2014 Vol.25 No.10
 
 
第25巻第10号(通巻321号)
2014年10月20日 発行
 
 
 
 
老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
一歩前へ
真田順子
特集: 初老期・老年期の妄想;症状の理解と治療
人生後半期の嫉妬妄想
古城慶子
接触欠損パラノイド
野原 博ほか
微小妄想とコタール症候群
田中久美子・針間博彦
遅発パラフレニーにおける妄想とそれへの対処についての一示唆
―― 妄想が展開する場所の限局性と住所地からの引き離し
中安信夫
皮膚寄生虫妄想
船山道隆
妄想性同定錯誤症候群
久松徹也・濱田秀伯
高齢化した統合失調症の妄想
新村秀人
レビー小体型認知症の幻覚・妄想
小阪憲司
原著論文
レビー小体型認知症の人の生活のしづらさに関する調査票 (the Subjective Difculty Inventory in the daily living of people with DLB ; SDI-DLB)の開発と信頼性, 妥当性および有用性の検討
河野禎之ほか
症例報告
高齢男性に発症した抗NMDA 受容体脳炎の症例
許 全利ほか
連  載
老年期の精神医療における多職種協働の実践例報告F
低活動型せん妄を発症した認知症高齢者とがん終末期の妻への在宅支援
―― 地域の力を結集し,思いを一つにする多職種連携
柴田明日香ほか
文献抄録
厚東知成・岡村麻梨佳
書  評
品川俊一郎「治さなくてよい認知症」
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編集後記

 
 
論文名 人生後半期の嫉妬妄想
著者名 古城慶子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1083-1090,2014
抄録 嫉妬の精神病理を老年精神医学の特殊問題への寄与という観点から取り上げた.性欲と性的関心との性格学的区別から,人生後半期の嫉妬成立には身体起因性疾患群とうつ病相群では性欲低下と性的関心の増大から自意識を復旧しようとするひがみ的嫉妬を,急性統合失調症群を含む躁病相群では性欲および性的関心の亢進と自意識昂揚によるうぬぼれ的嫉妬を指摘できた.エロス(捨我)的な献身の愛だけでは嫉妬は生じず,同時に渇望つまりセックス的な所有欲(執我)の混合が嫉妬の必要条件であることを確認した.
キーワード delusion of jealousy,elderly,delusion of infidelity,conjugal paranoia,Othello syndrome
 
論文名 接触欠損パラノイド
著者名 野原 博,前田貴記,鹿島晴雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1091-1098,2014
抄録 接触欠損パラノイド(Kontaktmangelparanoid)は,1973年にJanzarikによって提唱され,60歳以降に初発し,慢性統合失調症の症状を示す妄想性精神病である.接触欠損パラノイドは,社会的に孤立した状況で発症し,住宅境界に関連した妄想主題,女性に多くみられること等を主な特徴とする.その病名にも記されているように,人的交流が乏しいことが病因とされている.治療にあたっては,薬物療法のみならず,患者のおかれた環境にも配慮して適度な人的交流を図る等の環境調整に留意すべきである.
キーワード 社会的孤立,高齢統合失調症,住宅境界,構造力動論
 
論文名 微小妄想とコタール症候群
著者名 田中久美子,針間博彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1099-1104,2014
抄録 微小妄想は必ずしもうつ病性のものとは限らないため,全体像を踏まえた一次妄想と二次妄想の鑑別が診断上重要である.退行期うつ病と診断しうる場合であっても,妄想が一次性に生じていれば,妄想性障害の可能性も考慮すべきである.心気妄想の特殊形態である否定妄想を中心としたコタール症候群も,退行期うつ病のなかで生じていると考えられる場合は,同様の診断的問題を伴う.治療上は,気分障害と妄想性障害の両方の可能性を残しつつ,自殺のおそれや拒食に対する速やかな対応が必要である.
キーワード delusions of unworthiness,hypochondriac delusions,involutional melancholia,delusion of negation(nihilistic delusion),Cotard’s syndrome
 
論文名 遅発パラフレニーにおける妄想とそれへの対処についての一示唆
著者名 中安信夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1105-1113,2014
抄録 統合失調症(妄想型)との鑑別診断という観点から遅発パラフレニーの妄想を検討し,遅発パラフレニーにおいては妄想が展開する場所は限局性(住所地限局的)であって,その点で広範性(生活圏広範的)である統合失調症(妄想型)と対比をなしているという結論を得た.この結論からは,住所地からの引き離しが遅発パラフレニーの妄想への対処法として浮かび上がってきたが,これまでの遅発パラフレニーの本邦報告例の検討を通してその有効性が確認された.
キーワード late paraphrenia,late-onset schizophrenia,paranoid schizophrenia,delusion
 
論文名 皮膚寄生虫妄想
著者名 船山道隆
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1114-1118,2014
抄録 皮膚寄生虫妄想は,初老期にまれに出現し,女性に多く,患者はかゆみや感覚異常を訴え,虫によってもたらされたと頑なに信じている妄想である.発症は緩徐で著しい人格変化を呈さない.皮膚寄生虫妄想は他の精神症状を伴わない純粋型だけではなく,統合失調症や遅発パラフレニーなどでも出現し,体感異常型統合失調症との類似点も示唆される.抗精神病薬がしばしば症状の軽減をもたらす.
キーワード 皮膚寄生虫妄想,Ekbom syndrome,体感異常
 
論文名 妄想性同定錯誤症候群
著者名 久松徹也,濱田秀伯
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1119-1125,2014
抄録 妄想性同定錯誤症候群(delusional misidentification syndrome)を構成する,カプグラ症候群(Capgras syndrome),フレゴリの錯覚(Fregoli syndrome),相互変身症候群(intermetamorphosis),自己分身症候群(syndrome of subjective doubles)の4症候群について,現在までの研究をまとめ,それぞれの特徴と分類,相互の関係性,成立機序の観点から概説した.さらに統合失調症急性増悪期にみられたカプグラ症候群の自
キーワード 妄想性同定錯誤症候群,カプグラ症候群,フレゴリの錯覚,相互変身症候群,自己分身症 候群
 
論文名 高齢化した統合失調症の妄想
著者名 新村秀人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1126-1130,2014
抄録 高齢化した統合失調症の妄想を論じた.長期経過研究により,統合失調症では経過とともに精神病症状が軽減し晩期寛解に至ることがわかった.統合失調症の妄想は,若年時は被害妄想が多いが,老年期になると深刻さが減じて内面的・願望充足的となって被害妄想は誇大妄想に変化し,心気妄想や権利侵害的な妄想など生活に即したテーマが増える.治療では,加齢による身体機能の変化を考慮して抗精神病薬は少量で用いるべきであり,精神療法は現実検討を支える姿勢が有用と思われる.
キーワード 統合失調症,高齢,老い,妄想,治療
 
論文名 レビー小体型認知症の幻覚・妄想
著者名 小阪憲司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1131-1137,2014
抄録 レビー小体型認知症はBPSDが早期から最も起こりやすい認知症である.とくに特有な幻視とそれに基づく妄想や抑うつが起こりやすく,初期に診断することはその後の治療方針に大きな影響を与えるので非常に重要である.とくに,レビー小体型認知症の幻覚と妄想は,精神科医には誤診されていることが多く,抗精神病薬への過敏性を十分理解していないと予後に悪影響を与えることから,使用する薬剤などにも注意するべきである.
キーワード レビー小体型認知症,視覚認知機能障害,幻視,妄想,治療
 
論文名 レビー小体型認知症の人の生活のしづらさに関する調査票(the Subjective Difficulty Inventory in the daily living of people with DLB ; SDI-DLB)の開発と信頼性,妥当性および有用性の検討
著者名 河野禎之・永田真吾・安田朝子・木之下徹・神戸泰紀・川瀬康裕・森田昌宏・奥村 歩・長光 勉・水上勝義・織茂智之・朝田 隆・小阪憲司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1139-1152,2014
抄録 レビー小体型認知症の人の生活のしづらさに関する調査票(SDI-DLB)を実際の症例に基づいて開発し,信頼性と妥当性,有用性を検証した.対象:DLB群27人,DAT群15人,統制群16人.第一研究:認知症の人が体験した生活のしづらさに関するエピソードを集め,複数の専門家によるConsensus methodを用いてSDI-DLBを作成した.第二研究:SDI-DLBを用いた調査を行い,各項目の通過率の分析後,再検査信頼性と内的整合性,認知症疾患との基準関連妥当性および他評価項目との収束的妥当性,ROC曲線によ
キーワード 生活のしづらさ,SDI-DLB,認知症,レビー小体型認知症,DLBスクリーニング
 
論文名 高齢男性に発症した抗NMDA受容体脳炎の症例
著者名 許 全利・西田圭一郎・三井 浩・北浦祐一・嶽北佳輝・加藤正樹・高瀬勝教・高橋幸利・木下利彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1153-1159,2014
抄録 抗NMDA受容体脳炎は若年女性に好発し,意識障害,痙攣,自律神経症状,不随意運動などの多彩な症状を呈する自己免疫性辺縁系脳炎である.幻覚や妄想などの精神症状も出現することがあるため,約3/4に精神科受診歴があると報告されている.症例は69歳の男性.亜急性の認知機能低下後に意識障害を呈したため,当院精神科病棟に入院した.意識障害や不随意運動などの臨床経過に加えて,髄液抗NMDA受容体抗体が陽性という結果から,抗NMDA受容体脳炎と診断した.ステロイドパルス療法が著効し,意識障害,認知機能低下ともに軽快した.
キーワード 抗NMDA受容体脳炎,抗NMDA受容体抗体,辺縁系脳炎,器質性精神病,高齢