2011 Vol.22 No.12
 
 
第22巻第12号(通巻281号)
2011年12月20日 発行
 
 
巻 頭 言
民間病院におけるPIB-PETの導入
藤元登四郎 
特集:認知症の終末期医療・ケア
認知症を伴う高齢者の終末期の現状と課題
三山吉夫 1363
施設環境からみた認知症高齢者の終末期医療・ケア
北川公子・荒木亜紀 1369
進行期認知症の臨床症状 ─ 原因疾患による相違と対応法 ─
数井裕光,和田民樹,野村慶子,山本大介,杉山博通,清水芳郎,吉山顕次,武田雅俊 1376
認知症終末期における感染症への対応
柴田朋子,大塚太郎,新井平伊 1384
認知症終末期の食事摂取と栄養
八木 孝・北村 伸 1391
認知症終末期におけるスピリチュアルケア
田中雅博 1398
認知症終末期の臨床倫理
箕岡真子 1405
原著論文 
入所施設の認知症の行動心理学的徴候(BPSD)で入院を依頼する要因の実態調査
矢山 壮・繁信和恵・山川みやえ・牧本清子・田伏 薫 1413
調査報告 
地域での認知症相談において認知機能低下を鑑別する評価指標 
─ 地域在住健常高齢者を対象としたサンプル調査からの検討 ─
若松直樹・根本留美・石井知香・野村俊明・川並汪一・北村 伸 1423
資  料 
認知症専門医診療におけるドネペジル塩酸塩によるアルツハイマー型認知症の包括的健康関連QOL指標の変化に関する研究
安田朝子・河野禎之・木之下 徹・内海久美子・奥村 歩・繁信和恵・川嶋乃里子
川畑信也・繁田雅弘・高橋 智・田北昌史・玉井 顯・長田 乾・橋本 衛・平井茂夫
水上勝義・山田達夫・八森 淳・池田 学・朝田 隆・本間 昭・小阪憲司  1433
連  載 
認知症臨床に役立つ生物学的精神医学(14)
 ─ クロイツフェルト・ヤコブ病の分類・病期と診断 ─
吉山顕次・武田雅俊 1447
Column 
私たちの仕事
第7回 臨床心理士
川合嘉子
第8回 精神保健福祉士 
古屋龍太
第9回 医療ソーシャルワーカー 
木戸宜子
文献抄録 
本間 昭
書  評 
「高齢者虐待の予兆察知;在宅介護における家族支援と対応のポイント」
本間 昭
第27回日本老年精神医学会 一般演題募集要項
学会NEWS
学会入会案内
第22巻(2011年)総目次
編集後記
 
論文名 認知症を伴う高齢者の終末期の現状と課題
著者名 三山吉夫 
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1363-1368,2011
抄録 高齢社会が進むなか,認知症高齢者の終末期医療のあり方が問題になっている.認知症高齢者の終末期の現状と問題点を論じた.漸次,意思表示が困難となる認知症高齢者の看取りの場の現状と課題を論じた.認知症高齢者の尊厳の確保について,医療従事者と家族の関係を論じた.終末期の処置判断における関係者の役割と問題点および課題を論じた.認知症高齢者の死について,安楽死,自然死,平穏死,納得死の意義を考察した.
キーワード 認知症,末期医療,延命,在宅死,納得死
> 論文名 施設環境からみた認知症高齢者の終末期医療・ケア
著者名 北川公子,荒木亜紀
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1369-1375,2011
抄録 現在,認知症高齢者の終末期医療・ケアを担う施設の多様化が進んでいる.本論では,介護保険3施設の入所者の状態や終末期を取り巻く諸状況,ならびに医療・介護制度の現状等を整理した.そのうえで,介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム),介護老人保健施設,グループホームについて,それぞれの施設環境の特性を生かした終末期医療・ケアの課題を検討した.
キーワード 認知症高齢者,終末期医療・ケア,介護老人保健施設,特別養護老人ホーム,グループホーム
 
論文名 進行期認知症の臨床症状─ 原因疾患による相違と対応法 ─
著者名 数井裕光,和田民樹,野村慶子,山本大介,杉山博通,清水芳郎,吉山顕次,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1376-1383,2011
抄録 アルツハイマー病,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症は変性性認知症に分類されるが,これらの疾患は現在,完治させることはできず緩徐に進行していく.本稿ではこの3疾患の臨床症状の推移を整理した.初期から中期にかけては疾患によって出現しやすい症状が異なる.そして治療法,対応法も異なる.しかし進行期にはどの疾患でもADL障害が顕著になり,終末期には発語や自発運動がほとんどなくなり,ベッド上臥床となる.
キーワード アルツハイマー病,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症,重症度,BPSD,ADL
 
論文名 認知症終末期における感染症への対応
著者名 柴田朋子,大塚太郎,新井平伊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1384-1390,2011
抄録 認知症終末期患者の多くは長期療養施設に入院・入所している.認知症終末期における死因として,嚥下性肺炎は最も注意すべき疾患のひとつである.各施設によってとれる対策は異なるが,誤嚥の予防,向精神薬の調整,嚥下機能改善のための薬物療法について紹介した.一方,蔓延しやすい感染症として,ノロウイルス腸炎,インフルエンザ,疥癬が挙げられる.これら感染症には予防,迅速な初期対応が重要である.とくに徘徊がある認知症終末期患者では注意が必要である.
キーワード 認知症,嚥下性肺炎,ノロウイルス,インフルエンザ,疥癬,向精神薬,BPSD
 
論文名 認知症終末期の食事摂取と栄養
著者名 八木 孝,北村 伸
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1391-1397,2011
抄録 認知症終末期には認知症の進行や身体合併症により経口で食事が摂れなくなる状態をきたす.経口摂取が困難になると栄養補給が不十分となり,さらに身体状態を悪化させることにつながる.現状では経口摂取のできない認知症患者に,経静脈,経管,胃瘻などの方法で栄養の補給が行われている.認知症終末期の食事摂取と栄養補給をいかにしていくべきかにはさまざまな問題点がある.本稿では各種栄養管理の方法について概説するとともにその実施をめぐる議論について述べた.
キーワード 栄養管理,中心静脈栄養,経管栄養,胃瘻
 
論文名 認知症終末期におけるスピリチュアルケア
著者名 田中雅博
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1398-1404,2011
抄録 認知症の緩和ケア・スピリチュアルケアについて私見を記した.一度獲得した知的能力が失われていく苦しみは,自己存在の喪失にかかわる苦しみであり,すなわちスピリチュアルペインである.認知症患者の不安の根底にはスピリチュアルペインがある.そして,日本の伝統的文化や習俗のもとになっている仏教は,本来スピリチュアルケアであった.看病禅師と臨終行儀の歴史があり,安心(あんじん)を与えるケアが行われてきた.
キーワード 緩和ケア,スピリチュアルケア,インフォームド・コンセント,事前指示,追善供養
論文名 認知症終末期の臨床倫理
著者名 箕岡真子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1405-1411,2011
抄録 認知症終末期ケアを考えるとき,患者本人の望む治療のゴールを踏まえ,“その本人にとって”“人生のそのときに”“その状況において”なにが最も望ましいQOLなのかを考慮することが倫理的には重要である.そして,倫理的に適切な“看取り”を実践するためには,@医学的視点,A本人の意思,B家族の意思,C法的視点,D社会のコンセンサスについて十分な考慮がなされる必要がある.
キーワード 看取り,終末期延命治療,自己決定権,事前指示,家族同意
論文名 入所施設の認知症の行動心理学的徴候(BPSD)で入院を依頼する要因の実態調査
著者名 矢山 壮・繁信和恵・山川みやえ・牧本清子・田伏 薫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1413-1421,2011
抄録 【目的】入所施設においてケアスタッフが対応困難により専門医療機関に入院依頼を検討する行動心理学的徴候(BPSD)の内容を明らかにすることを目的とした.【方法】BPSDの測定尺度である日本語版NPI-NH(Neuropsychiatric Inventory in Nursing Home)をもとに作成したアンケートを大阪府下の入所・入居施設977施設に郵送した.【結果】回収率は41.0%であった.入院依頼を検討するBPSDは「興奮」が全施設の77.1%と最も多かった.その下位項目は,「他人を傷つけたり,殴ったりしようとする」が最も多かった.次に多かったBPSDは「食欲と食行動の変化」(44.4%)で,下位項目では体重減少や食欲不振が最も多かった.そのほかに夜間徘徊などの迷惑行為が多かった.【考察】対応困難で入院依頼を検討するBPSDに共通してみられる特徴は,他の入所・入居者に影響があるものであった.また,異食などの行動の異常よりも体重減少や食欲不振などの身体的問題になりうるものも入院依頼を検討する要因であることがわかった.
キーワード BPSD,対応困難,入院検討,入所施設
論文名 地域での認知症相談において認知機能低下を 鑑別する評価指標
── 地域在住健常高齢者を対象としたサンプル調査からの検討 ──
著者名 若松直樹・根本留美・石井知香・野村俊明・川並汪一・北村 伸
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1423-1431,2011
抄録 「街ぐるみ認知症相談センター」は,地域において気軽にもの忘れをチェックできることを目指している.健忘が疑われる場合には,来談者の「かかりつけ医」へ健忘の情報提供を行うことにより,認知症の早期診断・治療開始がなされることを目的としている.健忘のスクリーニングには,タッチパネル式もの忘れ検査(浦上ら)および,Mini-Mental State Examination(MMSE)を用いた.相談のなかでは,スクリーニングでは明らかな健忘が認められないものの,家族や関係者などからの情報では健忘のエピソードが示唆される事例が散見される.こうした事例に対し,簡便にやや詳細な認知機能評価を実施するための神経心理検査バッテリーを設定し,今回は対照群とするための健常高齢者データを集積し,相談群と比較した.
キーワード 認知症,早期発見・治療,簡便な神経心理学的評価,タッチパネル式スクリーニング,Mini-Mental State Examination
論文名 認知症専門医診療におけるドネペジル塩酸塩によるアルツハイマー型認知症の包括的健康関連QOL指標の変化に関する研究
著者名 安田朝子・河野禎之・木之下 徹・内海久美子・奥村 歩・繁信和恵・ 川嶋乃里子・川畑信也・繁田雅弘・高橋 智・田北昌史・玉井 顯・ 長田 乾・橋本 衛・平井茂夫・水上勝義・山田達夫・八森 淳・ 池田 学・朝田 隆・本間 昭・小阪憲司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(12):1433-1445,2011
抄録 目的:ドネペジル塩酸塩の服薬が初診のアルツハイマー型認知症(DAT)者と介護者のQOLにもたらす効果を検討した.研究デザイン:14週間の前向きコホート研究.設定:全国の4精神科/神経内科クリニック,13病院,1大学病院の外来.対象:DAT者と介護者107組の連続症例.ドネペジル塩酸塩の服薬状況で3群(新規服薬群,継続服薬群,未服薬群)に分類.アウトカム指標:一次アウトカムをDAT者と介護者のQOL効用値(EQ-5D)の変化,二次アウトカムを認知機能やBPSD,介護負担度の変化などとして評価.結果と考察:新規服薬群においてQOL効用値はDAT者で0.122,介護者で0.117と有意な改善が認められ,二次アウトカムも有意に改善し,この差は,群間比較においても未服薬群に比して有意な改善であった.ドネペジル塩酸塩の服薬がDAT者および介護者のQOLの向上に役立つことが示唆された.
キーワード ドネペジル塩酸塩,アルツハイマー型認知症,EQ-5D,QOL,効用値