれらを紹介し,若干の考察を試みた. |
キーワード | フレイル,統合失調症,産出性症状,双極性障害,躁転 |
論文名 | フレイルの思想と高齢者の精神保健 |
著者名 | 粟田主一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0540-0544,2016 |
抄録 | フレイルの思想は,高齢者の健康障害の多元性・相互関連性とともに,障害の前段階での予防的介入の重要性を強調している.一方,高齢者の精神保健は,その人の人生という文脈のなかで,ウェルビーイング(well-being)に影響を及ぼす身体的・精神的・社会的な状況布置の構成を見渡し,老いを生きる本人の主体性を尊重した支援を展開する.認知機能障害や精神的健康問題をもつ高齢者へのアプローチでは,そのような多元的・構造的・実存的な視点がとくに重要である. |
キーワード | フレイル,ハイリスクアプローチ,ウェルビーイング,認知機能障害,精神的健康問題 |
論文名 | 抗精神病薬による治療後もBPSDが残存するアルツハイマー病患者10症例におけるメマンチン投与後の変化 |
著者名 | 原口祥典・松永高政・井上素仁・吉本静志・溝口義人・門司 晃 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0547-0553,2016 |
抄録 | 認知症の行動・心理症状(BPSD)は介護する家族,医療従事者に多大な肉体的・精神的負担を強い,患者・家族ならびに介護者のQOLを著しく低下させる.今回,抗精神病薬による治療後もBPSDが残存するアルツハイマー病患者を対象に,メマンチン投与後のBPSDおよび介護負担度の変化を中心に調査した.24週間追跡調査できたのは10症例中7症例であった.Mini-Mental State Examination (MMSE)による認知機能評価では7症例中5症例において認知機能が悪化せず,そのうち3症例では改善がみられた.Neuropsychiatric Inventory (NPI)によるBPSD評価では7症例中6症例で改善がみられた.Zarit介護負担尺度日本語版(J-ZBI)による介護負担度評価では7症例中5症例で改善がみられた.抗精神病薬は7症例中4症例で減量でき,そのうち3症例では完全に中止できた.一方,7症例中3症例においてはメマンチン投与後に抗精神病薬の増量あるいは追加が必要となり,その3症例中2症例は24週間を通してNPI総得点が50点以上で推移し,BPSDが重度であった. |
キーワード | Alzheimer’s disease,memantine,BPSD,caregivers |
論文名 | 全国認知症疾患医療センターの現状と課題について―― アンケート調査報告 |
著者名 | 大辻誠司・内海久美子・福田智子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(5):0554-0560,2016 |
抄録 | 認知症疾患医療センターは,2015年1月末で全国に289か所あるが,センターの現状と課題を明らかにするため,アンケート調査を実施した.回答率は67.1%で,課題として最も多く挙げられたのは連携である.かかりつけ医との連携では,かかりつけ医からの紹介という連携は7割方確立されていたが,逆紹介ができなかったり,典型的な症例などは,かかりつけ医で診断治療を希望するという回答もあった.また,入院治療が終了しても,退院先がないという「出口問題」も浮き彫りになった.また,どのセンターも医師,職員不足と業務負担増を感じており,現在の補助金では,増額もなかなかむずかしく,さらなる悪循環を生み出す危険性があるのではないだろうか.本稿では,全国の実態調査を試み,改めて地域から求められる役割や克服しなければならない課題を考察してみた. |
キーワード | 認知症疾患医療センター,確定診断,連携,啓発 |