論文名 | 血管性認知症は減少したのか |
著者名 | 小出浩久,中村 馨,目黒謙一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(12):1273-1280,2016 |
抄録 | 筆者らの行った東北地方での2つ(1998年,2008年)の大規模地域調査(同じ診断基準と同じ診断方法)のデータから,血管性認知症(VaD)の有病率を示した.10年間に明らかなVaD有病率の減少はなかった.また,わが国で行われたいくつかの65歳以上の有病率調査をみると,1980〜2009年まででは,明らかな変化はみられなかった.原因疾患としての脳血管障害の臨床病型が変化している.高血圧がかかわる脳出血,ラクナ梗塞が減少した.糖尿病,脂質異常症がかかわるアテローム血栓性脳梗塞が増加し,高齢化で心原性脳塞栓症が増えている.心原性以外は認知症も身体障害も軽度になって,医療を受けていない場合がある.とくに,皮質下血管性認知症(SVD)と軽度の血管性認知障害(VCI)の対策が重要である.筆者らが経験した特徴的な症例を紹介した.脳画像診断の普及,性能向上と抗認知症薬の登場により,実臨床でVaDの過剰・過少診断が起きている.プライマリ・ケアで専門医〜介護職までも含めたチーム医療により,積極的な治療につなげることが重要である. |
キーワード | 診断基準,脳血管障害の臨床病型,血管性認知障害(VCI),過剰診断と過少診断,医療福祉マネジメント |
論文名 | 脳血管障害と認知障害 |
著者名 | 松田 実 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(12):1281-1288,2016 |
抄録 | 血管性認知症や血管性認知障害の診断のためには,脳血管障害と認知障害との因果関係が示されることが必要である.時間的な因果関係を示すことは必ずしも容易ではないため,認知障害の症候と障害部位とを対応させる神経心理学的知識が重要になる.障害部位や障害血管によって特徴ある認知障害や行動異常を呈することを知っておくべきである.皮質下虚血性血管性認知症では前頭葉症状が主体となるが,徐々に悪化する場合が多く,軽度認知障害の時期から徴候をとらえて治療や予防を図ることが重要である. |
キーワード | 脳血管障害,認知障害,神経心理学,皮質下虚血性血管性認知症 |
論文名 | 血管性認知症の診断はどうすべきか |
著者名 | 三品雅洋 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(12):1289-1296,2016 |
抄録 | 血管性認知症の診断基準は,主にアルツハイマー病(AD)との対比で議論されてきた.しかし,ADと脳血管病変の関連が明らかになり,「脳血管障害を伴うアルツハイマー病」(AD with CVD)も包含した脳血管障害に起因した血管性認知障害(VCI)という概念がつくられた. |
キーワード | 血管性認知症,血管性認知障害,診断基準,アルツハイマー病 |
論文名 | 神経変性性認知症と脳血管障害の関連 |
著者名 | 猪原匡史 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(12):1297-1301,2016 |
抄録 | 認知症を神経細胞の機能異常といういわば「単純系」に落とし込んで理解しようとする立場が限界を迎え,認知症研究にパラダイムシフトが求められている.脳は全身の2.5%の重量でありながら,全身の20%近い血液を必要とする臓器であり,循環障害は認知症に直結する.神経変性疾患に合併する脳血管病変,すなわち「混合型」変化を的確にとらえ,適切に治療することがアルツハイマー型認知症も含めた全認知症の予防につながる可能性が示唆されている. |
キーワード | 認知症,アルツハイマー型認知症,血管性認知障害,脳アミロイド血管症,混合型認知症 |
論文名 | 大脳白質病変を伴う認知症の考え方 |
著者名 | 伊井裕一郎,冨本秀和 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(12):1302-1309,2016 |
抄録 | 大脳白質病変は脳小血管病に関連した脳病変のひとつであり,軽度のものは加齢現象と考えられているが,進行すれば脳卒中の発症や再発とともに認知症と関連する.アルツハイマー病と血管性認知症の連続性が注目されつつあるが,両者のピボット(pivot)ともいえる大脳白質病変を伴う認知症患者の診療においては,その危険因子,病態,臨床症状および認知機能障害との関係を考慮することが重要である. |
キーワード | 大脳白質病変,脳小血管病,皮質下血管性認知症,アルツハイマー病,MRI |
論文名 | 血管性認知症の治療 |
著者名 | 涌谷陽介 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(12):1310-1317,2016 |
抄録 | 血管性認知症の「治療」という場合,アルツハイマー型認知症の「治療」という場合よりも,さまざまな医療的側面からの考察や対応が必要となる.認知機能障害や行動・心理症状(BPSD)への薬物・非薬物的対応以外にも,背景にある脳血管障害のリスク疾患や合併しやすい運動機能障害・身体疾患に対応する必要性も高い.本稿では多様な医学的背景を伴うVaDへの治療的対応を概観した.将来的な治療の展望に関しても若干ふれた. |
キーワード | 血管性認知症(VaD),血管性認知障害(VCI),薬物療法,非薬物療法,将来的な治療 |
論文名 | 血管性認知症の予防 |
著者名 | 長谷川泰弘 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(12):1318-1323,2016 |
抄録 | 血管性認知症(VaD)の予防は,修正可能な脳血管障害のリスクを是正することにほかならない.脳血管障害リスクはアルツハイマー病のリスクと共通しており,VaDに限らず認知症予防のため広く行われるべき治療である.生活習慣病を適正に管理し,ライフスタイルをも改善させる多角的介入(multidomain intervention)の効果に期待がもたれる.VaDに対しても抗認知症薬の効果は期待できるが,VaDに対する保険適応はない. |
キーワード | 認知症,血管性認知症,予防,vascular neurocognitive disorders,危険因子 |
論文名 | 高齢アルツハイマー病患者におけるBADSの行為計画検査,鍵探し検査の妥当性 |
著者名 | 関谷みのり・加藤 梓・田口万里子・山岸 敬・佐藤卓也・今村 徹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,27(12):1325-1334,2016 |
抄録 | 【目的】Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome(BADS)の行為計画検査および鍵探し検査について,高齢アルツハイマー病(AD)患者における遂行機能検査としての妥当性,および日常生活動作(ADL)の評価尺度との関係について検討する.【対象】Mini-Mental State Examination (MMSE), Alzheimer’s Disease Assessment Scale (ADAS),Frontal Assessment Battery (FAB),Rey複雑図形模写課題およびClinical Dementia Rating (CDR)を施行したAD患者で,MMSE得点が14〜24かつ教育年数が6〜12の44例.【方法】BADSの行為計画検査および鍵探し検査の成績と患者属性,疾患属性,認知機能属性, ADLの評価尺度との関係をSpearmanの順位相関係数で検討した.【結果】行為計画検査は,MMSE得点,ADASの構成,観念行為,FABの葛藤指示,Rey複雑図形の模写課題との間で,鍵探し検査は,FABの類似性,葛藤指示との間で有意な相関が得られた.一方,両検査ともに,CDRのSum of boxes (CDR-SOB), CDRの各下位項目,ADL上の遂行機能障害を反映すると考えられるExecutive-SOBおよびSelf-care Rating for Dementia (SCR-D) とは有意な相関を示さなかった.【結論】AD患者においても,BADSの行為計画検査と鍵探し検査は遂行機能検査としての妥当性は有していることが示されたが,同時に,ADL上の遂行機能障害を十分には予測できていない可能性が示唆された.今後ADL上の遂行機能障害をより直接的に評定する尺度を用いて,BADSの両検査がADL上の遂行機能障害を反映しているかについて再検討を試みることが必要である. |
キーワード | BADS,アルツハイマー病,遂行機能,ADL |