2012 Vol.23 No.12
 
 
第23巻第12号(通巻295号)
2012年12月20日 発行
 
 
 
巻 頭 言
わが国の高齢者の終末期医療,緩和医療,延命処置について考える
葛原茂樹 1400
特集:認知症の人のQOLを再考する
特集にあたって
粟田主一 1403
認知症の人のQOLをどう評価するか
岩佐 一 1406
認知症の薬物治療とQOL評価
八森 淳 1416
認知症の人の日常生活支援とQOL
松田 修 1423
認知症患者の在宅医療とQOL
三浦久幸 1431
認知症の終末期ケアとQOL
 ── 倫理的視点から
箕岡真子 1436
認知症の家族介護者への支援と介護者のQOL
宮永和夫 1443
原著論文
一般地域住民における家族に認知症症状がみられた際の受診促進意向と認知症の知識量との関連
杉山 京・中尾竜二・澤田陽一・桐野匡史・竹本与志人 1453
健常高齢者における抑制機能の特異性
加藤公子・中村昭範・倉坪和泉・伊藤健吾 1463
文献抄録
北村 伸 1472
書  評
「家族が高齢者虐待をしてしまうとき」
松田 修 1473
第28回日本老年精神医学会 一般演題募集要項 
学会NEWS
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平成25年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ  
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第23巻(2012年)総目次
編集後記
 
論文名 認知症の人のQOLをどう評価するか
著者名 岩佐 一  
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(12):1406‐1415,2012
抄録 本稿は,認知症の人の生活の質(QOL)の評価方法について論じた.まず,保健・医療領域で用いられているQOLの概念や特徴について述べた.次いで,認知症の人特有のQOLの概念枠組みや問題点について論じた.さらには,日本において認知症の人特有のQOLを測定可能な代表的な尺度を紹介した.
キーワード 生活の質(QOL),認知症の人,主観的QOL,客観的QOL
論文名 認知症の薬物治療とQOL評価
著者名 八森 淳
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(12):1416‐1422,2012
抄録 健康関連QOLなどの主観的なアウトカム指標が臨床でも重要視されてきている.しかし,認知症医療領域では健康関連QOLで薬物治療を評価している研究は少ない.EQ-5Dによる効用値で評価した前向きコホート研究では,ドネペジル塩酸塩の新規服薬群で治療前後の効用値の差は本人で0.122,介護者で0.117であり,統計学的に有意な改善を認めた.合わせて0.239QALYは,支払い意思額に基づいた効果として143万円となり,薬剤費(先発医薬品)の13万円を大きく上回る.今後の薬物治療の評価には主観的評価,経済的評価の両視点からQOL評価も加えていく必要がある.
キーワード 健康関連QOL,抗認知症薬,効用値,EQ-5D,医療経済
論文名 認知症の人の日常生活支援とQOL
著者名 松田 修      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(12):1423‐1430,2012
抄録 日常生活支援とは,生活機能障害によって生じたケアニードに焦点をあてた取組みである.その取組みには,本人に焦点をあてたものもあれば,本人を取り巻く環境に焦点をあてたものも含まれる.とくに,認知症の場合,本人の能力を改善して生活障害を改善し,QOLを高めることはしばしばむずかしい.それよりもむしろ,個人の能力に応じた適切な生活環境を提供することで,本人のQOLの維持・向上を図るほうが望ましい場合が少なくない.
キーワード 日常生活支援,個人要因,環境要因,心理教育,外的代償法
論文名 認知症患者の在宅医療とQOL  
著者名 三浦久幸      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(12):1431‐1435,2012
抄録 国内では在宅療養中の認知症の人を支える医療・介護サービスやその施策が着実に進められている.一方で,在宅医療を受けている認知症患者は,ADLが低いのみではなく,意欲の低下,低栄養状態など,さらなるケアが必要な人が多い現状がある.在宅認知症患者では,アウトカムをより明確にしたかたちでの適切なQOL指標を用いること自体ほとんど行われておらず,このため,本人へのケア,家族支援は,いまだ十分とはいえない状況にある.
キーワード 在宅医療,認知症,介護サービス,病診連携,高齢者総合的機能評価,終末期医療
論文名 認知症の終末期ケアとQOL ─ 倫理的視点から ─
著者名 箕岡真子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(12):1436‐1442,2012
抄録 認知症の人のQOLについて適切な議論をするためには,まず,さまざまな状況下でさまざまな用いられ方をしているQOLの基本概念を明確にすることが必要である.認知症の人のQOLの評価にあたっては,できるかぎりQOLの主観的要素,とくにその感情的側面に配慮する必要がある.また終末期ケアにおいては,「その人の」「そのときに」ふさわしい治療のゴールを再考し,緩和ケアのコンセプトを取り入れることでQOLの向上に寄与できる.そしてQOLだけではなく,QOLs,QWLにも配慮することが重要である.
キーワード QOL(quality of life),SOL(sanctity of life),終末期緩和ケア,QOLs(quality of lives),QWL(quality of working life)
論文名 認知症の家族介護者への支援と介護者のQOL
著者名 宮永和夫      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(12):1443‐1451,2012
抄録 認知症の経過を初期,中期,末期の3期に区分し,それぞれの時期に必要と思われる家族介護者支援の内容を述べた.家族介護者のQOLを改善する支援とは,診断・告知の初期から死別後まで,ステージ別にみられる種々の課題に対して多職種が協働して取り組むこと,いわゆる緩和ケアの実践によって,直接・間接的に家族介護者の介護負担やストレスを軽減することと考えられる.また,ステージが移っても,患者の治療と家族の支援は主治医が行うものであって,最初から最後まで,1人の医師または連携のとれた医師グループで継続することが望ましいと思われる.
キーワード 緩和ケア,介護保険,家族教育,死生教育,家族会
論文名 一般地域住民における家族に認知症症状がみられた際の受診促進意向と認知症の知識量との関連 
著者名 杉山 京・中尾竜二・澤田陽一・桐野匡史・竹本与志人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(12):1453‐1462,2012
抄録 本研究では,一般地域住民における自身の家族に認知症症状がみられた場合の受診促進意向と認知症に対する知識量との関連について検討することを目的とした.A市小地域ケア会議に属する福祉委員206人を対象とし,認知症の疑いのある家族への受診促進意向と認知症の知識量,これらに影響を及ぼすと考えられる要因について自記式で回答を求めた.解析には,質問項目に欠損値のない157人のデータを用いた.その結果,現在の認知症の啓発活動は,認知症の中期症状に対する受診を促進する可能性を示唆しているものの,早期の段階での受診を促進するものではない可能性が推測された.今後は,早期受診を促進するために有効な知識の内容の精査と正しい知識の付与の確認が求められる.
キーワード 認知症高齢者,受診促進意向,家族
論文名 健常高齢者における抑制機能の特異性
著者名 加藤公子・中村昭範・倉坪和泉・伊藤健吾
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(12):1463‐1470,2012
抄録 本研究は,加齢に伴う前頭葉抑制機能の低下が,課題特異的に生じるものか,あるいは全般的なものかを明らかにすることを目的に行った.健常な20人の若年者と17人の高齢者を対象に,ストループ課題,フランカー課題,サイモン課題を実施し,各課題の効果を比較した.ストループ効果,フランカー効果は課題関連刺激(インクの色/ターゲット文字)と課題無関連刺激(単語の読み/ノイズ文字)の干渉から起こり,サイモン効果は課題無関連刺激の空間位置とマニュアル反応の反応位置との干渉から生じる.その結果,サイモン効果は若年者よりも高齢者で大きく認められたが,ストループ効果,フランカー効果では加齢変化は有意レベルに達しなかった.これらの結果は,課題無関連情報である刺激呈示位置と反応ボタンの位置との干渉を解消するための抑制処理が,刺激間の干渉処理よりも,加齢の影響を強く受けて低下することを示唆する.
キーワード 抑制機能,加齢,ストループ課題,フランカー課題,サイモン課題