老年精神医学雑誌 Vol.33-10
論文名 認知機能の老化と認知予備力
著者名 武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):995-1004,2022
抄録 人は,幼少時からの躾,教育,就業してからの仕事や他人とのかかわりを経験し,さまざまな心理・社会的経験を積み重ねて高齢者となる.したがって,高齢者の個体差は大きく,正常か異常かという二分法で括ることは不適切であり,老化は健康から疾患までを通じた一連の連続性をもったスペクトラムととらえるほうがよい.人は40歳代以降には,脳の老化に伴い加齢に伴う認知機能低下を示すが,認知機能低下のスペクトラムを想定して,サクセスフルエイジング(successful aging)の概念が提出されているが,認知症はunsuccessful agingの極に位置づけられよう.脳の加齢変化や病的変化に拮抗して,認知機能を維持する力として,認知予備力の重要性が指摘されている.認知予備力の概念はいまだ十分には整理されていないが,高齢者の精神科診療において臨床家が心がけておくべき概念である.
キーワード 行動 (behavior), 認知 (cognition), 加齢 (aging), 認知機能の老化 (cognitive aging), 認知予備力 (cognitive reserve)
↑一覧へ
論文名 認知レジリエンスの概念と指標
著者名 布村明彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):1005-1012,2022
抄録 脳病理が存在しても認知機能を保持させる機構「認知レジリエンス(CR)」の発現は,後期高齢者においてまれではないことが死後脳や脳脊髄液・画像バイオマーカー研究から推定されている.CR機構の解明は認知症の予防や早期介入に重要な手がかりを与えうる.近年,RESTやNRN1などCRに関連する分子が同定され,神経保護・成長因子,シナプス可塑性,炎症・免疫,血管系要因などとの関連性が論じられている.
キーワード アルツハイマー病,認知レジリエンス,認知予備能,病理-認知機能乖離
↑一覧へ
論文名 認知予備力の神経心理学
著者名 松井三枝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):1013-1018,2022
抄録 認知予備力とは,脳の病理や加齢の影響を受けても認知機能の低下を抑える個人の潜在的な能力を意味する.これまで,主に高齢者や認知症でこれらの認知予備力プロキシと認知機能との関係が多く検討されてきた.しかし,さまざまな神経・精神疾患への認知予備力の考え方の応用も今後考えられる.本稿では,認知予備力のライフコース・モデルを紹介し,さらに,臨床神経心理学の観点から認知予備力についてのこれまでの研究を紹介した.局在病変のある患者(脳卒中・脳腫瘍)の検討はまだ多くないが,病前IQおよび教育歴はいずれも(ないしはいずれかは)予後の機能的低下の軽減につながることがいくつか示されてきている.今後,認知予備力プロキシの多様性,およびさらにより多くの神経心理学的研究によって,認知予備力の詳細をみてゆく必要があると思われる.
キーワード 認知予備力,病前IQ,教育,余暇活動,脳腫瘍,認知機能
↑一覧へ
論文名 認知予備能の脳内基盤;神経画像研究から
著者名 吉澤浩志
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):1019-1029,2022
抄録 認知予備能は,脳の加齢変化や病理変化に際して,それらに基づく認知機能低下をできる限り回避し,機能を維持する仮想的な概念である.認知予備能の脳内基盤を探索するためには,教育,病前のIQ,職業,余暇活動,運動など,これまで確認されてきた認知予備能の代理尺度や,統計学的な残差因子を代理尺度として用いて,脳の加齢変化ないし病理変化とその結果生じる認知機能低下の間の相関関係を変容しうる脳のネットワークを,神経機能画像を用いて示すことが必要である.
キーワード 認知予備能,脳予備能,アルツハイマー病,神経機能画像,fMRI
↑一覧へ
論文名 教育歴と予備能,耐性・回復能
著者名 安野史彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):1030-1036,2022
抄録 人生早期の教育がアルツハイマー型認知症(AD)に対して抑止的に働くことが示されている.その背景には,教育が耐性・回復能を高めることで発症を抑止する効果と,予備能を高めることで,認知機能の破綻が代償されることがともに考えられる.本稿では,予備能,耐性・回復能について考察し,教育のAD発症抑止効果について,PET分子画像データに基づく結果をもとに検討する.
キーワード education,reserve,resilience,Alzheimer’s disease,positron emission tomography,amyloid,tau
↑一覧へ
論文名 聴力と認知予備能
著者名 内田育恵
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):1037-1041,2022
抄録 聞きとりにくさを放置すれば,聴覚処理過程で不足する情報を補うために,より多くの認知資源が動員され,この聴取環境が続くと脳の構造的な変化さえ生ずるといわれている.難聴の耳を経由する日常的な聴覚処理により,認知予備能が消耗され認知症が顕在化するというメカニズムが考えられている.認知予備能にはさまざまな代理尺度が考えられているが,難聴の存在により不利になる,教育,就労,知的または社会的刺激をもたらす活動,社会交流などが含まれる.高齢期の難聴は早めのケアが重要である.
キーワード 難聴,認知負荷,二重課題,海馬,代理尺度
↑一覧へ
論文名 社会交流と認知予備能
著者名 山下真里,藤原佳典
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):1042-1048,2022
抄録 認知予備能は,認知機能低下の防御因子として着目されている.認知症予備能には,活動的で脳を刺激するようなライフスタイルだけでなく,他者とコミュニケーションをとり,社会とのかかわりを維持する社会交流の視点が欠かせない.本稿では,認知予備能の一つのパラメーターとして社会交流をとらえ,認知症発症あるいは認知機能と社会交流の関連を報告している疫学研究を紹介した.
キーワード 認知予備能,社会的刺激,対人交流,就労,知的活動
↑一覧へ
論文名 認知症危険因子と認知予備能増強戦略
著者名 長田 乾,野大樹,山ア貴史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):1049-1056,2022
抄録 高血圧,糖尿病,高コレステロール血症,心房細動,喫煙,過度の飲酒などのいわゆる血管性危険因子は,脳血管障害を基盤とする血管性認知症の直接的な原因にとどまらず,アルツハイマー病の病態を修飾し,認知機能低下の発現や進行に促進的な影響を及ぼすことが明らかにされており,中年期からの血管性危険因子の厳格な管理・治療は,認知症予備能を増強し,認知症の発症や進行を抑制するうえできわめて有効な方策とみなすことができる.
キーワード 認知予備能(cognitive reserve),血管性危険因子(vascular risk factors),脳血管障害(cerebrovascular disease),アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)
↑一覧へ
論文名 認知訓練・脳活性化リハビリテーションと認知予備能増強
著者名 山上徹也,山口晴保
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,33(10):1057-1064,2022
抄録 認知訓練は,加齢やアルツハイマー型認知症で障害されるデフォルトモードネットワークや側頭葉(海馬)の体積・血流・機能的結合性増加などで,認知予備能を増強する可能性がある.認知訓練と運動等を組み合わせた複合介入で効果がさらに高まる可能性がある.実施時は,「脳活性化リハビリテーション5原則」に従い,対象者の残存能力や興味・関心に合わせ,生活のなかに組み入れて,他者と交わりながら楽しく継続できるようにする.
キーワード 認知訓練,脳活性化リハビリテーション,認知予備能(cognitive reserve),認知症,デフォルトモードネットワーク(default mode network)
↑一覧へ