2012 Vol.23 No.7
 
 
第23巻第7号(通巻290号)
2012年7月20日 発行
 

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巻 頭 言
人間の進化からみた老年精神症候学
奥田正英 784
特集:特発性正常圧水頭症 ─ Update
特発性正常圧水頭症研究の歴史
石川正恒 787
特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン改訂について
森 悦朗 793
特発性正常圧水頭症の疫学,病理
栗山長門ほか 800
特発性正常圧水頭症診療におけるタップテスト
山本大介ほか 807
特発性正常圧水頭症の画像診断
石井一成 815
特発性正常圧水頭症の治療
中島 円ほか 821
特発性正常圧水頭症のリハビリテーション
平田好文ほか 828
原著論文 
血管性認知症,アルツハイマー型認知症の認知機能と発達に基づいたADL能力の関連
久野真矢ほか 837
原著論文 
アルツハイマー病の早期診断における選択式回転課題の有効性の予備的研究
高橋秀典ほか 846
基礎講座 
老年精神医学と神経心理学(7)失行
春原則子 857
連  載 
認知症臨床に役立つ生物学的精神医学(21)認知症の予防
武田雅俊ほか 863
学会NEWS
日本老年精神医学会 新名誉会員および新特別会員を認定
日本老年精神医学会 新役員選出について
平成24年度「日本老年精神医学会奨励賞」決定
平成24年度日本老年精神医学会認定専門医決定
日本老年精神医学会 Asian Workshop on Geriatric Psychiatry開催のお知らせ
「日本老年精神医学会若手交流プログラム」募集のご案内
平成25年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ
 
学会入会案内
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編集後記
 
論文名 特発性正常圧水頭症研究の歴史
著者名 石川正恒  
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):787‐792,2012
抄録 正常圧水頭症は過去に“treatable dementia”として喧伝されたが,原因の明らかな二次性正常圧水頭症とは異なり,原因の明らかでない特発性正常圧水頭症(iNPH)は症状改善が乏しかったり,オーバードレナージの頻度が高かったりしたことから,病気の存在自体が否定されてしまうという“暗黒の20年”という歴史をもっている.世界でもまれなほど急速に進行する高齢化のなかにあって,iNPH治療の社会的意義はさらに高まると予測される.iNPH研究の次なる段階へ向けて,わが国でのiNPH研究の歴史を概括した.
キーワード 高齢者,水頭症,歩行障害,認知障害,排尿障害
論文名 特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン改訂について
著者名 森 悦朗     
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):793‐799,2012
抄録 特発性正常圧水頭症は,歩行障害,認知障害,尿失禁をきたす病態で,適切なシャント術によって症状の改善が得られるという点で他の認知症性疾患とは大きく異なる.わが国では2004年に診療ガイドラインが出版されて以来,全国的に手術数は増加し,研究も急速に進み,2011年にはその改訂がなされた.ここでは診療ガイドラインの改訂の目的や概略について,改訂の根拠を紹介しながら解説する.
キーワード 特発性正常圧水頭症,診療ガイドライン
論文名 特発性正常圧水頭症の疫学,病理
著者名 栗山長門,宮田 元,加藤丈夫      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):800‐806,2012
抄録 特発性正常圧水頭症(iNPH)は,診療ガイドラインが作成されて以降,わが国における新しい疫学情報が蓄積されつつある.それに伴い,iNPHに関する病理もあわせて詳細に報告されるようになってきており,髄液循環障害を有する本疾患の特徴もしだいに明らかになりつつある.いまだ全面的な病態解明までは至っていないものの,新規の疾患特異マーカーも見いだされつつある本疾患に関して,現時点での疫学的・病理学的な最新トピックスを紹介する.
キーワード 特発性正常圧水頭症(iNPH),疫学研究,病理,髄液循環障害,疾患特異マーカー
論文名 特発性正常圧水頭症診療におけるタップテスト
著者名 山本大介,数井裕光,武田雅俊      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):807‐814,2012
抄録 特発性正常圧水頭症の診断とシャント術の効果予測のためにタップテストは有用な検査である.しかしこれまでの研究における成績は多様であり,感度と特異度が十分でない可能性がある.そこで,MR画像や髄液圧のような他の検査所見と併用して有用性を高める方法が提案されている.またタップテストをより精密化することにより有用性を高めることも可能と考えられる.筆者らは連続歩行検査を併用したタップテストを試験的に行っているが,本稿ではその中間結果をまとめた.
キーワード シャント術,効果予測,高位円蓋部の狭小化,髄液圧,連続歩行検査
論文名 特発性正常圧水頭症の画像診断
著者名 石井一成
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):815‐820,2012
抄録 特発性正常圧水頭症の画像の特徴はdisproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus (DESH)ともいわれるように脳室拡大に加えシルビウス裂開大,高位円蓋部・正中部の脳溝狭小化である.この特徴を反映し脳梁角の狭小化がみられる.脳血流SPECTからもDESHの特徴を反映した血流分布がみられる.
キーワード idiopathic normal pressure hydrocephalus(iNPH),disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus(DESH),MRI,callosal angle,SPECT
論文名 特発性正常圧水頭症の治療
著者名 中島 円,宮嶋雅一,新井 一      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):821‐827,2012
抄録 特発性正常圧水頭症治療の主体は髄液短絡手術(シャント)であり,シャント以外に高いエビデンスに支持された治療法はない.シャント手術にはいくつかの方法があるが,脳室-腹腔シャントないしは腰部クモ膜下腔-腹腔シャントが多く選択されている.患者ごとに体型や症状に合わせた適切なシャント方法やシャントバルブの選択,バルブ圧の設定などが予後に与える影響は大きい.
キーワード 脳脊髄液循環障害,腰部クモ膜下腔-腹腔短絡術,脳室-腹腔短絡術,脳室-心房短絡術,第V脳室開窓術
論文名 特発性正常圧水頭症のリハビリテーション
著者名 平田好文,村上雅二,倉津純一     
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):828‐835,2012
抄録 超高齢社会において,特発性正常圧水頭症の診断・治療が注目を集めている.シャント術前,すでに廃用症候群を生じており,リハビリテーションが必要な場合も少なくない.入院中も歩行障害に対応したリハビリテーションプログラムが必要である.退院後にシャント機能を維持するためには,地域リハビリテーションが重要であり,シャント手術前後での転倒骨折が大きな要因となっている.術後は転倒骨折は減少し,長期の在宅生活が可能となっている.在宅生活を維持するためには家庭環境も重要な要因のひとつであることを論じた.
キーワード 特発性正常圧水頭症,リハビリテーション,高齢者,歩行障害,シャント機能
論文名 血管性認知症,アルツハイマー型認知症の認知機能と発達に基づいたADL能力の関連
著者名 久野真矢・前川正雄・武内 淳・松本佳子・岡田侑子・西野憲史      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):837‐845,2012
抄録 本研究は,血管性認知症(VaD)とアルツハイマー型認知症(ATD)の認知機能と発達に基づいた日常生活活動(ADL)能力の関連を調べることを目的とした.VaD 108人,ATD 112人を対象として,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),Mini-Mental State Examination(MMSE),N式老年者用精神状態尺度(NMスケール)の得点と子どもの発達に基づいて作成したADL評価表から決定した機能年齢の関連を相関係数の検定と単回帰分析で解析した.VaD,ATDともに認知機能評価スケール得点と機能年齢の間に強い相関を認め,ADL能力低下が子どもの発達の逆の過程で生じることが実証された.また,VaD,ATDともに特有の予測精度が高い回帰式が示され,VaD,ATDそれぞれにADL能力低下に差異があること,認知機能から達成可能なADL能力の設定が可能であることが示された.
キーワード 認知機能,日常生活活動(ADL),血管性認知症,アルツハイマー型認知症
論文名 アルツハイマー病の早期診断における選択式回転課題の有効性の予備的研究
著者名 高橋秀典・中谷 謙・馬場隆俊・島崎 保 
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(7):846‐854,2012
抄録 健忘型軽度認知障害(健忘型MCI)にて,脳機能画像では,しばしば楔前部の機能低下がみられ,この部位は空間イメージ操作が必要となるメンタルローテーションの特異的機能部位であるBrodmann,s area 7を含んでいる.そこで軽度アルツハイマー病(AD),健忘型MCIの空間認知機能評価のために,メンタルローテーション課題を簡便にした選択式回転課題を考案した.課題の平均得点は,対照群,軽度AD,健忘型MCIで有意差を認めた.選択式回転課題は,記憶とは独立した評価指標で,健常と健忘型MCI,軽度ADの鑑別に有用であること,また健忘型MCIからADへの移行予測への展望を示した.
キーワード メンタルローテーション,軽度認知障害,アルツハイマー病,楔前部