2011 Vol.22 No.11
 
 
第22巻第11号(通巻280号)
2011年11月20日 発行
 
 
巻 頭 言
アルツハイマー型認知症治療の新時代に思うこと
─ 根本治療と予防との狭間で ─
渡辺 憲 1230
特集:認知症の神経心理学
認知症における記憶障害
野村慶子,数井裕光,武田雅俊 1233
認知症における遂行機能障害
小口芳世,田渕 肇,加藤元一郎 1241
認知症における視覚認知機能障害
平山和美 1246
認知症における失語
大槻美佳 1255
認知症における失行
中川賀嗣 1262
認知症における精神症状と認知機能障害の関連
橋本 衛 1269
認知症における認知リハビリテーション
森山 泰・三村 將 1277
原著論文 
認知症高齢者における行動観察評価スケールNOSGERの検討(第2報)
 ─ 妥当性の検討 ─
梅本充子・遠藤英俊・三浦久幸 1283
症例報告 
眼内炎をきたした認知症高齢者に全身麻酔下にて眼球摘出術を施行した2症例
清水久雄・西山佳寿子・福田宏美・森 秀夫 1291
連  載 
認知症臨床に役立つ生物学的精神医学(14)
 ─ レビー小体型認知症の分類・病期と診断 ─
藤城弘樹,千葉悠平,井関栄三 1297
特別寄稿 
ガランタミンの細胞レベルにおける作用機構
楢橋敏夫 1309
Column 
私たちの仕事
第4回 作業療法士
村井千賀
第5回 理学療法士
熊澤輝人
第6回 言語聴覚士
植田 恵
書  評 
「日常診療で出会う高齢者精神障害のみかた」
北村 伸
「認知症ケア基本テキスト BPSDの理解と対応」
斎藤正彦
学会NEWS
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編集後記
 
論文名 認知症における記憶障害
著者名 野村慶子,数井裕光,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1233-1240,2011
抄録 認知症において記憶障害は早期から認められ,中核症状となるものである.認知症の原因疾患によって記憶障害は程度も内容も異なり,その差異が認知症の鑑別診断に役立つこともある.アルツハイマー病(AD)はエピソード記憶の中枢である側頭葉内側部から神経変性が始まるため,強いエピソード記憶障害が病初期から認められる.レビー小体型認知症はADと比べて記憶障害は軽度で,再生に比べて再認が良好であることが多い.前頭側頭型認知症,大脳皮質基底核変性症,進行性核上性麻痺では前頭葉から皮質下にかけてのネットワーク損傷による記憶障害が認められる.意味性認知症は強い意味記憶障害が特徴的である.本稿では各認知症疾患の記憶障害の特徴をまとめる.
キーワード 認知症,側頭葉内側部,エピソード記憶,意味記憶,遠隔記憶
> 論文名 認知症における遂行機能障害
著者名 小口芳世,田渕 肇,加藤元一郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1241-1245,2011
抄録 認知症患者のADLを考える際に遂行機能障害の有無を念頭におく必要がある.なぜならば,遂行機能は高次脳機能のひとつであり,その障害は日常生活に大きく影響を及ぼすからである.本稿では,主に側頭葉および頭頂葉に大きな影響を与えるアルツハイマー型認知症における遂行機能障害のパターンを,前頭側頭型認知症や皮質下認知症におけるそれと対比し,特徴を整理する.遂行機能障害は,認知症によりその質や出方が異なる.たとえば,アルツハイマー型認知症では,遂行機能障害はみられるものの記憶障害より顕著ではなく,疾患の経過のなかで後半に,より明らかとなる.反対に前頭側頭型認知症や皮質下認知症では,より早期に,さらに早い段階で遂行機能障害を認め,重症である可能性が示唆されている.
キーワード 遂行機能障害,前頭葉,神経心理学,アルツハイマー型認知症,前頭側頭型認知症,皮質下認知症
 
論文名 認知症における視覚認知機能障害
著者名 平山和美
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1246-1254,2011
抄録 大,小,微小細胞系,背側,腹側の流れなど,網膜から高次視覚関連皮質までの視覚情報処理を略述した.アルツハイマー病のオプティック・フローの知覚障害,視覚型アルツハイマー病の視覚性注意障害,大脳皮質基底核変性症の半側空間無視,レビー小体型認知症やパーキンソン病の色覚や錯綜図認知の障害,幻視や錯視,前頭側頭葉変性症の人物や物品の意味記憶障害などを,この枠組みに位置づけて紹介した.
キーワード 認知症,色覚,錯綜図,オプティック・フロー,意味記憶障害
 
論文名 認知症における失語
著者名 大槻美佳
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1255-1261,2011
抄録 認知症性疾患における失語症,すなわち原発性進行性失語の位置づけを概説し,現在提唱されている臨床の3タイプ(非流暢/失文法型,意味型,ロゴぺニック型)を紹介した.また,言語症状を診る基本として,発語の問題(失構音,失文法的発話,発語減少・流れの不良),音韻性錯語,喚語困難,単語理解障害,言語性短期記憶障害を取り上げ,その症候,ポイント,責任病巣をまとめた.また,認知症における言語症状を診るうえでの留意点,実際の手順を説明した.
キーワード 原発性進行性失語,非流暢性発話,失構音,失文法的発話,認知症における言語症状
 
論文名 認知症における失行
著者名 中川賀嗣
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1262-1268,2011
抄録 認知症性疾患の行為・動作症状の特徴は,「中心回領域の症状」「錐体路以外の神経ネットワーク障害による症状(パーキンソン症状,不随意運動,模倣性連合運動等)」「中心回より後方の皮質症状」という3領域の症状の組合せパターンとしておおむね表現できる.臨床診断としての皮質基底核変性症,レビー小体型認知症,アルツハイマー病,脳血管障害の行為・動作症状をこのパターンで表現した.
キーワード 中心回領域,拙劣症,構成障害,一側肢の低使用,パーキンソン症状
 
論文名 認知症における精神症状と認知機能障害の関連
著者名 橋本 衛
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1269-1276,2011
抄録 アルツハイマー病の物盗られ妄想,レビー小体型認知症のカプグラ症候群,前頭側頭葉変性症の常同行動を取り上げ,認知症の精神症状・行動障害(BPSD)を神経心理学的観点から考察した.カプグラ症候群に対しては「扁桃体への情動入力の障害」を,常同行動に対しては「抽象的態度の障害」を仮定することにより,これまでは「妄想」や「異常行動」として漠然と解釈されてきた症状が,認知神経科学の範疇で説明できる可能性が示された.アルツハイマー病の物盗られ妄想を代表とする認知症のBPSDの多くは,周囲との関係性から生じることが多いため通常は周辺症状としてとらえられているが,DLBの妄想やFTLDの常同行動は診断基準に明示されるなど,それぞれの疾患に特徴的な症候である.すなわち疾患特有の神経基盤に既定された,いわゆる中核症状としてとらえるべき症候と考えられた.
キーワード 認知症,物盗られ妄想,カプグラ症候群,常同行動,神経基盤
論文名 認知症における認知リハビリテーション
著者名 森山 泰,三村 將
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1277-1281,2011
抄録 認知リハビリテーションは患者の認知的側面に働きかけ,直接的に認知機能の改善を目指し,間接的に心理的安定や精神症状・行動障害の軽減を図る.認知症高齢者の認知リハビリテーションは,実施の方法から集団と個人リハビリテーションに区分される.前者には回想法,現実見当識訓練法(ROT),芸術療法,バリデーション療法(確認療法)などが,後者には学習療法などが含まれる.しかしこれらの治療効果に関するエビデンスは乏しく,個々のレベルで効果がみられてもそれがscientificなかたちでの均一群への均一なアプローチとしてのエビデンスには至りにくい.
キーワード 認知症,非薬物療法,認知リハビリテーション,現実見当識訓練法
論文名 認知症高齢者における行動観察評価スケール NOSGERの検討(第2報)─ 妥当性の検討 ─
著者名 梅本充子・遠藤英俊・三浦久幸
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1283-1290,2011
抄録 行動観察評価スケールNOSGER翻訳版の妥当性の検討を行った.老人保健施設およびグループホームの入所・入居者,デイケアに通う高齢者計59人を対象に調査した.併存的妥当性では,「記憶」の得点とHDS-R,MMSEの得点相関係数は,-0.668,-0.610であり,「道具を用いる日常行動」とN-ADLとの相関は-0.575,「セルフケア」とN-ADLとの相関は0.773,「行動障害」とBehave-ADとの相関は0.705,「感情」とBehave-AD(感情障害)との相関は0.715,「社会的活動」とNMスケール(関心・意欲・交流,会話)との相関は-0.622と,いずれもそれぞれ同じような領域を判定する尺度または下位尺度間に有意な高い相関を認めた.さらに因子分析の結果,尺度構成の項目数にばらつきはあったものの,6因子が抽出され,翻訳版の因子命名と英語原版の下位尺度との内容がほぼ一致し,認知症高齢者の評価指標として妥当性が示された.
キーワード 認知症,心理検査,チーム医療,認知機能,障害プロフィール
論文名 眼内炎をきたした認知症高齢者に全身麻酔下にて眼球摘出術を施行した2症例
著者名 清水久雄・西山佳寿子・福田宏美・森 秀夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(11):1291-1294,2011
抄録 認知機能障害がある高齢者の日常生活動作の程度を測定する「認知機能障害に伴う日常生活動作評価票(以下,ADL-Cog)」と行動と心理状態を測定する「認知機能障害に伴う行動・心理症状評価票(以下,BPS-Cog)」を考案し,要介護度認定調査員ならびに日本老年精神医学会員医師に依頼し,その信頼性と妥当性の検証を行った.方法は,認知機能障害を伴う高齢者に2つの新しい評価票を用いてADLと行動・心理症状を測定した.信頼性の検証では,DVD画像を用いて認定調査員42人,医師39人の評価者間一致率を,また認定調査員のみ評価者内一致率を検証した.妥当性の検証では,565人の認知機能障害を伴う高齢者にADL-CogならびにBPS-CogとFAST,Behave-AD,「認知症高齢者の日常生活自立度」を同時に実施し,相互の相関関係を求めた.結果では,評価者間一致率が2つの評価票ともに69%以上と高く,また認定調査員による評価者内一致率もADL-Cog,BPS-Cogともに87%以上の一致率がみられ,さらに級内相関係数(ICC)は認定調査員間で相関係数が0.77以上,医師と調査員間では0.71以上であった.既存測度のFASTとADL-Cogの相関は相関係数が0.715,またBehave-ADとBPS-Cogは相関係数0.611の相関が認められた.以上から,ADL-CogならびにBPS-Cogの信頼性と妥当性は,検証された.
キーワード 認知症,ADL-Cog,BPS-Cog,認知機能,評価測度