論文名 | 病気と出会うときに |
著者名 | 水谷佳子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):0961-0966,2015 |
抄録 | 認知症がある人16人に,最初に医療機関にかかるまでのこと,告知のありよう,診断後の体験と出会った支援について話を聞いた.13人は「告知を受けて,結果的によかった」と答えた.「告知を受けてよかった」と話した多くの人は,「診断を受けたころよりも今のほうが,暮らしのありようは,よくなった」と言う.そう言える「今」に至る道のりの一部をたどってみた. |
キーワード | 認知症,告知,支援,希望 |
論文名 | 本人が不安を受容し自己効力感を高めるために |
著者名 | 松本一生 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):0967-0972,2015 |
抄録 | 認知症の人が増え続ける今日,診療をはじめとする現場で特別な方法を用いることなく日々の支援に必要なポイントを考えた.自らの認知症に病識をもち,不安や恐れをもつ人への支援には傾聴と共感が必要である.その人を支えるためには支援する側が「伴走者」としての覚悟をもちながら,ともに人生を生き抜く視点も必要である.当事者の声を聞きながら多職種が地域住民とともに連携することの大切さを記した. |
キーワード | 病識の有無,傾聴と共感,伴走者,地域−多職種連携 |
論文名 | 認知症本人とともに考える生活障害へのアプローチ |
著者名 | 扇澤史子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):0973-0981,2015 |
抄録 | 日々の生活上のつまずきに,最初に直面し不安を抱くのは認知症高齢者本人であり,生活障害を補う工夫は,本人とともに模索すべきである.本稿では,過去の報告やパイロット調査等から得たさまざまな工夫と,実際の支援例を紹介した.ただし,進行性の生活障害をもつ本人にとって,工夫の効果は徐々に限られ,いずれ家族や他者からの生活支援が必要となる.生活障害へのアプローチとは,本人が認知症をもちながらも希望と尊厳を損なわず,主体的に生きることの支援でもあり,われわれ支援者は本人に手を組んでもよいと感じてもらえるようにかかわる責務がある. |
キーワード | 認知症本人,生活障害,主体性,工夫,心理教育的アプローチ |
論文名 | レビー小体型認知症の人の自己対処 |
著者名 | 本多智子・宮田真由美 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):0982-0987,2015 |
抄録 | レビー小体型認知症(DLB)には多彩な身体および精神症状が出現することが知られている.本稿では,それらの症状への対応について,DLBの人の「自己対処」という観点から述べた.筆者らの,訪問診療に同伴する看護師としての体験をもとに,ある典型的な事例を通じて物語形式で記述した. |
キーワード | レビー小体型認知症,幻覚,レム睡眠行動異常症(RBD),認知機能の変動,パーキンソン症状,自律神経障害,日本認知症ワーキンググループ(JDWG) |
論文名 | 幻覚・妄想を本人の体験として理解すること |
著者名 | 村井俊哉・並木千尋 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):0988-0992,2015 |
抄録 | 老年精神医学において,患者の幻覚・妄想を理解するときにはいくつかのギャップがある.そのうち重要であるのは,Jaspersの言葉を借りれば,「了解Verstehen」的態度と「説明Erklaren」的態度のギャップである.前者は精神病理学的アプローチと,後者は神経生物学的アプローチと言い換えることができる.この2つの態度のギャップを埋めるには,老年精神医学は最良の場といえる. |
キーワード | 老年精神医学のギャップ,老年期の幻覚・妄想,「了解Verstehen」と「説明Erklaren」,主観体験としての精神症状 |
論文名 | 認知症の人にとって意味のある作業をいかに見いだすのか |
著者名 | 井口知也・小林法一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):0993-0998,2015 |
抄録 | 認知症の人の自律性を高め,意思を尊重した生活支援を行うためには,@認知症の人が意思を表明できる人であることを意識し,その人にとって意味のある作業を見いだすこと,A認知症の人の作業の文脈を聞き取り,作業環境を設定すること,B認知症の人が行っていた生活習慣に合わせてタイミングよく作業を提供することが重要である.その実現を果たすために,認知症の重症度に伴って,作業の評価法で明らかになった意味のある作業の信頼性と妥当性が低くなることを念頭におき,短絡的な発想ではなく,どのような作業が認知症の人の自律性を最も高められるのかを粘り強く吟味する姿勢が求められる. |
キーワード | 認知症,生活支援,意味のある作業,作業の文脈,作業の評価法 |
論文名 | 環境支援に認知症高齢者の意向を取り入れる意義と手法 |
著者名 | 古賀誉章 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):0999-1004,2015 |
抄録 | 認知症高齢者の生活は環境によって支援可能であり,筆者らは「施設環境づくり支援プログラム」を通じて実践してきた.そのなかで,「PEAP日本版」を考え方の整理に,「キャプション評価法」を環境の点検に活用している.一方,キャプション評価法は認知症でも適用可能であり,高齢者と施設職員の意見・視点の相異や,高齢者の遠慮と警戒がみられた.そこで,より本音に近い意見を知るために「碁石法」なる手法を開発した.両手法とも中等度の認知症の人まで意見聴取が可能である. |
キーワード | 環境づくり,施設環境づくり支援プログラム,PEAP,キャプション評価法,碁石法 |
論文名 | 治療同意にかかわる意思決定の支援 |
著者名 | 加藤佑佳・成本 迅 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):1005-1009,2015 |
抄録 | 認知症の人の意思をできるかぎり治療選択に反映させるためには,治療同意能力の評価とその低下に応じた支援が必要である.同意能力評価の手法として半構造化面接法のMacArthur Competence Assessment Tool for Treatment(MacCAT-T)を紹介し,能力低下を補う手法や,陥りやすい誤解について述べた.本人が判断できない場合であっても,事前指示や家族からの情報など多方面からの情報を集めて本人の意思を推測し,関係者で共有しながら治療を決定していくことが望ましい. |
キーワード | 医療同意能力,MacCAT-T,意思決定支援,代理判断,事前指示 |
論文名 | 本人の意思を尊重した看取りのために |
著者名 | 人見裕江 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):1010-1017,2015 |
抄録 | 認知症の人の意思を尊重した看取りのために,“看取られ方”に関する意思確認の方法は,認知症の人の個性と好みについてもっと知り,真の自己に働きかけることで,認知症の人自らが意思を語ることができるようにすることである.また,その人が今を生き,スピリチュアルに育まれる方法を見つけることである.さらに,日々の暮らしの見守り支援を通して,そこから本人の意思を感じ取る.本人が言語と非言語をもって語っていることを理解するとともに,家族がともにその意思を感じ取り,家族が納得するかたちで看取ることを支援することが大切である. |
キーワード | 認知症の人,意思の尊重,看取り,自律性,見守り |
論文名 | 高齢者うつの地域診断指標としての社会的サポートの可能性 |
著者名 | 佐々木由理・宮國康弘・谷友香子・長嶺由衣子・辻 大士・斎藤 民・垣本和宏・近藤克則 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):1019-1027,2015 |
抄録 | 高齢者うつの地域診断指標に,社会的サポートがなりうるかを検証した.要介護認定を受けていない65歳以上を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)の29市町村を分析対象とした(配布数193,694,回収率71.1%).目的変数を市町村のうつ(GDS 5点以上)割合,説明変数を社会的サポートの授受割合とした.市町村の高齢者うつ割合は21.5〜36.2%と約15%ポイント(約1.7倍)もの地域差があり,これに社会的サポートの授受割合が関連したことから,社会的サポートが高齢者うつの地域診断指標になりうる可能性が示唆された.また「家族や親戚以外」からのサポートの授受もうつと関連しており,単独世帯の高齢者の増加が見込まれるなか,周囲の人とのかかわりを増やし,サポートの授受ができる関係を促す環境整備が地域での高齢者のうつ予防に必要であると考えられた. |
キーワード | 高齢者,うつ,地域診断,社会的サポート,日本老年学的評価研究 |
論文名 | 高齢累犯受刑者のプロフィールに関する研究 |
著者名 | 川西智也・野村俊明・原 祐子・渡邉 悟・山本麻奈・奥村雄介 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(9):1028-1036,2015 |
抄録 | 近年,刑務所への入退所を繰り返す高齢累犯受刑者の増加が指摘されている.本研究では,男性高齢累犯受刑者の認知機能を含むプロフィールを明らかにするために,A刑務所に入所する65歳以上の男性高齢累犯受刑者99人を対象に調査を行った.その結果,@学歴や知的能力は相対的に低いこと,A窃盗を中心とした軽微な犯罪による受刑が多いこと,B入退所を繰り返す頻回入所者が多いこと,C認知症の可能性を検討する必要がある認知機能の低下を示す者が数多くいることが明らかとなった.この結果から,高齢累犯受刑者のなかには,社会的孤立,低い知的能力,認知機能の低下による自立生活の困難を背景に,微罪を繰り返す者がかなりの割合を占めていることが示唆された.再犯予防のためには,地域生活定着促進事業の活動など,自立の困難な高齢犯罪者に対する更生支援の強化が期待される. |
キーワード | 刑務所,高齢受刑者,累犯,認知機能,認知症 |