2013 Vol.24 No.2
 
 
第24巻第1号(通巻297号)
2013年2月20日 発行
 
 
 
巻 頭 言
老年精神医学関連事項の最近の動向について
柴山漠人
特集:アルツハイマー病診断のバイオメーカー -最近の進歩-
血液・CSF中のアミロイドタンパクとタウタンパクおよびリン酸化タウ
瓦林 毅,東海林幹夫
アミロイドカスケードの異常を反映するAβ42サロゲートマーカーAPL1β28
大河内正康,田上真次,柳田寛太,武田雅俊
炎症性マーカー
里村恵美,馬場 元,新井平伊
酸化ストレスマーカー
布村明彦,玉置寿男
遺伝子マーカー
近江 翼,工藤 喬
形態MRI,脳血流SPECTおよび糖代謝FDG-PET
伊藤健吾,加藤隆司
アルツハイマー病におけるアミロイドと,タウのイメージング
丸山将浩,樋口真人,須原哲也
機能的MRIや拡散強調MRIを用いたアルツハイマー病のバイオマーカー
麻生俊彦,福山秀直
アルツハイマー病患者の構成障害
渡部宏幸,佐藤卓也,佐藤 厚,今村 徹
老年精神医学とBrainImagingA 脳血流・代謝画像(PET/SPECT)の基礎
松田博史
学会NEWS
公益社団法人への移行について
平成24年度日本老年精神医学会指導医および認定施設決定
第28回日本老年精神医学会開催のご案内  
学会入会案内
バックナンバーのご案内
編集後記
 
論文名 血液・CSF中のアミロイドタンパクとタウタンパクおよびリン酸化タウ
著者名 瓦林 毅,東海林幹夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):119-124,2013
抄録 脳脊髄液中のアミロイドβタンパク(Aβ)42の低下,総タウとリン酸化タウの上昇はADの病態に直接かかわるバイオマーカーとして多数の前向き多施設大規模研究によるエビデンスが明らかにされており,ADおよびMCIの新しい診断基準にも取り入れられた.また,ADの発症予測マーカー,進行度の予測マーカーとして確立され,治療効果のマーカーとしても用いられている.一方,血漿Aβ42/40比の低下はADの発症予測マーカーとして確立されつつある.
キーワード アルツハイマー病,軽度認知障害,アミロイド,タウ,ADNI
論文名 アミロイドカスケードの異常を反映するAβ42サロゲートマーカーAPL1β28
著者名 大河内正康,田上真次,柳田寛太,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):125-130,2013
抄録 アルツハイマー病は臨床症状が出現したときにはその脳機能障害は相当に進んでいる.現在開発中のアルツハイマー病治療薬は病理過程をストップすることで発症を予防する効果が期待されている.最近,臨床症状を呈する前段階のアルツハイマー病(preclinical AD,prodromal ADなど)がさまざまに提案されている.それらは脳内にAβ42やリン酸化タウなどの蓄積が起こっているがまだ臨床症状のない状態を早期治療介入の標的にしようとしている.筆者らはそれよりも前の段階,すなわち脳内でAβ42の蓄積が始まっているかどうかを鑑別できるような新規バイオマーカー候補(APL1β28)を脳内に発見し,現在その血液中での測定法の開発を試みている.
キーワード アルツハイマー病,バイオマーカー,APL1βペプチド,アミロイドβペプチド
論文名 炎症性マーカー -サイトカイン,ケモカインを中心に-
著者名 里村恵美,馬場 元,新井平伊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):131-139,2013
抄録 アルツハイマー病(AD)脳においてはその病態に免疫学的機序が関与することが知られており,脳脊髄液や末梢血におけるサイトカインやケモカインなどの免疫系タンパクのバイオマーカーとしての可能性を調査した研究は多くみられる.しかし,タンパクの検出感度や測定条件によって結果にばらつきがあり,現在のところバイオマーカーとして確立された免疫系タンパクは見いだされていない.最近になり免疫系タンパクを中心とした複数のタンパクの発現パターンやその相互関連性がADの診断や軽度認知機能障害からADへの進行予測に有用である可能性が報告され期待が高まったが,これも現時点で追試による再現性の確認には至っていない.
キーワード サイトカイン,ケモカイン,インターロイキン
論文名 酸化ストレスマーカー
著者名 布村明彦,玉置寿男
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):140-147,2013
抄録 アルツハイマー病(AD)脳で認められる酸化ストレス(OS)マーカーの一部は,脳脊髄液,血液,および尿中でも検出可能であり,診断バイオマーカー候補として注目されている.OSマーカーとして最も検討されている脳脊髄液中のF2-イソプロスタンは,アミロイドβやタウとは異なり,軽度認知障害からADへの移行期間中に有意に増加する.OSマーカーには,AD前駆期から発症後早期における進行度や介入効果のモニタリング機能が期待される.
キーワード アルツハイマー病,バイオマーカー,脳脊髄液,F2-イソプロスタン,軽度認知障害,酸化ストレス
論文名 遺伝子マーカー -APOEとTOMM40を中心に-
著者名 近江 翼,工藤 喬
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):148-154,2013
抄録 アルツハイマー病の発症にかかわるリスク遺伝子はこれまでも多数報告されているが,そのなかでもAPOEはアルツハイマー病の最も強力なリスク遺伝子と考えられている.また2009年国際アルツハイマー病学会(ICAD)では,Rosesらにより,TOMM40がアルツハイマー病の発症年齢予測因子となる可能性が高いという報告がなされた.本稿では,アルツハイマー病とそのリスク遺伝子の関係におけるこれまでに報告されている臨床的知見や遺伝子診断の現状・今後の展望について,APOEとTOMM40を中心に述べる.
キーワード アルツハイマー病,バイオマーカー,遺伝子診断,TOMM40,APOE
論文名 形態MRI,脳血流SPECTおよび糖代謝FDG-PET
著者名 伊藤健吾,加藤隆司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):155-162,2013
抄録 MRI,脳血流SPECT,FDG-PETは,薬物あるいは非薬物療法によるアルツハイマー病(AD)への早期介入を行う場合に,症例選択(早期診断)および介入による治療効果の判定のためのバイオマーカーとして大きな役割が期待されている.画像処理と画像解析法の進歩ともにそれぞれのバイオマーカーの有用性,他検査との最適な組合せについて,ADNIなど臨床研究において評価が進行中であり,ADの標準的な評価体系の確立が期待されている.
キーワード アルツハイマー病,早期診断,MRI,SPECT,PET
論文名 アルツハイマー病におけるアミロイドと,タウのイメージング
著者名 丸山将浩,樋口真人,須原哲也
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):163-169,2013
抄録アルツハイマー病の臨床診断の精度を向上させ,臨床症状が現れない早期の段階から病変を画像化する目的で,アミロイドイメージングの臨床応用がなされている.その一方で,アミロイドイメージングのみでは疾患の重症化や治療薬の効果をモニタリングしきれない可能性が指摘され,タウ病変のイメージング開発にも注目が集まっている.タウ病変を特異的に検出するトレーサーの臨床研究はいまだ報告がないが,筆者らは化合物開発に取り組み,モデル動物イメージングによるトレーサー評価を経てヒトでのイメージング研究を始めつつある.タウを標的とした治療薬開発も今後進展すると見込まれることから,タウイメージングはアルツハイマー病診療に大きく貢献しうる.
キーワード 画像診断法,アミロイドイメージング,タウイメージング
論文名 機能的MRIや拡散強調MRIを用いたアルツハイマー病のバイオマーカー
著者名 麻生俊彦,福山秀直
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):170-176,2013
抄録 年に1回,機能的MRIによって脳の各部位の一見ランダムな活動を観察することで,アルツハイマー病が発症するよりはるか前にリスクを予測し,治療を開始する.このようなストーリーを可能にするためにさまざまな試みがなされている.本稿では発展途上の機能的結合性MRIを中心に,その測定原理や解析方法,問題点などについて解説する.
キーワード 機能的MRI,拡散強調MRI,発症前診断,神経血管連関,アルツハイマー病,MCI
論文名 アルツハイマー病患者の構成障害 -立方体透視図と平面図形の模写課題における教育年数の影響と天井効果,床効果についての検討-
著者名 渡部宏幸,佐藤卓也,佐藤 厚,今村 徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,24(2):179-188,2013
抄録 【目的】アルツハイマー病(AD)症例に施行した立方体透視図模写課題および平面図形模写課題における教育年数の影響と天井効果,床効果について検討する.【対象】新潟リハビリテーション病院神経内科を初診し,ADと診断された症例で,数唱,MMSE,ADASを施行した320症例.平均教育年数8.5±2.5年,平均年齢79.9±6.5歳,平均MMSE得点18.7±4.3点,平均ADAS減点19.5±8.6点.【方法】対象全体で立方体透視図および平面図形模写課題の正誤と他の要因との関係をロジスティック単回帰分析で検討した.また対象を教育年数で4つの群に分け,さらに各群をMMSE得点の下位群と上位群に分け,各群における両課題の天井効果,床効果について検討した.さらに各群で両課題の正誤と他の要因との関係をロジスティック単回帰分析で検討した.【結果】対象全体の結果では,模写課題の正誤に教育年数と認知機能障害の全般重症度が影響していた.群別の検討では,教育年数7年未満および7〜9年のMMSE下位群において立方体透視図模写が可能な症例が著しく少なく,構成障害の重症度に関して床効果が生じていると考えられた.教育年数10〜12年のMMSE上位群では平面図形模写が可能な症例が著しく多く,構成障害の有無に関して天井効果が生じていると考えられた.群別のロジスティック単回帰分析では一貫した結果を得ることができなかった.【考察】ADにおいては,教育年数が9年以下の低さで認知機能障害の全般重症度が重度な症例では,構成障害の重症度の評価には平面図形模写がより有用であり,教育年数が10年以上の高さで認知機能障害の全般重症度が軽度な症例では,構成障害の有無の検出には立方体透視図模写がより有用であると考えられる.初期評価などの臨床場面では,立方体透視図模写と平面図形模写課題を併用することによって,煩雑さをそれほど増すことなく,課題を単独で用いると一部の群で生じる天井効果や床効果を回避し,構成障害を評価するうえでの有用な結果が得られると考えられる.
キーワード アルツハイマー病,Necker cube,教育年数,天井効果,床効果