2012 Vol.23 suppl-I
 
 
第23巻第5号(通巻287号)
2012年5月20日 発行
 

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アルツハイマー病診療最前線における課題と展望
アルツハイマー病研究会 記録


序文
アルツハイマー病研究会 第12回学術シンポジウム
松下正明 5
プレナリーセッション
アルツハイマー病診療のスキルアップを考える ─ この症例をどう診るか ─
繁田雅弘ほか  7
トラックセッション1「認知症診療に役立つコツとポイント」
I.疾患別診断法の特異性・活用法と将来の展望
アルツハイマー病における症候学・画像診断学・生化学的マーカー
東海林幹夫  19
〈指定発言〉血液中トランスフェリンの糖鎖異常
谷口美也子・浦上克哉  25
血管性認知症における症候学・画像診断学・生化学的バイオマーカー
冨本秀和  29
レビー小体型認知症における症候学・画像診断学・生化学的バイオマーカー
吉田光宏  35
II.認知症診療に対する各科の特異性と問題点
内科の立場から
松田 実  43
脳神経外科の立場から ─ 神経画像の有用性と問題点 ─
奥村 歩  49
精神科の立場から
水上勝義  56
トラックセッション2「専門医が苦慮する認知症の諸問題」
I.ドネペジルの至適投与量を再考する
症例からみたドネペジルの臨床効果
川畑信也  63
薬理学的視点に関する至適用量についての考察
中村 祐  71
II.BPSDの発生メカニズムに迫る
アルツハイマー病に特有のBPSD発生メカニズムと具体的対処法
アルツハイマー病の妄想
数井裕光・杉山博通・野村慶子・吉山顕次・武田雅俊  76
DLBに特有のBPSD発生メカニズムと具体的対処法
長濱康弘  81
FTLDに特有のBPSD発生メカニズムと具体的対処法
橋本 衛  89
トラックセッション3「認知症の人のための地域包括ケア ─ 2025年に向けたプログラム」
精神科診療所から地域へ
山崎英樹  95
認知症の身体合併症医療はどうあるべきか
鷲見幸彦 101
単身,生活困窮状態にある認知症高齢者への支援
─ 山谷地域での在宅診療の現場から ─
本田 徹 108
認知症の人の家族を支える
松本一生 114
認知症高齢者のターミナルケアをどう考えるか
─AD終末期における人工的水分・栄養補給法 ─
会田薫子 119
地域包括支援センターの未来 ─認知症の地域ケアにおける諸課題を中心に─
山本繁樹 126
 
論文名 アルツハイマー病診療のスキルアップを考える ― この症例をどう診るか ―
著者名 繁田雅弘,大野篤志,森  敏,村山繁雄,足立 正,齊藤祐子,コ丸阿耶,石井賢二,浦上克哉  
抄録 認知症医療の実践におけるコンセンサスを得る目的で,アルツハイマー病研究会に参加した医師を対象として症例を提示し,認知症医療の実地判断について尋ねた.診断や治療,マネジメント等にかかわる種々の判断についてトータライザーを通して回答を得,そのつどリアルタイムで表示して議論した.
キーワード 虐待,特発性正常圧水頭症,進行性核上性麻痺,嗜銀顆粒性認知症,神経原線維変化優位型老年期認知症
論文名 アルツハイマー病における症候学・画像診断学・生化学的マーカー
著者名 東海林幹夫     
抄録 アルツハイマー病における臨床研究の進歩に基づいた症状と診断のポイントをまとめた.CT/MRI,SPECT/FDG-PET,PIB-PETなどの画像診断とCSF Aβ,タウ,リン酸化タウのバイオマーカーとしての研究の進歩をまとめた.これらの成果は認知症診療ガイドライン2010やNIA/AAによる認知症,AD dementia,MCI due to ADおよびpreclinical ADの新たな診断基準の提案に取り入れられており,より正確なADとMCIの診断および発症予測を可能としている.
キーワード アルツハイマー病,症候,画像診断,バイオマーカー,診断基準
論文名 血液中トランスフェリンの糖鎖異常
著者名 谷口美也子,浦上克哉      
抄録 筆者らは以前よりアルツハイマー型認知症(AD)の髄液中・血液中のトランスフェリンでは,糖鎖,とくにシアル酸が変化していることを見いだしている.この変化は,ADのごく早期でも検出できることから血液の早期診断マーカーとして期待できる.また,シアル酸を付加する酵素もADの血液中で減少しており,ADの病態と関連している可能性も高い.トランスフェリンの糖鎖変化は,早期診断と新規の病態解明に貢献できると期待される.
キーワード アルツハイマー型認知症,トランスフェリン,糖鎖,診断マーカー
論文名 血管性認知症における症候学・画像診断学・生化学的バイオマーカー         
著者名 冨本秀和      
抄録 血管性認知症は異質な亜群から構成される症候群であるが,その半数を小血管病変に起因する皮質下血管性認知症が占めている.一方,大脳皮質中心に分布するアミロイド血管症は,アルツハイマー病理を伴わない場合は血管性認知症に包含される.本稿ではこれら血管性認知症の症候学,画像診断学,生化学的バイオマーカーの特徴を,最新データを中心に概説する.
キーワード 皮質下血管性認知症,アミロイド血管症,MRI,白質病変,血液脳関門
論文名 レビー小体型認知症における症候学・画像診断学・生化学的バイオマーカー
著者名 吉田光宏
抄録 レビー小体型認知症(DLB)臨床診断の基本は,詳細な病歴聴取,精神症候の把握である.認知症はDLBの中心的症状であるが,病初期には必ずしも認知症症状は目立たず,うつ症状などの精神症状が前景に出てくることがしばしばある.DLBに特徴的な症候として変動する認知障害,繰り返す具体的な幻視,パーキンソニズム,レム睡眠行動障害,うつ症状,妄想,アパシー,幻視以外の幻覚などの精神症状,転倒や失神の病歴などがあり,それらに留意する.検査には,血液や脳脊髄液検査(リン酸化タウ値正常から軽度上昇),頭部MRI(除外診断,軽度海馬萎縮),123I-MIBG心筋シンチグラフィー(心筋への集積低下・欠如),脳血流SPECT(後頭葉脳血流低下),糖代謝PET(後頭葉糖代謝低下),ドパミントランスポーター画像(線条体集積低下)などがある.経過や症候が典型的である場合は,診断は困難でないが,そうでない場合や問診で得られる情報が不十分な場合は,上記の補助検査を併用することで診断精度は高くなる.補助検査の使用にあたっては,各種検査の感度,特異度,長所,欠点を踏まえて,総合的に判断することが肝要である.
キーワード レビー小体型認知症,MIBG心筋シンチグラフィー,画像診断,症候学
論文名 内科の立場から
著者名 松田 実      
抄録 筆者らが行っている「もの忘れ外来」での認知症診療の実際を述べた.患者の信頼を得られるかどうかが診療の成否の鍵であることが多いので,患者との意思疎通を最も大切にすべきことを強調した.身体的診察は重要であり,認知症診療が内科と精神科とが融合する接点になりうることを述べた.また,神経心理学的診察の要点について記載した.さらに,「ADらしさ」「FTDらしさ」に対して,「DLBらしさ」も存在する可能性について言及した.
キーワード 認知症診療,身体的診察,神経心理学的診察,DLBらしさ
論文名 脳神経外科の立場から ─ 神経画像の有用性と問題点 ─
著者名 奥村 歩    
抄録 「もの忘れ外来」における神経画像の有用性と問題点に焦点を絞って,認知症診療のあり方を考察した.認知症の診療で最も重要なのは症候学であるが,surgical treatable dementiaを渉猟するためにMRIなどの形態画像は必要である.PETなどは,認知症の発症前診断・早期診断に有用性を認めるが,認知症の診断に際して,統計学的画像解析の一人歩きは危険である.「もの忘れ外来」では,症候学と神経画像学とのバランス感覚が必要であると考える.
キーワード 症候学,surgical treatable dementia,SEAD-J
論文名 精神科の立場から 
著者名 水上勝義     
抄録 精神科医療の特徴を踏まえて,認知症診療のなかで精神科にとくに求められる分野として,・精神疾患と認知症の鑑別診断,・重篤な行動・心理症状(BPSD)の治療,・介護者のメンタルヘルス,・司法関連の作業,・初老期認知症支援などについて述べた.また認知症医療における精神科の課題についても言及した.
キーワード 精神医療,鑑別診断,BPSD,精神鑑定,初老期認知症
論文名 症例からみたドネペジルの臨床効果
著者名 川畑信也
抄録 もの忘れ外来を受診した患者群を対象に神経心理検査からドネペジル効果の検討を行った.・認知症に気づかれ早期に受診した患者ほどドネペジルの長期的効果を期待できる,・初診時の認知機能が保たれているほど長期的効果を期待できる,・初診時にBPSDが目立たない患者群のほうがBPSDが目立つ患者群よりも長期的効果を期待しやすい,・初診時の脳萎縮(海馬の萎縮と言い換えるほうが適切かもしれない)がより軽い患者群のほうが長期的効果を期待できる.
キーワード アルツハイマー型認知症,ドネペジル,MMSE,BPSD
論文名 薬理学的視点に関する至適用量についての考察 
著者名 中村 祐
抄録 現在,わが国においては高度ADに対してドネペジル塩酸塩(アリセプト?)の最大1日投与量は10 mgまでであるが,アメリカでは軽度から10 mgが処方可能であり,中等度〜高度ADに対して23 mgの投与が認められている.わが国および欧米におけるドネペジルの臨床試験の結果から考えると,わが国における高度ADに対する至適用量は10 mg/日以上と推測され,なるべく早い時期での10 mg/日への増量がドネペジルの臨床効果を引き出すためには必要であると考えられる.
キーワード アルツハイマー型認知症,ドネペジル塩酸塩,アリセプト,投与量
論文名 アルツハイマー病に特有のBPSD発生メカニズムと具体的対処法
アルツハイマー病の妄想
著者名 数井裕光,杉山博通,野村慶子,吉山顕次,武田雅俊
抄録 アルツハイマー病患者の妄想の出現には,脳損傷による認知障害とこれによって生じる日常生活上のストレスや患者の反応,抵抗が関与している.したがって治療法としては,認知障害を薬物治療で治療し,かつ非薬物的対応法で患者のストレス,抵抗を軽減させることが必要である.また地域連携システムを構築し,患者および家族介護者を支援することにより,家族介護者の介護負担が減少し,妄想を含む患者のBPSDが軽減する可能性があると考えられる.
キーワード アルツハイマー病,BPSD,妄想,地域連携
論文名 DLBに特有のBPSD発生メカニズムと具体的対処法
著者名 長濱康弘
抄録 レビー小体型認知症(DLB)の精神症状は幻覚,誤認,妄想に大きく分類される.カプグラ症状,幻の同居人,重複記憶錯誤,人物誤認は“誤認”に含まれ,実体意識性は幻覚の近縁症状である.アルツハイマー病に比べて,DLBでは初期から幻覚や誤認などが高頻度にみられる.DLBの幻視は背側・腹側視覚連合野の機能不全,ドパミン系の過感受性,アセチルコリン系の障害などに起因すると考えられ,ドネペジル塩酸塩などコリンエステラーゼ阻害薬に反応する.DLBの誤認は大脳辺縁?傍辺縁系の機能不全による記憶・情動の障害に関連している.DLB特有の症候学的・病態生理学的特徴を知ることにより,より有効な治療とケアを行うことができる.
キーワード レビー小体型認知症,幻視,妄想性誤認症候群,誤認,治療,介護
論文名 FTLDに特有のBPSD発生メカニズムと具体的対処法
著者名 橋本 衛
抄録 前頭側頭葉変性症(FTLD)のBPSDは他の認知症と比べて内容が大きく異なるため,その対応にはFTLDに特化した手法が必要となる.FTLDのBPSDに対して適切に対応するためには,・適切な鑑別診断,・FTLDに特徴的な臨床症候の把握と症候を活用した介入,・早期からの介入が,そして治療薬の開発には,・BPSDの背景にある神経基盤の解明が求められる.
キーワード 前頭側頭葉変性症,BPSD,ルーチン化療法,訪問リハビリテーション
論文名 精神科診療所から地域へ
著者名 山崎英樹
抄録 医療には専門家支配という側面があり,そのピラミッド構造や医家の密室性に守られて,戦前の隔離モデルを引きずる精神病院や老人病院の不条理は長く見過ごされてきた.戦後,医療の福祉化政策のなかで安価な食住施設を指向され続けた精神病院や老人病院の社会学的本質は,福祉施設である.介護保険市場の拡大とともに認知症は隔離や治療の対象ではなく,サービスの対象となった.地域密着多機能型複合施設を病院に代わる一つのモデルとしながら,老いと病の孤独を地域で癒すサービスこそが求められている.
キーワード 認知症,精神病院,老人病院,医療の福祉化,地域密着多機能型複合施設
論文名 認知症の身体合併症医療はどうあるべきか
著者名 鷲見幸彦
抄録 認知症の人がさまざまな身体合併症を生じて,急性期病院を受診し,入院することが今後増加すると推測されるが,その対応方法に関する検討は少ない.本稿では国立長寿医療研究センターでの,認知症高齢者の精神症状や行動障害にも対応可能で,身体合併症にも対応しうる独立したユニット・病棟の試み,認知症を診療するスタッフを支える認知症患者サポートチーム(DST)の試みについて紹介する.
キーワード 認知症,身体合併症,認知症患者サポートチーム
論文名 単身,生活困窮状態にある認知症高齢者への支援 ─ 山谷地域での在宅診療の現場から ─
著者名 本田 徹
抄録 超高齢社会に突入した21世紀の日本では,医療のパラダイム変換が,「キュアからケアへ」「病院からコミュニティへ」といった言葉で表現されるべき状況となっている.当事者主権や参加を重視した,プライマリ・ヘルス・ケアの理念や方法が生かされるべき時と考える.生活困窮と認知症などの慢性疾患を抱え,単独生活を強いられている山谷地域の高齢者医療を通して,包括的地域ケア連携への模索を報告する.
キーワード プライマリ・ヘルス・ケア,山谷,地域ケア連携,認知症,生活困窮者
論文名 認知症の人の家族を支える
著者名 松本一生
抄録 認知症が広く理解されるようになった今も家族支援について具体的方法が論じられることは多くない.積極的な家族支援のためには,まず認知症の人の心理状況を理解したうえで介護家族の心の移り変わりを理解しなければならない.認知症の介護は家族にとって繰り返し心の傷を受けているような体験でもある.家族が破綻しないように彼らの発言に留意し,支えることができれば本人のBPSDさえ改善することができる.そのために地域のネットワークをきめ細やかなものにすることが求められる.
キーワード 認知症の人の心,介護者,BPSD,心の傷,地域連携
論文名 認知症高齢者のターミナルケアをどう考えるか ─ AD終末期における人工的水分・栄養補給法 ─
著者名 会田薫子
抄録 アルツハイマー病(AD)の終末期は,その病期分類で示すとFAST stage 7d以降という考え方が世界標準といえる.経口摂取も困難となったこの段階で胃瘻栄養法や経鼻経管栄養法を導入する医師が日本では少なくないが,緩和ケアの観点からみると問題があると思われる.AD終末期で経口摂取困難となった高齢患者に対して人工的水分・栄養補給法を控えることは,医学・生理学的には本人にとって最も苦痛の少ない最期を実現することにつながる.AD患者にも緩和ケアの精神で対応すべきである.
キーワード アルツハイマー病(AD),人工的水分・栄養補給法(AHN),経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG),緩和ケア
論文名 地域包括支援センターの未来 ─ 認知症の地域ケアにおける諸課題を中心に ─
著者名 山本繁樹
抄録 認知症ケアの中心に本人や家族がいるように,地域包括支援センターが取り組む地域包括ケアの目的も地域住民の福利の向上にあることを確認した.そのうえで,地域包括支援センターの地域実践から把握できる認知症の地域ケアの現状の諸課題とその対応,とくに医療連携上の諸課題とその対応,地域実践における個別支援と地域づくりの相互作用関係,地域の第1次的な総合相談支援機関としての地域包括支援センターの役割と今後の方向性について考察した.
キーワード 地域包括支援センター,地域包括ケア,認知症,個別支援と地域づくりの相互作用