2012 Vol.23 No.2
 
 
第23巻第2号(通巻283号)
2012年2月20日 発行
 

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巻 頭 言
認知症にかかわった40年間の思い
宮川太平
特集:東日本大震災と老年精神医学;現地レポートを中心に
東日本大震災とは - 破局の淵から希望へ
深津 亮ほか 143
岩手県の被災状況とその対応 - 高齢認知症者のケアを中心に
高橋 智 150
岩手県の被災状況とその対応 - 高齢者のこころのケアを中心に
大塚耕太郎ほか 155
宮城県の被災状況とその対応
佐藤宗一郎ほか 165
宮城県の被災状況とその対応 - 仙台市を中心に
山崎英樹 169
福島県の被災状況とその対応
小林直人ほか 173
福島県の被災状況とその対応 - 被災病院の現場から
田子久夫ほか 178
災害派遣・医療支援レポート - 宮城県南三陸町からのレポート
矢田部裕介ほか 181
災害派遣・医療支援レポート - 宮城県気仙沼市からのレポート
内田貴光ほか 185
被災者の受け入れの支援活動 - 山形市からのレポート
川勝 忍 191
被災者支援活動 - ケアスタッフの活動レポート
加藤伸司ほか 195
大震災避難生活者にみられる精神医学的諸問題
- 被災入院患者のグループ・ミーティング(フクシマ双葉会)の活動;中間報告
一瀬邦弘ほか 199
災害精神医療の現状 - 老年精神医学領域の問題点と課題
粟田主一 204
原著論文 
地域高齢者における年収および暮らし向きと心理的健康指標との関連
藤原佳典ほか 211
認知症高齢者を在宅介護する介護者の介護負担感に影響する要因
梶原弘平ほか 221
基礎講座
老年精神医学と神経心理学・記憶の神経心理学的評価法
堀 宏治ほか 229
Column 
私たちの仕事
第13回 臨床検査技師
狩野賢二
第14回 診療放射線技師
廣田勝彦
文献抄録 
松田 修
書  評
「市民後見入門;市民後見人養成・支援の手引き」
斎藤正彦
学会NEWS
平成23年度日本老年精神医学会専門医および指導医・認定施設決定
学会入会案内
バックナンバーのご案内
編集後記
 
論文名 東日本大震災とは ─ 破局の淵から希望へ ─
著者名 深津 亮,内田貴光  
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):143-149,2012
抄録 東日本大震災の概要を記述した.大震災は,・大地震,・巨大津波,それによる火災の発生,そして・原子力発電所事故が重なり未曾有の大震災へと発展したといえる.大震災によって絶望の淵へと突き落とされながらも被災者は復旧から復興への道をたしかにたどり始めた.この苦しく悲惨な経験を踏まえて将来への確かな体制−制度の礎を構築しなければならないと結論される.
キーワード 東北地方太平洋沖地震,東日本大震災,福島第一原子力発電所事故,メルトダウン(炉心溶融),国際原子力事象評価尺度レベル7
論文名 岩手県の被災状況とその対応 ─ 高齢認知症者のケアを中心に ─
著者名 高橋 智      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):150-154,2012
抄録 ・岩手県では,ポストDMATの県内全域の震災医療支援のため,いわて震災医療支援ネットワークを立ち上げた.
・発災当初,認知症者の一部には,津波のショック,環境の変化で徘徊が認められた例がみられ,重症者は定員をオーバーして,施設に入所したが,快適な介護を受けた.
・避難所では,家族の升の大きさ,地域の結いが軽度認知症者を救ってくれた.むしろ,仮設住宅入居後の生活再建が重要な課題となる.
・被災地では,高血圧,脂質代謝異常,凝固系亢進の頻度が高く,認知症など,それらを危険因子とする疾患別の疫学的調査が必要である.
キーワード 東日本大震災,岩手,認知症,いわて震災医療支援ネットワーク
論文名 岩手県の被災状況とその対応 ─ 高齢者のこころのケアを中心に ─
著者名 大塚耕太郎,酒井明夫      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):155-164,2012
抄録 東日本大震災により,岩手県沿岸一帯が被災し,高齢者を含めた地域住民の多くが健康問題や生活問題を抱えている.岩手県では県内外からこころのケアチームの派遣を受け,避難所や仮設住宅を中心とした訪問や相談室での相談対応を中心にこころのケアを実施する体制を構築してきた.加えて高齢者のケアとしては健康づくりにかかわっている従事者を中心としてサロン活動や保健事業を実施し,中長期的なこころのケアを開始している.
キーワード こころのケア,高齢者ケア,災害医療,東日本大震災,災害精神医学
論文名 宮城県の被災状況とその対応
著者名 佐藤宗一郎,樹神 學      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):165-168,2012
抄録 東日本大震災で宮城県沿岸部は壊滅的な被害を受けた.気仙沼・石巻保健所管内では全医療機関の22%が休廃止となった.震災のなか,地域で機能していたほぼ唯一の精神科病院として当院が経験した状況について報告する.震災直後1か月で外来新患数は719人,新入院患者数は72人であった.高齢者ではF0,F3の診断が多く,せん妄やうつ,躁に注意が必要であった.震災に対しては,日頃の準備と備蓄,心構えが重要である.
キーワード 東日本大震災,災害医療,精神科病院,被災,宮城県沿岸部,高齢者
論文名 宮城県の被災状況とその対応 ─ 仙台市を中心に ─
著者名 山崎英樹      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):169-172,2012
抄録 災害時には,要介護者,とりわけ認知症高齢者の緊急入所のニーズがきわめて高くなり,しかもその家族や職員まで介護施設に避難してくる.したがって既存の介護施設は,災害時の介護(福祉)避難所として想定されるべきであり,その自覚とともに,物資の配給やライフラインの優先復旧など,地域の防災計画にもあらかじめ反映されていることが望ましい.
キーワード 東日本大震災,仙台市,避難所,介護施設
論文名 福島県の被災状況とその対応
著者名 小林直人,丹羽真一      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):173-177,2012
抄録 福島県は地震,津波の被害にとどまらず大規模な原発事故を経験することとなった.住み慣れた土地が警戒区域に指定された高齢者は避難生活を余儀なくされ,仮設住宅などに転居し新たな生活をスタートさせている.しかし,避難や仮設住宅入所に伴ってうつや認知症発症などのさまざまな問題が生じている.そのため,仮設住宅を中心とした高齢者のサポート拠点の設置や医療提供が期待されており,ニーズにかなう対策が徐々に整備されつつある.
キーワード 東日本大震災,原発事故,認知症,うつ,仮設住宅
論文名 福島県の被災状況とその対応 ─ 被災病院の現場から ─
著者名 田子久夫,菅野智美,天羽正志,金子義宏,本田教一      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):178-180,2012
抄録 東日本大震災では福島県も主たる被災地となったが,いわき市にある舞子浜病院は,地震と津波の両者に襲われ,病院機能が一時停止するまでに至った.原発事故の影響もあり復旧活動には大きな障害となったが,病院で被災した患者全員が無事であったことで比較的早期に達成することができた.復旧にはライフラインと物資供給の安定化,避難手順の策定と訓練,他の施設との連携ならびに従事者のメンタルケアの重要性が強く認識された.
キーワード 東日本大震災,津波被災,精神科病院,震災復興
論文名 災害派遣・医療支援レポート ─ 宮城県南三陸町からのレポート ─
著者名 矢田部裕介,藤瀬 昇,池田 学      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):181-184,2012
抄録 東日本大震災で,筆者らは熊本県災害派遣保健医療チームに帯同し,宮城県南三陸町における精神医療支援活動に従事した.震災亜急性期の支援活動では,認知症患者の呈するせん妄や徘徊への対応が老年精神医学に求められるニーズの中心であった.介護保険制度が機能停止した状況下では,認知症高齢者の廃用症候群や見守りへの対応が困難な一方で,既存の認知症地域ネットワークや認知症サポーター制度などが災害時にも有用性を発揮する状況もあった.
キーワード 東日本大震災,災害派遣,認知症,保健師,集団避難
論文名 災害派遣・医療支援レポート ─ 宮城県気仙沼市からのレポート ─
著者名 内田貴光,深津 亮      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):185-190,2012
抄録 東日本大震災の発生後11日目となる平成23年3月22日から25日まで,東日本大震災によって被害を受けた宮城県気仙沼市の医療支援に従事した.業務内容は,精神科単科病院と避難所での支援であった.精神科単科病院では断薬による多様な症状がみられ,避難所では不安,不眠,急性ストレス反応が多かった.しかし,生々しいトラウマを体験しながらも自らの症状に無関心ないしは軽視する特有の心理的傾向が認められた.高齢者では,夜間せん妄出現例や認知症症状が顕在化した例などがみられた.地域の特性,時期に合わせた支援,支援者へのメンタルケア,新しい医学記録の保存法の開発,指揮の一元化,災害精神医学の教育などが今後の課題といえる.
キーワード 東日本大震災,津波,災害派遣,気仙沼市,高齢者
論文名 被災者の受け入れの支援活動 ─ 山形市からのレポート ─
著者名 川勝 忍      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):191-194,2012
抄録 東日本大震災で山形県は大きな被害を免れたため,隣県として被災者の受け入れを行ってきた.震災直後は,ほとんど医療情報がないままで受け入れざるを得ない介護保険施設もあり混乱がみられた.避難所における高齢者の問題として,認知症の顕在化,反応性の衝動行為などがみられた.また,今回の震災では福島原発事故による影響も大きく,山形県への避難転居者の9割以上が福島県からの方であり,なお今後の対応が必要とされる.
キーワード 山形県,山形市,東日本大震災,避難所,福島原発事故
論文名 被災者支援活動 ─ ケアスタッフの活動レポート ─
著者名 加藤伸司,阿部哲也,矢吹知之,吉川悠貴      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):195-198,2012
抄録 東日本大震災では,岩手,宮城,福島で500人を超える施設利用者とスタッフが亡くなっているが,多くの命を救ったケアスタッフも多い.施設の認知症高齢者は,避難行動に対しては混乱が少なかったものの,災害後の環境の変化が大きな影響を与えている.また震災後は,ライフラインが途絶えて物資も少ないなか,さまざまな工夫をして利用者の命をつないでいる.しかし,ケアスタッフのなかにはPTSDの症状を呈している人たちも多く,今後の継続した支援が望まれる.
キーワード 東日本大震災,ケアスタッフ,避難行動,認知症高齢者,PTSD
論文名 大震災避難生活者にみられる精神医学的諸問題 ─ 被災入院患者のグループ・ミーティング(フクシマ双葉会)の活動;中間報告 ─
著者名 一瀬邦弘,佐々木康友,山本麻衣子,土居大祐,板垣昭子,上水流知代,鈴木孝男,伊藤健一,佐藤さゆり,高橋省一      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):199-203,2012
抄録 平成23年3月12日政府によって,東京電力福島第一原子力発電所つまりグラウンド・ゼロから4.5 kmにある博文会 双葉病院に避難命令が出され,いくつかの場所を経由して患者が避難した.いわき開成病院の湯川泰一院長の言葉によれば「まさに脱出だったのです」という.東京都多摩市にある当院は20人を受け入れた.われわれは,その20人を1グループとしてグループ・ミーティングを繰り返し,集団精神療法を行った.フクシマ双葉会と名づけられたミーティングは,ゆっくりと成長し緩い結合を形成した.1年間近くを経過し1/4の患者が退院し,今,一時帰院を期待している.
キーワード 原発事故,双葉病院,避難生活,自殺予防,集団精神療法
論文名 災害精神医療の現状 ─ 老年精神医学領域の問題点と課題 ─
著者名 粟田主一      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):204-208,2012
抄録 災害精神医療における老年精神医学領域の課題として以下の3点を挙げた.・認知症高齢者や虚弱高齢者は災害時に特別な対応が求められるハイリスク集団として,その対応策を防災計画に含める.・多彩な精神症状,認知症の顕在化と増悪,身体状態の悪化に迅速に対応するための環境整備を進める.・“顔の見える”連携,普及啓発や研修会,社会資源整備,うつ病と自殺の予防を含む新たなコミュニティーの創出が中長期的課題である.
キーワード 東日本大震災,災害精神医療,認知症,うつ病,自殺,コミュニティー
論文名 地域高齢者における年収および暮らし向きと心理的健康指標との関連
著者名 藤原佳典,小林江里香,深谷太郎,西真理子,斉藤雅茂,野中久美子,稲葉陽二,福島富士子,星 旦二,新開省二      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):211-220,2012
抄録 健康を規定する社会的因子における経済状況を客観的な年収と主観的な暮らし向きでみた場合の心理的健康との関連を比較検討した.埼玉県和光市在住の65歳以上住民9,800人より無作為抽出した2,528人に対して,郵送調査を実施し,70.1%の有効回答を得た.多重ロジスティックモデルにおいて「抑うつ傾向あり」と「将来への不安強い」を従属変数とした場合には,独立変数の基準カテゴリー300万円以上に対してそれ以下のオッズ比はおのおの有意であった.次に暮らし向きを追加投入した結果,基準カテゴリー「ややゆとりあり以上」群に比べて,「どちらともいえない」群,「やや苦労以下」群のオッズ比はともに有意であったが年収区分の有意差は消失した.「健康度自己評価低い」を従属変数とした場合には,暮らし向きが「やや苦労以下」群のオッズ比のみ有意であった.高齢者においては年収区分よりも主観的な暮らし向きのほうが心理的健康指標と強い関連を示す可能性が示唆された.
キーワード 抑うつ傾向,将来不安,健康度自己評価,年収,暮らし向き
論文名 認知症高齢者を在宅介護する介護者の介護負担感に影響する要因
著者名 梶原弘平,辰己俊見,山本洋子      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(2):221-226,2012
抄録 在宅で認知症高齢者を介護している介護者の介護負担感に影響を及ぼす要因を検討した.デイサービス,デイケア,訪問看護ステーション等を利用している認知症高齢者を在宅で介護する主介護者705人を対象者として,郵送法による調査を行い343人の有効回答を得た.対象者の属性は,介護者の平均年齢は63.9(±11.5〈SD〉)歳,平均介護年数は5.1(±4.1)年であった.認知症高齢者の平均年齢は84.7(±7.4)歳であった.介護負担感に,BPSDの症状である易怒(β=0.218,p=0.000),異常行動(β=0.150,p=0.006),興奮(β=0.149,p=0.012),うつ(β=0.123,p=0.021)が有意に影響していた.本研究の結果から,介護負担感をとらえるうえでは,認知症高齢者のBPSDの症状を正確に把握することが重要であることが示唆された.
キーワード 認知症高齢者,介護者,介護負担感