2015 Vol.26 No.12
 
 
第26巻第12号(通巻337号)
2015年12月20日 発行
 
 
 
 
老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
アルツハイマー病モデルのその先に
品川俊一郎
特集 認知症と自動車運転をめぐる諸問題
改正道交法と認知症
新井平伊
高齢運転者対策の推進を図るための規定の整備と認知症
菅野貴之
改正道交法と精神科医の責任
古谷和久
認知症における自動車運転能力の総合評価
岡 瑞紀ほか
認知症の人の自動車運転停止をめぐる諸問題
渡邉智之・小長谷陽子
アルツハイマー病患者の症状からみた自動車運転能力
数井裕光・吉山顕次
レビー小体型認知症や前頭側頭葉変性症と自動車運転能力
上村直人ほか
第二種運転免許保有者の高齢化と運転能力
藤田佳男・三村 將
認知症高齢者の外出・移動支援の現況および家族介護者から求められる支援の在り方
水野洋子・荒井由美子
原著論文
コンピュータ化記憶機能検査改訂版(STM-COMET Ver.U)の臨床的有用性の検討(第二報)
田所正典ほか
基礎講座
老年心理学の最前線K高齢者のパーソナリティ
成田健一
文献抄録
稲垣宏樹・新川祐利
第31回日本老年精神医学会一般演題募集要項
学会NEWS
第31回日本老年精神医学会開催のご案内
平成28年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ
学会入会案内
投稿規定
バックナンバーのご案内
編集後記

 
 
論文名 改正道交法と認知症
著者名 新井平伊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1335-1339,2015
抄録 道路交通法の改正は社会的要請に基づく対応と考えられるが,その対策は安全な社会の構築という観点からは評価できても,認知症患者を含む高齢者の生活の質の確保という観点では多くの問題が残り,国家戦略である新オレンジプランに則り省庁横断的な対策が急務であると思われる.
キーワード 運転免許,認知症,高齢者の生活の質,新オレンジプラン
 
論文名 高齢運転者対策の推進を図るための規定の整備と認知症
著者名 菅野貴之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1340-1344,2015
抄録 道路交通法の一部を改正する法律は,2015(平成27)年6月11日,第189回通常国会において成立し,同月17日,平成27年法律第40号として公布された.本稿では,この改正法のうち,高齢運転者対策の推進を図るための規定に係る概要等について,@改正の背景等,A改正の経緯等,B改正法の概要,C臨時認知機能検査の導入,D臨時高齢者講習の導入,E認知症に係る医師の診断を受けることを義務づける者の範囲の拡大の順に,解説を加えた.
キーワード 認知機能検査,高齢者講習,適性検査,認知症,高齢運転者対策
 
論文名 改正道交法と精神科医の責任
著者名 古谷和久
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1345-1350,2015
抄録 今日,高齢者にとっても自動車運転が必要となる場面が多い一方,交通死亡事故中の75歳以上による死亡事故の割合は急増している.改正道交法は,一定の症状を呈する病気等に該当する者の的確な把握を目的に,医師が運転不適格と判断した際の任意の届出制度などを創設したが,そのようななかで,診察に当たる精神科医は,診断書作成や診療などについてどのような責任を負うのか,任意の届出を行った場合または行わなかった場合の責任をどのように考えるのか,について検討した.
キーワード 外来通院患者の他害行為,精神科医の責任,任意の届出,守秘義務,患者との信頼関係
 
論文名 認知症における自動車運転能力の総合評価
著者名 岡 瑞紀,仲秋秀太郎,三村 將
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1351-1358,2015
抄録 日本の道路交通法では,認知症はその重症度にかかわらず一律に運転が禁止されている.安全運転に必要な認知・予測・判断・操作が明らかに障害されていながら運転を中断しない認知症ドライバーの場合,医師による任意届出制度が利用できる.運転適性が実際に問題となる軽度認知障害(MCI)〜軽度認知症では,神経心理学的検査や運転シミュレータとともに,可能な限り実車による評価も行い,複合的に評価していくことが望ましい.
キーワード 高齢ドライバー,任意届出制度,実車評価,運転シミュレータ,神経心理学的検査
 
論文名 認知症の人の自動車運転停止をめぐる諸問題
著者名 渡邉智之,小長谷陽子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1359-1364,2015
抄録 認知症とみられるドライバーの自動車運転停止をめぐる課題は,さまざまな問題が複雑に絡み合っており,対応がむずかしいのが現状である.今後の課題としては,医療機関,行政,警察,地域などの連携・協力のもと,現状を把握して全体を理解し,具体的に個々に合った対応を考えることから始め,危険な運転をするドライバーの運転能力評価や運転中止後のフォロー体制などの確立により,QOLを維持しつつ運転を中止できるような総合的なシステムを構築することが必要となる.
キーワード 高齢者,自動車運転,運転停止,認知症,若年性認知症
 
論文名 アルツハイマー病患者の症状からみた自動車運転能力
著者名 数井裕光,吉山顕次
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1365-1372,2015
抄録 アルツハイマー病患者の自動車運転能力に影響しうる臨床症状を整理した.すなわち,運動機能,手続き記憶が保たれる一方で,視空間認知,作動記憶,エピソード記憶が障害され,病識の低下も認めることが自動車運転能力や事故と関連すると考えられる.また,事故に遭遇したときに必要になる状況の説明などには言語障害,妄想も影響しうるであろう.軽度認知障害(MCI)の段階でも自動車運転能力は低下するが,MCI者への対応の決定にはADに移行する患者であるか否かが重要である.
キーワード アルツハイマー病,自動車運転,記憶障害,視空間認知障害,注意障害
 
論文名 レビー小体型認知症や前頭側頭葉変性症と自動車運転能力
著者名 上村直人,大石りさ,今城由里子,諸隈陽子,藤戸良子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1373-1381,2015
抄録 認知症患者の自動車運転が社会的に問題となっている.これまで,認知症患者における自動車運転行動や運転能力の医学的検討については,対象はアルツハイマー型認知症がほとんどであったが,近年,レビー小体型認知症(DLB)および前頭側頭葉変性症(FTLD)患者の運転も注目されている.しかし,DLB患者の運転行動・能力や運転中断の検討はわが国ではほとんど見当たらない.さらに,FTLD患者の運転能力評価や事故危険性についての検討もわずかである.そこで筆者らは高知大学医学部精神科での症例を用いて,DLBとFTLD患者の自動車運転行動や運転中断について述べた.今後,さらなる検討が求められている.
キーワード driving ability,fitness to drive,dementia with Lewy bodies,frontotemporal dementia,semantic dementia
 
論文名 第二種運転免許保有者の高齢化と運転能力
著者名 藤田佳男,三村 將
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1382-1387,2015
抄録 運転適性に疑問のある高齢第二種運転免許保有者が増加している.加齢に伴い認知機能の低下や運転に支障のある病気をもつ者も多くなるが,その責任の重さに見合った具体策がないのが現状である.本稿では第二種免許の試験基準や必要な資質およびその実態,臨床場面で実施可能な神経心理学的検査と事故との関係を概説し,指導の際に必要な知識について述べた.
キーワード 第二種免許,一定の病気等,高齢者,運転免許試験,リスク認知
 
論文名 認知症高齢者の外出・移動支援の現況および家族介護者から求められる支援の在り方
著者名 水野洋子,荒井由美子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1388-1393,2015
抄録 筆者らは,認知症高齢者の自動車運転免許の取り消し申請,または取り消し等処分後の「社会支援の在り方」について検討を行う必要性を強く認識し,かねてより調査研究を実施している.本稿では,それら調査研究のなかでも,とくに,「全国の市区町村における認知症高齢者に対する外出・移動支援事業の現況」および,「認知症に罹患した要支援者の家族が望む公的支援」に係る主な結果を示す.また,これらの調査研究の結果を踏まえて作成した,「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアルC」についても,その概要を示すことにより,求められる実現可能な社会支援構築の検討に資することを目的とする.
キーワード 認知症高齢者,家族介護者,自動車運転,社会支援,家族介護者支援マニュアル
 
論文名 コンピュータ化記憶機能検査改訂版(STM-COMET Ver.U) の臨床的有用性の検討(第二報)? 
著者名 田所正典・塚原さち子・小島綾子・鈴木 慈・板谷光希子・佐々木央我・橋本知明・山口 登
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,26(12):1395-1403,2015
抄録 聖マリアンナ医科大学式コンピュータ化記憶機能検査(STM-COMET)改訂版を作成し,アルツハイマー型認知症(AD)のスクリーニング検査としての臨床的有用性の検討を行った.検査標準値の作成において,80歳代の下位検査結果は,すべての項目において他の年齢群と有意差が認められ,加齢に伴う機能低下が示唆された.そのため,鑑別のためのカットオフ値は,80歳未満と80歳以上の2段階で設定を試みたのが本検査の特徴である.80歳未満は47/48点をカットオフとすると感度0.95,特異度0.83となり,80歳以上は57/58点をカットオフとすると感度0.95,特異度0.93となり,高い弁別力が示された.改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やthe Rapid Dementia Screening Test(RDST)との併存的妥当性も確認され,HDS-Rのカットオフ値より高得点域での弁別が可能な検査であることも示唆された.今後は,信頼性の検討ならびにAD以外の別疾患との鑑別においても有用かどうかを調査し,さらなる研究解析を進めていきたい.
キーワード アルツハイマー型認知症,コンピュータ化記憶機能検査,記憶障害