第44回日本老年社会科学会大会 メインテーマ

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メインテーマ: 相互扶助の再評価
 このところ,日本は公的介護保険制度の導入で,要介護老人に対する専門サービス市場の成立や社会保障制度の見直しという話題で沸騰したといえる.
 だがその一方では家族や近隣や友人知人やボランティアなどを含む人間関係の中に生きる高齢者の生活を直視することを忘れ,すべて高齢者の介護は専門家にまかせればよいといった風潮や,プログラム不在の施設整備を急ぐといったモラル・ハザードが懸念されている.
 介護においてはバイオメディカルな視点だけでなく,サイコソーシャルな視点が必要であるといわれながら,取組みには課題が山積している.また要介護老人に対するサービスは,公共サービスから民間の多元的なサービスへと展開しているが,諸個人は,身近な人々,国や自治体,各種との新しい関係をどのように構築すればよいのか戸惑っている.
 老年社会科学を研究するものとして,すべての年齢層がともに住まうひとつの社会状況の実態に即して問題を発見し,介入し,評価していかなければならないが,企業家や専門職や福祉労働からの視点だけでなく,家族,近隣,友人・知人,ボランティアの相互扶助の視点から再評価することが必要になっているとはいえないだろうか.
 
大会長講演: アジアの高齢化に向けた日本の使命
 小川全夫(九州大学大学院人間環境学研究院・教授)
 日本の人口高齢化は,いくつかの特徴を持っているが,中でも高齢化の速度が速いことは特筆される.そして21世紀は日本の人口高齢化が世界のトップに踊り出る世紀といえる.そして21世紀の東アジアの諸国は,まさに高齢化の速度において,この日本と同じような経過を辿るものと推測されている.したがって,これからアジアの諸国が高齢化社会対策を講じようとする時,人口高齢化速度の早さの点において,欧米モデルより日本モデルを学び取らなければならないだろう.日本は,欧米モデルを紹介,導入するだけでなく,東アジアに対して自らの歩んだ過程を紹介し,提起する使命を持っている.2002年日中韓国民交流年にあたり,アジアからの老年社会科学研究の自己省察を提起する.
 
シンポジウム: 日中韓における高齢者をめぐる相互扶助

 司  会  前田大作(ルーテル学院大学・教授)
 報告者  慎  燮重(広島国際大学・教授)
       李  秀英(岩手県立大学・教授)
       篠崎正美(熊本学園大学・教授)

 東アジアの高齢者をめぐる相互扶助は,基本的には家族・親族関係に依拠し,さらに近隣・元の職場の友人・知人関係に補完されながら持続してきたといえよう.だが,急速な産業化に伴って,少子化,長寿化,向都離村などの人口構造の変化,核家族世帯化や単独世帯化,近隣関係の希薄化,学校や職場関係の優越化など社会関係の変化,個人主義化,性差からの解放など意識の変化が生じている.
 高齢者をめぐる相互扶助という課題が,以上のような社会変化の中から炙り出されている現在,日本,中国,韓国では,一体どのような社会的取組みが始まっているのであろうか.慎燮重教授は,韓国と日本の両国の社会保障について長い研究・教育を続けているが,「東アジア型福祉」という福祉文化を提唱している.李秀英教授は,中国と日本の両国の社会福祉について研究・教育を続けており,特に激動の世紀を生き抜いてきた女性のライフヒストリーに関心を寄せている.篠崎正美教授は,日本とアジア各国の女性が,親子関係をめぐってどのような状況にあるのかについて考察を続けている.
 以上3人の報告と問題提起を受けて,日中韓の3国の状況について討論を行う.
 司会は,前田大作教授である.