家族にとって、よい病院選びは至難の業かもしれません。特に何らかの事情で在宅介護ができなくなった家族にとっては、病院と施設とのどちらがよいのかを考えることから始めなければならないのです。
病院は、主に病気に対する治療を目的とし、ここでの毎日のお世話は、主に看護が主体になります。患者が重篤な身体合併症をもつている場合、これを治療するためには入院が必要となりますが、適切な介護を求めて入院し、病院に多くの期待をかけることには無理があります。看護は、病気の快復を助けるために施される行為で、介護は日常生活を支援するための行為です。ですから、痴呆に侵された高齢者の日常のさまざまな行為を援助し、よりよい生活を営むために施される介護と、治療を目的とした入院とは自ずから異なります。在宅介護が不可能となり、公的介護施設への入所もできない高齢者の多くは、ひと昔前ならば、老人病院に長期入院することが一般的でした。しかし、最近ではこのような長期入院(社会的入院と一般的にはいわれています)は、入院加療の目的に反することから認められないことが多く、最長でも数か月間とする病院が主流となっています。
それに対して介護施設は、介護を目的としているため、重篤な身体症状をもたない痴呆性高齢者の入所に適していますが、身体疾患に対する治療や処置には限界がありまます。さらに現状では、希望したときに希望した介護施設に、即入所できる環境が整っていません。わが国では公的介護施設への入所は、措置によって決定されます。これは、市町村が審議して入所を決める制度で、利用希望者が入所したい施設を選択したり、利用者の入所意向を必ずしも優先することはありません。ただしこの制度は、生活支援を目的とした古い福祉の考え方に基づくものであるために、2000年には廃止されることが決まっています。
首都圏をはじめ多くの地域では、公的介護施設(特別養護老人ホーム)への入所は、申請してから2〜3年待たされるというのが実状です。なかには、3年以上待っても市町村から何の連絡もこないという希望者もいます。確かなことはいえませんが、これには介護者が健在で介護環境が整っている希望者よりも、ひとり暮らしで痴呆に侵されてしまった高齢者が優先される、との行政判断もあるのはないでしょうか。また、特別養護老人ホーム自体の絶対数も足りません。厚生省は、平成7年度には特別養護老人ホーム入所者23万人分の予算を計上し、2000年には29万人分の予算を見込んでいますが、将来の高齢人口の増加に十分対応できる数とはいえません。
病院と公的介護施設の中間に位置するのが、老人保健施設です。これは、入院によってある程度の治療目的は終了したのですが、家庭復帰するには十分に機能が回復していないという高齢者をリハビリや生活訓練するための施設です。この施設の入所期間は、3か月から6か月間で、その後は自宅で生活することが前提となります。また、入所の可否を決めるのは、市町村ではなく、利用者の申請に基づいて施設側が入所を判定します。
希望する施設に入所でき、十分な医療と看護と介護が受けられ、しかも終身入所できる施設が、有料老人ホームです。しかし、この施設は、営利目的で運営されていることから、介護に必要な経費はすべて利用者負担となります。また入所時に利用権代(数千万円)が必要となる施設が多々あります。さらに、毎日の介護費の負担など、高額な費用を要します。
いずれの施設も一長一短があり、家族にとってはその選択に迷うことが多いと思います。しかし、入院・入所が必要になったときには、いずれかを選択しなければならず、それぞれの施設の特徴と介護状況を十分に把握しておかなければなりません。
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