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異常行動への薬物療法
(下記の文は小社刊「脱・介護地獄」(今井幸充・著)からの転載です)

 

 痴呆の高齢者は、知能が障害されて、身の回りのことができなくなるほかにも、介護する家族を困らせるような行動を取ったり、また幻視や物盗られ妄想、うつ状態などの精神障害を来すことがあります。これらの行動障害に対して薬が有効な場合があります。
 異常な行動を取る患者に対し、医師は鎮静効果のある向精神薬を用います。ただしその際、ボーッとしてしまう、1日中寝ている、元気がなくなる、フラフラする、歩けなくなるなどの、過鎮静といわれる副作用が問題になります。高齢者は若い人に比べ、服薬時にこの過鎮静の状況に陥りやすく、またこのような薬物の副作用によって手の震えや筋肉の硬直、あるいは口渇や便秘、場合によってはせん妄が誘発される場合もあることから、その出現には十分に注意しなければなりません。
 そこで、医師が気をつけなければならないことは、薬の量(用量)です。多くの場合、一般成人の2分の1から3分の1程度の量から服用を開始します。しかし、高齢者の場合は、個体差が大きいために、同じ量でも副作用が出現する人もいれば、まったく効果が得られない人もいます。だからこそ、このような薬物を用いる場合には、家族から薬物の効果や副作用の出現を正確に報告してもらうことが大切となるのです。
 医師がもっとも多く用いる薬物は、「夜眠らないので困る」という家族の訴えを受けて用いる睡眠薬です。現在使われている睡眠薬は、20種以上ありますが、すべてが高齢者に使える薬ではありません。主に、作用時間の短い睡眠導入剤を用いることが多々ありますが、人によってはせん妄状態を来したり、反対にまったく効果が得られないということがあります。このことからも分かるように、睡眠薬だから安心という先入観は危険であり、その副作用には十分な注意が必要です。
 しかし、だからといってこれらの薬物を過度に怖がる必要はありません。多くの場合、これらの薬物を使用することによって介護が薬になることは事実であり、各人に適した薬物とその用量の選択さえ正しく行えば、介護の補助役として薬は非常に役立つものなのです。

 


 

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