老年精神医学雑誌 Vol.32-1
論文名 <T.総論>
わが国における各種統計にみる高齢者の飲酒実態
著者名 翠川晴彦,太刀川弘和,渡邊多永子,田宮菜奈子,新井哲明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):5-12,2021
抄録 高齢化の進展とともに高齢者における飲酒の問題は増えてきているが,その実態は十分に把握されていない.本稿では,政府統計を用いて,高齢者における飲酒実態を概説するとともに,国民生活基礎調査の統計分析によって得た知見を紹介する.いずれの統計も,多くの高齢者が適量を超えた飲酒をしており,随伴する問題が生じていることを示している.高齢者に焦点をあてた飲酒習慣改善の取組みが求められる.
キーワード 高齢者,飲酒,アルコール,政府統計,地域差
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論文名 <T.総論>
高齢期のアルコール使用の医学的問題
著者名 松下幸生
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):13-21,2021
抄録 高齢者におけるアルコール問題の頻度は男女差が大きいが,疫学調査によると60歳代後半〜70歳代前半の男性では2割を超える人に何らかのアルコール問題が示唆されている.高齢期では同じ飲酒量でも若い世代より血中濃度が高くなることが知られており,より影響が現れやすい.本稿では,アルコールと認知機能障害との関連や,高齢期におけるアルコール使用障害の特徴,高齢者におけるアルコール使用障害のスクリーニングについて紹介した.
キーワード 高齢,飲酒,アルコール使用障害,認知障害,スクリーニング
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論文名 <T.総論>
「もの忘れ外来」におけるアルコール問題
著者名 山敏樹,新井平伊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):22-33,2021
抄録 認知機能の低下を心配してもの忘れ外来を受診する高齢者の背景にアルコールの問題が潜んでいることがある.しかし,「アルコール使用に影響された認知機能低下」という診断定義は曖昧であり,認知機能障害に伴う病識低下の問題や世間体上アルコール使用を否認する防衛機制が働くこともあり,その診断と介入にはもの忘れ外来という立場ゆえの得失が伴う.アルコール使用による認知機能低下の予防を目標に据えれば原則的に断酒指導が望ましいが,実際には依存症治療領域でのハームリダクションの理念に沿い,患者との治療継続性を損なわないかかわりを重視した認知機能向上を目指す介入が有用である.また,壮年期におけるもの忘れの訴えの背景にはアルコール使用障害も含め多様な精神疾患が関与しており,これも精神科でのもの忘れ外来がアルコール問題への早期診断と介入において有利である根拠といえ,担当医には広い視点の啓発・介入を諦めない姿勢が求められる.
キーワード もの忘れ外来,アルコール関連認知症(ARD),ハームリダクション(harm reduction),ポピュレーション・アプローチ,壮年期
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論文名 <U.Biologicalな側面から>
高齢者における飲酒の身体的影響
著者名 原 俊哉
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):34-39,2021
抄録 わが国における人口比率の高齢化に伴い,アルコール依存症における高齢者の割合も増加している.高齢者における飲酒の身体的影響としては,認知症,脳血管障害,転倒・骨折などが多くみられ,そのため介護が必要になる場合が多い.当院の高齢者アルコール依存症患者の約1/3は退院後,施設入所等が必要であった.高齢者の健康寿命の延伸のためにも,高齢者の節度ある適度な飲酒(1日アルコール10 g程度)が今後より求められる.
キーワード 高齢者,アルコール依存症,認知症,要介護者,健康寿命
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論文名 <U.Biologicalな側面から>
高齢者のアルコール問題の理解とその臨床
著者名 松井敏史,永田あかね,三ツ間小百合
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):40-48,2021
抄録 高齢者では生命維持活動の余力(reserve capacity)が低下し,身体・精神疾患イベントに対して脆弱になる.近年これをフレイルと称し,将来の生命予後に関与する重篤な疾患や要介護につながる前疾病状態と定義している.高齢者の習慣飲酒は脳血管障害や脳萎縮に関係して認知症リスクとなる.そのほか,骨粗鬆症,サルコペニアにも関連し,フレイルの促進因子である.高齢期に訪れるライフイベント(退職・近親者の死など)も飲酒の意義を変容させ,疾患イベントをむしろ悪化させる.高齢者にとっての「節度ある適度な飲酒」とは,適量のお酒を飲める環境,つまり,ライフスタイル維持の観点から論じられるべきである.
キーワード アルコール関連認知症,適度な飲酒,Jカーブ,フレイル
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論文名 <U.Biologicalな側面から>
アルコールの脳へのインパクト
著者名 池田研二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):49-56,2021
抄録 アルコール依存症の認知機能障害の主要な病因はアルコール毒性とチアミン欠乏であり,ともに認知機能に重要な前頭葉,前脳基底部および海馬領域を,これに加えてチアミン欠乏は視床・乳頭体を侵すことがヒト剖検脳と動物実験で示されている.アルコール依存症では潜在的にチアミン欠乏を合併する頻度が高く,アルコール毒性と相まって認知機能低下を招く.アルコール乱用による早期老化に加えて,加齢脳では急性,慢性アルコール乱用に脆弱である.
キーワード アルコール毒性,チアミン欠乏,前頭葉,海馬,前脳基底部
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論文名 <V.Psychologicalな側面から>
中高年の飲酒と認知機能低下の特徴
著者名 新田千枝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):57-63,2021
抄録 近年の研究から,中高年のアルコール摂取は,過剰飲酒に限らず,少量〜中程度の飲酒であっても,長期的には認知機能を低下させることが報告されている.さらに,高齢者の場合は,アルコールによる認知機能低下は持続・悪化する傾向があり,遂行機能の低下に加えて,見当識や短期記憶も影響を受ける.アルコールによる認知機能低下を予防する観点から,可能な限り中年期以降は飲酒量を減らすのが望ましいというメッセージを普及させていくことが必要である.
キーワード 中高年期,認知機能低下,禁酒者バイアス,遂行機能,認知機能改善プログラム
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論文名 <W.Sociologicalな側面から>
高齢社会とアルコール問題;定年退職者のケーススタディ
著者名 稗田里香
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):64-73,2021
抄録 「人生100年時代」といわれる超高齢社会において,退職後の健康長寿プランが求められている.本稿では,筆者が一般医療機関を対象に実施したアルコールリハビリテーションプログラム (ARP) 実施状況調査から定年退職者に特化し, その実態をケーススタディによって明らかにした.その結果, 定年後に複合的に曝露するアルコール健康障害などの特徴がある一方で, ARP後の回復率が高く, 身体的,精神的合併症,夫婦関係・家族関係の改善など,全人的回復がみられることが明らかとなった.
キーワード 高齢社会,アルコール問題,定年退職者,一般医療機関,全人的回復
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論文名 <W.Sociologicalな側面から>
高齢者のアルコール問題;介護・支援の現場から
著者名 白木裕子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):74-78,2021
抄録 高齢者のアルコール問題は,ケアマネジャーをはじめとする介護を含めた在宅支援に携わる専門職にとってたいへん対応がむずかしい問題のひとつとなっている.アルコール依存症への対応は「絶対的な断酒」が不可欠となるが,その実現には,本人の意思のみならず,家族や介護支援者等を含む周囲の環境等が大きく関与するとともに,支援にかかわる専門職の対応にも課題がみられる.そこで,医療との連携や地域社会との関連,新型コロナウイルス感染症拡大(いわゆる,コロナ禍)における今日的な課題を含めて,高齢者支援の立場からアルコール問題の課題を提示するとともに,今後の取組みの方向性についての考察を行う.
キーワード 接近困難,孤立化,地域連携
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論文名 <W.Sociologicalな側面から>
地域高齢者のアルコール問題とその支援;ソーシャルワークの経験から
著者名 佐古惠利子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):79-85,2021
抄録 地域高齢者,とくに単身生活者のアルコール問題は,その生活問題のなかで発見・介入され,治療・再発予防,さらにはリカバリーに至る長期的で複合的な課題をもつことが多く,とくに福祉分野との連携が不可欠になる.しかし,これまで構築してきたアルコール地域ネットワークでは,いまだに地域で暮らす人の身近な資源とはなり得ていない現状がある.今後さらに地域にアルコール専門外来・回復施設を充実させ,分野を超えた総合的な支援の仕組みが望まれる.そのことが,アルコール問題への早期の介入,さらにはその予防を可能としていくものと考える.
キーワード 地域ネットワーク,アルコール専門外来,回復施設,複合的課題,分野を超えた総合的支援
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論文名 <W.Sociologicalな側面から>
被災地の高齢者のアルコール問題
著者名 原 敬造
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):86-91,2021
抄録 東日本大震災から9年10か月が過ぎ,ハード面の復旧は目に見えるかたちで進行しているが,一方では,被災者間の格差が広がり,こころの健康面では,時とともに深刻さを増している.アルコール問題を抱える人,不安・恐怖,抑うつ気分や不眠を訴える人,イライラ感や無気力感を訴える人はまだまだ多く,こころのケアは今後も重要な課題である.被災地での高齢者のアルコール問題を取り上げるなかで,地域をベースにしたアルコール問題への取組みの重要性を提起した.
キーワード 東日本大震災,こころのケア,高齢者のアルコール問題,からころステーションの活動,K-CARP(Karakoro-Community based Alcoholic Resilience Program)
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論文名 <W.Sociologicalな側面から>
トピック:新型コロナウイルス感染症と高齢者におけるアルコールと自殺の問題
著者名 竹林 唯,前田正治
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,32(1):92-99,2021
抄録 新型コロナウイルス感染症の流行により,重症化リスクの高い高齢者では,とくにストレスを強く感じていることが予想される.一般的にストレス状況下では飲酒量が増加することが知られているが,問題飲酒や多量飲酒は自殺との関連が強い.過去の自然災害,人為災害や事故の発生後にも飲酒量の増加が一貫して示されていることから,現在の状況においても飲酒量や問題飲酒の増加が予想される.また,高齢者については,被害規模の大きい災害後に自殺者数の増加がみられており,とくに注意が必要となるだろう.しかし高齢者は,加齢による身体能力や認知能力の低下により,心理面のセルフケアが困難になっている場合があり,それを踏まえた周囲からのケアが,アルコール問題の予防や自殺予防のために重要である.
キーワード 新型コロナウイルス感染症,高齢者,アルコール使用障害,自殺,災害
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