老年精神医学雑誌 Vol.33-2
論文名 わが国におけるアルツハイマー病臨床研究の現状と今後
著者名 井原涼子,岩田 淳,岩坪 威
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(2):117-122,2022
抄録 2021年6月にアメリカで初めてのアルツハイマー病疾患修飾薬が承認されるに至った.このような疾患修飾薬の治験は,コホート研究による認知機能検査やバイオマーカーデータの蓄積や改良によって可能となった.ただ,認知症のコホート研究は,わが国では欧米よりも大きく遅れているといわざるを得ない.それでも2003年ごろから多施設共同研究が行われるようになり,2008年より欧米に比肩するレベルのJ-ADNI研究が実施された.最近では,複数のコホート研究の評価方法の共通化の試みも始まっている.
キーワード コホート研究,バイオマーカー,J-ADNI,J-TRC
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論文名 J-ADNI,AMEDプレクリニカル研究,そしてJ-TRC;2021年までの経過
著者名 佐藤謙一郎,岩田 淳
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(2):123-129,2022
抄録 米国Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)と同等のわが国におけるアルツハイマー病(AD)に対する多施設共同・縦断的観察研究(J-ADNI)が2007年に開始され2014年に終了,引き続いてプレクリニカル期ADによりフォーカスしたAMEDプレクリニカル研究が2015年に開始された.また,臨床開発にさらに重点をおいたプレクリニカルADの縦断観察研究である治験即応コホート(J-TRC)が2019年から開始され,現在も進行中である.本稿においては,これらの一連の研究の背景・意義,および2021年12月現在までの経過について紹介する.
キーワード アルツハイマー病,J-ADNI,AMEDプレクリニカル研究,J-TRC,プレクリニカル期AD
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論文名 エビデンス創出を目指したオレンジレジストリの取組み;MCIレジストリを中心に
著者名 鈴木啓介,辻本昌史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(2):130-135,2022
抄録 オレンジレジストリは,認知症の時間軸を考慮した,プレクリニカルから軽度認知障害(MCI),ケアに至るまですべてのステージを網羅したレジストリである.全国30を超える医療機関が参加したMCIレジストリは2,000例を超える被験者から同意を取得して,データ登録を行った.並行して治験のリクルートを効率的に進めるシステム(CLIC-D)も構築し,治験への誘導という観点からも質の高いレジストリとなったと考える.
キーワード レジストリ,軽度認知障害(MCI),Trial Ready Cohort(TRC),治験,クリニカルイノベーションネットワーク(CIN)
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論文名 J-MINT研究
著者名 杉本大貴,櫻井 孝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(2):136-143,2022
抄録 認知症の改善可能な複数の因子に同時に介入する多因子介入研究に期待が集まっている.わが国では,2019年度より「認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較試験(J-MINT研究)」が進行中である.J-MINT研究は,多因子介入の認知機能低下抑制の効果検証に加え,そのメカニズムを明らかにすること,さらに,民間企業と連携して,新たな認知症予防のサービスの創出・社会実装を目指している.本稿では,J-MINT研究について概説する.
キーワード 多因子介入,認知症,軽度認知障害,予防,J-MINT
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論文名 FTLD-Jレジストリ
著者名 森 康治,桝田道人,佐藤俊介,橋本 衛,渡辺宏久,祖父江 元,池田 学,FTLD-J
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(2):144-149,2022
抄録 本邦における前頭側頭型認知症(FTD)の臨床的特徴を明らかにし,バイオマーカー開発や将来計画されるFTDに対する臨床試験の基礎資料とするために,「日本人前頭側頭葉変性症の自然歴・生体試料レジストリと病態抑止治療開発フロンティア(FTLD-J)」が開始された.FTLD-Jでは,FTD診療に経験の深い日本全国の精神科・脳神経内科関連施設が参加しており,2021年8月時点で160例の臨床情報を収集している.これまでFTDの3つの臨床サブタイプのうち,行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)と意味性認知症(SD)を対象としてきたが,今後は対象に進行性非流暢性失語(PNFA)も含めるなど,さらなる拡張を予定している.
キーワード FTD,FTLD,SD,PNFA,コホート研究
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論文名 DIAN-Japan研究;観察研究と治療介入研究
著者名 池内 健,春日健作,新美芳樹,井原涼子,千田道雄,石井賢二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(2):150-155,2022
抄録 DIANは,遺伝子変異が同定されている常染色体優性(顕性)遺伝性アルツハイマー病(AD)家系を対象とした国際共同コホート研究である.発症前から縦断的に追跡するという卓越した研究デザインにより,発症前のADバイオマーカー変化がDIANにより明らかにされた.観察研究を基盤にDIANは疾患修飾薬を用いたAD予防治療試験へと発展している.
キーワード 常染色体優性(顕性)遺伝性アルツハイマー病,バイオマーカー,予防介入,疾患修飾薬,遺伝子変異
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論文名 若年性認知症調査研究
著者名 粟田主一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(2):156-166,2022
抄録 2017〜2019年に日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業で実施された若年性認知症の有病率・生活実態調査において,わが国の若年性認知症有病率は人口10万対50.9人,有病者数は3.57万人と推定された.生活実態調査の結果より,@診断へのアクセシビリティの確保,A認知症疾患医療センターにおける質の高い診断と診断後支援,B職域と保健福祉分野との連携による就労継続支援,C診断直後からの経済状況のアセスメントと社会保障制度の利用支援,D専門職の人材育成,Eニーズにあったサービスの開発と普及,F家族会等のインフォーマルサポートやピアサポートの普及,が今後の政策的課題として提起されている.
キーワード 若年性認知症,有病率,認知症疾患医療センター,診断後支援,当事者のニーズ
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論文名 認知症ちえのわnet
著者名 永倉和希,池田由美,上村直人,佐藤俊介,吉山顕次,鐘本英輝,池田 学,小杉尚子,野口 代,山中克夫,數井裕光
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(2):167-173,2022
抄録 「認知症ちえのわnet」は,認知症疾患に伴うさまざまな行動・心理症状(BPSD)に対する対応方法において,うまくいったか否かに関するデータ(ケア体験)を収集し,奏功確率が高い対応方法を抽出するために開発されたウェブシステムである.開発からこれまで,ケア体験の投稿を増やすための積極的な活動や,ウェブシステムの改良を行ってきた.今後は,集積されたケア体験を活用して,より個別性のある情報提供を行い,機能性を高めていきたいと考えている.
キーワード 認知症ちえのわnet,認知症の行動・心理症状(BPSD),情報通信技術,非薬物療法
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