論文名 | 精神科における「うつ」の診断 |
著者名 | 野田隆政,樋口輝彦 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0011-0017,2014 |
抄録 | 10年で約3倍に増えたうつ病であるが,多様な病像を呈するためその概念を理解することがむずかしい.そこで,うつ病をめぐる歴史を振り返った.うつ病は主に単極性と双極性および,内因性と神経症性といった議論が交わされて概念の整理がなされてきた.その後1980年にDSM-Vが公開され,現在のDSM-5に至るまで操作的診断基準が精神医学に普及してきた.DSMなどの診断概念を実臨床にどのように活かしていくか,課題は多いが,同時に期待も大きい. |
キーワード | 大うつ病性障害,うつ,双極性障害,DSM,近赤外線光トポグラフィー(NIRS) |
論文名 | 高齢者の「うつ」,アパシー,アンヘドニア |
著者名 | 加田博秀 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0018-0024,2014 |
抄録 | アパシーは意欲の障害や情動の低下を意味し,アンヘドニアは快楽を感受できないという症状である.いずれもうつ病,統合失調症などの精神疾患と認知症,脳血管障害の脳神経疾患で症状が現れる.高齢者では精神疾患と認知症・脳卒中などの脳疾患が合併した際に出現することがあり,疾患の鑑別や対応に十分な検討が必要となる.本稿では,各疾患別に症例を呈示しながら,注意点と対応を検討した. |
キーワード | apathy,anhedonia,depression,dementia,cerebral vascular disorder |
論文名 | 脳血管障害と「うつ」 |
著者名 | 木村真人 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0025-0033,2014 |
抄録 | 脳血管障害とうつは密接に関連しており,脳卒中後うつ病を含めた血管性うつ病の概念が提唱されている.脳卒中急性期は,左前頭葉や左基底核病変に関連した生物学的要因の強いうつ病発症が多い.血管性うつ病は皮質-線条体-淡蒼球-視床-皮質回路の障害と関連している.脳卒中後うつ病に罹患するとADLの回復遅延,認知機能の悪化,死亡率の増加が示されているが,抗うつ薬治療によりそれらが改善するため適切な診断と治療が肝要である. |
キーワード | cerebrovascular disease,post-stroke depression,vascular depression,antidepressant treatment |
論文名 | アルツハイマー型認知症と「うつ」 |
著者名 | 服部英幸 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0034-0041,2014 |
抄録 | うつ病と認知症は高齢者において高頻度にみられる疾患である.アルツハイマー型認知症(AD)においては,血管病変や脳内アミロイドタンパク沈着など,共通の病態基盤をもつ可能性があることが示されつつある.ADにおいてうつ状態を呈する心理機序について,中核症状である記憶障害,失見当識などから環境不適応感が生じていることが重要であると考えられる.高齢者のうつ状態には身体疾患罹患や生活機能低下が密接に関連することから,治療においては精神症状の改善とともに生活機能維持の観点を重視する必要がある.最近注目されている虚弱高齢者は,高頻度にみられる状態であり,随伴する精神症状としてのうつに配慮することが求められる. |
キーワード | うつ,認知症,アルツハイマー型認知症,アパシー,虚弱高齢者 |
論文名 | パーキンソン病と「うつ」 |
著者名 | 永山 寛 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0042-0046,2014 |
抄録 | パーキンソン病(PD)にうつは40〜50%の頻度で認められる.これは喜びの減退が主体でアンヘドニア/アパシーに該当し,高度な不安,自殺念慮,幻覚・妄想は少なく,日内変動も少ないとされ,PDのうつは病態を反映していると考えられる.ただしこれらの徴候を表すのに「うつ」という言葉が適切か否か,また既存の診断基準では不十分な面もあり,重要な課題と思われる.本稿では機序・治療まで包括的に述べる. |
キーワード | パーキンソン病,うつ,アンヘドニア,アパシー |
論文名 | レビー小体型認知症と「うつ」 |
著者名 | 北沢麻衣子,井関栄三 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0047-0052,2014 |
抄録 | レビー小体型認知症(DLB)は抑うつをしばしば伴い,老年期うつ病でみられる他の精神症状や身体症状を伴うことも多く,記憶障害が軽度の病初期には老年期うつ病との鑑別がむずかしいことがある.また,DLBに伴う抑うつはアルツハイマー型認知症(AD)に伴う抑うつとの共通点も多く,抑うつのみでは見分けがつかないことがある.そのため,DLBで認知機能障害がみられる以前ないし軽度の段階で現れる前駆症状や初期症状を見逃さず,DLBの可能性が疑われたら,特徴的な所見を示す神経心理検査や画像検査を行う必要がある. |
キーワード | レビー小体型認知症,アルツハイマー型認知症,老年期うつ病,抑うつ,抗うつ薬,コリンエステラーゼ阻害薬 |
論文名 | 進行性核上性麻痺および大脳皮質基底核変性症と「うつ」 |
著者名 | 森松光紀 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0053-0058,2014 |
抄録 | 進行性核上性麻痺(PSP)と大脳皮質基底核変性症(CBD)の患者における「うつ」は,わが国では注目されていない.しかし,欧米の統計ではPSP患者の18%,CBD患者の70%がうつを示したという.一般にCBD患者のほうがうつを伴いやすいとされる.PSP・CBD患者において,うつのため自死という報告はないが,QOLを低下させることは明らかである.今後は両疾患のうつに対して注意する必要がある. |
キーワード | 進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,進行性核上性麻痺症候群,大脳皮質基底核症候群,うつ |
論文名 | 高齢発症アルツハイマー病患者における発症年齢,アポリポタンパクEと臨床症状との関係 ── 前期高齢発症群と後期高齢発症群の比較 |
著者名 | 櫻澤尭宏,加藤 梓,佐藤卓也,今村 徹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0061-0069,2014 |
抄録 | 【目的】高齢発症アルツハイマー病(AD)における発症年齢と臨床像との関係,およびApoE4の有無と臨床像との関係を比較検討する.【対象】新潟リハビリテーション病院神経内科外来を初診し,ADと診断され,発症年齢が65歳以上85歳未満で,ApoE表現型の測定を行った135症例.【方法】全例に数唱,MMSE,ADAS,FABを施行し,ADASの単語再認課題では虚再認の合計個数も記録した.信頼できる情報提供者となる同居家族から情報を得ることができた100症例にはNPIを施行し,神経精神症状を評価した.前期高齢発症(65〜74歳)と後期高齢発症(75〜84歳),およびApoE4の有無をもとに設けた計4の患者群の患者属性,疾患属性,認知機能属性,神経精神症状を二元配置分散分析で比較検討した.【結果】前期高齢発症患者は逆唱の成績が低く,再認の減点が少なく,虚再認合計個数が多かった.ApoE4を有する群でNPIの妄想のスコアが高く,うつのスコアは低かった.発症年齢とApoE4の要因で有意な交互作用のみられた項目はなかった.【結論】逆唱の達成桁数が前期高齢発症群で有意に低かったことから,前期高齢発症ADでは後期高齢発症ADよりも分配性注意の障害が強いことが示唆される.前期高齢発症群では再認課題の成績が有意によく,虚再認合計個数が有意に多かったことから,前期高齢発症ADが後期高齢発症ADよりも高頻度語への一般的な既知感により影響されやすい可能性がある.発症年齢にかかわらずApoE4を有する群で妄想のスコアが有意に高かったという本研究の結果は,ApoE4を有する患者は有さない患者より妄想のリスクが高くなるという先行研究と一致するとともに,高齢発症ADでは,ApoE4と妄想との関係が前期高齢発症か後期高齢発症かに影響されないことを示唆している. |
キーワード | アルツハイマー病,前期高齢発症,後期高齢発症,アポリポタンパクE(ApoE) |
論文名 | ドネペジル治療で効果不十分であったアルツハイマー型認知症に対するガランタミン臭化水素酸塩の有効性および安全性の検討 ── 製造販売後臨床試験の成績 |
著者名 | 橋長秀,橋昌義,朱 年亮,伊豆本 透,齋藤隆行 |
雑誌名 巻/号/頁/年 | 老年精神医学雑誌,25(1):0070-0086,2014 |
抄録 | ガランタミンは臨床現場で有効性の問題によりドネペジルからの切り替えとして使用することが想定される.本試験はドネペジル治療で効果不十分であった軽度〜中等度のアルツハイマー型認知症(AD)患者に対しガランタミン8 mg/日から投与開始し16〜24 mg/日の24週間投与時の有効性と安全性を検討した.主要評価項目はADAS-J cogとした.登録例102例全例に本剤が投与され,87例(85.3%)が試験を完了した.最終評価時におけるADAS-J cogのベースラインからの平均変化量は-2.05(95% Cl:-2.95〜?-1.15)で,改善が示された.ADAS-J cogの改善は4週後より認められ,24週後まで維持された.最終評価時のADAS-J cogレスポンダー(ベースラインから0ポイント以上改善した被験者)の割合は70%であった.高頻度に発現した有害事象は鼻咽頭炎14.7%,悪心5.9%,下痢5.9%で,ガランタミンの忍容性は良好であった.よって,ドネペジル治療で効果不十分な軽度〜中等度のAD患者をガランタミンに切り替えた場合,ADAS-J cog評価による認知機能の改善に有効であり,安全性にも問題はなかった. |
キーワード | アルツハイマー型認知症,ガランタミン,ドネペジル,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬,薬剤の切り替え |