2016 Vol.27 No.10
 
 
第27巻第10号(通巻349号)
2016年10月20日 発行
 
*会員価格でご購入の際には日本老年精神医学会会員番号が必要となります

単品購入
一般:2,057円(本体1905円+税)
会員:1,646円(本体1524円+税)

(いずれも税込)


購入数



 
 
 
老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
高齢者の5D+E
一宮洋介
特集 高齢期のいわゆる心因性について考える
高齢者の心因― 神経症から身体症状症(DSM-5)へ
木村宏之
高齢期の心因性(慢性)疼痛に対するアプローチ
青山幸生・牧 裕一・木造理枝・小竹良文
高齢期の心因性めまい
堀井 新
高齢期のいわゆる心因性泌尿器症状(排尿困難や尿閉・頻尿)
福井準之助
高齢期のいわゆる心因性口腔症状
徳倉達也
わゆる心因性疾患とその対応:各科での対応
 心療内科の立場から
釋 文雄
 総合診療医の立場から
上田剛士
 老年科医の立場から
鈴木裕介・葛谷雅文
 精神科医の立場から
新里和弘
症例報告
機能画像で側頭頭頂後頭葉に右側優位の低下を示す アルツハイマー病の認知機能障害
小柳佳与・加藤 梓・武石さつき・今村 徹
連  載
わが国の認知症施策の未来G かかりつけ医と認知症
鈴木邦彦
文献抄録
互 健二・品川俊一郎
書評
「死すべき定め;死にゆく人に何ができるか」
斎藤正彦
学会NEWS
学会入会案内
投稿規定
バックナンバーのご案内
編集後記

 
 
論文名 高齢者の心因
著者名 木村宏之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1037-1045,2016
抄録 高齢者の心因について, 神経症の時代から身体症状症 (DSM-5) の現在まで, 精神医学がどのように位置づけてきたかについて考え, また, その心因を扱ってきた精神療法について概観した. 医療者は, 高齢者というステレオタイプな対応をすることなく, 患者の個別性に鑑み, 柔軟に対応する必要がある.
キーワード 高齢者,心因,神経症,身体症状症(DSM-5),精神療法
 
論文名 高齢期の心因性(慢性)疼痛に対するアプローチ
著者名 青山幸生・牧 裕一・木造理枝・小竹良文
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1046-1051,2016
抄録 痛みは,個人のもつ意識内容そのものであり,きわめて主観的な事象である.高齢者では,加齢的変化に伴って生じる心因反応を伴いやすく,痛みの評価,治療をより難解にする.それゆえ,痛みの治療は,全人的(身体・心理・社会・実存的)にその患者を理解しようとする態度が必要であり,最終的には心因性,器質性を超えた“今 ここ”に生きている人間そのものとしての理解が必要である.また,諸検査と症状との間に乖離のみられる,いわゆる心因性疼痛と誤診されやすい病態(機能的身体症候群)が存在し,心因性,機能性をも含め,その乖離を埋めるものとして,信頼に裏打ちされた治療関係(治療者-患者関係)が重要である.また,どのような痛みであっても,初診時の身体的アプローチは必須である.
キーワード 慢性疼痛,心因性疼痛,高齢者,全人的医療,機能的身体症候群
 
論文名 高齢期の心因性めまい
著者名 堀井 新
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1052-1057,2016
抄録 心因性めまいは純粋に不安やうつにより起こる狭義の心因性めまいと,器質的前庭疾患に精神疾患を合併する広義の心因性めまいに分けられる.いずれも精神疾患に対する治療がめまいに対して有効である.高齢期ではライフイベントからくるストレスに加えて,認知症や脳血管障害によるうつや不安など心因性めまいをきたす要因が多い.高齢者のめまい治療では,精神疾患の存在と程度を正確に診断して適切な薬物治療を行うことが重要である.
キーワード うつ,不安症,前庭疾患,Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS),選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)
 
論文名 高齢期のいわゆる心因性泌尿器症状(排尿困難や尿閉・頻尿)
著者名 福井準之助
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1058-1064,2016
抄録 下部尿路はストレスに起因した機能障害を生じやすい.心因性下部尿路機能障害は尿意切迫/頻尿/尿失禁などの蓄尿症状を訴える心因性過活動膀胱症状群と,排尿困難や尿閉などの心因性排出症状群とに分けられる.さまざまなストレスによって傷ついた心因障害がもとになって発症した下部尿路機能障害 ―― たとえば心因性切迫性尿失禁は,日々の社会生活を営むうえで大きな支障や制限をもたらし,この困窮状態が自律神経に影響を与えて,いっそうの症状悪化を招くという悪循環を形成する.したがって,心因性下部尿路機能障害患者には自律神経症状が強く出現していることが多く,病態の把握や診断/治療に難渋することが多い.診断/治療にあたっては,泌尿器科医と精神科医/心療内科医/心理療法士との間の緊密な治療体制が求められる.泌尿器科医にとって不慣れな領域の疾患ではあるが,まず下部尿路機能障害の診断確立後に,専門医との協調下での心因障害の追究と診断/治療が必要である.
キーワード 心因性下部尿路機能障害,心因性過活動膀胱(蓄尿)症状,心因性排出(尿)症状,ビデオ尿流動態検査,精神発汗テスト
 
論文名 高齢期のいわゆる心因性口腔症状
著者名 徳倉達也
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1065-1070,2016
抄録 口腔領域に疼痛や違和感を訴えるものの,その症状に見合うような器質的異常が見当たらない場合,詳細な心理的評価がなされないままに「心因性」とみなされてしまうことも少なくない.高齢期におけるそのような疾患に,口腔内灼熱症候群,特発性歯痛,口腔異常感症(口腔セネストパチーを含む)などがある.心理社会的要因を念頭におきつつも,「器質因か心因か」「医科か歯科か」と二律背反的にならず,精神科医と歯科医とが連携して治療に取り組む姿勢が重要である.
キーワード 心因性,口腔内灼熱症候群,特発性歯痛,口腔異常感症,口腔セネストパチー
 
論文名 高齢期のいわゆる心因性疾患とその対応:各科での対応 心療内科の立場から
著者名 釋 文雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1071-1077,2016
抄録 心療内科では疾患を身体面,心理社会面の両方から診てアプローチを行っており,この立場から,「高齢期のいわゆる心因性疾患」に関して,@ライフサイクルのなかの老年期の位置づけ,A高齢者の身体および心理面での疾患の特徴,B高齢者に多いストレス関連疾患,C高齢者におけるストレス関連疾患の対応法,に分けて,おのおの具体的にイメージが湧くことを期待しつつ述べてみた.
キーワード 心身症,ライフサイクル,喪失体験,心身相関,ストレス
 
論文名 高齢期のいわゆる心因性疾患とその対応:各科での対応 総合診療医の立場から
著者名 上田剛士
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1078-1084,2016
抄録 高齢者では基礎疾患が多いことに加え,患者背景が複雑なことも多く,器質的疾患と心因性疾患が複雑に絡み合うこともまれではない.総合診療医にはさまざまな器質的疾患に対する知識のみならず,心因性疾患に対する知識も必要とされる.やみくもに検査を行うことは患者の不安を取り除かないばかりか無用な心配を増やす危険性もあり,必要な検査を絞ることや心因性疾患を積極的に診断する努力が必要である.認知行動療法に準じたアプローチは内科医でも行える有用な治療法である.
キーワード cautious gait,病気不安症,老年期うつ病評価尺度,認知行動療法
 
論文名 高齢期のいわゆる心因性疾患とその対応:各科での対応 老年科医の立場から
著者名 鈴木裕介・葛谷雅文
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1085-1091,2016
抄録 老年期は身体や環境の変化に伴い,内科診療において心因性疾患による身体的な訴えを呈することが多く,それが高齢者の病態の把握を複雑にしている.医学的に説明のつかない症状に対して,診療効率や患者に対する信頼保全のための安易な投薬やその場しのぎの対応で問題の本質に蓋をすることなく,原因となる心理的な背景や心因性の病態について鑑別を進めることが求められる.
キーワード 身体症状性障害,MUS(medically unexplained symptoms),老年期うつ病,健康関連QOL
 
論文名 高齢期のいわゆる心因性疾患とその対応:各科での対応 精神科医の立場から
著者名 新里和弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1092-1097,2016
抄録 高齢期における心因性疾患の特徴や対応に関して事例を挙げて概説を行った.高齢期は介護保険制度など社会資源が手近にある.その利点を生かして,症状を悪化させず,自分のコントロールの内に収めることの重要性を指摘した.また心因性疾患のなかには,精神科医が他科へ回すことをせず対応すべき事例が存在することを示し,その理由を述べた.他科との連携は不可欠であるが,「顔の見える関係」を基盤とした相互信頼に基づいた医療連携が理想的である.加えてドクターショッピングの問題点をまとめ,医療制度面からの対応の現状を記した.
キーワード 高齢,心因性,精神科,身体表現性,身体症状症,ドクターショッピング
 
論文名 機能画像で側頭頭頂後頭葉に右側優位の低下を示す アルツハイマー病の認知機能障害
著者名 小柳佳与・加藤 梓・武石さつき・今村 徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(10):1099-1108,2016
抄録 緩徐進行性失語のlogopenic亜型(LPA)の鏡像というべき機能画像所見を呈したアルツハイマー病の認知機能障害を報告する.症例は79歳,右利き女性.2年来のもの忘れと怒りっぽさを主訴に受診.神経学的に特記所見なし.数唱順唱5桁,逆唱2桁.MMSE得点21/30,ADAS減点11/70.WAB失語症検査AQ 95.CDR 0.5(記憶1).軽度喚語困難あり.線分抹消課題などで軽度の左半側空間無視.VPTAで錯綜図での失点と形の弁別での遅延反応が目立つ.VOSPの視覚対象の空間的位置判断課題で13/20点と明らかな低下.Rey複雑図形模写は12.5/36点でモデル全体をとらえることが困難.視覚失調,精神性注視麻痺なし.頭部MRIで両側側頭葉内側に軽度萎縮が,SPECT統計画像で顕著な右優位の側頭頭頂後頭葉の血流低下が認められた.本症例は視覚認知に関する主訴の欠如と明らかな日常記憶障害からposterior cortical atrophy(PCA)の臨床診断基準には該当しないが,視空間認知障害と構成障害を中心とする認知機能障害はPCAと一致していた.
キーワード logopenic variant of primary progressive aphasia(LPA),posterior cortical atrophy(PCA),右側頭頭頂後頭葉,アルツハイマー病,視空間認知障害