2013 Vol.24 No.3
 
 
第24巻第3号(通巻299号)
2013年3月20日 発行
 
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巻 頭 言
認知症疾患進展の法則性とヒトのnatural history
宇高不可思
特集:老年精神医学と神経症候
言語,とくに構音障害
尾昌樹・三村 將
眼球運動
内藤 寛
姿勢と動作
吉澤利弘
不随意運動
石渡明子
筋萎縮・筋力低下
遠藤寿子・中島 孝
筋緊張
藤本健一
歩行
涌谷陽介
原著論文
もの忘れ外来受診者における脳波異常(temporal spike)の出現頻度とその症状について
塩崎一昌ほか
症例報告
半側無視空間の反対側に合併した片麻痺に対する無認知 ─ 左側頭頭頂葉梗塞による劣位半球症候群の一例における観察 ─
井口正明ほか
基礎講座
老年精神医学とBrain Imaging B機能的MRIの基礎
平野好幸・小畠隆行
学会NEWS
第28回日本老年精神医学会開催のご案内  
学会入会案内
バックナンバーのご案内
編集後記
 
論文名 言語,とくに構音障害
著者名 尾昌樹・三村 將
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):227-233,2013
抄録 "高齢者の診察における,構音障害の診察方法のポイントを概説した.構音障害は,障害されている神経領域を検討する以外に,原因となっている神経疾患を理解することが重要である.時に,嚥下障害,声帯麻痺など生命にかかわる病態を合併していることもあり,早急な対応が必要になることもある.教科書などでは,構音障害に関して詳細に記載される機会が少ないが,日常の臨床の場面ではよく遭遇する病態であり,系統立った理解は,神経疾患の診察において重要である.
キーワード 構音障害,運動障害性構音障害,脳神経,脳血管疾患,変性疾患
論文名 眼球運動
著者名 内藤 寛
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):234-238,2013
抄録 脳神経領域の神経診察で認知症関連疾患の鑑別には,眼球運動の観察が有用である.観察のポイントは,眼球の位置,眼球の随意運動,反射的共同眼球運動,異常眼球運動,注視麻痺,輻輳障害,瞳孔の異常である.本稿では認知症患者の神経診察と神経症候を理解するうえで必要な知識をまとめた.
キーワード progressive spranuclear palsy,corticobasal syndrome,注視麻痺,slow eye movements,眼球運動
論文名 姿勢と動作
著者名 吉澤利弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):239-244,2013
抄録 高齢者ではとくに精神神経疾患が明らかではなくとも,加齢に伴う整形外科的な変化により姿勢や動作に変化をきたすことがまれではない.また多数の薬剤を処方されていることが多く,その副作用としての姿勢や動作の変化にも考慮が必要である.とりわけパーキンソニズムに関連した姿勢・動作の異常は頻度も高く,認知症を含む高齢者の診察で常に念頭におく必要がある.また肢節運動失行,観念運動性失行,観念性失行などの失行症状は動作の障害として評価可能であり,認知症患者の診察にあたって忘れず検査することが重要である.
キーワード 前傾姿勢,体幹屈曲,首下がり,無動,肢節運動失行,観念運動性失行,観念性失行
論文名 不随意運動
著者名 石渡明子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):245-250,2013
抄録 ・不随意運動は,自分の意志とは無関係に起こる運動の総称である.
・代表的な不随意運動には,振戦,ミオクローヌス,舞踏運動,アテトーゼ,バリスム,ジストニア,ジスキネジアがある.
・不随意運動を的確に診断するためには,運動が律動性か否か,運動の出現部位,出現状況,運動のリズムの頻度や強さ,増強因子と軽減因子,発症年齢と経過,家族歴など系統的に情報を得ることが重要である.
キーワード 振戦,ミオクローヌス,舞踏運動,アテトーゼ,バリスム,ジストニア,ジスキネジア
論文名 筋萎縮・筋力低下
著者名 遠藤寿子・中島 孝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):251-257,2013
抄録 老年期における運動機能の低下は,単に移動能力の低下のみならず,日常生活動作全体の低下を引き起こす.さらに,転倒転落の原因となるだけではなく,高齢者のあらゆる生活分野での生活の質を低下させる原因となる.老年期でとくに注意すべき筋萎縮・筋力低下を呈する疾患群・病態について,所見のとり方,着眼点,鑑別診断をまとめ,老年期全般の筋力低下・筋萎縮を含めた治療やリハビリテーションのアプローチの仕方について解説する.
キーワード 高齢者,筋力低下,筋萎縮,神経筋疾患,サルコペニア,廃用症候群
論文名 筋緊張
著者名 藤本健一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):258-264,2013
抄録 筋緊張は通常無意識のうちに調節されているが,病的な状態では自動調節が利かず,筋緊張の低下や亢進が出現する.筋緊張の亢進は筋強剛,痙縮,ジストニーに分けられる.随意的に筋緊張を抜くことのできないパラトニーや,髄膜刺激徴候の項部硬直との鑑別が必要である.筋緊張は姿勢や身体の動き,筋の膨らみや硬さの観察に加えて,関節を他動的に屈曲伸展しながら,筋の伸張に対する抵抗性と関節可動域を確認することで評価する.
キーワード 筋強剛,痙縮,パラトニー,被動性亢進,過伸展
論文名 歩行
著者名 涌谷陽介
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):265-271,2013
抄録 歩行(二足歩行)は,幼児期に獲得されるヒトを特徴づける運動機能である.歩行・歩様は,加齢・老化に伴って変化するのみならず,各種精神神経疾患,整形外科疾患などでそれぞれの病態の特徴を反映した変化を示す.歩行障害は,高齢者ではADL,QOLの低下や転倒のリスクへ直結するため,病態の把握に必要な基礎的知識や診察方法の習熟は重要である.
キーワード 歩行障害,高齢者,転倒,神経徴候,神経疾患
論文名 もの忘れ外来受診者における脳波異常(temporal spike)の出現頻度とその症状について
著者名 塩崎一昌・古川良子・川越泰子・須田彩子・斎藤 惇・藤川美登里・梶原 智
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):273-280,2013
抄録 もの忘れ外来を受診した858症例のうち,43例(5.0%)にtemporal spikeを観察し,そのなかには認知記憶障害や精神症状が抗てんかん薬治療により改善する症例がみられた.その症状はtemporal spikeに関連した非発作性の症状と推測され,側頭葉てんかんに類似した病態と考えている.本研究では,認知症外来の受診者を対象に,てんかん原性の突発異常脳波であるtemporal spikeの出現頻度と部位を後方視的に調査した.そしてtemporal spikeを呈した43例のうち,脳腫瘍合併例を除いた42例についてspikeの偏在(左側・右側・両側)による認知機能やBPSDの差違を検討した.認知機能については偏在による差がなかったが,BPSDのNPI項目の「興奮」については左のtemporal spikeとの関連性が示唆された.またtemporal spikeを伴う認知記憶障害が,のちに側頭葉てんかんと診断変更され,抗てんかん薬が有効であった症例を呈示し,治療の必要性を考察した.
キーワード temporal spike,記憶障害,BPSD,偏側性,高齢発症てんかん
論文名 半側無視空間の反対側に合併した片麻痺に対する無認知 -左側頭頭頂葉梗塞による劣位半球症候群の一例における観察-
著者名 井口正明・笠井明美・佐藤 厚・佐藤卓也・今村 徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(3):281-286,2013
抄録 症例は62歳,矯正右利き女性.61歳時にクモ膜下出血を発症し,動脈瘤手術時の穿通枝損傷による右放線冠の小梗塞と,血管攣縮による左側頭頭頂葉の皮質梗塞を生じた.左上下肢に弛緩性完全麻痺を合併した.発症15か月の神経心理学的検査では,失語症状は認められず,注意障害,右半側空間無視といった劣位半球症状がみられ,矯正右利き者の非定形側性化を基盤とする,左側頭頭頂葉病変による劣位半球症候群と考えられた.本症例では,半側無視空間である右の反対側に合併した左片麻痺に対する無認知がみられ,弛緩性完全麻痺を呈している左上下肢について尋ねると「動くよ」と答えたり,トイレ動作に関して尋ねると「一人でできるよ」と答えたりした.これは,優位半球言語領域の自走による“自己の麻痺についての作話的言語反応”という山鳥の概念を拡大した,優位半球言語領域の自走による“自己の麻痺によって起こる状況,環境についての作話的言語反応”という図式でとらえることができると考えられた.
キーワード 片麻痺無認知,作話,半側空間無視,劣位半球症候群,半球側性化