論文名 | 医療経済学の基礎 |
著者名 | 梶谷恵子・川渕孝一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0139-0145,2016 |
抄録 | 医療を社会共通資本としてとらえたとしても,稀少な資源をいかに効率的に配分するかという医療経済学は不可欠である.とくに5人に1人が認知症になるとされる未曾有の超高齢社会を迎えるわが国にとって,伝統的な医療費適正化の手法に加えて,行動経済学やネットワークの利活用など複雑系のアプローチが喫緊のテーマとなっている. |
キーワード | 医療費の対GDP比,市場の失敗,公平性,価格弾力性,情報の非対称性 |
論文名 | 認知症患者の生命予後 |
著者名 | 梅垣宏行・葛谷雅文 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0146-0151,2016 |
抄録 | 認知症患者の生命予後は,非認知症者と比較して不良である.認知症を発症してからの生存期間は報告によりかなり幅があり,3〜12年とされている.生命予後に関連する因子としては,発症年齢,病期,性別などがある.アルツハイマー型認知症よりも非アルツハイマー型認知症のほうが予後は不良である.抗認知症薬の投与によって生命予後が改善される可能性を示唆する研究があり,今後さらなるデータの集積が期待される. |
キーワード | 生存期間,死因,抗認知症薬,アルツハイマー型認知症,mild cognitive impairment |
論文名 | 認知症とQOL |
著者名 | 八森 淳 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0152-0159,2016 |
抄録 | 医療の効率性が求められる一方で,認知症の医療についてもQOL評価の重要性が指摘されている.QOL評価には客観的評価と主観的評価の2つの方法があるが,認知症の人の場合,とくに進行した例では認知機能の低下により自己の主観的評価を定量的方法で評価することがむずかしくなる.このようななか,医療経済などのマクロの視点ではQOLを効用値という概念を用いて,治療や介入の効果として経済学的評価指標で評価する方法があり,抗認知症薬や認知症医療も費用対効果が示されている.一方,個別症例に関しては,QOLの客観的評価と主観的評価を相互補完的に使う必要があり,多職種による包括的な視点から慎重に検討して,認知症の人にかかわる必要がある. |
キーワード | QOL,主観的評価,客観的評価,効用値,多職種 |
論文名 | 日本における認知症の社会的コスト |
著者名 | 佐渡充洋 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0160-0166,2016 |
抄録 | 認知症は,もはや世界的な課題である.今後急速な勢いで認知症患者が増加することが予想されているが,日本も例外ではない.それに伴い,社会的コストの増大も危惧される.そこで本稿では,日本における認知症の社会的コストの推計結果についてその概要を紹介した.その結果によると,2014年の日本における認知症の社会的コストは14.5兆円であり,2060年にその額は24.3兆円に上ると推計されている.今後は,コストの多寡の議論に終始することなく,社会的資源をどのように効率的に分配・活用すれば,認知症に優しい社会を実現できるかどうかの議論が重要である. |
キーワード | 認知症,社会的コスト,インフォーマルケア,疾病費用 |
論文名 | コリンエステラーゼ阻害薬の医療経済評価 |
著者名 | 池田俊也 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0167-0171,2016 |
抄録 | 医療経済評価は,多くの国々において医療技術の保険償還の可否の判断等の政策決定に利用されている.医療経済評価の目的は「限りある資源を有効に使うこと」であり,費用と結果を同時に評価することで,期待される結果が,投資した額に見合うかどうかを評価するものである.コリンエステラーゼ阻害薬の経済評価は国内外で多数報告されているが,分析の視点,費用の種類,効果指標,分析期間等が異なっており,結果の比較を行う際には注意が必要である. |
キーワード | コリンエステラーゼ阻害薬,医療経済評価,生産性損失,質調整生存年(QALY) |
論文名 | NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)の医療経済評価 |
著者名 | 井上幸恵 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0172-0181,2016 |
抄録 | メマンチン塩酸塩(商品名:メマリーR)は中等度および高度アルツハイマー型認知症(AD)への適応を有するNMDA受容体拮抗薬である.本稿では,AD治療に関する医療経済評価,すなわちADがもたらす疾病負担に関する報告を紹介した.さらに,メマンチン塩酸塩によるAD治療に関する費用効果分析事例について解説した. |
キーワード | アルツハイマー型認知症,メマンチン,医療経済評価,費用効果分析,疾病負担 |
論文名 | 海外におけるアルツハイマー型認知症治療薬の費用対効果について |
著者名 | 稲垣 中 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0182-0193,2016 |
抄録 | 本稿では,海外におけるモデルを用いた認知症治療薬の費用対効果分析に関する文献レビューを行った.結果としては,薬物療法を行わなかった場合と比較して,認知症治療薬の使用により費用が節減されて,アウトカムも改善すると結論した報告が多く,費用節減となってはいなかった報告の多くでも,1質調整生存年(QALY)獲得あたりの費用が許容範囲内とされたことが多かった.したがって,大勢としては,海外における認知症治療薬の費用対効果は悪くないと考えられた. |
キーワード | アルツハイマー型認知症,費用対効果,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬,NMDA受容体拮抗薬 |
論文名 | 歯科治療の臨床における歯科医師の認知症高齢者に対する意識調査 |
著者名 | 田中みどり・田中文丸・石川智久・池田 学 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0195-0205,2016 |
抄録 | 臨床歯科医師が認知症高齢者の歯科診療を行う際の課題を探る目的で,臨床経験のある歯科医師226人に対してアンケート調査を行った.その結果,およそ50%の歯科医師は,認知症高齢者の歯科診療の経験があり,およそ20%は在宅訪問歯科診療でも認知症高齢者の診療経験があった.また,50%以上の歯科医師が,診療の際何らかの認知症症状で「困ったことがある」と回答しており,30%の歯科医師は認知症高齢者の歯科診療に抵抗感を示した.さらに,歯科医師が何らかの認知症を疑った場合でも,医療機関への相談を促すなどの働きかけを行っていない実態が明らかとなった.歯科医師は,口腔衛生の維持,機能回復だけでなく,認知症高齢者の初期の「気づき」についても,重要な役割を果たしていることが示唆され,歯科医師の認知症対応能力向上と地域包括ケアシステムへの積極的な参加が必要であると考えられた. |
キーワード | 認知症,歯科医師,意識調査,医科歯科連携,地域包括ケアシステム |
論文名 | 精神疾患患者に合併した大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術の治療成績 |
著者名 | 吉田滋之・牛田正宏・齋藤正彦 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(2):0207-0214,2016 |
抄録 | 2013年4月〜2015年3月の間に精神疾患患者に合併した大腿骨頚部骨折に対して,当院で人工骨頭置換術を行った51症例を検討した.大多数の患者が身体的基礎疾患を有しており,肺炎,深部感染,脱臼,尿路感染症,術後貧血といった術後合併症が高率に認められた.一方,歩行能力は66.7%の患者で受傷前と同程度まで回復した.精神疾患患者に対する人工骨頭置換術は高い周術期リスクを伴うが,歩行能力の再獲得は一般患者と比較して遜色なく,有効な治療法である. |
キーワード | 精神障害者,大腿骨頚部骨折,人工骨頭置換術 |