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学会NEWS
2017年12月14日

声  明
「介護施設等における認知症の高齢者への虐待事件について」

公益社団法人日本老年精神医学会
理事長  新 井 平 伊
 2017年11月、東京都内の介護施設で認知症の高齢者が、職員によって浴槽に投げ入れられて死亡するという事件が報じられました。7月には岐阜県高山市の施設で、短期間に2人の入居者が、頭蓋骨骨折・脳挫傷、胸骨骨折・肋骨骨折・血気胸などによって死亡する事件がありました。少し前になりますが、2014年には、神奈川県の施設で、入居者3人が相次いでベランダから墜落死するという事件も起こっています。高齢者虐待防止法に基づく、介護施設職員等による虐待事例の通報も近年急増しており、2015年度には408件に上りました。これらの事件の多くは、すでに警察による捜査が行われていますが、容疑者が語る動機は、「手がかかって煩わしかったから」とか、「繰り返し布団を汚されて、いい加減にしろと思って」といった、身勝手極まりないものばかりでした。
 抵抗できない認知症の高齢者を虐待し、その結果、理不尽な死に至らしめるような事件が後を絶たないという、わが国の社会の現状は、こうした風潮が例外的な不心得者の蛮行ということではなく、より一般的で、より深刻な社会病理の現れではないかという危惧を抱かせます。近年、日本社会全体で、認知症の高齢者にとどまらず、広く、障がい者、生活保護受給者など、社会的弱者に対する、あからさまな蔑視と攻撃が露呈しています。2016年に起こった相模原の知的障害者施設における大量殺人、傷害事件において、容疑者は、「障がい者は生きていても不幸をもたらすだけだ」と述べ、大方の人たちがそう思っていて実行しない正義を、わが身を犠牲にして自分が実現するのだといった主張をしていました。こうした事件の多くは、拡大し、固定化する社会・経済的格差によって、希望を失っている弱者により、さらに弱い人たちに対して向けられた敵意の発露のようにも見えます。
 日本老年精神医学会は、認知症をはじめとする高齢者の精神医療に関わる専門家の団体として、こうした社会情勢に強い危機感を表明し、こうした風潮にあらがって健全なモラルが尊重される社会の構築を、すべての国民に呼びかけます。日本国憲法は、国民の生存権を、あらゆる人権に優先する最も重要な基本的人権と位置づけました。この生存権を守るため、先人たちの努力によって、国民皆保険制度、介護保険制度等が創設され、維持されてきました。本学会は、人間の命に値段をつけず、出自、能力による差別を認めないという、日本国憲法の根本理念に立ち返り、すべての国民が健康で文化的な生活を送ることができる社会、互いが互いを思いやることによって平和が維持される社会を実現するため、不断の努力を重ねてまいります。
声明_介護施設等における認知症の高齢者への虐待事件について
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