老年精神医学雑誌 Vol.33-9
論文名 嗜銀顆粒病(嗜銀顆粒性認知症)の臨床画像病理学的特徴
著者名 川勝 忍,小林良太,森岡大智,澁谷 譲,林 博史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(9):883-892,2022
抄録 嗜銀顆粒病(嗜銀顆粒性認知症)は,病理学的所見が先行して発見された疾患で,疾患単位として確立されつつある.臨床的には,主として高齢者に多い疾患で,易怒性,頑固さなど扁桃体を含む辺縁系の病変と関連した症状を呈する例と,健忘型の軽度認知障害を主体として緩徐な経過をとる例があり,後者が多い.脳画像では,形態学的に左右差のある側頭葉内側面前方とくに迂回回から萎縮が始まることが診断の参考になる.単独でみられる場合よりも他のタウオパチーやTDP-43病理と合併しやすいことも特徴である.
キーワード 嗜銀顆粒病,嗜銀顆粒性認知症,画像診断,病理,VSRAD
↑一覧へ
論文名 神経原線維変化型老年期認知症:PART病理による認知症
著者名 山田正仁
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(9):893-900,2022
抄録 アルツハイマー病(AD)に類似するがアミロイドマーカー陰性で非AD病態が疑われるsuspected non-Alzheimer’s disease pathophysiology(SNAP)例の病理学的背景には,原発性年齢関連タウオパチー(PART)が含まれる.神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)はPART病理による認知症である.その疾患概念,疫学,病理,他疾患との合併,臨床的特徴や診断等を概説した.
キーワード アルツハイマー病,suspected non-Alzheimer’s disease pathophysiology(非アルツハイマー病病態生理の疑い),神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT),原発性年齢関連タウオパチー(PART),非アルツハイマー病タウオパチー
↑一覧へ
論文名 frontal variant ADの概念の変遷から症候と局在について考える
著者名 品川俊一郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(9):901-906,2022
抄録 病理学的にアルツハイマー病(AD)の病変を有する例でも,大脳皮質の解剖学的病変の局在には多様性があり,それに対応する臨床症状があることは以前より知られていた.病理学的-神経心理学的検討からfrontal variant ADという概念が提唱されたのは,1999年であったが,これが解剖学的な局在としての意味か,あるいは症候学的な意味か,後者の場合は遂行機能障害なのか,行動症状なのかは必ずしも明確ではなかった.そのため概念の混乱があり,アミロイドPETを中心としたバイオマーカー技術の進歩の結果,behavioral variant ADとprogressive dysexecutive syndrome due to ADという新たな概念が提唱されるに至った.この2つの概念の背景にも,複数の病態の関与が想定されている.fvADの概念の変遷から,臨床症候群を独立したエンティティとして考えることの困難さと,診断パターンからリフレーミングする視点の重要性が浮き彫りになる.
キーワード frontal variant AD,behavioral variant AD,progressive dysexecutive syndrome due to AD,前頭側頭型認知症,遂行機能障害,行動症状,疾患概念
↑一覧へ
論文名 後部皮質萎縮症 (posterior cortical atrophy / visual variant-AD)とレビー小体型認知症の鑑別
著者名 鈴木麻希,鐘本英輝,池田 学
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(9):907-914,2022
抄録 後部皮質萎縮症(PCA)とレビー小体型認知症(DLB)は,いずれも病初期には記憶障害よりも視覚認知・視空間認知障害が前景に立ち,脳の後方領域を中心とした機能低下を認めるという特徴を有するため,両者の鑑別は必ずしも簡単ではない.丁寧な問診や診察,各種検査から,まずはPCAやDLBを疑うことが出発点となる.そのため,各疾患に特徴的な症状と診断基準の理解が欠かせない.両者の共通点と相違点を念頭に,適切な検査を用いて的確に症状特徴を評価し,バイオマーカー検査と合わせて検討することで,両者の鑑別につながる.
キーワード 後部皮質萎縮症,レビー小体型認知症,若年性認知症,視空間認知,診断基準
↑一覧へ
論文名 その認知症が血管性であることをどうやって臨床診断するのか
著者名 今村 徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(9):915-920,2022
抄録 臨床現場において認知症患者を血管性認知症(VaD)と臨床診断するための多元論的方法について述べた.臨床像の特徴と画像診断上の所見という2つの項目について,poststroke dementia(PSD)とsubcortical ischemic vascular dementia(SIVaD)ごとにポイントを指摘し,臨床現場で使用しやすい臨床診断基準としてThe Vascular Behavioral and Cognitive Disorders(VASCOG)criteriaを紹介した.最後に,VaDとADが連続体を形成する認知症であるとみなす考え方についてもふれた.
キーワード vascular dementia(VaD),poststroke dementia(PSD),subcortical ischemic vascular dementia (SIVaD),mixed dementia,VASCOG criteria
↑一覧へ
論文名 認知症疾患と老年期気分障害の鑑別と併存
著者名 竹之下慎太郎,三木知子,横田 修,寺田整司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(9):921-928,2022
抄録 老年期精神疾患の臨床では,気分障害と認知症疾患の鑑別が重要視されるが,同時に,気分障害など精神症状の背景には認知症疾患が併存している可能性を念頭において診療する必要がある.アルツハイマー病,脳血管障害,レビー小体病,行動障害型前頭側頭型認知症,4リピート・タウオパチーなどの認知症疾患と気分障害の関連について,これまでに明らかにされている知見に基づいて解説する.
キーワード 認知症,老年期精神障害,気分障害,うつ病,双極性障害
↑一覧へ
論文名 BPSD(妄想,幻視などの精神症状)と老年期精神障害の関係性について
著者名 樫林哲雄,數井裕光
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(9):929-939,2022
抄録 妄想と幻覚,とくに幻視は初老期以降に出現した場合,認知症の行動・心理症状(BPSD)なのか,老年期精神障害の症状として生じているのかの判断がむずかしい場合がある.本稿では,妄想と幻視をきたす老年期精神疾患として,認知症と鑑別を要した高齢発症統合失調症の症例を取り上げ,その妄想と幻覚の特徴を解説した.また,アルツハイマー型認知症(AD)やレビー小体型認知症(DLB)との臨床症状の違いやそれぞれの疾患での妄想,幻視の神経基盤に関する過去の画像研究を概観した.高齢発症統合失調症の妄想や幻視についての研究は不足しており,高齢発症を含む統合失調症全般の妄想や幻視の成因とその画像研究を紹介した.また,ADやDLBではいくつかの報告において,妄想と幻視の神経基盤が検討されているが,妄想や幻覚でもさまざまな内容や形式があり,これらの要因を統制したさらなる研究が期待される.
キーワード 妄想,幻視,アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,高齢発症統合失調症
↑一覧へ