老年精神医学雑誌 Vol.31-2
論文名 今回の特集にあたって
著者名 入谷修司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):105-106,2020
抄録
キーワード
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論文名 <T.総論>
健忘とはなにか
著者名 池田研二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):107-116,2020
抄録 (病的)健忘は,記憶障害のなかのエピソード記憶障害に相当する.健忘は内側側頭葉,間脳,前脳基底部ほかの損傷で起こる.健忘の評価にはそれぞれ近時記憶,遠隔記憶の評価尺度がある.健忘は巣症状であり,認知症の重要な要素であるが,それのみでは認知症ではない.加齢に伴う生理的健忘は疾患に伴う病的健忘と病理基盤が異なるが,ともに近時記憶障害が中心で,変性疾患は緩やかに進行するので両者は移行するようにみえる.
キーワード 病的健忘,生理的健忘,エピソード記憶障害,海馬領域,シナプス可塑性
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論文名 <T.総論>
脳機能画像研究からみたエピソード記憶の基盤となる脳内機構
著者名 月浦 崇
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):117-122,2020
抄録 エピソード記憶とは,個人が体験した出来事(エピソード)に関する記憶であり,出来事の内容に加えて時間的・空間的文脈情報を伴う記憶として定義されている.症例HMに関する報告以来,ヒトのエピソード記憶に海馬・海馬傍回が重要な役割を果たすことが指摘されてきたが,近年の脳機能画像研究の発展によって,外側前頭前野,内側前頭前野,頭頂葉,扁桃体などの他の多くの脳領域がそれぞれ異なる役割をもってエピソード記憶に関連することが明らかになってきている.
キーワード fMRI,エピソード記憶,側頭葉内側部,前頭前野,頭頂葉
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論文名 <U.各論>
記憶形成にかかわる脳メカニズムの最新知見
著者名 柚ア通介
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):123-131,2020
抄録 経験や学習によって脳内の神経細胞集団(セルアセンブリ)が化学的ないし生理的変化を受けて記憶痕跡が形成されると考えられてきた.近年の技術革新によって,動物モデルにおける記憶痕跡の実体がしだいに明らかになってきた.また,セルアセンブリのもととなる神経細胞間のシナプス結合の形成・維持機構の解明も進んだ.ヒト臨床に活用するためにはまだまだ研究が必要であるが,これらの知見は新しい治療法につながる可能性を有する.
キーワード 記憶痕跡,健忘,シナプス,長期増強,光遺伝学
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論文名 <U.各論>
脳血管障害による純粋健忘
著者名 田川皓一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):132-142,2020
抄録 全般的な知的機能の障害は伴わない記憶障害を主徴とする純粋健忘では,エピソード記憶の障害が中心であり,記銘の障害が著明となる.純粋健忘はPapezの回路やYakovlevの回路を形成する諸部位の損傷により出現してくる.今回は脳血管障害を対象として,海馬性健忘や視床性健忘,retrosplenial amnesia,脳弓性健忘の症例を供覧した.さらに,扁桃体損傷や尾状核損傷により純粋健忘を呈した臨床例について解説を加えた.
キーワード 純粋健忘,Papezの回路,海馬性健忘,視床性健忘,retrosplenial amnesia
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論文名 <U.各論>
「ど忘れ」と「し忘れ」の認知神経メカニズム
著者名 梅田 聡
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):143-148,2020
抄録 「ど忘れ」と「し忘れ」は,いずれも記憶想起の失敗であるが,両者は質的には異なる現象である.「ど忘れ」は回想記憶や意味記憶のエラーであり,主観的な指標であるため,捉え方の個人差が大きい.それに対して,「し忘れ」は展望記憶のエラーであり,客観的な指標として利用できる.本稿では「し忘れ」という現象に集中し,展望記憶の理論的背景,捉え方,その神経メカニズムについて述べたうえで,認知症や軽度認知障害(MCI)における臨床的指標としての妥当性などについて概観する.
キーワード ど忘れ,し忘れ,展望記憶,前頭前野,認知症,軽度認知障害
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論文名 <U.各論>
記憶の想起障害は回復可能か
著者名 野村 洋
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):149-155,2020
抄録 認知症では過去の記憶を想起できなくなる想起障害が問題となるが,想起障害を回復させる方法はいまだ確立していない.最近,マウスを用いた実験系で,記憶形成時に活動した記憶エングラム細胞の再活性化が記憶の想起に必要十分であることが明らかになった.そして,何らかの理由で記憶を想起できなくなったあとでも,記憶エングラム細胞が再活性化すれば,記憶の想起が回復することが報告された.こうした動物実験の知見を活かして,ヒトの想起障害を回復させる治療法の開発が期待される.
キーワード 記憶の想起,記憶エングラム細胞,ヒスタミン,H3受容体
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論文名 <U.各論>いわゆる健忘症候群と認知症
解離性健忘;認知症や他の健忘症候群との鑑別,その神経基盤
著者名 菊池大一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):156-164,2020
抄録 解離性健忘は自伝的記憶の障害であり,前向性健忘がなく逆向性健忘のみを呈する孤立性逆向性健忘が急性に発症し持続する.この症候と経過の特徴が認知症や他の健忘症候群との鑑別に役立つ.解離性健忘では自伝的記憶の想起が選択的に障害・抑制されているが,その神経基盤として前頭前野と内側側頭葉との相互作用が示されつつある.不快な記憶の積極的で適応的な忘却は,社会のなかで暮らすわれわれの記憶において,基礎的で重要かつ強力な心理過程である.
キーワード 解離性健忘,自伝的記憶,孤立性逆向性健忘,認知症,健忘症候群
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論文名 <U.各論>いわゆる健忘症候群と認知症
てんかん性健忘,ECT術後健忘と認知症の鑑別
著者名 塩ア一昌
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):165-171,2020
抄録 てんかんは,65歳以上で発症率が高まることが近年の疫学研究からわかってきている.高齢発症てんかんは側頭葉が焦点であることが多く,けいれんを伴うことが少なく,健忘をきたすことがあり,認知症と誤診されないように注意が必要となる.電気けいれん療法(ECT)はうつ病に対して確実な効果が見込める治療法だが,ECT施行がためらわれる理由のひとつに術後の健忘がある.ECT術後健忘については前向性健忘と逆向性健忘が報告されているが,近年どちらも一過性であるという報告が相次いでいる.高齢発症てんかんは,ECTにより誘発された発作と異なり,てんかん原生があり発作間欠期にもてんかん性放電が発生している.近年,このてんかん性放電が注意力や記憶の固定化に影響している可能性が報告されており,てんかんと認知機能障害を関連づける要因のひとつと考えられる.
キーワード 高齢発症てんかん,電気けいれん療法,認知症,健忘,てんかん性放電
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論文名 <U.各論>いわゆる健忘症候群と認知症
一過性全健忘症の病理背景と認知症との関連
著者名 小川克彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):172-178,2020
抄録 一過性全健忘症では健忘症状が急激に発症し,他の神経学的異常はみられない.基礎疾患には,片頭痛・虚血・精神的要因・てんかん・静脈性うっ血がある.MRI拡散強調画像で,片側海馬外側部(CA-1領域)の上部に異常高信号域が症状改善後に出現することがあり,この領域は血管支配では分水域に一致する.代謝異常として,「グルタミン酸の過剰放出」が推測されているが,異常高信号域の出現は分水域での代謝異常に基づく細胞障害性浮腫を反映したと考えられる.
キーワード 一過性全健忘症,拡散強調画像,CA-1領域,分水域,細胞障害性浮腫,グルタミン酸
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論文名 <U.各論>
脳神経外科医からみた記憶障害・健忘症状
著者名 野村貞宏,鈴木倫保
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,31(2):179-184,2020
抄録 本稿では,記憶障害・健忘症状を呈する脳血管障害,頭部外傷,脳腫瘍,てんかん,水頭症を概説する.実際には記憶障害のみを呈する場合は少なく,他の高次脳機能障害,認知機能障害,軽度の意識障害を伴うことが多い.頭蓋内圧亢進症状,麻痺,失語症,半盲等に代表される脳神経外科的症候を伴わず,診断・治療が遅れる傾向があるため,注意を要する.
キーワード 脳梗塞,頭部外傷後高次脳機能障害,白質脳症,一過性てんかん性健忘,特発性正常圧水頭症
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