論文名 | BPSD出現予測マップの作成 |
著者名 | 数井裕光 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1195-1206,2015 |
抄録 | 一度出現した認知症の行動・心理症状(BPSD)を治療することは困難であるため,BPSDは予防が重要である.わが国の代表的な認知症専門医療機関7施設に,5年間に初診となった認知症患者合計2,447例のNeuropsychiatric Inventory(NPI)データをもとに,認知症の原因疾患別,重症度別に13種類のBPSDの頻度,重症度,介護負担度を整理し,グラフにまとめた.これを「BPSD出現予測マップ」と名づけ,公開する.認知症介護に携わる人たちがこの情報を得ることにより,BPSDの予防が促進すると考えている. |
キーワード | 行動・心理症状(BPSD),予防,原因疾患,重症度,認知症 |
論文名 | 軽度認知障害(MCI)のBPSDとその対応 |
著者名 | 吉山顕次 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1207-1212,2015 |
抄録 | 軽度認知障害(MCI)において,認知症の行動・心理症状(BPSD)がみられ,また介護者の介護負担もみられ,これらは認知機能障害が同程度であるレビー小体型認知症よりも軽度であるが,アルツハイマー病とはそれほど変わりない.そのため,MCI患者のBPSDに対して,認知症でみられるBPSDに対する対応と同様の対応が必要であり,また介護負担に対しても認知症と同様の対応を考慮していく必要がある.しかしながら,MCIは認知症ではないという点から,介護サービスが十分に受けることができない可能性があり,対応を考えていく必要がある. |
キーワード | 軽度認知障害(MCI),BPSD,介護負担,介護サービス |
論文名 | 睡眠障害の視点からみたBPSD予防 |
著者名 | 足立浩祥 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1213-1221,2015 |
抄録 | 認知症において睡眠障害は高頻度に認められ,原因疾患にかかわらず認知症が進行するにしたがってその頻度も高まる傾向がある.また,睡眠障害の存在は他の認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)の危険因子と考えられている.しかし,病期における睡眠障害の有症率は原因疾患により相違がみられ,DLBではごく初期の段階からその頻度が高い.また,同様にADでは有症率はDLBよりもごく初期では低いものの,他のBPSD症状との関連性は病初期が最も高く,病期の進行とともにその傾向が弱くなることが示されている.これらの知見は,ADやDLBにおいて認知症病期のごく初期に睡眠障害へ介入することが,他のBPSDの出現・増悪を抑制しうる可能性を示唆しており,睡眠障害の視点からみたBPSD予防が必要と考えられる. |
キーワード | 睡眠障害,認知症,BPSD,認知症病期,早期介入 |
論文名 | アルツハイマー病のBPSDとその対応 |
著者名 | 田中 響,橋本 衛,池田 学 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1222-1228,2015 |
抄録 | 認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)は,患者のQOLを低下させ介護者の負担を増大させる一方で,適切な対応により改善が期待できる症状である.記憶障害や見当識障害などの中核症状を基礎に,ストレスや疎外感といった心理因子,さらにそれに影響する環境因子などが加わった結果が,BPSDとして表出されると考えられている.BPSDの治療は,患者の心理機序に沿ったケアや環境調整などの非薬物療法を優先し,薬物療法は効果が期待される症状にのみ行うことが推奨される.本稿では,アルツハイマー病におけるBPSDの特徴,その発現機序および対応法について概説した. |
キーワード | アルツハイマー病,BPSD,治療,非定型抗精神病薬 |
論文名 | レビー小体型認知症のBPSDとその対応 |
著者名 | 渡部宏幸,西尾慶之,森 悦朗 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1229-1233,2015 |
抄録 | 行動・心理症状(BPSD)の症候診断は,レビー小体型認知症(DLB)の診療においてきわめて重要な位置を占めている.DLBの診断には幻視や妄想性誤認などの特異性の高いBPSDを検出することが必須であり,またBPSDの的確な把握がケアプランを作成するうえでの土台となる.本稿では,幻視と妄想性誤認を中心にDLBのBPSDの病態,評価法,治療について解説した. |
キーワード | レビー小体型認知症,幻視,妄想,誤認,パレイドリア・テスト |
論文名 | 前頭側頭型認知症のBPSDとその対応 |
著者名 | 小森憲治郎,原 祥治,柴 珠実,園部直美,豊田泰孝,森 崇明,谷向 知 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1234-1245,2015 |
抄録 | 前頭側頭型認知症(FTD)の一臨床亜型として認知される意味性認知症(SD)では,語義失語や相貌失認などの特徴的な意味記憶障害が注目され,初期にはピック病特有の衝動的で脱抑制的な人格解体は生じないことから,進行とともに明らかとなる「わが道を行く(Going My Way)」行動とその対応にはあまり関心がはらわれていない.しかし病初期にも明らかな人格変容を感じさせる行動特徴があり,この人格変容からしだいに強まる固執的な常同行動を早期の「わが道を行く」行動のサインとしてとらえ,対応を考える必要がある.SDに対する非薬物的な対応としては,比較的保たれた認知機能や特有の行動・心理症状(BPSD)を利用したリハビリテーションや行動変容プログラムが有効な場合がある.集団における振る舞いで問題を生じやすいSD例の進行期のケアに関しては,なじみの関係を基盤に患者を安定した状態へと導く介入が求められる.意味記憶障害を背景にコミュニケーション障害,BPSD,生活機能障害へと展開するSDの進行過程を見据え,初期の段階から進行期のケアに備えた習慣づくりと環境整備に努めることが肝要である. |
キーワード | 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia),意味性認知症(semantic dementia),語義失語(gogi(word meaning)-aphasia),わが道を行く行動(Going My Way behavior),生活機能障害(disable symptoms) |
論文名 | 血管性認知症のBPSDの特徴とアパシーへの対応 |
著者名 | 樫林哲雄,数井裕光 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1246-1252,2015 |
抄録 | 血管性認知障害の経過で出現する認知症の行動・心理症状(BPSD)について,また,血管性認知症(VaD)のうち,多発梗塞性認知症,小血管性認知症,strategic single-infarct dementiaにおいて出現するBPSDの特徴を概観した.そして,VaDで共通して出現し,対応と治療を行ううえで重要なBPSDであるアパシーを取り上げて,それに対する非薬物療法と薬物療法について解説した. |
キーワード | 血管性認知症,血管性認知障害,BPSD,アパシー,非薬物療法 |
論文名 | 患者の立場に立ったBPSD対応法 |
著者名 | 遠藤英俊,佐竹昭介,平野 優 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1253-1257,2015 |
抄録 | 患者の立場に立ったBPSD対応法については,患者の脳障害の程度・部位に左右されることはいうまでもないが,本人の行動の原因を推定することが重要となる.そのためにはBPSDをもつ患者の訴えを傾聴し,対話することが重要である.そのためには心理的アプローチやスピリチュアルケアが重要な方法となる. |
キーワード | BPSD,対応法,家族,傾聴,スピリチュアルケア |
論文名 | 認知症鑑別診断促進のためのスクリーニング検査 |
著者名 | 松山賢一,山本泰司 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1258-1264,2015 |
抄録 | 認知症の行動・心理症状(BPSD)への対処を考えるうえで,認知症の早期診断,とくに原因疾患の鑑別は重要なポイントである.早期診断のために,現在多くのスクリーニング検査が開発され,臨床現場で使われている.スクリーニング検査は早期診断に有用なツールであるが,使用するにあたってその特徴を理解し,その限界や問題点を認識しておくことが重要である.筆者らは,原因疾患の鑑別に重点をおいた「もの忘れ問診票」を開発し,その有用性を検討中である. |
キーワード | BPSD,スクリーニング検査,鑑別診断,もの忘れ問診票 |
論文名 | Frontal Assessment Battery(FAB)の類似性課題における適切な項目と施行順序の検討 |
著者名 | 上田菜緒・堀 優美・金澤咲希・加藤 梓・佐藤卓也・今村 徹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1267-1273,2015 |
抄録 | 先行研究は,Frontal Assessment Battery(FAB)日本語版の類似性課題をアルツハイマー病(AD)患者に施行し,項目のうち「机と椅子」の正答率が3.4%と非常に低いこと,および追加項目「机とタンス」の正答率も8.1%と明らかに低いことを示した.しかし,この研究では「机と椅子」での誤答の直後に「机とタンス」を施行したため,「机と椅子」で生じた何らかの要因が「机とタンス」への正反応を妨害した可能性がある.【目的】AD患者のFABの類似性課題において,項目と施行順序を変更して先行研究と比較し,適切な項目と施行順序を検討する.【対象】「机と椅子」 への誤答直後に「机とタンス」を追加施行した99症例(「机と椅子」先行群)と,「机と椅子」を施行せずに「机とタンス」を施行した42症例(単独施行群).【方法】両群の「バナナとオレンジ」「机とタンス」「チューリップとバラと桜」の正答率を比較した.【結果】「机とタンス」で群間差が有意であった(「机と椅子」先行群8.1%,単独施行群26.2%,χ2=8.3,p< .01).他の2項目の正答率は両群とも50%前後で有意差はなかった.【結論】「机と椅子」先行群では,「机と椅子」という単語対が誘発した情景の連想や特定の特性に注目する構えの保続が影響するため,「机とタンス」の正答率は本来の概念形成機能を反映していないと考えられる.単独施行群では26%が「机とタンス」に正答できており,他の2項目よりもやや難易度が高いが床効果は回避できる項目として,AD患者に施行するFABにおいて適切であると考えられた. |
キーワード | Frontal Assessment Battery(FAB),類似性課題,概念操作,遂行機能障害 |
論文名 | 子どもの家庭内暴力の被害者となった高齢者の1例 |
著者名 | 石川博康・竹島正浩・清水徹男 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,26(11):1274-1278,2015 |
抄録 | 高齢者虐待防止法は養護者等による虐待を想定しているため,非養護者である子どもが加害者の場合には同法の適用が困難となる.同法の対象から外れる高齢者への家庭内暴力の存在は,従来,国内の論文で指摘されてこなかった.筆者らは13歳男児の家庭内暴力による切創で入院となった認知症高齢者の症例を経験した.患者の養護者は,家庭内暴力の事実を隠そうとするなど,患者に対して責任感を欠く態度であった.しかし,本症例には高齢者虐待防止法の適用が困難であった.このような地域連携方法は,医療者が子どもによる家庭内暴力の被害者を公的な権利擁護活動の管理影響下へと導く重要な手段のひとつに位置づけられる. |
キーワード | 高齢者虐待,家庭内暴力,患者の権利擁護,虞犯少年,医法学的症例 |