2016 Vol.27 No.3
 
 
第27巻第3号(通巻341号)
2016年4月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
老後について
武内廣盛
特集 認知症の摂食・嚥下 ― Update
アルツハイマー病における重症度別の摂食嚥下障害
甲斐恭子ほか
レビー小体型認知症における摂食・嚥下の障害
品川俊一郎
前頭側頭葉変性症における摂食・嚥下障害
板橋 薫ほか
歯科からみた認知症の摂食嚥下障害
平野浩彦
歯科からみた認知症高齢者の摂食嚥下
桝谷多紀子
認知症高齢者の食べる喜びに向けた看護
山田律子
活動報告:地域における食支援の実践
食は生活の一部
江頭文江
多職種連携による地域食支援活動
篠原弓月
症例報告
発症後30余年間を経過し,現在77歳の神経性無食欲症の1症例
江原 嵩ほか
調査報告
認知症の徘徊による行方不明者の実態調査
菊地和則ほか
連  載
わが国の認知症施策の未来Aわが国の認知症施策の歴史を振り返る
本間 昭
文献抄録
山本泰司
書  評
「動脈硬化という敵に勝つ」
北村 伸
学会NEWS
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編集後記

 
 
論文名 アルツハイマー病における重症度別の摂食嚥下障害
著者名 甲斐恭子, 橋本 衛, 天野浩一朗, 田中 響,福原竜治, 池田 学
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0259-0264,2016
抄録 近年,認知症における疾患別の食行動障害の特徴が明らかになりつつあるが,食行動障害と認知症重症度の関連性については,最も頻度が高いアルツハイマー病(AD)でさえほとんど知られていない.本稿では,筆者らが行ったAD患者に対する食行動障害の研究を中心に紹介した.AD患者においては軽度例から高頻度でさまざまな食行動障害が出現すること,また,認知症の重症度に応じて問題となる食行動の症状がそれぞれ異なることなどを報告した.
キーワード アルツハイマー病(AD),食行動障害,認知症重症度,食欲,嚥下障害
 
論文名 レビー小体型認知症における摂食・嚥下の障害
著者名 品川俊一郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0265-0270,2016
抄録 レビー小体型認知症(DLB)は認知機能の動揺,幻視,パーキンソニズムなどの特徴的な症状を呈する変性性認知症疾患である.DLBではパーキンソニズムや誤認,抑うつ,覚醒水準の低下,自律神経症状などさまざまな原因により多彩な摂食・嚥下の問題が起こりやすい.そのマネジメントにおいては,まずDLBに特徴的な症状を理解し,認知機能障害以外の症状からDLBの可能性を疑い,診断することが求められる.DLBのさまざまな症状がどのような摂食・嚥下の問題につながりやすいのかを整理し,対処する必要がある.
キーワード レビー小体型認知症,摂食,嚥下,パーキンソニズム,誤認,自律神経症状
 
論文名 前頭側頭葉変性症における摂食・嚥下障害
著者名 板橋 薫,福原竜治,池田 学
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0271-0276,2016
抄録 前頭側頭葉変性症(FTLD)では,他の認知症疾患と比較して病初期から特徴的な行動障害が目立ち,介護負担も大きい.FTLDにおいては,摂食行動に関しても何らかの障害を有する例が少なくなく,過食,食の好みの変化,異食のほか,食事時刻への固執などといった食習慣の異常が認められる.これらの症状が出現する機序は明らかになっていないが,FTLDの特徴的な行動障害に伴って生じていることが少なくない.治療においては,薬物療法が対症的に行われる場合もあるが,現時点では環境調整などの非薬物的対応が主体である.とくに患者の保たれた機能,障害の特徴を考慮して対応することにより,行動障害の軽減を目指す.本稿では,FTLDに出現する食行動異常ならびにその対応方法について概説した.
キーワード 前頭側頭葉変性症,行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD),意味性認知症,嚥下障害,食行動異常,環境調整
 
論文名 歯科からみた認知症の摂食嚥下障害
著者名 平野浩彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0277-0286,2016
抄録 高齢期における摂食嚥下障害は,脳卒中後遺症を中心にその対応法が検討され,ほぼ標準化されたといえよう.一方,認知症の摂食嚥下障害への対応の検討は緒に就いたばかりである.本稿ではアルツハイマー病を中心に,その進行とともに「いつ」「なにが」起こるのかを歯科的な視点で概説し,さらに新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)で示された「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」における歯科の役割についても紹介した.
キーワード 歯科,栄養,認知症,アルツハイマー病,新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)
 
論文名 歯科からみた認知症高齢者の摂食嚥下
著者名 桝谷多紀子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0287-0295,2016
抄録 現在,わが国は世界一の長寿国となり,平均寿命の延伸とともに,健康寿命を平均寿命に限りなく近づけるということが大きな課題になっている.一方で平均寿命の延伸に伴い,認知症高齢者の人口も年々増加し,認知症の人の数は2012年の時点で約462万人,65歳以上では高齢者の約7人に1人と推計されている.認知症は摂食嚥下障害の原因としてかなり大きな存在であり,そのために歯科としても認知症高齢者の食事支援を行っていくことが超高齢社会における急務であると考えられる.
キーワード 認知症高齢者,摂食嚥下,歯科診療,予防,ケア
 
論文名 認知症高齢者の食べる喜びに向けた看護
著者名 山田律子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0296-0303,2016
抄録 摂食嚥下障害がある認知症高齢者の看護は,食事場面の観察から始まる.認知症高齢者に「摂食困難」が観察された際には,その真意を探求し,再び食べる喜びを取り戻すことができるように,多職種と協働しながら個々人に適した環境を整えていくことが重要である.その際,加齢変化や認知症の病態に基づく摂食嚥下障害の特徴と「環境」との相互作用の観点からアセスメントを行い,認知症高齢者の食べる力や喜びに着眼した「環境アレンジメント」が有効である.
キーワード 認知症高齢者,摂食嚥下障害,食べる喜び,環境,看護
 
論文名 食は生活の一部
著者名 江頭文江
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0304-0308,2016
抄録 食支援,栄養ケアは単一職種で支援できるものではなく,口腔,姿勢,呼吸,栄養,食事介助,食具など,多くの職種のスキルが集約され,展開していく.地域全体が食に関心を高くもち,職種を越えて,ともに学ぶことで,地域のなかでの食支援スキルをアップできる.食支援に関する地域での研修会や講演会は,2001(平成13)年から実施されてきており,トータルでおよそ200回を数える.地域づくりは継続して活動していくことで,地域食支援が充実していくと考える.
キーワード 地域包括ケアシステム,地域食支援,訪問栄養指導,摂食嚥下,研修会
 
論文名 多職種連携による地域食支援活動
著者名 篠原弓月
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0309-0315,2016
抄録 認知症の人の食支援において,歯科衛生士には「食べられる口をつくる」役割がある.口腔ケアで,コミュニケーションをとりながら口腔内の衛生状態を良好に保つだけでなく,口腔機能や口腔環境を整える.口の廃用からの誤嚥性肺炎や窒息を予防し,口から食べる喜びを支援する.本稿では,食支援における訪問歯科衛生士の取組みと,地域食支援グループ「ハッピーリーブス」の活動,多職種連携による食支援の事例を示した.
キーワード 訪問歯科衛生士,多職種連携,食支援,口腔ケア,認知症
 
論文名 発症後30余年間を経過し,現在77歳の神経性無食欲症の1症例
著者名 江原 嵩・河上靖登・西村輝明・青木とし江
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0317-0322,2016
抄録 心理的誘因が確認できない一児の母親において,43歳ごろより非典型的神経性無食欲症が発症し,重症遷延性無食欲症の臨床症状が77歳の現在も継続している.すなわち,現在は体重22 kg,身長142 cm,BMI=11.2の高度るい痩にあり,消化器や皮膚などに多彩な身体合併症を伴い,脊柱・肋骨・恥骨の多発性骨折による姿勢異常と筋力低下などによる不安定歩行にあるが,70歳ごろから万引きを繰り返している.心理検査などによる認知機能の軽度低下と,頭部画像検査における前頭葉と側頭葉下部の加齢以上の退行性所見を認めた.
キーワード 重症遷延性神経性無食欲症,中年期発症,万引き,認知機能障害
 
論文名 認知症の徘徊による行方不明者の実態調査
著者名 菊地和則・伊集院睦雄・粟田主一・鈴木隆雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(3):0323-0332,2016
抄録 わが国の認知症者は2025(平成37)年には約700万人に達する見込みである.しかし,これまで認知症の徘徊による行方不明についてはほとんど研究されてこなかった.本研究は2013年中に警察に行方不明者届が出された認知症者(疑いを含む)の家族を対象として,徘徊による行方不明の実態を明らかにすることを目的として行われた.回答のあった204人(生存者117人,死亡者87人)を生存者と死亡者に分けて分析した.その結果,両者に共通していたのはFunctional Assessment Staging(FAST)のステージ3以下でも行方不明になっていることであった.また,死亡者は一人暮らしが多いこと,生死には発見までの期間が関連しており,捜索の初動が重要である可能性が示された.死因について回答のあった61人について死因を分類したところ,溺死・水死,低体温症・凍死が多く,交通事故など外傷に起因する死亡は少数であった.
キーワード 認知症,徘徊,行方不明,死因