2013 Vol.24 No.8
 
 
第24巻第8号(通巻305号)
2013年8月20日 発行
 
 
 
 
 
巻 頭 言
生理的もの忘れと病的もの忘れ
池田研二
特集 : 認知症者に向精神薬をどのように使うのか
認知症高齢者の薬物療法── 課題と対応
石井伸弥・秋下雅弘 
認知症における抗精神病薬の使い方
千葉 茂
認知症高齢者に抗不安薬は有効か
深津 亮・原 祐子・大村裕紀子
認知症高齢者に睡眠薬をどのように用いるか
工藤 喬
認知症高齢者にいかに抗うつ薬を用いるべきか
楯林義孝 
認知症に対する漢方薬治療
長濱道治・河野公範・古屋智英・堀口 淳
アルツハイマー病治療薬の最近の話題
羽生春夫
原著論文 
生活機能評価“基本チェックリスト”はワーキングメモリを反映するか
國見充展・木山幸子・中井敏晴
症例報告
幻覚を伴った激しいせん妄が環境変化により著減し,脳病理所見が軽度であった百寿者のVaDとADの混合型認知症の一例
仲 紘嗣・伊古田俊夫・田村 修・佐々木豊
基礎講座 
老年精神医学とBrain Imaging G 血管性認知症の画像診断
前田哲也・長田 乾
文献抄録
市川幸子・松田 修
学会NEWS
日本老年精神医学会「生涯教育講座」開催のお知らせ
平成26年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ
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編集後記

 
 
論文名 認知症高齢者の薬物療法── 課題と対応 ──
著者名 石井伸弥,秋下雅弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(8):749-755,2013
抄録 高齢者では複数の慢性疾患に対して多剤を併用していることが多く,薬物動態や薬物反応性の加齢に伴う変化を背景として予期せぬ薬剤相互作用や有害事象が起こりやすい.とくに認知症患者においては,認知症や周辺症状に対して用いられる薬剤で有害事象を引き起こしやすいものがあること,服薬管理能力が低下していることから,薬剤のみならず服薬管理にも注意が必要である.本稿では,認知症高齢患者に対して安全に薬物療法を行うために理解しておくべき知識について解説した.
キーワード 薬物有害事象,多剤,慎重投与薬,服薬アドヒアランス,認知症,老年症候群
 
論文名 認知症における抗精神病薬の使い方
著者名 千葉 茂
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(8):756-762,2013
抄録 認知症の精神症状は,中核症状(記憶障害)と行動・心理症状(BPSD)に大別される.BPSDに対する治療の原則は,まず原因の除去や環境調整などの非薬物療法を行うことが重要であり,向精神薬による薬物療法は次のステップである.抗精神病薬の薬剤選択に際しては,BPSDの各症状に対する薬物選択の推奨グレード(日本神経学会,2012)を参考にしながら,個々の患者にとって最適な薬物調整を考えるべきである.
キーワード 認知症,せん妄,BPSD,抗精神病薬,高齢者
 
論文名 認知症高齢者に抗不安薬は有効か
著者名 深津 亮,原 祐子,大村裕紀子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(8):763-771,2013
抄録 抗不安薬(anxiolytic)であるベンゾジアゼピン(BDZ)系薬物の薬理作用,有害作用について概観し,認知症高齢者に対して有効か否かに関して若干の論述を行った.BDZは1960年にクロルジアゼポキシド(chlordiazepoxide)が登場して以来,有効性,安全性に優れた有用な薬物として世界を席巻した.しかし,BDZ系の薬物には奇異反応,記憶障害ないしは健忘,過鎮静,常用量依存,乱用などの看過できない有害事象が存在することが明らかにされてきた.BDZが認知症を発症させうるか否かについては,議論が分かれているが,認知症を増悪させるとする報告は少なくない.「認知症高齢者に抗不安薬は有効か」については,BDZ系薬物の認知症高齢者への処方は限定的なものにとどまると考えられる.米国精神医学会治療ガイドラインやわが国の認知症疾患治療ガイドラインは端的にこのような状況を物語っていると思われる.
キーワード ベンゾジアゼピン,有害作用,転倒・骨折,健忘,常用量依存,認知症高齢者
 
論文名 認知症高齢者に睡眠薬をどのように用いるか
著者名 工藤 喬
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(8):772-777,2013
抄録 認知症高齢者に睡眠薬を使用する前に,まず高齢者の睡眠変化を念頭にそれが病的なものかを見極める必要がある.さらに,高齢者に好発する特徴的な睡眠障害を鑑別し,それぞれに対する治療を考慮する必要もある.高齢者における薬物動態の変化を考慮し,認知症リスクを回避した睡眠薬の選択は,超短時間あるいは短時間型の筋弛緩作用の少ない睡眠薬が第1選択となるが,直接グルクロン酸抱合されるような薬剤も選択肢となる.少量の非定型抗精神病薬やメラトニン受容体作動薬も考慮すべきである.
キーワード ベンゾジアゼピン,非定型抗精神病薬,レストレスレッグズ症候群,睡眠時無呼吸症候群,レム睡眠行動異常
 
論文名 認知症高齢者にいかに抗うつ薬を用いるべきか
著者名 楯林義孝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(8):778-782,2013
抄録 最近,比較的大規模な臨床研究で,軽症〜中等度のうつ症状(自発性の低下も含む)を呈するアルツハイマー病に対して,セルトラリンとミルタザピンがほぼ無効であることが報告された.また同時に非薬物療法がより有効である可能性が示唆された.しかしその後の研究で,通常の非薬物的介入も,認知症のうつ症状には無効であることが示され,より改善が必要であることが示された.一方,中等度〜重度のうつ症状,とくに自殺企図が認められる認知症高齢者に対して,現時点で,抗うつ薬の使用を躊躇すべきではない.一方,以前より継続投与されていた抗うつ薬の中断は,うつ症状を悪化させることが示されており,抗うつ薬の減薬・中断には注意を要する.うつ以外のBPSDに対して抗うつ薬が効果的であるとの報告もあり,認知症高齢者のBPSDに使用を検討する価値はある.
キーワード 抗うつ薬,認知症,アルツハイマー病,BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia),CSDD(Cornell scale for depression in dementia)
 
論文名 認知症に対する漢方薬治療
著者名 長濱道治,河野公範,古屋智英,堀口 淳
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(8):783-790,2013
抄録 認知症に対する薬物療法は,抗認知症薬や他の向精神薬が中心となるが,薬物の投与量の調整がむずかしいばかりか,副作用を生じることも多い.一方,漢方薬は,副作用の少ないことが最大の特徴である.漢方診療では,問診,診察による漢方医学的な「証」に合わせて漢方薬を処方する点が,標的症状に対応して薬物を選択する西洋医学的な方法とは大きく異なる.また,最近では漢方薬に関する科学的なエビデンスが急速に増加し,さらに徐々に症例報告や研究報告が蓄積され,臨床応用が広がっている.
キーワード 認知症,漢方薬,中核症状,周辺症状,向精神薬
 
論文名 アルツハイマー病治療薬の最近の話題
著者名 羽生春夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(8):791-798,2013
抄録 アルツハイマー病(AD)治療薬に関して最近の話題を紹介した.・コリンエステラーゼ(ChE)阻害薬とメマンチンの併用療法(DOMINO研究とメタ解析),・メマンチンの市販後調査,・AD治療薬による転倒・失神・骨折・不慮の負傷に関するメタ解析,・ChE阻害薬による骨折リスクの相違,・レビー小体型認知症を対象としたドネペジルの臨床試験,・ChE阻害薬の切り替え療法,についてである.今後,AD治療薬の使い分けや併用を考える際に参考となれば幸いである.
キーワード アルツハイマー病,ドネペジル,ガランタミン,リバスチグミン,メマンチン