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学会NEWS
平成29年3月14日

認知症高齢者の自動車運転に関する
専門医のためのQ&A集

日本神経学会
日本神経治療学会
日本認知症学会
日本老年医学会
日本老年精神医学会
(五十音順)
平成29年3月施行の改正道路交通法により、運転免許更新時や一定の交通違反を行った際に警察で行う簡易の認知機能検査の結果、「第1分類」(認知症の疑いあり)となった75歳以上の高齢者は、公安委員会の指示により、認知症であるかどうかの検査・診断を受けることを求められます。今後、このような事情により本学会の会員医師を受診する高齢者が増えると予想されることから、表記の5学会が合同でQ&A集を作成いたしました。先生方におかれましては、本Q&A集を参考に診療にあたっていただければと存じます。
Q1. 運転免許更新時や一定の交通違反を行った際に警察で行う簡易の認知機能検査の結果、「第1分類」(認知症の疑いあり)となった75歳以上の高齢者は公安委員会からどのような指示を受けるのでしょうか?また受診した際の費用の取扱いはどうなっているのでしょうか?
【A】
75歳以上の高齢者が認知機能検査の結果第1分類となった場合、都道府県公安委員会の命令(本命例は免許更新者に対するものであり、医師に対するものではありません)により以下のいずれかの方法により医師の診断による診断書の提出が必要となります。
①「臨時適性検査通知書」の場合:都道府県公安委員会が指定する医師の診断・検査を受けます。この場合の費用については全額公費負担となります。
②「診断書提出命令書」の場合:都道府県公安委員会から通知された「診断書提出命令書」及び「医師の皆様へ」を持参の上、医療機関を受診します。第1分類とされた方は、認知症の疑いがあると考えられることから、この場合の保険医療機関における認知症の診断に係る診察・検査等の費用については原則として保険請求が可能となります。ただし、療養の給付と直接関係のない診断書の発行にかかる費用については保険請求の対象とならず、ご本人の負担となります。まずかかりつけ医を受診された方について、かかりつけ医から精査希望等の形で専門医療機関が紹介を受ける場合も、認知症の疑いがあるとの診療情報の提供にもとづいて診断の依頼を受けてください。なお、公安委員会からの文書は医療機関から出される診療情報提供書には相当しない点にご留意ください。臨時適性検査や主治医診断書提出に係る費用負担についての疑問点等は、都道府県警察本部交通部運転免許試験場○○係(「診断書提出命令書」や「医師の皆様へ」に記載されている問い合わせ先)にお問い合わせください。
Q2. 初期・早期のアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症で抗認知症薬を投与し有効であった場合など,病状が改善していることも考えられます.このようなケースでは診断書は認知症で構わないでしょうか?
【A】
この場合、認知症として診療を行っていることから、診断書も認知症となります。またコリンエステラーゼ阻害剤、NMDA受容体拮抗薬などの添付文書では、機械類や運転を控えるようにとの記載があるため、適切な薬物使用の説明責任があることにもご留意下さい。
Q3. (軽度認知障害と診断した時など、非認知症の診断名で)診断書を作成した患者が事故を起こした場合、作成した医師に法的責任を問われることはないですか?
【A】
臨時適性検査および診断書提出命令に係る診断書作成は医師により行われますが、免許取消し等は都道府県公安委員会において判断されます。公安委員会が判断するに際し、主治医の診断書により判断できない場合は、再度、専門医の判断を実施することがあります(警察庁丁運発第210号 平成28年11月16日,警察庁交通局運転免許課長)。したがって、医師がその良心と見識にもとづき行った診断にもとづき作成した診断書について、診断書作成医師に刑事上の責任が生じることはありませんが、民法上の責任はこの限りではありません。
Q4. 認知症と診断した医師が、患者様から(誤診により免許を取り上げられる結果になったと)訴えられることはないですか?
【A】
臨時適性検査および診断書提出命令に係る診断書作成は医師により行われますが、診断書にもとづいて免許取消し等の行政処分を行う場合は、聴聞等の手続を経て、都道府県公安委員会の判断と責任において処分が決定されます。処分に不服があるときには、審査請求や取消し訴訟の提起をすることができます。したがって、診断書作成医師に刑事上の責任が生じることはありませんが、民法上の責任はこの限りではありません。
Q5.認知症であるという診断書が公安委員会に提出され免許が取り消された場合と、本人が免許更新手続きを取り下げて免許証の自主返納を行った場合とでは、どのような違いがありますか?
【A】
公安委員会による運転免許取り消しは行政処分であり、本人がそれを不服とした場合Q4のAにあるような手続きをとることができます。一方、自主返納をした場合は本人が申請すれば公安委員会から運転経歴証明書が発行され、これは生涯その人が身分証明書として使用することができます。また、この運転経歴証明書を提示することで、居住地によって様々な特典を受けることができます(特典の内容は居住地の警察本部又は自治体ホームページ等でご確認ください)。認知症との診断書が公安委員会に提出され、公安委員会がそのとおり判断して免許取消し等の対象となっている場合、および行政処分により免許を取り消された場合は、運転経歴証明書は発行されません。
Q6. かかりつけ医等の診断を不服として、セカンドオピニオンを求めて専門医を受診してきた場合の対応はどうすべきでしょうか?
【A】
かかりつけ医の先生方からの認知症精査希望や、患者さん本人、家族の要望でのセカンドオピニオンは、専門医として病診連携、病病連携などの観点からも積極的にお引き受けしていただくことが望ましいでしょう。なお、セカンドオピニオン目的の診療行為についての費用は各医療機関で異なっているはずです。かかりつけ医の先生方から運転中断の告知や勧告が通常の身体疾患に関する診療に支障を来しうる場合も予測されますので、認知症の人や家族の地域生活や療養の継続上の観点からも、本学会の認知症の専門医師、専門医療機関は、特に診断困難例については、かかりつけ医との連携を積極的に行い、診断を引き受けてください。
Q7. 診断書作成を拒否したら訴えられたり、処罰を受けたりしますか?
【A】
刑事上はありませんが、医師法上や民法上の医師の説明義務や、医師法 第十九条で、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」とされていますので十分配慮が必要です。上記にように、かかりつけ医を支援するためにも、連携を積極的に行い、診断を引き受けてください。
Q8. 診断書の項目は、すべて埋めないといけないのでしょうか?診断書作成にあたり、改訂長谷川式簡易知能スケールやMMSE、CTなど画像検査は必須ですか?
【A】
原則、すべての項目に記入をする必要があります。未記入の場合は、その理由についても記載は必須です。検査継続不能など、理由そのものが公安委員会の参考情報となります。しかし、本人の拒否や、認知症が進み、家族からのみ聴取ができるような場合など個別の状況で画像検査が不要とされるケースがあると警察庁では理解されています。(警察庁丁運発第210号 平成28年11月16日,警察庁交通局運転免許課長)。例えば、認知機能検査についても、個別状況によっては本人の検査拒否などあり得ますので、施行できない場合はその理由を記載してください。CTなどの画像検査も同様です。診療所などで機材がない場合は、近隣の施設などでの画像検査の施行や、専門施設で認知症の精査を行った際の画像所見を参考にしてください。特に診断に迷う場合には、MRIやSPECTなどの検査が必要な例もあると思います。診断書作成のポイントは、認知症の有無の判断ですので、認知症の診断においての必要性で判断してください。
Q9. 家族のみが来て診断書の作成を依頼されました。本人は普段通院していますが、家族から診断書作成を依頼された場合、家族に診断書を渡していいでしょうか?
【A】
診断書の発行は原則、患者さんご本人に対してです。以前から主治医として関わっていて,すでに認知症と診断している方について、本人に病識がなく受診を拒否した場合等は,都道府県警察本部交通部運転免許試験場○○係(「診断書提出命令」「医師の皆様へ」に記載されている問い合わせ先)にご相談ください。なお道路交通法では「認知症など一定の病気等を診断した医師による任意の届出制度」が設けられていますが、この場合、医師がこの制度による届出の意思を持たず「単なる相談」をするのであれば、同法の「届出」には該当しないと考えられます。
Q10. 認知症として加療中であっても本人に告知していない場合はどう対応したら良いですか?
【A】
運転中止と免許の返納を勧め、それでも本人が自動車運転の継続を強く望む場合は、慎重に告知し運転中止を指導してください。
Q11. 日常生活に支障を来さない程度の軽い認知機能障害でも、運転は禁止されるのでしょうか?
【A】
道路交通法により運転が禁止されているのは、脳血管障害、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態である認知症です。本Qのような場合は診断書様式の2.診断の項の⑥に相当すると判断されますので、その旨、診断書に記載します。⑥に相当すると診断した場合、原則として6ヶ月後に、再度、主治医等による診断書の提出(または臨時適性検査)が必要になります。
Q12. 回復の見込みがある認知症で6か月以内に回復の見込みがあると診断をした場合、6か月後の診断書も初めに診断書を作成した医師が記載する必要がありますか?
【A】
基本的には同じ医師が記載することが望ましいと思われます。「軽度の認知機能の低下が認められる」「境界状態にある」「認知症の疑いがある」等の診断を行った場合も同様です。ただし、6ヶ月後に臨時適性検査と主治医等による診断書提出のいずれを実施するかは公安委員会の指示によりますので、この限りではない場合もあり得ます。
Q13. 本件において診断書の記載を求められた場合、診断書はいつまでに提出しないといけませんか?
【A】
免許更新を希望する人が診断書を提出しなくてはいけない期限は、公安委員会により予め決められていますので、個々の症例について確認してください。原則として3ヶ月以内とされているので、受診までに日数がかかっている場合、混んでいて診療や検査予約に日数がかかる施設の場合などは十分注意して下さい。なお、やむを得ない事情がある場合等においては、都道府県警察本部交通部運転免許試験場○○係(「診断書提出命令」「医師の皆様へ」に記載されている問い合わせ先)にご相談ください。
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