老年精神医学雑誌 Vol.30-9
論文名 疫学研究からみた糖尿病と認知症:久山町研究
著者名 小原知之,二宮利治
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(9):977-985,2019
抄録 近年の疫学研究により,糖尿病は認知症,とくにアルツハイマー型認知症発症の危険因子として注目されている.久山町研究の成績を用いた検討において,糖尿病はアルツハイマー型認知症の発症や剖検脳における老人斑の有無の有意な危険因子であった.さらに,久山町地域住民を対象といた脳画像研究において,糖尿病の罹病期間の増加に伴い海馬容積が有意に低下することを明らかにした.認知症の社会的負担を軽減するうえで,糖尿病の予防とその適切な管理が重要と考えられる.
キーワード 疫学,認知症,糖尿病,アルツハイマー型認知症
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論文名 糖尿病による認知症促進機構
著者名 里 直行
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(9):986-992,2019
抄録 高齢化を迎える現代社会において認知症は65歳以上の7人に1人が罹患しており,予防・治療法の開発が迫られている.近年,認知症・アルツハイマー病(AD)の後天的危険因子として糖尿病が注目されつつある.糖尿病がAD患者における認知機能を修飾する機序は血管因子と代謝因子に分けられ,さらに可逆的,不可逆的なものに分けられる.最近の大規模臨床試験の結果は,運動や食事・認知トレーニング・血管リスク管理によるこれらの疾患の予防・コントロールが認知障害の進行抑制に重要であることを示唆している.さらに「?アミロイドに対する先制医療」や「運動・食事・血管リスク管理などによる認知症の予防」に加えて,糖尿病による認知症促進メカニズムの解明に基づく「認知症の創薬」が新たな戦略として期待される.
キーワード アルツハイマー病,糖尿病,肥満,運動,βアミロイド
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論文名 糖尿病による認知機能障害の分子生物学的メカニズム;エクソソームを中心に
著者名 金山大祐,赤嶺祥真,工藤 喬
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(9):993-997,2019
抄録 本稿では,近年注目を集めているエクソソーム(またはEVs〈extracellular vesicles〉)について,その発見と研究の歴史,および現状について概説した.糖尿病と認知症,およびその両疾患の関連性におけるエクソソームの役割について,それぞれこれまでに報告されている知見について概説し,筆者らが進めている研究についても紹介した.
キーワード exosome,EVs,diabetes,dementia
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論文名 認知機能障害とフレイルからみた糖尿病;高齢者糖尿病診療ガイドラインを踏まえて
著者名 荒木 厚
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(9):998-1005,2019
抄録 糖尿病は認知機能障害やフレイルをきたしやすい.両者は加齢,インスリン抵抗性,高血糖,低血糖,動脈硬化性疾患などの共通の危険因子を有する.認知機能障害やフレイルの共通の対策としてレジスタンス運動を含む運動,栄養サポート,低血糖を避ける適切な血糖コントロール,社会サポートが大切である.DASC-8(認知・生活機能質問票)は血糖コントロール目標の設定だけでなく,認知機能障害やフレイルを早期発見することに役立つ可能性がある.
キーワード diabetes,cognitive impairment,frailty,DASC-8,aging
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論文名 もの忘れ外来における認知症と糖尿病
著者名 羽生春夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(9):1006-1013,2019
抄録 2型糖尿病は認知症の発症リスクを高めるが,多彩なメカニズムや多様な病理,病態によって認知症の病像や経過も異なってくる.多くはアルツハイマー病(AD)や血管性認知症であるが,AD病理や血管性病変の関与が少なく糖代謝異常が深く関与する病型は糖尿病性認知症と呼ばれる.糖尿病を伴う認知症の約10%が本症に属し,タウオパチーとの関連が推測されているが,正確な診断に基づいた適切な治療や管理,ケアが求められる.
キーワード 糖尿病,アルツハイマー病,血管性認知症,糖尿病性認知症,もの忘れ外来
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論文名 糖尿病外来受診者と認知障害
著者名 長瀬亜岐,堀田 牧,池田 学
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(9):1014-1020,2019
抄録 高齢糖尿病患者では,認知症の発症リスクが上昇する.高齢糖尿病患者の治療では認知機能や日常生活動作を踏まえた個別性のある血糖管理目標を設定し,低血糖予防が重視されている.一方,認知症予備軍とも考えられている軽度認知障害(MCI)においても初期から服薬アドヒアランスが低下するため,高齢糖尿病患者が認知障害を併発しても,安心した医療が提供できるように発症前から支援体制を調整していくことが望まれる.
キーワード 高齢者,糖尿病,軽度認知障害,認知症,服薬アドヒアランス
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論文名 認知症予防と栄養摂取;アルツハイマー病とインスリン抵抗性を中心に
著者名 大塚美惠子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(9):1021-1029,2019
抄録 認知症も2型糖尿病も加齢とともに有病率が上がる疾患である.認知症の代表であるアルツハイマー病発症の予防には,抗酸化ビタミン,ドコサヘキサエン酸(DHA)などを含む多品目の摂取が重要である.発症の背景にあるインスリン抵抗性を改善するために,甘い物の過量摂取,摂取エネルギー摂取過多の是正は効果が期待できる.一方,高齢者の2型糖尿病に関連した認知機能障害についてもインスリン分泌の変化を踏まえながら,早期の対応が必要と考えられた.
キーワード アルツハイマー病,インスリン抵抗性,耐糖能障害,多価不飽和脂肪酸(PUFA)n-6/n-3比,ドコサヘキサエン酸(DHA)
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