2016 Vol.27 No.4
 
 
第27巻第4号(通巻342号)
2016年4月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
メモリークリニックの認知症医療への期待
井関栄三
特集 認知症の身体合併症医療―認知症患者の身体疾患治療に関する臨床的諸問題―
精神科病院における身体合併症医療― 東京都立松沢病院の実践
齋藤正彦
認知症高齢者の身体治療に関する意思決定のあり方
井藤佳恵
認知症患者の日常身体管理― 在宅医療の視点から
内門大丈
認知症患者における身体救急の現状と課題
樫山鉄矢ほか
総合病院における認知症患者に対する精神科リエゾンの現状と課題
井上雅之・中嶋義文
認知症患者の大腿骨近位部骨折治療
牛田正宏・吉田滋之
認知症における誤嚥性肺炎
犬尾英里子ほか
原著論文
重度認知症に対する従来のQOL尺度の限界
永田優馬ほか
調査報告
認知症の行動・心理症状に対する抑肝散加陳皮半夏の有用性の検討
眞鍋雄太ほか
連  載
わが国の認知症施策の未来B「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」の理念と概要
水谷忠由
文献抄録
松田 修
学会NEWS
日本老年精神医学会 パブリックコメント募集
第31回日本老年精神医学会開催のご案内
第32回日本老年精神医学会開催のご案内
学会入会案内
投稿規定
バックナンバーのご案内
編集後記

 
 
論文名 精神科病院における身体合併症医療
著者名 齋藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0375-0381,2016
抄録 精神科病院である東京都立松沢病院の身体合併症病棟の運営について,人的資源の状況,収支の状況について分析した.精神科病院で身体合併症医療を行うためには,医療法の精神科特例による人的資源の貧弱さと,それに対応した低い診療報酬が障害となることを示した.当院における4か月間の身体合併症病棟退院患者41例を認知症病棟退院患者93例と比較した.身体合併症病棟では血管性認知症の割合が高く,入院の原因となる身体疾患が認知症の原因疾患と密接に関係している例が多かった.両病棟とも,入院前後の日常生活動作(ADL)の変化には大きな差はなく,60〜80%の患者は入院前後のADLに差がなかったが,向精神薬の使用が退院時ADL低下と関係している可能性が示唆された.身体合併症病棟の入院者の約56%,認知症病棟では入院者の約73%が自宅から入院していたが,自宅に退院する患者の割合は,身体合併症病棟29.3%,認知症病棟で19.4%であった.
キーワード 認知症,身体合併症,精神科病院,身体拘束,向精神薬
 
論文名 認知症高齢者の身体治療に関する意思決定のあり方
著者名 井藤佳恵
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0382-0389,2016
抄録 認知症高齢者の身体治療に関する意思決定のあり方について,困難事例を通して見える課題について考察した.認知症高齢者では,「医療を受けない権利」はいつ,どのように行使されるのだろう.家族を代諾者とする医療上の慣習は,家族のあり方の多様化と家族機能の変化に対応できているのだろうか.事前指示は実際にはどのように生かされるのか.認知症高齢者では,しばしば医療上の選択が生活の全体,とりわけ住まいの問題に直結する.主体としての脆弱性をはらみながら現実社会の制約のなかに生きる,個人として認知症高齢者をとらえるとき,住まいの確保ということが医療上の意思決定における隠れた最重要因子となりうる.
キーワード 認知症高齢者,身体合併症,医療を受ける権利/受けない権利,代諾権,事前指示
 
論文名 認知症患者の日常身体管理
著者名 内門大丈
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0390-0398,2016
抄録 認知症患者は,病気の進行に伴って外来通院が困難になり,治療の場が在宅医療へと移っていく.またその臨床症状のひとつとして比較的早い段階から,自身の苦痛や不調を適切に表現することができなくなってしまう.認知症患者の身体疾患を早期に発見し,早期に治療的介入をするためには,認知症の症状および自然経過,高齢者の身体的諸問題に精通し,在宅医療における認知症患者との適切な関わり方を知ることが必要である.
キーワード 認知症,在宅医療,身体疾患,早期発見,早期治療
 
論文名 認知症患者における身体救急の現状と課題
著者名 樫山鉄矢,西田賢司,齋藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0399-0405,2016
抄録 認知症患者における身体救急受診の現状把握を目的として,救急基幹病院において予備的調査を行った.対象は,受診時に何らかのかたちで認知症との情報があった99例である.認知症患者では,救急車搬送率が49%,入院率が44%といずれも有意に高かった.受診理由は,転倒(23%),発熱(15%),「動けなくなった」(11%),失神(10%)などであり,診断としては,肺炎などの感染症が多くを占めた.入院後には,高率に拘束等の処置を要しており,転院となる事例が多かった.今後は,救急搬送→救急病院入院→転院という流れが,総合的なADLや予後にどのように影響しているのか,大規模かつ前向きな調査検討が必要と思われた.
キーワード 認知症,救急,入院,拘束,肺炎
 
論文名 総合病院における認知症患者に対する精神科リエゾンの現状と課題
著者名 井上雅之・中嶋義文
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0406-0412,2016
抄録 三井記念病院での実際のリエゾンコンサルテーション活動を紹介した.2015年のデータをメインに分析し,リエゾン活動のなかで認知症関連の諸問題がどの程度あるのかを検討した.地域連携型認知症疾患医療センターとしての連携活動も広義のリエゾンととらえ,その内容もあわせて検討した.
キーワード リエゾン,認知症疾患医療センター,地域連携型,千代田区,総合病院
 
論文名 認知症患者の大腿骨近位部骨折治療
著者名 牛田正宏・吉田滋之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0413-0420,2016
抄録 大腿骨近位部骨折は,骨粗鬆症をもつ高齢者の転倒により生じる代表的な骨折であり,寝たきりや歩行能力低下をきたしやすい.とくに認知症患者では転倒による受傷リスクが高く,治療成績も不良であることが知られている.当院で人工骨頭置換術を行った患者の調査においても,他の精神疾患患者と比較して術後合併症の頻度が高く,退院時の歩行能力の回復が劣っていた.周術期の全身管理と手術を含めた適切な治療を行うことが重要である.
キーワード 大腿骨近位部骨折,認知症,転倒,人工骨頭置換術
 
論文名 認知症における誤嚥性肺炎
著者名 犬尾英里子,樫山鉄矢,齋藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0421-0426,2016
抄録 認知症が進行すると嚥下障害を起こし誤嚥性肺炎のリスクが増す.誤嚥性肺炎は認知症患者の直接の死因として最も多いものである.認知症の終末期医療と切り離せない誤嚥性肺炎に必要な予防・診断・治療,認知症における治療の問題点について提示した.認知症患者が「本人らしい最期を迎えるために」過少・過剰医療を避け,適切な治療を受けるためには,認知症の診断を受けたのちに,やがて発症する合併症を患者自身や家族が理解し,その時期を迎えたときの治療の選択ができることが望ましい.
キーワード 認知症,誤嚥性肺炎,予防,治療,End-of-life
 
論文名 重度認知症に対する従来のQOL尺度の限界
著者名 永田優馬・田中寛之・石丸大貴・植松正保・福原啓太・小川泰弘・内藤泰男・西川 隆
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0429-0437,2016
抄録 重度認知症者のQOL (quality of life)評価には,軽度〜中等度認知症者用のQOL尺度が用いられてきたが,近年,そのQOL概念の枠組みは異なると示唆されている.本研究では,36人の重度認知症者を対象に,軽度〜中等度認知症者用のQOL尺度を用いて,重度認知症者に対する適応性を検討した.QOL評価には,自己評点式QOL尺度として,Quality of Life-Alzheimer’s Disease (QoL-AD) とDementia Quality of Life Instrument(DQoL),代理評点式QOL尺度として,QoL-ADとhealth-related quality of life questionnaire for the elderly with dementia (QoL-D) とAlzheimer Disease-Related Quality of Life (ADRQL)を用いた.適応性の検討では,欠損値の限界を10%未満,および各項目の床効果と天井効果を示す対象者数が,それぞれ全体の15%未満とする適合基準を設けて分析した.その結果,適合基準を満たした項目は,代理評点式QoL-ADに含まれる「気分」(床得点5.6%,天井得点5.6%)と,「生活環境」(床得点5.6%,天井得点0%)の2項目のみであった.以上より,重度認知症者に対する従来のQOL尺度の適応性には限界があると考えられた.
キーワード 重度認知症,QOL尺度,床効果,天井効果
 
論文名 認知症の行動・心理症状に対する抑肝散加陳皮半夏の有用性の検討
著者名 眞鍋雄太・横山晴子・藤城弘樹・梁 正淵・小阪憲司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(4):0438-0447,2016
抄録 近年,認知症の行動・心理症状(BPSD)治療における抑肝散のエビデンスの質は高まりつつある.こうしたなか,脱髄したミエリンの再生作用やセロトニン系を介した抗不安作用,食欲増進作用を示すグレリン分泌を促進させるヘスペリジンや,アミロイドβ蓄積抑制およびコリン作動性神経の変性抑制作用を有するノビレチンを含む陳皮を加味した抑肝散加陳皮半夏に関しては,その薬理学的背景から抑肝散以上の有用性が期待される.筆者らは,同剤のBPSDへの有用性に関し,有用性をとくに示す症状や投与用量による違い,疾患別の有用性,セロトニン系神経に関連するBPSDへの有用性の有無を21例の連続例を対象に検討した.その結果,同剤を3.75 g/日および7.5 g/日内服した両群ともにNPI-10における総点の改善が統計学的有意差をもって認められ,下位項目の検討では,「興奮」および「異常行動」で有意差が得られた.一方,「不安」や「易刺激性」に関しては,傾向を有するものの有意差のある改善は認められなかった.
キーワード 抑肝散,BPSD,NPI,ヘスペリジン,ノビレチン