老年精神医学雑誌 Vol.32-9
論文名 COVID-19治療を担う公立総合病院の精神科からみた課題;せん妄症例,職員間の情報共有,電子カルテ
著者名 丸勇司,笹川嘉久
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):915-923,2021
抄録 小樽市立病院は2020年2月以来新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応に当たっており,病院クラスターも経験した.そこで,この間に明らかになった課題を取り上げた.@COVID-19患者のせん妄症例を呈示し,2つの問題点を論じた.1つは医療側の問題で,感染症の身体治療に追われるなかでせん妄あるいは高齢者の生活という視点がおろそかになっており,また,精神科医療も十分に提供できていなかった.2つ目として,高齢者の生活基盤の脆弱さがコロナ禍により露呈する結果を招いている.A病院クラスターにおいて,情報共有は危機管理部門内のみならず,全職員間でもまた重要であった.電子カルテシステムには功罪があり,危機管理部門での情報収集,活用により感染対応に力を発揮するが,個人情報保護の点から運用には十分な注意が必要である.
キーワード 新型コロナウイルス感染症,COVID-19,せん妄,情報共有,電子カルテ
↑一覧へ
論文名 新型コロナウイルス感染症流行下における認知症高齢患者への支援と支援者支援
著者名 扇澤史子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):924-930,2021
抄録 新型コロナウイルス感染症の流行下であっても,認知症高齢患者に対する支持的対応が重要であることには変わりない.感染予防を至上命題とする医療機関において認知症やせん妄の高齢患者の治療にどのような困難があり,彼らを支える支援者をどのように支援するのか,コロナ陽性となった認知症患者やコロナ禍で行動・心理症状が出現した認知症患者の2つの架空事例を通して,入院中に多職種で重ねた工夫を紹介する.
キーワード 高齢者,認知症,多職種チーム,行動・心理症状,新型コロナウイルス感染症
↑一覧へ
論文名 コロナ禍におけるウェブを活用した面会サービスの取組み
著者名 坂本和歌子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):931-935,2021
抄録 熊本リハビリテーション病院では,新型コロナウイルス感染症の流行に伴い入院患者への面会を中止している.家族と患者との接触がないことによる患者の不安感の軽減のため,ウェブアプリケーションであるビデオ通話を利用したオンライン面会サービスを開始して1年が経過した.オンライン面会サービスの概要と利用者,職員へのアンケートを実施し,サービスの必要性と取組みを行ってきたなかでの所感を述べた.
キーワード 面会中止,オンライン面会,高齢者,新型コロナウイルス感染症
↑一覧へ
論文名 新型コロナウイルス感染症で入院した高齢精神障害者のソーシャルワーク
著者名 木村亜希子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):936-943,2021
抄録 新型コロナウイルス感染症の拡大下で,私たち社会復帰支援室では平時と同様,高齢精神障害者の入退院をめぐる個別支援,いわゆるケースワークを行う.ケースワークの帰結は『退院先』の選定であるが,単に「空床があり,現在の身体状態,精神症状で受け入れ可能な『退院先』を探す」という支援だけではケースワークが滞る事例が後を絶たない.実効性の高い退院支援のためには,その人がもともともつ,精神的,身体的,そして社会的健康および社会的困難の課題に目を向け,その退院先が本人のどのような支援ニーズを満たすものか熟考する必要がある.そのうえで,本人や家族のみならず,広く地域生活でかかわることが期待される支援機関への働きかけ,つまりソーシャルワークが不可欠となる.
 地域における支援機関の活動を縮小や優先課題を設定せざるを得ない状況があるコロナ禍において,改めて本人のウェルビーイングに寄与するソーシャルワークについて考える機会となった.
キーワード 新型コロナウイルス感染症,高齢精神障害者,ソーシャルワーク,地域包括ケアシステム
↑一覧へ
論文名 新型コロナ感染症蔓延期におけるレビー小体型認知症をもつ小規模多機能型居宅介護の利用者が脳梗塞を発症してからリハビリテーション病院で回復訓練が始まる経過についての一考察
著者名 青木伸吾
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):944-952,2021
抄録 小規模多機能型居宅介護(小規模多機能)に通うレビー小体型認知症ほか多重な現病をもつ高齢者が,2020(令和2)年,新型コロナウイルス感染症第1波蔓延期に脳梗塞を発症して救急病院へ入院した.7日後,入院患者(利用者)は平常時の経過とは異なる退院経過を経験することになった.家族はリハビリテーション病院への転院に思考が及ばない状況のなか,患者本人は小規模多機能へ急遽退院となった.小規模多機能職員はチームとなって,かかりつけ医師と連携を図り,連泊する患者(利用者)を3日でリハビリテーション病院への新型コロナ蔓延期における入院を遂行した.患者(利用者)は脳梗塞発症から10日で平常時に近い機能回復リハビリの緒についた.
キーワード 小規模多機能の「訪問」「通い」「宿泊」,小規模多機能と地域医療機関連携,小規模多機能のチームケア,小規模多機能の緊急対応
↑一覧へ
論文名 新型コロナウイルス流行下において認知症支援のための地域拠点が行った困難事例への支援;高島平ココからステーションの取組み
著者名 杉山美香
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):953-959,2021
抄録 新型コロナウイルス感染症流行下において認知症支援のための地域拠点「高島平ココからステーション」で行った地域に暮らす困難事例への相談支援について述べた.感染症流行前からの対象者との信頼関係の構築,十分な感染症予防対策を行いながらの拠点の継続,電話等の対面以外の手段を併用した利用者の状況の把握や孤立予防,地域の関係各機関と連携しながら個別相談に応需することなどが重要であることがわかった.
キーワード the COVID-19 epidemic,dementia,mental disorders,difficult cases to support,community spaces
↑一覧へ
論文名 成年後見業務と新型コロナウイルス感染症
著者名 山田祐司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):960-965,2021
抄録 ・新型コロナ感染拡大による面会制限で後見人等は利用者本人と会う機会が減少したが,感染の可能性を考えれば面会自粛もやむを得ない.
・後見制度利用の最初の段階から関係機関の活動鈍化の影響を受け,本人のための課題解決が遅れてしまう傾向にある.
・新型コロナ感染による被後見人の死を経験し,この場面の問題でも多いことがわかった.
・ワクチン接種にあたり,被後見人への予防接種についての後見人の同意権の有無を明確化してほしい.
キーワード 身上配慮義務,登記事項証明書,財産目録と年間の収支計画,医的侵襲,予防接種法上の「保護者」
↑一覧へ
論文名 新型コロナウイルス禍における介護予防事業
著者名 佐藤むつみ
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):966-969,2021
抄録 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,これまで実施していた介護予防事業の体制を見直さざるを得ない状況となった.緊急事態宣言下で事業の休止と再開を繰り返しながら,オンライン型の教室を導入するなど新たな方法を模索するなかで,思いがけない発見もあった.今後は高齢者のニーズや事業の有効性を精査するとともに,生活支援体制整備事業や認知症施策とも連携しながら,行政としてより迅速かつ柔軟な対応が求められるだろう.
キーワード 新型コロナウイルス,介護予防事業,フレイル対策,オンライン,行政
↑一覧へ
論文名 コロナ禍における認知症の人と介護家族の現状
著者名 大野教子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):970-973,2021
抄録 新型コロナウイルス感染症の拡大はいまだに収束の見通しのつかない状況が続いている.人と人との直接的なつながりが制限され困難になって,認知症の人と介護家族はいっそう孤立して悩みが深くなっていると感じている.本稿では当会が昨年7月に実施したアンケート調査をもとに,コロナ禍における認知症の人と介護家族の現状と思いを紹介する.
キーワード 面会不可,サービス利用制限,孤立,つながり,安心
↑一覧へ
論文名 新型コロナと認知症カフェ
著者名 竹内弘道
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):974-977,2021
抄録 コロナ禍で全国7,000の認知症カフェ(厚労省調べ)の多くが通常どおりの開催ができずにいる.公的施設を会場にしていることが大きな理由と思われる.オンライン開催も試行されているが高齢者にはハードルが高い.閉塞する地域社会で認知症リスクが高まっている.感染予防,免疫力を高める食事と生活リズム,持病の管理など,“withコロナ時代”の暮らし方について語り合うことが,今の認知症カフェに求められる重要なテーマであろう.
キーワード 認知症リスク,人と話がしたい,免疫力,暮らしのリズム,地域包括ケア
↑一覧へ
論文名 訪問看護の利用者と新型コロナウイルス感染症を通して支援者の役割を考える
著者名 中村洋子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):978-981,2021
抄録 新型コロナウイルス感染症を予防するために始まった緊急事態宣言による自粛生活は,訪問看護の利用者にどのような影響を与えただろうか.大きく分けて認知機能低下と筋力低下が挙げられる.この2つの現象が高齢者の生活状況を変えた事例を考え,改めて支援する専門職の役割の重要性を認識した.高齢者の命と生活を守るには本人や家族の意思を尊重しつつも専門職として適切な判断と実施する能力が必要と考える.
キーワード 新型コロナウイルス感染症,自粛生活,筋力低下,認知機能低下,支援者役割
↑一覧へ
論文名 コロナ時代のお別れ
著者名 小川有閑
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(9):982-985,2021
抄録 新型コロナウイルス感染症の流行の影響は葬送儀礼にも及んでおり,葬儀の参列者の減少(小規模化),簡素化(通夜の省略)が顕著となっている.しかし,グリーフワーク・グリーフケアの場として葬儀をみるならば,いたずらな小規模化,簡素化は首肯できるものではない.現在,withコロナの葬送儀礼が模索されつつあるが,形態は変化していこうとも,大切な人を弔いたいという心は変わらないものと思慮される.
キーワード 新型コロナウイルス感染症,葬送儀礼,小規模化,グリーフワーク,グリーフケア
↑一覧へ