2016 Vol.27 No.1
 
 
第27巻第1号(通巻338号)
2016年1月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
「レビー小体型認知症からの復活」への疑問
須貝佑一
特集 脳変性疾患の臨床神経病理学から精神症状を再考する
精神医学における神経病理学の重要性・再認識
入谷修司
アルツハイマー病における神経精神症状の神経病理学的基盤
布村明彦
レビー小体病,レビー小体型認知症の神経病理
笠貫浩史・井関栄三
前頭側頭葉変性症(FTLD-tau,FTLD-TDP,FTLD-FUS)
東 晋二・新井哲明
進行性核上性麻痺および大脳皮質基底核変性症における精神症状
勝瀬大海
その他の変性疾患の病理と精神症状嗜銀顆粒病
長尾茂人ほか
ハンチントン病
池田研二
石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)
寺田整司
tangle-predominant dementia(神経原線維変化型老年期認知症)の臨床病理学的特徴
河上 緒ほか
原著論文
アルツハイマー病患者におけるMini-Mental State Examination(MMSE)のSerial 7’s課題に影響を与える要因
片桐 梢ほか
調査報告
中高年期・高齢期を対象とした夫婦関係における効力感と主観的幸福感との関連
荒井弘和ほか
座談会
精神医学と脳神経病理学,その歴史とこれからの展望
○出席者 天野直二・新井哲明・池田研二・小阪憲司・横田 修 ○司 会 入谷修司
文献抄録
互 健二・品川俊一郎
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編集後記

 
 
論文名 精神医学における神経病理学の重要性・再認識
著者名 入谷修司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0011-0017,2016
抄録 精神医学の歴史のなかで,神経病理学の果たしてきた役割は大きい.むしろ,神経病理の歴史と精神医学の歴史が一致している場面もあった.クレペリンやアルツハイマーが活躍したころのドイツ精神医学はまさに,脳病理を背景にした臨床精神医学の体系化がなされた時代でもある.そのような歴史を振り返りながら,現在の精神医学における神経病理学の重要性について概観した.
キーワード 神経病理学,脳変性疾患,内因性精神疾患,脳病理
 
論文名 アルツハイマー病における神経精神症状の神経病理学的基盤
著者名 布村明彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0018-0026,2016
抄録 アルツハイマー病では,剖検脳において観察される病理変化のうち,老人斑よりも神経原線維変化のほうが神経精神症状との関連性が強い.アルツハイマー病の神経精神症状の基盤として,レビー小体関連病理や血管病変も十分に検討すべきである.今後,脳の病理変化を反映する神経画像やバイオマーカーと神経精神症状との関連性が解明されることで,「脳病理と精神症状」という古典的課題の解明に飛躍的な進歩が期待される.
キーワード アルツハイマー病,行動・心理症状,神経原線維変化,神経精神症状,神経病理
 
論文名 レビー小体病,レビー小体型認知症の神経病理
著者名 笠貫浩史・井関栄三
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0027-0035,2016
抄録 レビー小体病(LBD)は包括的な臨床病理学的概念であり,パーキンソン病(PD),パーキンソン病に伴う認知症(PDD)およびレビー小体型認知症(DLB)を含む.DLBの神経病理学的特徴として,大脳皮質や辺縁系への広範な皮質型レビー小体(LBs)の出現,脳幹諸核への脳幹型LBsの出現,これらに伴うレビー神経突起(LNs)出現のほか,末梢交感神経節や内臓自律神経系にもこれらのレビー病理が出現する.合併病理としては,アルツハイマー病理(老人斑,神経原線維変化)が重要である.本稿では,特集の趣旨に則り,DLBに生じる精神症状の神経病理学的背景に関して概説した.
キーワード レビー小体病,レビー小体型認知症,レビー小体
 
論文名 前頭側頭葉変性症(FTLD-tau,FTLD-TDP,FTLD-FUS)
著者名 東 晋二・新井哲明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0036-0041,2016
抄録 前頭側頭葉変性症(FTLD)は,前頭・側頭葉に進行性の神経変性を生じる病理学的および遺伝学的に異なった疾患からなる症候群である.病理学的には,神経細胞あるいはグリア細胞内に形成された封入体を構成するタンパク質の種類によって,主にFTLD-tau,FTLD-TDP,FTLD-FUSの3つのグループに分類される.近年の病理生化学的および遺伝子的研究の進歩により,これらの病理グループに含まれる孤発性および遺伝性の疾患が次々と同定され,FTLDの病態が明らかとなってきている.
キーワード 前頭側頭葉変性症,前頭側頭型認知症,タウ,TDP-43,FUS
 
論文名 進行性核上性麻痺および大脳皮質基底核変性症における精神症状
著者名 勝瀬大海
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0042-0050,2016
抄録 進行性核上性麻痺(PSP)および大脳皮質基底核変性症(CBD)は,臨床的には運動障害を呈し,病理学的には4リピートタウオパチーに分類される神経変性疾患である.両疾患ともに大脳基底核や前頭葉の変性を背景に精神症状がみられる頻度は高く,精神科医もその特徴を理解しておく必要がある.PSPではアパシー,うつ,易怒・易刺激性,睡眠障害,脱抑制などが,CBDではうつ,人格変化・行動の障害,不安,易怒・易刺激性,アパシーなどがみられる傾向にある.
キーワード 進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,4リピートタウオパチー,精神症状,アパシー,うつ
 
論文名 その他の変性疾患の病理と精神症状嗜銀顆粒病
著者名 長尾茂人, 横田 修, 池田智香子, 三木知子, 大島悦子, 寺田整司, 山田了士
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0051-0058,2016
抄録 嗜銀顆粒病(AGD)は加齢とともに増加するタウオパチーで,病変は扁桃核周囲から側頭・前頭葉皮質に進展する.病変が高度なら認知症を,軽度〜中等度なら幻覚妄想状態を呈しうる.AGD脳では嗜銀顆粒の進展とともに進行性核上性麻痺(PSP)病変が高頻度に形成される.逆にAGDの合併は皮質基底核変性症(CBD)症例のほぼ全例,PSP症例の一部で認められる.本稿ではAGDの臨床像と病理所見を,病変分布と合併病理の視点から整理した.
キーワード 4リピートタウ,嗜銀顆粒,進行性核上性麻痺,遅発性統合失調症,皮質基底核変性症
 
論文名 ハンチントン病
著者名 池田研二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0059-0066,2016
抄録 ハンチントン病の精神症状を,性格変化,認知症,情動障害に分けて,それぞれにかかわる病理基盤や神経機構を考察した.性格変化には前頭-線条体ループを介した基底核による脱抑制メカニズム,さらに前頭葉から始まる皮質萎縮の関与がある.前頭葉機能障害に似た認知症症状も同様に皮質下性認知症から前頭葉性へ,さらに全大脳性へと進んでいく.情動障害や狭義の精神症状は側坐核を中心とする辺縁系ループと中脳ドーパミン作動系が重要と考えられた.
キーワード ハンチントン病,精神症状,前頭-線条体ループ,側坐核,辺縁系
 
論文名 石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)
著者名 寺田整司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0067-0074,2016
抄録 石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)は,側頭葉・前頭葉に限局性の萎縮を呈し,大脳皮質に多数の神経原線維変化(NFT)が出現するものの,老人斑は欠き,Fahr病様の石灰化を伴う疾患である.頻度はまれであり,これまでの報告例はほとんどわが国からのものである.DNTCは,アミロイド?の沈着を伴わずにアルツハイマー型のNFTが多数出現することから,アルツハイマー病を理解するうえでも重要な疾患である.
キーワード 石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC),認知症,石灰化,神経原線維変化,Fahr病
 
論文名 tangle-predominant dementia(神経原線維変化型老年期認知症)の臨床病理学的特徴
著者名 河上 緒,新井哲明,秋山治彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0075-0080,2016
抄録 tangle-predominant dementia(TPD)は,辺縁系に多数の神経原線維変化が出現し,老人斑をほとんど伴わない認知症疾患である.緩徐進行性の記憶障害が主体で,言語理解や意思疎通はよいという臨床的特徴が知られているが,精神科入院例において妄想や行動障害で初発する例が複数存在し,遅発性精神病性障害と診断される症例の一部がTPDの病理学的基盤をもつ可能性が示唆される.近年,筆者らはTPDの側坐核におけるタウの異常蓄積の存在を報告しており,海馬領域の病変に加えて,妄想等の精神症状出現に同部位の病変が関与している可能性が示唆される.
キーワード 神経原線維変化型認知症,精神症状,妄想,側坐核,タウ
 
論文名 アルツハイマー病患者におけるMini-Mental State Examination(MMSE)のSerial 7’s課題に影響を与える要因
著者名 片桐 梢・佐藤卓也・佐藤 厚・工藤由理・今村 徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0083-0091,2016
抄録 【背景】アルツハイマー病(AD)患者におけるMini-Mental State Examination(MMSE)のSerial 7’s課題には,注意障害と数概念操作の障害という2つの要因が影響すると報告されている.【目的】Serial 7’s課題に音声呈示,文字呈示,筆算呈示の補助課題を追加し,個別の患者の誤答の要因を検討する.【対象】数唱,MMSE日本語版,Alzheimer’s Disease Assessment Scale(ADAS)日本版を施行したAD 298症例.【方法】患者がSerial 7’s課題のいずれかの段階で誤答した場合,補助課題としてその段階の計算式を音声,文字,筆算式で順次呈示し,正答した呈示法を記録した.患者をMMSEのSerial 7’sの得点で層別化して補助課題の結果を比較した.【結果】Serial 7’sが4点または3点の患者の多くは音声呈示で正答した.2点の患者は大多数の患者が音声呈示,文字呈示のいずれかで正答した.1点の患者では文字正答群,筆算正答群,筆算誤答群にそれぞれある程度の患者が存在し,この3群の比較では,筆算誤答群の逆唱の成績が他の2群の成績より有意に低かった.一方,Serial 7’sが0点の患者は,過半数が筆算呈示でも正答することができなかった.【考察】Serial 7’s得点4点群と3点群では,音声呈示によって分配性注意の障害が代償され,補助課題に正答することができたと考えられる.Serial 7’s得点2点群では,分配性注意の障害が4点群,3点群よりも重度であるために,その代償に文字呈示を要する患者がある程度含まれていたのかもしれない.Serial 7’s得点1点群では,数の概念とその操作は比較的保たれているが,分配性注意の障害の程度に幅があり,そのために補助課題の結果が患者によって異なるのではないかと考えられる.Serial 7’s得点0点群では,数の概念とその操作の障害のために,100-7の暗算も筆算もできない患者が多くを占めていたと考えられる.
キーワード アルツハイマー病,計算障害,注意障害,MMSE,Serial 7’s
 
論文名 中高年期・高齢期を対象とした夫婦関係における効力感と主観的幸福感との関連
著者名 荒井弘和・中原 純・塩崎麻里子・藤田綾子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,27(1):0092-0096,2016
抄録 本研究の目的は,地域在住の中高年期または高齢期の者を対象として,@年代と性による夫婦関係における効力感の違いを確認すること,A夫婦関係における3つの効力感同士の関連を検討すること,および,B夫婦関係における3つの効力感と主観的幸福感との関連を検討することとした.郵送法によって配布された質問紙は,配偶者への支援に関するセルフ・エフィカシー,配偶者による支援に関するアザー・エフィカシー,配偶者との互助支援に関するリレーショナル・エフィカシー,主観的幸福感などから構成されていた.1,646人(回収率41.1%)から返信が得られ,1,206人を対象として分析を行った結果,@性別によって,3つの効力感の得点が異なること,Aセルフ・エフィカシー,アザー・エフィカシー,およびリレーショナル・エフィカシーが関連していること,B3つの効力感は,主観的幸福感と関連していることが明らかとなった.
キーワード セルフ・エフィカシー,アザー・エフィカシー,リレーショナル・エフィカシー