2019/1 老年精神医学雑誌Vol.30 No.1
発達障害と高齢者
林 博史
山形大学医学部精神医学講座
注意欠如多動症(ADHD),自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害は,幼少期にその特徴が明らかになる生来性の障害である.最近は,うつ状態などを呈して青年期以降に初めて精神科を受診して診断される人が年々増加し,一般精神科医も発達障害をもつ人を診察する機会が多くなった.精神科医はだれでも,患者を診立てるうえでパーソナリティの評価に加え,発達障害の視点が欠かせなくなっている.発達障害をもつ人もいずれは老年期を迎える.それまで医療機関を受診したことのない人たちでも,中年期以降に仕事や家庭で求められる役割の変化や加齢の影響が加わり,何らかの不適応を生じ,われわれのところを受診するかもしれない.最近は孫が発達障害と診断され,自分も孫と似ているから発達障害ではないかと受診する壮年期以降の患者もいるという.
これまで気づかなかっただけなのかもしれないが,ここ数年,「もの忘れ外来」に発達障害をもつ人が受診することが増えているように思う.多くは50〜60歳代で認知症では若年層に当たる.症例を呈示する.なお,本報告において,本人から文書で同意を得るとともに,プライバシー保護のため一部改変した.50歳代の男性であるが,他県に出向時に仕事の手順や注文内容を忘れるなどのミスが増え,認知症が疑われて受診した.認知機能の低下はそれほど目立たなかったが,職場で安全管理を怠るなどして解雇された.脳MRIでは楔前部や後部帯状回の萎縮,脳血流SPECTでは頭頂葉の集積低下を認め,若年性アルツハイマー型認知症(EOAD)と矛盾しない所見であった.EOADとして治療を開始したが,数年経過しても認知機能低下が進行しないことからPiB-PETを施行したところ陰性であった.その後,上記の症状が出現したときは,慣れない出向先で上司の要求が厳しくて仕事が嫌になっていたと話すなど適応障害の様相を呈していたことが判明した.また,子ども時代には静かに座っていなければならない状況で動き回ったり,就労後も講習会などでじっと座っているのが苦手であることなどが明らかになった.ADHDの自己記入式症状チェックリスト・パートAが陽性であり,ADHDの可能性があると考えている.ADHDにおけるワーキングメモリ(WM)の障害は高齢になっても持続し,加齢の影響も加わり,日常生活の問題解決が困難になる可能性があることが指摘されている(Thorell LB, et al., Eur Psychiatry, 2017).また,神経変性疾患による軽度認知障害と類似の症状を呈することから,「もの忘れ外来」を受診することが多いと考えられる.ADHDの脳画像において小規模ながらコホート研究がある.小学校時代にADHDと診断された少年をフォローアップし,41歳の時点で脳MRIを施行した結果,健常者に比べて頭頂葉の容積が小さかったことが報告されている(Proal E, et al., Arch Gen Psychiatry, 2011).画像所見がEOADと共通する可能性があり,子ども時代の情報が得られないと,初期には鑑別がむずかしいかもしれない.また,ASDでは社会的コミュニケーションの障害と常同性やこだわりなどが特徴として挙げられる.これらは認知症,とくに前頭側頭型認知症の症状と一部重なる.ASDの診断にも,発達早期から症状が存在していることが必要とされ,ADHD同様に子ども時代の情報が得られないと,初期には両者の鑑別がむずかしい場合もあるだろう.いずれにせよ,認知症と鑑別を要する疾患にADHDやASDなどの発達障害も忘れてはならない.
2016年に施行された改正発達障害者支援法では,乳幼児期〜高齢期まで切れ目のない支援が求められている.高齢者ではこれまで多くの苦労があったにちがいない.支援のためには,実態を把握することが必要であるが,高齢者では前述したように発達障害の診断がむずかしい.また,ADHDに関しては小児期に診断された人と青年期に新たに診断された人では,特徴に違いがみられることが報告されるなど,ADHDの多様性も指摘されている(Agnew-Blais, et al., JAMA Psychiatry, 2016).ASDはさらに複雑で多様であると考えられる.当面は,小児期あるいは青年期/壮年期に発達障害と診断された人の老化のプロセスを丁寧に追っていく必要がある.発達障害をもつ人が老年期にどのような特徴を呈するのか.認知症になりやすいのか.認知症になった場合は発達障害をもたない人と違いがあるのかなど解明しなければならない課題が多い.高齢者を対象とした神経心理学的研究や脳画像研究はまだ少なく,老年期までの大規模なコホート研究が必要であろう.2018年に開催された第33回日本老年精神医学会では,児童精神医学の専門医である内山登紀夫先生からASDに関する教育講演があり,さらに発達障害と認知症の鑑別に関するシンポジウムも開催された.発達障害の概念が老年期にまで広がりつつあるなかで,時代の要請に応えるためにも発達障害について私たちはもっと学ばなければならないと思う.



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