老年精神医学雑誌 Vol.33-11
論文名 老年精神医学における臨床神経病理学からブレインバンクへ;精神医学はどのように「脳」と向き合ってきたか
著者名 入谷修司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1125-1137,2022
抄録 「精神」の拠り所は,古来より「脳」臓器にあると考えられていたが,脳が精神医学の病態解明の対象となったのは,19世紀のドイツを中心にした欧州においてであった.当時は,現在のように精神医学や神経学,生理学,解剖学が分離しておらず,また「脳病態」の研究手段は主に神経病理学に限られていた.日本からも多くの精神医学者がドイツに留学し,日本にドイツ精神医学を輸入した.その後,認知症などの変性疾患の病態解明は臨床神経病理学的手法により進歩し,日本からはその成果としてレビー小体病の疾患単位が報告された.一方で,いわゆる内因性精神疾患の病態解明において神経病理学的手法では限界があった.近年,生物学的精神医学分野での神経画像や分子精神医学の進歩から再度,研究リソースとして脳組織に関心がもたれ,「脳」の集積の必要性が求められるようになり,ブレインバンクの整備が企図されている.本稿では,脳組織からみた精神医学の歴史を概観し,脳病理・臨床神経病理の重要性を喚起した.
キーワード Brain Bank,neuropathology,臨床神経病理,脳病理解剖
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論文名 日本ブレインバンクネット岡山拠点;歴史,現状,課題
著者名 横田 修,寺田整司,三木知子,池田智香子,安田華枝,原口 俊,石津秀樹,木 学
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1138-1149,2022
抄録 岡山大学精神科では2016年から日本ブレインバンクネットの一拠点として凍結組織やパラフィン包埋切片の提供態勢や倫理面の整備を行ってきた.1924年から蓄積される1,000例以上の精神・神経疾患脳のうち再評価ができた400例以上がデータベース化されている.精神疾患の診断は症候学のみに拠っているため生物学的に均一な患者を抽出しているわけではない.仮説をおかないオミックス解析による根本的な病態理解にブレインバンクの存在は不可欠と考えられる.
キーワード オミックス解析,加齢,神経病理,トランスクリプトミクス,ブレインバンク
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論文名 精神疾患解明のための脳集積と老年精神医学への貢献;松沢病院の歴史から
著者名 大島健一,河上 緒,犬尾英里子,新里和弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1150-1155,2022
抄録 1879年 東京府癲狂院の創設から東京府巣鴨病院を経て東京都立松沢病院に至る病院の変遷の歴史と,その間の神経病理の業績や解剖の活動推移を述べた.松沢病院での解剖数は現在年10例弱で推移しているものの,精神科疾患の死後脳は貴重であることから,病理解剖を継続しさらに発展させていくことが望まれる.2016年から全国規模で日本ブレインバンクネットに参加.リソースの整備や標本提供,また標本のデジタル化など,将来にわたってそのバンクの有用性を高めていく活動を行っている.
キーワード 松沢病院,神経病理,日本ブレインバンクネット,デジタル化
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論文名 認知症確定診断ツールとしての病理活動と精神科ブレインバンク
著者名 関口裕孝,藤城弘樹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1156-1162,2022
抄録 認知症疾患における診療では,神経心理学的症候や神経学的所見のみならず,画像検査などのバイオマーカーの知見の蓄積とともに脳病態に応じた鑑別診断が求められている.しかし,主に精神科医が治療に従事する精神症状が前景化する症例では,機器設備の問題に加えて,検査協力を得ることが困難な場合も少なくない.本稿では名古屋ブレインバンクコンソーシアムの概要を紹介し,臨床診断と病理診断が一致しなかった2症例を呈示して,認知症確定診断ツールとしての神経病理の意義について再考した.
キーワード brain bank,psychiatry,dementia,clinic-pathological conference
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論文名 老年期の精神症状評価と精神科ブレインバンク;器質因を評価するためのリソースとして
著者名 永倉暁人,河上 緒
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1163-1169,2022
抄録 老年期には抑うつ,アパシー,易刺激性,幻覚妄想などのさまざまな精神症状が好発する.老年期の脳においては,臨床的に認知機能低下や微細な精神・神経症状が出現する前から,加齢に伴ってアミロイド?,タウなどの神経変性蛋白が蓄積することがわかっている.そのため老年期の精神症状の病態解明においては,脳内の病理学的変化を勘案することが欠かせない.精神活動は器質因子だけでなく環境因子や心理因子などが複雑に絡み合って出現するため,臨床と神経病理の関連を考察するためには,多くの症例で臨床経過と神経病理を検討し比較することが重要である.東京都立松沢病院は,明治期より剖検例を蓄積し,東京都精神医学総合研究所と連携し,精神症状の器質因を探る試みを継続してきた.本稿では,老年期に精神症状を呈したある一例の臨床神経病理学的所見を呈示したうえで,同様の病理像を呈する多数例の検討によって明らかにされた知見を紹介し,精神科領域における剖検脳蓄積の重要性を再確認する構成とした.
キーワード 神経病理,老年期うつ病,器質因,神経原線維変化型老年期認知症,タウ
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論文名 <精神科ブレインバンクにおける脳病理カンファレンス@>
精神科と脳神経内科のクロストーク(CPC)の重要性
著者名 陸 雄一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1170-1174,2022
抄録 精神科患者の剖検脳を観察し,精神科医とclinico-pathological conference(CPC)を行うことで,精神病と神経疾患とが複雑に絡み合って各症例の臨床像を形成していることがわかる.認知症の合併やアルコールに関連した脳障害の影響などが注目される.精神科患者が高齢化するにつれて,こうした複合的病像の認識が重要になるだろう.
キーワード CPC,ブレインバンク,剖検,神経変性疾患,認知症
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論文名 <精神科ブレインバンクにおける脳病理カンファレンスA>
レビー小体病の精神症状の神経病理学的背景
著者名 赤木明生,吉田眞理,岩崎 靖
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1175-1180,2022
抄録 神経変性疾患でみられる多彩な症状の神経病理学的背景はいまだ解明されていない部分が多い.実際に経験した症例を踏まえて,レビー小体病の精神症状の神経病理学的背景について考察する.
キーワード レビー小体病,精神症状,神経病理学,CPC,ブレインバンク
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論文名 精神科ブレインバンクにおけるゲノム研究との連携
著者名 鳥居洋太,荒深周生
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1181-1185,2022
抄録 統合失調症の病態解明には死後脳における検証が欠かせず,疾患特異的な所見を見いだすためには,ゲノム情報を背景にした検証が有用と考えられる.また,海外では,脳組織から得たゲノムデータが分析・公開されており,本邦でもブレインバンクとゲノム研究とのさらなる連携が期待される.老年期精神医学の観点からも,統合失調症に晩年生じる認知症状態などについて,精神科ブレインバンクを用いた多面的なアプローチが期待される.
キーワード 統合失調症,死後脳,神経病理,Copy Number Variant,認知症
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論文名 <老年精神医学における日本版精神科ブレインバンクへの期待とその意義@>
精神医学の臨床教育の立場から
著者名 渡辺亮平,新井哲明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1186-1189,2022
抄録 老年精神医学の臨床教育では,精神症状が多彩な病理学的変化を基盤として生じることを研修医が理解し,さらにその病態機序について自ら考察し研究できるようになることが望ましい.そのためには,若手精神科医に病理研究の意義や魅力を伝え,患者脳標本の評価や解析を経験させる環境整備が重要である.国内ブレインバンクとの連携により脳リソースを研究教育に活用した具体例として,当科での取組みを紹介した.
キーワード ブレインバンク,老年精神医学,臨床教育,認知症,CPC
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論文名 <老年精神医学における日本版精神科ブレインバンクへの期待とその意義A>
ブレインバンクを通じた精神医学研究を推進するにあたって必要となる背景知識;倫理的側面を中心に
著者名 滝上紘之,菊地俊暁,三村 將
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1190-1193,2022
抄録 戦後早い時期からブレインバンクが構築され,死後脳研究が発展してきた欧米とは異なり,衰退の一途をたどった死後脳研究がブレインバンクとともに再興されつつあるのが日本の現状である.日本社会のなかで徐々にブレインバンクが受け入れられつつあるものの,対応の誤りが世間による指弾につながりかねない危うさが潜んでいる現実もある.今後の健全な発展のために押さえておきたい基礎知識についてまとめた.
キーワード ブレインバンク,研究倫理,精神医学史,生前登録,精神病理
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論文名 <老年精神医学における日本版精神科ブレインバンクへの期待とその意義B>
神経病理学と精神医学
著者名 吉田眞理
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(11):1194-1196,2022
抄録 神経病理学は歴史的に精神医学とともに発展してきた.精神疾患は脳の異常に立脚していながら,神経病理学にとって攻略のむずかしい領域であるが,徐々に解明の糸口がみえつつある.精神疾患の病態解明や治療法の確立には疾患脳の検証が不可欠であり,精神科ブレインバンクに蓄積されている脳の病理像と,さまざまなゲノム研究や分子生物学的研究に対応できる凍結脳を活用した,新たな戦略による疾患機序の解明が期待される.
キーワード neuropathology,psychiatry,neuron,dendrite,synapse
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