2012 Vol.23 No.10
 
 
第23巻第10号(通巻293号)
2012年10月20日 発行
 

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巻 頭 言
若手精神科医からみた老年精神医学について考える
山本泰司 1172
特集:老年精神医学と死生観
よく生き よく笑い よき死と出会う ―― 超高齢社会の死生観
アルフォンス・デーケン 1175
「かなしみ」と「さようなら」 ── 日本人の死生観の一考察
竹内整一 1181
キューブラー=ロスにおける「死の受容」 ── 今,どう読むか
堀江宗正 1187
死生を支えるコミュニティの開発
山崎浩司 1194
「終末期」医療と在宅緩和ケア
石谷邦彦 1201
認知症をめぐる臨床的な諸問題 ── 高度(重度)の認知症にも目を向けよう
黒澤 尚 1208
高齢者の終末期医療をめぐる法的諸問題
 ── 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン
     人工的水分・栄養補給の導入を中心として
小此木清 1218
高齢者の終末期医療およびケア ── 日本老年医学会の立場から
飯島 節 1225
原著論文
認知症の分類と認知症短期集中リハビリテーションの評価とその後のケア
内野善生・阿部和人・茂呂友紀子・西片ふみか 1233
調査報告
石川県立高松病院における認知症高齢者の時間外入院について
北村 立・北村真希・武内香織・倉田孝一 1246  
基礎講座 老年精神医学と神経心理学I
遂行機能障害
田渕 肇 1253  
文献抄録 
松田 修 1261
学会NEWS
日本老年精神医学会「生涯教育講座」開催のお知らせ  
学会入会案内
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編集後記
 
論文名 よく生き よく笑い よき死と出会う ─ 超高齢社会の死生観 ─
著者名 アルフォンス・デーケン  
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1175‐1180,2012
抄録 死を見つめることは,そのまま自分に頂いたいのちを最後までどう大切に生き抜くのか,自分の生き方を絶えず問い直し,行動していくことと考える.日本人の平均寿命の延長につれて,いかに意味のある老年期を送るかという課題が,超高齢社会に向けての主要な課題として浮上してきた.多くの人は退職後,2,30年に及ぶ老年期を過ごす.人生の約3割を占める,この期間をどう生きるのか,人生について深く考察し,発想の転換を薦めたい.
キーワード 死への準備教育,生命や生活の質,悲嘆教育,生きがい,ユーモア
論文名 「かなしみ」と「さようなら」 ─ 日本人の死生観の一考察 ─
著者名 竹内整一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1181‐1186,2012
抄録 日本人の死生観を,「かなしみ」の感情と「さようなら」という別れ言葉において考察する.「かなし」とは,「みずから」の「〜しかねる」有限性・力及ばなさを感じとる感情で,そこでは「おのずから(神・仏)」の超越的な働きを感じとることもできる.また,「さようなら」という挨拶は,その時点までの来し方を「さようであるならば」と総括・確認することによって,わからない未来に移ることができるという含意をもつ.
キーワード かなしみ,安心,「おのずから」と「みずから」のあわい,一隅,さようなら
論文名 キューブラー=ロスにおける「死の受容」 ─ 今,どう読むか ─
著者名 堀江宗正      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1187‐1193,2012
抄録 死にゆく過程の5段階説を唱えたキューブラー=ロスは,アメリカでは「死の認知運動」の主導者とみなされ,告知率が上がった1970年代にスピリチュアルな傾向を増すと注目されなくなった.日本では告知率が上がった2000年代に理想的な「死の受容」を説いた人物として取り上げられるようになった.しかし,彼女は患者を受容に導こうとする姿勢に反対であった.また,「よき」死の自己決定を迫るようなシステムにも抵抗していた.
キーワード キューブラー=ロス,ターミナル・ケア,死の受容,自己決定,尊厳死
論文名 死生を支えるコミュニティの開発
著者名 山崎浩司      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1194‐1200,2012
抄録 人が健康的に死に向かえ,看取れ,死別を悲しめるコミュニティの開発を検討する.「共感都市」「持続可能な福祉社会」「コンパクトシティ」の3つのコミュニティ論を手がかりに,現代日本人が少なからず陥っている社会的孤立を,住民同士の交流を基盤に地域の共感の倫理と相互扶助力を強化することで,解消しうるようなコミュニティ開発の理念と方策を考察する.共感的で相互支援的な地域コミュニティの成立は,死や死別を隠蔽しない社会を創出する.
キーワード 死生,コミュニティ,共感都市,持続可能な福祉社会,コンパクトシティ
論文名 「終末期」医療と在宅緩和ケア
著者名 石谷邦彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1201‐1207,2012
抄録 終末期医療は緩和ケアの一環である.しかし日本では終末期すなわち臨死期の医療についての学際的議論は少なかったようである.この時期の患者の身体症状,精神・心理学的症状と家族の心理過程の系統的研究と集積が必要である.そこで経験的見地から終末期患者の特徴的な臨床症状とその対処法,家族の心理的支援について概説する.加えて在宅緩和ケアにおける終末期のあり方を提言する.
キーワード 終末期医療,在宅緩和ケア,意志決定プロセス,臨死期の症状,悲嘆のケア
論文名 認知症をめぐる臨床的な諸問題 ─ 高度(重度)の認知症にも目を向けよう ─
著者名 黒澤 尚      
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1208‐1217,2012
抄録 認知症は軽度から高度(重度)までの段階があるにもかかわらず,認知症と一括りに述べられていることが多い.その内容は軽度の世界中心であり,会話が成立しない人や認知症の人に併存するせん妄の話を目にすることは少ない.そこで,「頑張ろう! 精神科医」との立場から,高度(重度)の世界にも目を向けようと現状の問題点を指摘するとともに自験データについても述べる.
キーワード 認知症,BPSD,HDS-R,在宅介護
論文名 高齢者の終末期医療をめぐる法的諸問題
 ─ 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄養補給の導入を中心として ─
著者名 小此木清
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1218‐1224,2012
抄録 日本老年医学会は,「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」をもって,高齢者の終末期における人工的水分・栄養補給(AHN)について導入や中止・差し控えなどを判断する際の指針とした.ガイドラインに沿って胃瘻栄養法を終了して高齢者本人の死をもたらした場合,司法が介入することは,実際上あり得えないとする.たしかに,ガイドラインは,AHN差し控えという判断をする社会通念の醸成に重要な役割を果たすであろう.しかし,高齢者本人の自己決定権,とくに事前の意思を第一に尊重したかどうか,さらに事後において,意思決定プロセスをたどって合意に至った経過事実を検証し,その過程を可視化することが,やはり必要である.
キーワード 自己決定権,ガイドライン,胃瘻,終末期,尊厳死,可視化
論文名 高齢者の終末期医療およびケア ─ 日本老年医学会の立場から ─
著者名 飯島 節
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1225‐1231,2012
抄録 「『高齢者の終末期の医療およびケア』に関する日本老年医学会の『立場表明』2012」および「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン;人工的水分・栄養補給の導入を中心として」に沿って,高齢者の終末期医療およびケアのあり方について述べた.最善の医療およびケアを受ける権利を擁護するために,治療の差し控えや中止も含めて,関係者間で十分な話し合いを行い,皆が納得できる合意形成とそれに基づく選択と決定を目指すべきである.
キーワード end-of-life care,decision-making process,the Japan Geriatrics Society,artificial hydration and nutrition
論文名 認知症の分類と認知症短期集中リハビリテーションの評価とその後のケア
著者名 内野善生・阿部和人・茂呂友紀子・西片ふみか    
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1233‐1245,2012
抄録 本研究は認知症短期集中リハビリテーション(「認知リハ」)の軽度認知症対象者への効果の検証である.対象は筆者らの施設に入所する30人(脳血管型〈VaD〉11人,アルツハイマー型〈AD〉12人,レビー小体型〈DLB〉2人,その他の精神疾患5人)である.「認知リハ」の手法は,介護施設で可能な回想法,学習法,作業と創作活動等で,1回20分,週3回,3か月間継続した.結果は,「認知リハ」はVaDの認知機能回復に有用であり,「認知リハ」開始前と開始後で比較するとその改善は統計的に有意であったが,他のグループでは効果があってもVaDに比較すると弱く有意差はみられなかった.「認知リハ」へ取り組む意欲もVaDが他のグループに比較して高い傾向があった.一方,「認知リハ」は認知症の主症状のひとつである情動活動や行動の減退を回復させる効果があり,この効果はほとんどすべてのタイプの認知症にみられた.「認知リハ」終了後,情動・認知機能を維持することはむずかしく,施設内のクラブ活動(音楽,料理,園芸,書道と絵手紙,将棋,手芸)に導入できた対象者は情動・認知機能ともに比較的よく維持できた.
キーワード 認知症短期集中リハビリテーション,血管性認知症,アルツハイマー型認知症,可塑性,認知症ケア
論文名 石川県立高松病院における認知症高齢者の時間外入院について 
著者名 北村 立・北村真希・武内香織・倉田孝一 
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(10):1246‐1251,2012
抄録 超高齢社会を迎えたわが国において認知症対策は急務である.そのなかで,BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)への24時間対応体制の構築は重要な課題のひとつであるが,わが国には認知症の時間外入院に関する報告はない.そこで筆者らは石川県立高松病院へ時間外に入院した認知症高齢者の特徴を検討した.2009年1月〜2011年12月の3年間に517人の認知症患者が入院し,うち31人が時間外入院であった.これらを通常の時間帯に入院した486人と比較したところ,レビー小体型認知症(DLB)が61.3%と多く,介護老人施設からの入院が多く,在院期間に差はないなどの結果を得た.DLBに関する知識を啓発することにより夜間や休日などの救急対応を減少できる可能性がある.また24時間体制の拠点病院があれば,重症の認知症患者でもぎりぎりまで介護老人施設で対応できる可能性があると考えられた.
キーワード 高齢者,認知症,レビー小体型認知症,時間外対応,地域連携