2011 Vol.22 No.8
 
 
第22巻第8号(通巻277号)
2011年8月20日 発行
 

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巻 頭 言
父と「名医」
西村 浩 898
特集:超高齢社会における精神病像の新しい側面
高齢者の統合失調症 ─ 特徴とその周辺
宋 敏鎬・濱田秀伯 901
高齢者の妄想性障害 ─ 特徴とその周辺
上田 諭 906
高齢者の躁状態 ─ 二次性躁病とその周辺
新里和弘 914
高齢者のうつ状態 ─ 多元的アプローチ
木村真人 920
高齢者の不安障害
笠原洋勇 928
高齢者の身体表現性障害 ─ とくに疼痛性障害とその周辺
松山賢一 ほか 935
高齢者のてんかん ─ とくに側頭葉てんかんとの関連について
伊藤ますみ 941
原著論文 
Free and Cued Selective Reminding Test 日本語版作成とその有効性について
田村 至 949
短  報 
専用端末によるADAS-J cog実施支援システムの導入
平井茂夫 955
連  載 
認知症臨床に役立つ生物学的精神医学(11)認知症のバイオマーカー
光田輝彦 ほか 961
書  評 
長谷川和夫「認知症と長寿社会;笑顔のままで」
学会NEWS
第27回日本老年精神医学会開催のご案内
平成24年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ
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学会入会案内
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編集後記
論文名 高齢者の統合失調症 ─ 特徴とその周辺 ─
著者名 宋 敏鎬,濱田秀伯
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):901-905,2011
抄録 高齢に至った統合失調症は,晩期寛解,老化による認知機能低下などに修飾され認知症と区別がつきにくい側面がある.病像は陰性症状に覆われているが,発病以来の感覚過敏,アンビヴァレントな対人関係,身体器官をめぐる妄想加工,アンテ・フェストゥム構造,記銘力が保たれながら時間構造の未来方向への変容など,認知症とは異なる特徴もある.より有効な薬物の開発と,患者に確かな居場所を与え,生きる意味をもたらす精神療法が必要である.
キーワード schizophrenia,dementia,aging,geriatric psychiatry
論文名 高齢者の妄想性障害 ─ 特徴とその周辺 ─
著者名 上田 諭
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):906-913,2011
抄録 操作的診断と治療アルゴリズムが隆盛の現代において,診断分類の確立しない高齢者の疾患をどう理解し治療するかは,ますます重要な問題である.高齢者の妄想性障害は,操作的診断では妄想型統合失調症とできる例も多いが,「遅発パラフレニー」「接触欠損パラノイド」の概念でとらえることが病像理解と治療的観点に大きな利点をもつ.また,精神病性の特徴をもつ大うつ病と操作的に診断される症例のなかに「退行期メランコリー」とみるべき症例があり,これを気分障害としてではなく妄想性障害としてとらえることが同様に臨床上有益であると考えられる.また,幻覚と妄想を呈する認知症としてレビー小体型認知症(DLB)が近年注目されるが,その鑑別においては,DLBの診断により厳密さが求められるべきである.
キーワード delusional disorder,late paraphrenia,Kontaktmangelparanoid,involutional mel- ancholia,dementia with Lewy bodies
論文名 高齢者の躁状態 ─ 二次性躁病とその周辺 ─
著者名 新里和弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):914-919,2011
抄録 高齢者の躁病・躁状態は少なくないとされ,とくに身体疾患や薬剤などの外的要因によって引き起こされる二次性躁病は高齢初発の躁病として出現しやすいことが知られている.本稿では前半で高齢発症の躁病・躁状態の臨床症状についてまとめを行い,後半で二次性躁病についてその特徴,原因疾患,治療などについて記述を行う.
キーワード 高齢者,躁病,躁状態,二次性躁病,躁性仮性認知症
論文名 高齢者のうつ状態 ─ 多元的アプローチ ─
著者名 木村真人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):920-927,2011
抄録 高齢者のうつ状態は多要因性で異種性の集まりであるが,老化による当然な状態として治療が必要なうつ病を見逃してはならない.薬剤性を含めた器質的(身体的)要因や心理社会的要因の影響が強く,臨床的には仮面うつ病の形態が目立ち,DSMによるうつ病診断が困難な場合も少なくない.しかし,自殺や身体疾患の悪化,認知症への移行などを予防するためにも適切な診断と多要因性を考慮した治療的アプローチが必要である.
キーワード 高齢者うつ病,死別反応,身体因性うつ病,アパシー,治療
論文名 高齢者の不安障害
著者名 笠原洋勇
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):928-934,2011
抄録 高齢者の平均寿命は延伸し,高齢化率も増加をたどる状況下で,不安障害の罹患期間の長期化,治療困難例の増加,放置されたままの症例など,高齢者に対する対応策は不十分であり,新たな取組みが期待される.固定化した不安,長生きが故に発生する不安を改善できないにもかかわらず,寿命は延長し続けている現状にもっと目を向ける必要がある.75〜80歳以上の高齢者を対象とした精神医学の構築が求められている.
キーワード 高齢者,パニック障害,全般性不安障害,強迫性障害,社会不安障害
論文名 高齢者の身体表現性障害 ― とくに疼痛性障害とその周辺 ―
著者名 松山賢一,長谷川典子,川又敏男,前田 潔
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):935-940,2011
抄録 身体表現性障害とは,執拗に身体症状を訴え,身体疾患によって完全に説明できないが,苦痛が著明で社会的,職業的に障害が引き起こされる障害をいう.高齢者の場合には,ある程度の身体疾患が認められたり長期化することがあるため重要である.なかでも疼痛性障害は治療抵抗性を示すことが多い.高齢者の身体的愁訴は日常診療でよく見かける.身体的原因だけで説明できない身体的愁訴,身体表現性障害が多い.本稿では身体化に視点をおいて,その多くを占める身体表現性障害の概念,DSM-Wとの関連,高齢者における身体化,治療法について簡単にまとめた.最後に治療に難渋した高齢者の疼痛性障害の症例を紹介し若干の考察を付け加えた.
キーワード 高齢者,身体表現性障害,身体化,疼痛,認知行動療法
論文名 高齢者のてんかん ─ とくに側頭葉てんかんとの関連について ─
著者名 伊藤ますみ
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):941-946,2011
抄録 てんかんの発症率は60歳以降より上昇する.その病因には脳血管障害や認知症などがあるが,不明な例も少なくない.部分てんかん,とくに側頭葉てんかんが多い.高齢者の発作症状は非定型的であり,特異な病像を示すことがある.健忘が挿間性に反復出現する一過性てんかん性健忘や,明らかな発作を伴わず持続性に記憶障害を呈する例があり,認知症と見誤られやすい.自律神経症状を伴う例ではパニック発作や心疾患との鑑別が必要である.
キーワード 高齢発症てんかん,側頭葉てんかん,一過性てんかん性健忘,認知症,自律神経発作
論文名 Free and Cued Selective Reminding Test  日本語版作成とその有効性について
著者名 田村 至
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):949-954,2011
抄録 軽度認知障害のスクリーニング検査として欧米で使用されているFree and Cued Selective Reminding Test(FCSRT)の日本語版を開発し,その信頼性・妥当性を明らかにした.FCSRTは,16単語の即時ヒント再生,3回にわたる自由再生およびヒント再生,遅延自由・ヒント再生を行うことで,記憶の3側面である記銘・想起・貯蔵を個別に検査することができる.今回,日本語版FCSRTを50人の健常成人に施行し,高い妥当性,信頼性が認められた.欧米では,FCSRTがアルツハイマー病とパーキンソン病,脳血管性認知症などとの鑑別診断に有用であると報告されていることから,わが国における活用が望まれる.
キーワード Free and Cued Selective Reminding Test(FCSRT),初期認知症,スクリーニング検査,信頼性,妥当性
論文名 専用端末によるADAS-J cog実施支援システムの導入
著者名 平井茂夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(8):955-958,2011
抄録 実績ある認知機能検査ADAS-J cogの,専用端末による実施支援システムを試用した.インターネットに接続するだけで導入でき,その動作は安定していた.原法であるADAS-cogは,病状の自然経過を近似的に計算する数式がSternらにより公表され,疾患進行当量(治療効果を単位期間あたりの進行量で割った商)の算出により,アルツハイマー病の病期による進行速度の相違を踏まえた病状評価が可能である.ADAS-cogでは初期値によって得点変化の意味が異なる.半年間隔でADAS-cogを施行し,その間に2点の得点増(悪化)を認めた場合,自然経過と比較して,初期値7.6では大幅悪化であるが,初期値20.0ならば軽度改善である.わが国でもSternらと同等の数式が算出され,疾患進行当量を臨床に活用できるよう望む.検査データは専用端末を介して安全かつ自動的に集積され,わが国の認知症医療の最新水準を反映した資料となって,目の前にいる「その人」のサポートに活用されることが期待される.
キーワード アルツハイマー型認知症,認知機能検査,治療効果,疾患進行当量,インターネット