老年精神医学雑誌 Vol.30-4
論文名 老年期にみられる不安症(不安障害)の生物学的基盤
著者名 山本円香,塩入俊樹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):349-357,2019
抄録 不安症(AD)は,人々のQOLに負の影響を及ぼし,死亡や障害の危険率を増加させる.なかでも高齢者の不安は,頻度が高く,多大な悪影響を与えていることから,“silent geriatric giant”と呼ばれており,高齢者と不安は,切っても切れない重大な臨床的問題である.本稿では,ADの生物学的基盤として,神経伝達物質や内分泌系のストレス応答に対して加齢がどのような影響を与えるのかについて述べたあと,筆者らが提唱するADの“Stress-induced fear circuitry disorder(SIFCD)”仮説について,加齢という観点を含めてまとめた.
キーワード 神経伝達物質,コルチゾール,恐怖の神経回路,Stress-induced fear circuitry disorder
↑一覧へ
論文名 DSMにおける不安症(不安障害)の変遷と疫学
著者名 音羽健司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):358-365,2019
抄録 老年期の不安症について,『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』の診断基準の変遷,疫学研究や症状の特徴,併存疾患,今後の疫学研究上の展望などを概説した.高齢者の不安には診断基準ではとらえきれない特有の症状がみられることや,他の精神疾患,身体併存疾患の合併もあることについて述べた.さらに高齢者の不安症を考える際には,高齢者特有の症状を把握し,不安の客観的な指標を用いた実証的なデータ検証が今後必要になることについてもふれた.
キーワード 不安症,診断基準,疫学,併存症
↑一覧へ
論文名 ライフサイクルからみた老年期の不安症(不安障害)の特徴
著者名 上村直人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):366-372,2019
抄録 本稿では,高齢期における不安の本質とその背景疾患の多様性やライフサイクル的な背景の違いを踏まえた高齢期の不安症候群について述べた.さらに高齢期の不安障害を考えるうえでは見過ごせない器質性不安症候群や心因性など鑑別診断の意義についても松下(2003)や兼本(2018)の指摘も取り入れつつふれた.高齢者にみられる不安・抑うつ状態は,器質的な要因から心理的要因に加え,社会的な時代的背景や生活史に関する要因も大きく,多元的なアプローチが必要であると考えられる.そして高齢期では不安という症状を消そうとするのではなく,一人の人間として患者の不安を理解しようとする症状把握が最も重要であることを強調しておきたい.このような診察態度が患者と医師の信頼関係と,身体疾患の改善にもつながりうると思われる.
キーワード 認知症,不安,ライフサイクル,ADHD,DLB
↑一覧へ
論文名 身体疾患を有する人の不安への対応
著者名 藤澤大介
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):373-379,2019
抄録 "・自覚的苦痛,機能障害,ストレス・イベントからの時期などを考慮して,支持的な対応で経過をみるか,より専門的な介入を行うかを判断する.
・抗うつ薬や抗不安薬が有用であるが,身体予後が厳しい患者は少量の抗精神病薬も考慮する.
・リラクセーション法,心理教育,支持的精神療法,認知行動療法,マインドフルネスなどさまざまな精神療法の有効性が実証されている."
キーワード 多職種ケア,認知行動療法,薬物療法,マインドフルネス,がん,メンタルヘルス・ファーストエイド
↑一覧へ
論文名 老年期の不安症とうつ病のcomorbidity
著者名 大坪天平
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):380-385,2019
抄録 老年期には加齢に伴う心身の活力の低下,複数の慢性疾患の併存などの影響もあり,生活機能が障害され心身の脆弱性が出現しやすい状態となる.同時に,職業や家庭内の役割の喪失や,身近な人間との死別などさまざまな喪失体験を経験する時期である.したがって,老年期には不安症やうつ病が生じやすく,またその併存も多くみられる.老年期の不安症とうつ病のcomorbidityに介入する前提として,老年期特有の背景基盤の理解が必要となる.
キーワード フレイル,喪失体験,孤立,身体症状症,全般不安症
↑一覧へ
論文名 老年期の身体症状症および関連症群の臨床
著者名 稲村圭亮
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):386-392,2019
抄録 老年期における身体症状症および関連症群は,背景に若年者とは異なる基盤が存在する.DSM-5診断基準においては,病因論は排する方針がとられ,身体症状を呈する疾患群を身体症状症として一括しているが,その心理機制はさまざまである.とくに老年期では,疾病恐怖的な訴えが前景にある「心気症状」が働くことが多い.本稿では,身体症状症および関連症群について,その病因としての「心気症状」の重要性について概説し,また,臨床の補助となる疾患モデルをいくつか呈示した.これらの臨床に関する包括的な知見を概説したうえで,さらに認知機能障害との関連についても述べた.
キーワード 老年期,高齢者,身体症状症,身体表現性障害,認知機能
↑一覧へ
論文名 軽度認知障害およびアルツハイマー型認知症に伴う不安
著者名 繁田雅弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):393-398,2019
抄録 軽度認知障害およびアルツハイマー型認知症に伴う不安は,認知症に対する偏見や固定観念ないし先入観によって助長される.病気に対する周囲の偏見よりもむしろ患者自身の病気に対する偏見が不安を引き起こす要因となる.日々の生活のなかで体験するさまざまな失敗も不安を引き起こし助長するが,家族の対応も不安を軽減するどころか助長してしまうことがまれではない.こうした不安に対する支援として,医師-患者関係の確立とともに支持的精神療法や森田療法といったアプローチが有効である.
キーワード 自覚症状,偏見,先入観,自己効力感,自尊感情
↑一覧へ
論文名 老年期の不安症(不安障害)に対する精神療法
著者名 塩路理恵子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):399-405,2019
抄録 老年期の神経症性の不安を中心とした病態(不安症/不安障害/神経症性障害)に対する精神療法的アプローチについて概説した.最初に包括的な対応として近年アメリカで提唱された“Eight rules for managing anxiety disorders in older adults”を紹介し,そして各種の精神療法について概説した.老年期の不安症に対する森田療法では,現在に応じたほどよい行動を探ることが,不安,加齢による変化を受け入れることにつながると考えられる.
キーワード 不安症(不安障害),老年期,精神療法,森田療法
↑一覧へ
論文名 老年期の不安症(不安障害)に対する薬物療法;多剤併用に関する注意を含めて
著者名 高岡洋平,稲田 健
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(4):406-411,2019
抄録 不安症(不安障害)の薬物療法は精神療法・心理社会的療法と相補的に行われるものである.薬物療法として第1選択となるのは抗うつ薬であるが,高齢者では身体合併症が多いこと,代謝能力が低下していることから,それぞれの薬物特性を知ることによって適切な薬物選択を行うことが必要となる.薬物療法の有効性を適切に判断し,副作用を生じるリスクを最小化するためには,少量・単剤から開始し,多剤併用を避けることが大切である.
キーワード 不安症,老年期,薬物療法,多剤併用
↑一覧へ