2012 Vol.23 No.4
 
 
第23巻第4号(通巻285号)
2012年4月20日 発行
 

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巻 頭 言
所在のわからない人,素性のわからない人
柄澤昭秀
特集:高齢者の認知機能低下を規定するもの
脳予備能と認知予備能 - 高齢者の認知機能を規定する因子
武田雅俊 397
高齢者の認知機能を規定する遺伝子
森原剛史,林 紀行,武田雅俊 403
高齢者の認知機能を規定する環境要因
朝田 隆 408
脳形態画像所見,脳血流量と認知機能低下
松田博史 413
脳波・生理学的所見と認知機能低下
石井良平 ほか 420
アミロイド沈着,神経原線維変化と認知機能低下
田中稔久・武田雅俊 429
認知心理学からみた高齢者の認知機能低下
佐久間尚子 434
神経心理学からみた高齢者の認知機能低下
小川泰弘・西川 隆 441
原著論文 
レビー小体型認知症の臨床症状出現に関連する心理社会的要因の検討 - アルツハイマー型認知症との比較
太田一実 457
資  料 
専門医を対象とした認知症診療のあり方とその手法に関する面接調査
繁田雅弘 ほか 466
基礎講座 
老年精神医学と神経心理学(4)
言語障害
立石雅子 483
連  載 
認知症臨床に役立つ生物学的精神医学(18)
前頭側頭葉変性症の神経変性機序・分子生物学
田中稔久・武田雅俊 490
文献抄録 
北村 伸
書  評 
「医者は現場でどう考えるか」
斎藤正彦
学会NEWS
第27回日本老年精神医学会開催のご案内
一般社団法人日本老年精神医学会「第8回生涯教育講座」開催のお知らせ
学会入会案内
バックナンバーのご案内
編集後記
 
論文名 脳予備能と認知予備能 ─ 高齢者の認知機能を規定する因子 ─
著者名 武田雅俊  
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):397-402,2012
抄録 脳の老化は認知機能低下をもたらす.個体差が大きいことは高齢者の特徴であり,正常老化と病的老化とを区別することは必ずしも容易ではない.臨床症状が発症する前段階における認知症の診断と介入の必要性がいわれているが,そのためにも脳の正常老化を知ることが必要となる.一方,アルツハイマー病の病理過程を有していても認知機能低下をきたさない人がいることが知られている.このような人は脳予備能,あるいは認知予備能が高い人であり,脳予備能,認知予備能について検討が進められている.
キーワード 脳老化,認知機能,脳予備能,認知予備能,軽度認知障害
論文名 高齢者の認知機能を規定する遺伝子
著者名 森原剛史,林 紀行,武田雅俊     
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):403-407,2012
抄録 遺伝的因子は高齢者においても知能や認知機能に大きく関与している.しかしながら健常高齢者の認知機能を規定する遺伝子としてコンセンサスが得られている遺伝子はまだない.高齢者の認知機能を議論するにあたって正常加齢に伴う変化と,認知症初期の変化を区別する必要があろう.アルツハイマー病のリスク遺伝子であるApoE ε4は中年までの知能に影響はないようである.高齢者においても正常加齢による認知機能の変化にApoE ε4は影響を与えてないと思われる.
キーワード 認知機能,遺伝因子,ApoE,アルツハイマー病
論文名 高齢者の認知機能を規定する環境要因
著者名 朝田 隆      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):408-412,2012
抄録 高齢者の認知機能について,その分散の50%を規定するとされるのが子どものころの知能レベルである.残り半分については,おそらく遺伝的要因,医学的要因,心理学的要因,そして社会的要因・ライフスタイル関連因子が寄与しているのだろう.このテーマについて,世上The Lothian Birth Cohort 1936と呼ばれる一連の研究成果が注目されている.これは1936(昭和11)年にエジンバラ市内のロティアン地区で生まれた70,805人の当時11歳の子どもたちを母集団にした縦断研究である.このうち70歳まで生存し,追跡同定し得,調査依頼を承諾した人々が一連の研究対象になっている.本稿では8つのテーマから本研究の成果を紹介した.Nature or nurture(氏か育ちか)という大きな問いに対するLothian Studyの答えでは,やはり前者がより大きいようである.もっとも後天的な環境要因が遺伝子に働きかけるというepigenetics的発想も今後さらに重要性を増すことだろう.
キーワード 高齢者,認知機能,環境要因,Lothian Study
論文名 脳形態画像所見,脳血流量と認知機能低下
著者名 松田博史      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):413-419,2012
抄録 若年者に比べて高齢者では,前頭葉を中心に血流低下と灰白質の萎縮がみられる.白質は内包や視床放線を中心に萎縮がみられる.正常な加齢では,エピソード記憶に関与する神経回路網である嗅内皮質や海馬,後部帯状回,下部頭頂葉皮質に萎縮や血流低下はみられない.アルツハイマー病ではこれらの部位が特異的に冒されるが,萎縮と血流低下の部位に乖離がみられる.認知機能予備能力と頭蓋内容積には関連がないとする報告が多い.
キーワード 加齢,アルツハイマー病,脳血流,萎縮,MRI
論文名 脳波・生理学的所見と認知機能低下
著者名 石井良平,青木保典,栗本 龍,池田俊一郎,畑 真弘,岩瀬真生,今城 郁,田中美枝子, 松崎晴康,武者利光,朝田 隆,武田雅俊       
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):420-428,2012
抄録 高齢者を対象とした日常臨床の現場において,脳波検査は有用な情報を提供する.しかし,高齢者の脳波には診断特異性の低い所見が多いために,日常臨床において重視されにくいという傾向もある.本稿では,健常高齢者の脳波基礎活動の変化について述べ,老化に伴う神経基盤の変化,認知機能との関連について考察する.さらに,これらの知見から提唱された脳の老化の仮説についてふれ,最後に筆者らの取組みについて紹介したい.
キーワード 脳波,脳磁図,事象関連電位,老化,NAT(neural activity topography)解析
論文名 アミロイド沈着,神経原線維変化と認知機能低下
著者名 田中稔久,武田雅俊      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):429-433,2012
抄録 アルツハイマー病の症状レベルは,その神経病理学的変化である老人斑(neuritic plaques)と相関し,神経原線維変化とはさらによく相関する.健常高齢者においても認知機能低下は加齢とともに低下傾向を示すが,近年の技術進歩であるアミロイドPETによって生前に可視化されるようになった脳内アミロイド沈着は,認知機能,とくにエピソード記憶に一定の影響を与えている.他の加齢性変化にあわせて,認知機能低下におけるアミロイド沈着と神経原線維変化の重要性が示唆される.
キーワード アミロイド沈着,神経原線維変化,アルツハイマー病,軽度認知機能障害,アミロイドPET
論文名 認知心理学からみた高齢者の認知機能低下
著者名 佐久間尚子     
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):434-440,2012
抄録 認知加齢の特徴を認知心理学の視点から言及した.健常加齢においては,処理速度,ワーキングメモリ,エピソード記憶など流動性能力が低下しやすい.この説明として取り上げられることの多い,処理速度の遅延説,自動的処理と努力的処理の区分,注意資源の減少説,抑制機能の低下説,感覚の老化の影響について言及した.高齢者の認知機能低下は脳の加齢変化を反映しており,認知神経科学的研究や認知訓練の研究の重要性についてもふれた.
キーワード 認知加齢,流動性能力,実行機能,処理速度,注意資源,抑制機能
論文名 神経心理学からみた高齢者の認知機能低下 
著者名 小川泰弘,西川 隆      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):441-454,2012
抄録 加齢による認知機能の低下に関し,神経心理学の領域で近年関心を集めている機能として意思決定機能と社会的認知が挙げられる.本稿ではこれらと前頭葉機能についての最近10年の知見を中心にまとめた.加齢に伴う前頭葉機能検査の成績低下は以前から報告されていたが,現在ではfMRIなどを用いてより詳細な解剖生理学的検討が行われている.それらの研究では共通して,高齢者には若年者に比べて課題試行中の前頭葉に強い賦活がみられ,諸研究者はこれを脳の加齢的適応であると考えている.同じ傾向は意思決定機能,社会的認知機能の課題に関しても報告されており,高次の認知にかかわる脳活動の共通した加齢パターンであるといえる.しかし,意思決定機能については加齢により低下するかどうか現時点で一致した見解が得られていない.社会的認知は加齢により低下することが報告されているが,前頭葉機能の低下による二次的結果であるという見解も根強い.情動が関与する社会的な機能は情動的に中立な認知機能よりも加齢の影響を受けにくい可能性がある.
キーワード 加齢,遂行機能,社会的認知,意思決定,神経心理学
論文名 レビー小体型認知症の臨床症状出現に関連する心理社会的要因の検討 ─ アルツハイマー型認知症との比較 ─
著者名 太田一実,井関栄三,村山憲男,藤城弘樹,笠貫浩史,千葉悠平,佐藤 潔,新井平伊   
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):457‐465,2012
抄録 レビー小体型認知症(DLB)の臨床症状出現の契機となる心理社会的要因について,アルツハイマー型認知症(AD)との比較検討を行った.また,DLBの妄想の心理社会的要因に関して,DLBを妄想の有無で分けた統計的検討と2症例の検討を行った.Probable DLBと診断された患者(DLB群)51人とprobable ADと診断された患者(AD群)51人を対象とし,認知機能,主訴,病前性格,主訴である臨床症状出現の契機の有無,契機の内容を比較した.また,DLB群を妄想のある16例(妄想群)と妄想のない35例(非妄想群)に分け,DLB群とAD群と同様の検討を行った.その結果,DLB群はAD群よりも主訴が多様で,臨床症状に心理社会的要因が関係しやすいことが示された.また,妄想群は非妄想群に比べてMMSE得点が低く,かつCDRは高く,DLBの妄想と認知機能障害や認知症重症度との関連が示された.症例からは,DLBの幻視は心理社会的要因との関連が強く,妄想には認知機能障害に基づく病識の欠如が関連している可能性が示唆された.
キーワード レビー小体型認知症,アルツハイマー型認知症,幻視,妄想,心理社会的要因
論文名 専門医を対象とした認知症診療のあり方とその手法に関する面接調査
著者名 繁田雅弘,河野禎之,安田朝子,木之下 徹,内海久美子, 奥村 歩,繁信和恵,川嶋乃里子,高橋 智,玉井 顯, 平井茂夫,水上勝義,山田達夫,八森 淳,元永拓郎, 池田 学,朝田 隆,本間 昭,小阪憲司  
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(4):466‐480,2012
抄録 目的:専門医を対象に面接調査を行い,望ましい認知症診療のあり方とその手法を探った.対象:認知症専門医11人.手続き:半構造化面接により診療環境,診療構造および内容,薬物療法等について調査し,得られた情報についてKJ法を参考に整理,分析した.結果と考察:診療環境に関してさまざまな視点から配慮がなされており,また施設の特性によっても診療構造が異なることが示された.診療内容では他職種と協力しながら幅広く情報を集めていること,薬剤(ドネペジル)については薬効以外の効果も意図していること,その他の薬剤ではまず整理から始めるなど,副作用等を含めた医原性の問題への対応も重視していることが示された.一方,認知症医療の診療報酬上の評価が不十分である点やかかりつけ医との連携における課題が指摘された.地域のなかで認知症の人とその家族を支える体制づくりも重要な課題であることが示された.
キーワード 認知症医療,認知症専門医,診療場面,診療方法,かかりつけ医