2012 Vol.23 No.11
 
 
第23巻第11号(通巻294号)
2012年11月20日 発行
 

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巻 頭 言
精神医学と神経病理 ─ 絶滅危惧種からの復興 ─
天野直二 1288
特集:高齢者の精神科臨床
高齢者の精神疾患とその治療
斎藤正彦 1291
高齢者の精神科外来診療の現状と課題
 ── クリニックの立場から
植木昭紀,角野美耶子,清水まき,鈴木康子 1297
高齢者の精神科外来診療の現状と課題
 ── 総合病院外来の立場から
井上雅之・中嶋義文 1304
高齢者の身体疾患入院治療における精神医学的課題
 ── 措置入院の運用と患者の臨床特性
湯本洋介,新里和弘,斎藤正彦 1316
身体救急における高齢者の精神医学的問題
岡村 毅・松原全宏・笠井清登・粟田主一 1323
NTT東日本関東病院しあわせプログラムの紹介
河口英子・秋山 剛・齋藤正明・荒木聡子・原田とも子 1329
原著論文
認知症を対象とした精神科急性期治療病棟における向精神薬の必要性
 ── 人権擁護とBPSD短期治療との両立を目指して
水野 裕 1335
症例報告
高齢者せん妄に伴う問題点と課題
 ── 在宅でせん妄を発症した2症例
笹田美和・石田 徹・瀬義昌・小山恵子・荒井 稔 1343
基礎講座
老年精神医学と神経心理学・情動障害
加藤 隆 1351
第28回日本老年精神医学会 一般演題募集要項 
学会NEWS
第28回日本老年精神医学会開催のご案内
平成25年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ  
学会入会案内
バックナンバーのご案内
編集後記
 
論文名 高齢者の精神疾患とその治療
著者名 アルフォンス・デーケン  
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1291‐1296,2012
抄録 高齢者の受療率は,入院,外来とも他の年齢層を大きく上回っている.こうした現象については,自己負担無料化等の経済的な要因が大きいことが知られているが,これを,老いに対する社会心理的な構えの変化といった文脈でとらえる論者もある.高齢者の精神科外来では,気分障害,神経症性障害,睡眠障害等の受療率が他の年齢より高く,その背景にある老いへの不適応を見逃さないことは治療上重要な視点である.入院に関しては,認知症はいうまでもなく,統合失調症の受療率が依然として高く,こうした患者への配慮が重要である.
キーワード 高齢者,医療費,受療率,精神疾患,老い
論文名 高齢者の精神科外来診療の現状と課題 ─ クリニックの立場から ─
著者名 植木昭紀,角野美耶子,清水まき,鈴木康子,中島千晴
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1297‐13030,2012
抄録 認知症を専門に完全予約制の診療を行う筆者らのクリニックの受診相談や新規受診者を対象に調査を行った.筆者らのクリニックは家族や医療機関などからの依頼による認知症の早期診断,認知症疾患の鑑別診断や専門的治療,家族指導や社会資源の情報提供といった介護支援に貢献しているといえる.今後の課題として,身体合併症や認知症の行動・心理症状を含めた精神症状に対する入院治療が可能な医療機関との密な連携,個別ケアや介護支援のための地域包括支援センターや在宅介護支援センターなどの公的機関との協力体制の構築,さらに訪問診療や専門性の高い精神科訪問看護の整備が必要である.
キーワード 精神科クリニック,老年期精神障害,認知症,医療連携,地域連携
論文名 高齢者の精神科外来診療の現状と課題 ─ 総合病院外来の立場から ─
著者名 井上雅之,中嶋義文      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1304‐1309,2012
抄録 総合病院精神科外来における高齢者臨床の現状と課題を,疾患構成,治療経過,医療連携,地域連携の観点から分析,検証した.当院は,「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」に策定された「身近型」認知症疾患医療センターとしての色彩が強い.施設から地域へという新たな認知症ケアパスの実践のために,早期診断,早期支援,そして危機回避支援など,新たに求められる課題も大きい.
キーワード 総合病院,認知症,外来診療,メモリークリニック,地域連携
論文名 高齢者の身体疾患入院治療における精神医学的課題 
著者名 古田 光      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1310‐1315,2012
抄録 高齢入院患者における認知症・せん妄はともに身体疾患の治療を妨げる要因となる.身体疾患治療を安全かつ円滑に行うには,精神医学的評価と対応が必要であるが,それをだれが担うかが課題である.精神科リエゾンチームは診療報酬上の評価も含めて一つの方法であるが,精神科病院・診療所に勤務する精神科医師が,一般身体科病棟に出向き専門性を発揮するのを後押しするようなシステムも求められる.
キーワード 認知症,せん妄,合併症医療,認知症疾患医療センター,精神科リエゾンチーム
論文名 精神科救急における高齢者 ─ 措置入院の運用と患者の臨床特性 ─
著者名 湯本洋介,新里和弘,斎藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1316‐1322,2012
抄録 本論においては近年の措置入院患者数,とくに高齢者の動向,ならびに東京都立松沢病院における高齢救急患者の臨床特性について考察を行った.措置入院全体に占める高齢者の割合が漸増傾向にあることが示され,精神科救急の場で自傷他害の危険性の高い高齢者に遭遇する機会が今後増えることが予測された.高齢者には認知症や身体合併症など特有な病態があり,精神─身体の両面を含めた診断と治療のスキルがわれわれに求められる.また精神科救急で有意な増加を示す高齢統合失調症に関する考察も行った.
キーワード 精神科救急,措置入院,高齢者,統合失調症
論文名 身体救急における高齢者の精神医学的問題
著者名 岡村 毅,松原全宏,笠井清登,粟田主一      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1323‐1328,2012
抄録 社会のさらなる高齢化とともに,身体救急と高齢者の問題は今後の重要課題になると思われる.本稿では,高度救命救急医療および一般救急医療における高齢者の精神医学的問題に関して,先行文献を踏まえて現状を記述するとともに若干の考察を加えた.高齢者の,とりわけ認知症を合併する場合の身体救急医療のよりよい体制を構築していくことが必要であるが,さまざまな問題を内包している.
キーワード 救急医療,高齢者,認知症,救命救急センター
論文名 NTT東日本関東病院しあわせプログラムの紹介
著者名 河口英子,秋山 剛,齋藤正明,荒木聡子,原田とも子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1329‐1333,2012
抄録 NTT東日本関東病院では,2008年10月から精神神経科,リハビリテーション科,神経内科,総合相談室の4科が連携し「関東病院しあわせプログラム」を行っている.本プログラムは,認知症の非常に早期の段階にある患者と介護者を対象に,多面的な機能評価と介入(回想法・運動療法・家族相談)を行う包括的なプログラムである.本稿では,本プログラムについて紹介し,各科からみたプログラムの効果と課題について考察した.
キーワード 軽度認知症,回想法,運動療法,家族相談
論文名 認知症を対象とした精神科急性期治療病棟における向精神薬の必要性 ─ 人権擁護とBPSD短期治療との両立を目指して ─
著者名 水野 裕
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1335‐1342,2012
抄録 従来,精神科病院では,BPSDの軽減のために隔離,身体抑制,向精神薬使用を中心とした治療がなされてきたが,パーソン・センタード・ケアをはじめとする,認知症の人への尊厳の重視が叫ばれ,さらに,向精神薬によって生命予後が悪化する,脳血管障害のリスクが上昇するという報告もある現在,最低限の向精神薬の投与や,隔離,抑制を極力行わない等の配慮が求められている.今回,BPSDのある認知症者を対象とした,精神科急性期治療病棟において,短期間でのBPSDの治療や在宅復帰は可能であったか,それらは入院前と比べてより多くの向精神薬を必要としたかについて,12か月の実績から検証した.結果は,入院前の向精神薬を増量せずに短期間でBPSDが改善し,在宅復帰が可能であった.これは,過剰な向精神薬の投与を避け,身体能力の低下が避けられたことも要因のひとつと考えられた.
キーワード 精神科急性期治療病棟,認知症者,パーソン・センタード・ケア,向精神薬,BPSD
論文名  高齢者せん妄に伴う問題点と課題 ─ 在宅でせん妄を発症した2症例 ─
著者名 笹田美和・石田 徹・瀬義昌・小山恵子・荒井 稔    
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(11):1343‐1348,2012
抄録 わが国では認知症患者が年々増加し,老老介護や単身高齢者の孤独死の問題等,高齢者が安全に在宅生活を送るための支援体制の整備が急務である.高齢者は加齢という準備因子のみでせん妄を発症する場合も少なくなく,在宅におけるせん妄は入院加療時以上に大きな問題を伴う.今回,訪問診療を提供する筆者ら(たかせクリニック)は,在宅で発症したせん妄2症例を経験したので報告する.同時に在宅医療において,せん妄の早期診断・早期治療を可能にするため,訪問診療にかかわるスタッフ教育および家族・介護者教育とその支援の重要性等,今後の課題を提起したい.
キーワード せん妄,在宅医療,早期診断・早期治療,せん妄に関する教育,訪問看護師