論文名 | 特集編集にあたって:日々の臨床と「認知症予防」 |
著者名 | 齋藤正彦 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1141-1146,2020 |
抄録 | 認知症予防は多くの国民の関心事であると同時に,将来の社会資源をコントロールするために重要な政策的関心事でもある.日本における認知症患者の増大は,主として後期高齢者,とくに85歳を超えた超高齢者人口の増大による.高齢者にとって,認知症予防は将来の課題ではなく,日々,心身の健康を維持する活動である.加齢によって衰える心身機能と共存して穏やかな生活を実現することが,日常臨床における認知症予防の目標である. |
キーワード | 認知症,認知症予防,疫学,後期高齢者,加齢現象 |
論文名 | 認知症予防とはなにか;その課題と可能性 |
著者名 | 朝田 隆 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1147-1153,2020 |
抄録 | 2019年,政府は「認知症施策推進大綱」をとりまとめたが,そのポイントのひとつが「予防」である.予防の主たるターゲットは,認知症の約2/3の割合を占めるアルツハイマー病である.わが国の認知症患者の8割弱は80歳以上だが,こうした認知症予防は広い意味での生活習慣病やライフスタイルと深く関係する.運動に代表されるいくつかの危険因子が知られているが,これらはなぜ危険なのか,そのメカニズムを理解して予防実践することが必要である.方法論的に,これまでの認知症予防が一般社会におけるムーブメントとして広く受け入れられやすいものであったかどうかは疑問である.高齢者が前向きになれる予防への呼びかけや入り口づくりが重要である.さて,新型コロナにより世界中のさまざまな分野でパラダイムシフトが起こっている.認知症予防のキーワードも「通いの場」からデジタルを含む「ハイブリッド介護予防」への転換が求められている. |
キーワード | dementia,prevention,Alzheimer’s disease,COVID-19,hybrid |
論文名 | 縦断的疫学調査からみえてくる認知症予防の可能性 |
著者名 | 山田正仁 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1154-1160,2020 |
抄録 | 筆者らは,石川県七尾市中島町の地域コホート研究において,認知機能正常時の生活習慣等の因子と将来の認知機能低下との関連を前向き縦断的に検討している.その際,とくに摂取食品に注目し,認知機能低下リスク減少との関連が示唆される食品の成分の効果と作用機序を実験的に解明し,さらに実験的に優れた効果を示した食品成分を用いた予防介入研究を行い,その有効性を確立するという戦略で研究を推進している.本稿では,そうした一連の認知症予防法開発研究を紹介した. |
キーワード | 認知症,軽度認知障害,地域コホート研究,食品成分,ポリフェノール,予防 |
論文名 | メモリートレーニングと認知症「予防」;認知的介入によるアルツハイマー病の三次予防 |
著者名 | 松田 修 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1161-1169,2020 |
抄録 | 本稿の目的は,筆者がメモリートレーニングと称する認知機能に焦点をあてた3タイプの認知的介入が,軽度認知障害(MCI)期〜認知症期のアルツハイマー病の「三次予防」に関して,どのような臨床的意義があるのか,この介入に含めるべき治療的要素はなにか,そして,介入に期待される作用機序はなにかを中心に論じることである.認知的介入には,@認知トレーニング,A認知刺激,B認知リハビリテーションがある.これらに不可決な要素は,前頭葉機能に焦点をあてた認知活動による認知機能の活性化,協働・コミュニケーションを重視した活動による社会的機能の促進,快・自尊感情・自己効力感を高める働きかけによる心の健康状態の改善である.これらによる神経心理社会機能の改善が,認知症の進行を穏やかする作用を生じさせるのではないだろうか. |
キーワード | 認知症予防,認知トレーニング,認知刺激,認知リハビリテーション,メモリートレーニング |
論文名 | オーラルフレイルと認知症予防 |
著者名 | 山本龍生 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1170-1176,2020 |
抄録 | オーラルフレイルは口の機能のわずかな衰えであり,フレイルの前段階とされている.歯の喪失は,口の機能を著しく損なうだけでなく,認知症の発症にも関連することが,国内外の研究で明らかになってきた.日本人高齢者の歯数は平均寿命に見合うだけ十分にあるとはいえず,歯を喪失しないために歯間部のブラッシングによる歯周病予防とフッ化物の利用によるう蝕の予防をよりいっそう進める必要がある. |
キーワード | オーラルフレイル,認知症,歯の喪失,歯周病,う蝕 |
論文名 | ロコモティブシンドロームと認知症の予防 |
著者名 | 帖佐悦男 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1177-1183,2020 |
抄録 | ロコモティブシンドロームと認知症の基本的な予防法は,規則正しい生活習慣(適度な運動・バランスのとれた食生活・十分な睡眠・学習)と考えられる.外因性の要因のなかでも,運動不足はリスク因子であり,身体運動は両者の予防になるエビデンスがある.認知症予防の12のポイント(Lancet Commission 2020)に「65歳以上の運動不足」が記載されている.運動器疾患(変形性関節症・骨粗鬆症・腰椎疾患など)の予防には,体幹・下肢を含めた歩行・水泳などの全身運動や筋力増強訓練・ストレッチングなどが有用である. |
キーワード | ロコモティブシンドローム,認知症,予防,身体運動,食生活(栄養),睡眠・休養,学習(知識や技術の習得) |
論文名 | 社会関係の維持と認知症予防 |
著者名 | 村山洋史 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1184-1191,2020 |
抄録 | 認知症予防のためには,従来から知られている危険因子のみならず,いわゆる「健康の社会的決定要因」のひとつである社会関係にも注目する必要がある.本稿では,社会関係についての概念を整理したうえで,社会関係が認知症予防にかかわるアウトカム,すなわち認知症発症や認知機能低下にどのように関連するかを概観する.社会関係は,ソーシャルネットワークとソーシャルサポート,ソーシャルキャピタルに大別できる.観察研究では,ソーシャルネットワーク,ソーシャルサポートと認知症予防にかかわるアウトカムについてのエビデンスは豊富だが,ソーシャルキャピタルに関しては少なかった.また,介入研究に関してはまだ知見の蓄積が浅いことが明らかになった.社会関係は,だれもが日々の生活のなかで有するものである.そのため,この領域の発展には,日頃から患者やその家族に接している臨床家の役割は大きく,アカデミアと臨床家との有意義な協働が不可欠である. |
キーワード | 社会関係,ソーシャルネットワーク,ソーシャルサポート,ソーシャルキャピタル,認知症予防 |
論文名 | 食習慣と認知症予防:高齢期の栄養と身体および精神機能との関連 |
著者名 | 横山友里 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1192-1197,2020 |
抄録 | 高齢期の栄養は,加齢に伴う心身機能の低下に対して改変可能な要因として注目されている.高齢期は,加齢に伴う複数の要因が相互に関連し,食事摂取量が低下し,低栄養になりやすいため,日々の食事を通じて食事の質を確保することが重要である.日本人高齢者を対象とした観察型の栄養疫学研究では,身体機能および精神機能に対して,日本人の食事の特徴を踏まえた多様な食品摂取との関連が示されているが,日本人のための食事ガイドライン策定に向けたエビデンスは十分ではなく,今後さらなる研究が必要である. |
キーワード | 身体機能,精神機能,栄養疫学,食事の質,食事パターン |
論文名 | 再び,日々の臨床と「認知症予防」 |
著者名 | 山崎英樹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,31(11):1198-1208,2020 |
抄録 | 政策的に推し進められる認知症予防について,予防を危惧する当事者の声を紹介し,医学的エビデンスの乏しさとその理由を挙げ,認知症予防が人を分断しかねないことや医学モデルに潜む優生思想を指摘した.さらに,共生は寛容によって与えられるものではなく,権利として享受されるべきものであることを述べた.貴重なヘルスケア資源を認知症予防という危うい社会実験ではなく,認知症フレンドリー社会の実現に集中すべきである. |
キーワード | 予防,共生,寛容,認知症フレンドリー社会,認知症施策推進大綱,認知症基本法 |