論文名 | 世界の潮流としての人権の尊重 |
著者名 | 繁田雅弘 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):139-143,2021 |
抄録 | 認知症の人の人権について考えるために,世界保健機関(WHO)の指針「Global action plan on the public health response to dementia(認知症への公衆衛生的対応に関する世界行動計画)」と国連欧州経済委員会(UNECE)の報告書「Dignity and non-discrimination for persons with dementia(認知症の人にとっての尊厳と非差別)」を中心に,世界的な流れを紹介した. |
キーワード | 先入観,偏見,差別,尊厳,障害 |
論文名 | 医療における人権侵害について;認知症高齢者の進行がんに関するインフォームド・コンセントと医療上の意思決定の課題 |
著者名 | 井藤佳恵 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):144-151,2021 |
抄録 | 判断能力が低下した患者のインフォームド・コンセントのあり方は,臨床における大きなテーマである.しかし,個々の医師の認識の差は大きく,それはインフォームド・コンセントの「説明」のあり方にも大きな影響を及ぼしている.本稿では,自己決定権とは自分で自分の意思決定を行う権利であり,意思決定支援の核に自己決定があるという立場に立ち,進行がんを診断された認知症高齢者の事例を通して,インフォームド・コンセントと医療上の意思決定のあり方について考察した. |
キーワード | 認知症,がん,化学療法,意思決定,インフォームド・コンセント |
論文名 | <権利ベースのアプローチ>医療と福祉の連携;RBAを導入した現場からの報告 |
著者名 | 山崎英樹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):152-164,2021 |
抄録 | 権利ベースのアプローチ(RBA)を職場に導入した経験を報告した.RBAは,認知症という障害のある人と関わるこの仕事の意味に気づかせ,現場をエンパワーすると同時に,個人を尊重し,見過ごされがちな本人の権利に気づく感性を深く養う.認知症の初期集中支援や診断後支援において,また,本人が市民として貢献し,参画する場を広げるうえで,さらに,「介護という命の現場」にどう向き合うのかという新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重い問いにも,RBAは確かな羅針盤となる. |
キーワード | RBA,診断後支援,初期集中支援,ピアサポート,リカバリーカレッジ,パラレルレポート,COVID-19 |
論文名 | <権利ベースのアプローチ>地域をつくる取組み |
著者名 | 粟田主一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):165-172,2021 |
抄録 | 権利ベースのアプローチ(RBA)は認知症の分野においても世界的な広がりをみせつつあるが,わが国の認知症施策にそれが浸透しているとはいえない.疫学調査の結果は,地域に暮らす認知症高齢者の多くがニーズ未充足の状態にあることを示している.一方,地域に拠点を設置し,必要な社会的支援の利用・提供を可能にする地域づくりの先進事例も蓄積されてきている.しかし,こうした活動を普及することができる制度的枠組みは目下のところ存在しない.共生社会は,「予防モデル」や「経済モデル」ではなく,「人権モデル」によって基礎づけられるものである.認知症の有無にかかわらず,障害の有無にかかわらず,すべての人が尊厳と希望をもって暮らせる「共生社会」をレトリックではなく現実のものとするには,RBAを国や地方公共団体の政策理念の中心に据えるパラダイムシフトが不可欠であろう. |
キーワード | 権利ベースのアプローチ,認知症,社会的孤立,地域生活支援,地域の拠点 |
論文名 | 認知症の人の意思決定支援と人権 |
著者名 | 成本 迅 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):173-180,2021 |
抄録 | 認知症に罹患することで,認知機能の低下や精神症状により自律的な意思決定を行うことがむずかしくなることがある.そのような場合でも,的確に意思決定能力を評価し,必要な支援を提供することで,最大限本人の意向を反映させて,人権に基づいた意思決定を支援することが可能となる.そのための方法論や技術を老年精神医学はもっており,他の診療科のみならず,行政や民間企業などの他業種にも広げていくことが重要であることを述べた. |
キーワード | 意思決定支援,意思決定能力,多職種連携,行政,民間企業 |
論文名 | 精神障害者に対する強制的な医療からの示唆 |
著者名 | 金澤由佳 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):181-186,2021 |
抄録 | 日本においては,1950年より「強制入院」制度が存在し,現在「入院時」の法制度の枠組みを超えた「強制的な入院」が人権問題となっている.本稿では,約40年間精神科病院に入院をしていた患者が2020年9月に起こした国家賠償請求訴訟を踏まえて,「強制的な入院」と精神障害者の地域社会での共生について述べた.結論として,患者に必要な医療を行い,地域社会へ包摂しなければならない精神科医療の役割および責任は大きいことを改めて強調した. |
キーワード | 強制的な医療,長期入院,基本的人権,人権侵害,精神医療国家賠償請求訴訟 |
論文名 | 認知症患者の処遇をめぐる意思決定と医療者の役割についての倫理学的検討 |
著者名 | 中塚晶博 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):187-192,2021 |
抄録 | 認知症患者は従来,医療との関係においては「治療の対象」として,また,社会との関係においては「保護の対象」としてとらえられてきたが,近年,そのような捉え方が患者の尊厳を奪い,人権侵害の契機ともなりうることが認識されつつある.人権への配慮は,認知症患者をより深く理解するための手がかりとなり,患者の自由の拡大にも寄与しうる一方で,自身の選択の結果への責任を認知症患者はどこまで引き受けるべきか,認知症患者が第三者に与えた損害に対して社会はどこまで寛容であることができるのか,といった問題とも表裏の関係にある.認知症ケアの場面では患者本人だけではなく,その家族の人権への配慮も重要となる.したがって,医療者は,認知症患者とその家族の人権を両立すべき役割を担う者として,法律上・倫理上の限界のもとでどのように行動すればよいのか,という課題に取り組む必要がある. |
キーワード | 自己決定,パターナリズム,利益衡量,介護負担,寛容社会 |
論文名 | 認知症の本人と家族の一体的ケアプログラム;日本版ミーティングセンター・サポートプログラムの開発 |
著者名 | 矢吹知之 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):193-200,2021 |
抄録 | 認知症の本人と家族の支援は,制度上これまで別々の場所でそれぞれのプログラムを用いて展開されてきた.しかし,日頃最も長い時間を過ごす家族との関係性への支援はなされてこなかった.良好な関係性の構築や良質な地域サポートの享受機会は,在宅生活継続には欠かすことができない.そこで本稿では,オランダを中心としてヨーロッパ諸国で広がりつつある,認知症の人と家族の一体的ケアプログラム,ミーティングセンター・サポートプログラムについて紹介したうえで,日本版ミーティングセンターの実態と今後について検討して考察した. |
キーワード | ミーティングセンター・サポートプログラム,一体的ケア,家族支援,本人支援,オランダ |
論文名 | 認知症施策における人権と共生社会の視点 |
著者名 | 田中稔久 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):201-207,2021 |
抄録 | 国は2019年に「認知症施策推進大綱」をとりまとめ,「共生」と「予防」を車の両輪として,認知症になっても,尊厳と希望をもって住み慣れた地域で生活を続けることができるような施策を進めている.人権と共生社会は重要な視点であるが,「認知症施策推進大綱」に至るまでの今までの流れと,そのなかでどのようにこれらが組み入れられているかに関して,ここでは概説する. |
キーワード | 認知症施策推進大綱,人権,共生社会 |
論文名 | 看護倫理を教える・学ぶ;倫理的能力の促進と尊厳あるケアの提供 |
著者名 | 八尋道子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):208-214,2021 |
抄録 | 本稿では,看護系大学での看護倫理学の授業内容の例を紹介しつつ,看護師養成課程の倫理教育のなかで,人権がどのように取り扱われているかについて説明を試みた.提示する授業は,「倫理教育の目的は倫理的能力の促進である」という立場をとっている.看護の倫理的本質は,人間の尊厳を可能な限り維持,保護,促進するために,人間の脆弱性に対応するケアを提供することである. |
キーワード | 尊厳,ケア,脆弱性,倫理的能力の促進,看護倫理 |
論文名 | 認知症との共生の社会学;予防と備えの対比から考える |
著者名 | 井口高志 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):215-221,2021 |
抄録 | 本稿では,まずは認知症施策推進大綱を契機に現れた予防と備えという,認知症が進行していくことに対する2つの行為・態度の対立に注目し,共通点と違いとを明らかにした.次に,共生概念の社会学的な意味内容を確認したうえで,予防と備えが共生といかに関連しているかを検討し,共生という観点から予防がいかなる意味で批判されているのか,備えという考え方のいかなる点が重要なのかを明らかにした.さらに,認知症との共生の構想を突き詰めていくことが,逆説的に介護をする側の権利などの課題などともつながっていくことを確認した. |
キーワード | 共生,備え,予防,介護者,社会学 |
論文名 | 認知症の人との共生社会とは;医療の視点から |
著者名 | 武地 一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):222-227,2021 |
抄録 | 認知症の人との共生社会を医療の視点から考えるとき,2つの視点がある.まず第1には,医療現場で目撃される権利侵害やそこから考えられる共生のあり方への視点である.もう1つは,医療現場のスタッフ自身が引き起こす権利侵害であり,そこから考えるべき共生のあり方への視点である.また,医療がかかわる場面としては,外来,入院,地域・アウトリーチなどの複数の場面がある.それぞれについて,みていきたい. |
キーワード | 外来,認知症ケア加算,認知症初期集中支援チーム,認知症カフェ,意思決定支援 |
論文名 | 認知症の人との共生社会とは;認知症高齢者は私である |
著者名 | 大井 玄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,32(2):228-235,2021 |
抄録 | "・わが国には,精神病者を隔離する社会対応があった.第二次世界大戦後,それを「精神科特例」が公式化し,私立病院による営利事業化のため,先進国の大勢に反して大幅な精神科病床の増加をみた.現在,それは老人科病床に転用され,認知症高齢者の収容が増えている. ・認知能力低下は加齢により増加し,90歳〜百寿では「正常」な機能表現とみなせる. ・認知能力低下があっても,高齢者の精神的葛藤が起こらぬ地域文化では,周辺症状のない高齢者として,生活が可能である.そこには,@慣れた場所,Aゆっくりした時間感覚,B周囲からの敬意,C残存能力維持が認められる." |
キーワード | 加齢による認知能力低下,高齢者への敬意,ゆっくりした時間感覚 |