論文名 | <T.総論> 前頭側頭葉変性症の概念・分類の変遷 |
著者名 | 佐藤俊介,森 康治,池田 学 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1073-1079,2019 |
抄録 | 前頭側頭葉変性症は,臨床症候群としても,神経病理学的ないし分子生物学的にも不均一な疾患群である.1892年にArnold Pickがピック病の症例を報告してから,知見の蓄積とともに概念と分類が変遷し,2011年に行動障害型前頭側頭型認知症と原発性進行性失語の診断基準が相次いで発表された.しかし,これらの診断基準にもなお問題点はあり,今後の臨床ならびに分子生物学的なエビデンスの集積が待たれる. |
キーワード | 前頭側頭葉変性症,前頭側頭型認知症,ピック病,意味性認知症,進行性非流暢性失語,原発性進行性失語 |
論文名 | <T.総論> 前頭側頭葉変性症の神経病理学 |
著者名 | 豊島靖子,高橋 均 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1080-1088,2019 |
抄録 | 1.孤発性の前頭側頭葉変性症(FTLD)は単一の疾患ではなく,種々の原因によって引き起こされるものを広く含んでいる. 2.病理組織学的に,異常リン酸化タウが蓄積するタウオパチーとリン酸化TAR DNA-binding protein of 43kDa(TDP-43)が蓄積するTDP-43プロテイノパチーに分類される疾患が多い. 3.タウオパチーではピック病,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,グリア細胞球状封入体タウオパチー,嗜銀顆粒性認知症などが含まれる. 4.リン酸化TDP-43が細胞内に蓄積するFTLD-TDPと筋萎縮性側索硬化症は,同じ疾患スペクトラムに属すると考えられている. 5.FTLD-TDPの大脳皮質病変は,リン酸化TDP-43陽性封入体の出現部位や形態で4つのタイプに分類されている. |
キーワード | 神経病理,タウオパチー,TDP-43,運動ニューロン疾患,細胞内封入体 |
論文名 | <T.総論> 前頭側頭葉変性症の症候学 |
著者名 | 植草朋子,品川俊一郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1089-1098,2019 |
抄録 | 前頭側頭葉変性症(FTLD)は,前頭葉,側頭葉を主病変とした社会行動の変容や失語症状を特徴とする神経変性疾患群である.その中核群である行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)では,脱抑制やアパシー,共感性の欠如,常同行動,食行動の変化といった多彩な行動変容が初期より出現し,これらの症状は診断基準にも用いられる.他の認知症疾患や精神疾患との鑑別が問題となることも多い.画像検査は診断補助としては有用であるが,単独での診断意義は乏しく,病初期には所見が乏しいこともある.特異的な症候と組み合わせて診断することが診断精度を向上させることにつながる. |
キーワード | bvFTD,症候学,常同行動,食行動異常,精神疾患 |
論文名 | <T.総論> 前頭側頭葉変性症の分子イメージング |
著者名 | 樋口真人 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1099-1106,2019 |
抄録 | 3大認知症のひとつである前頭側頭葉変性症(FTLD)は,病理学的にはタウなどのタンパクの線維性凝集体が脳内に沈着することを特徴とする.病理型と臨床型の結びつきは1対1ではないため,臨床症状から背景病理を推測することは困難である.近年,FTLDのタウ病変を高いコントラストで可視化するイメージング剤が開発され,ポジトロン断層撮影(PET)によるFTLDの早期診断,鑑別,病勢評価が可能になり始めている.FTLD病態カスケードの中下流プロセスである神経炎症や神経伝達異常のPETも開発が進んでおり,これらのプロセスが病態全体に及ぼす影響を明らかにし,新たな治療メカニズムの同定につながると期待される. |
キーワード | ポジトロン断層撮影,タウタンパク,病態カスケード,神経炎症 |
論文名 | <T.総論> FTLD-Jからみたわが国における前頭側頭型認知症の臨床特徴 |
著者名 | 桝田道人,渡辺宏久,勝野雅央,池田 学,祖父江 元,FTLD-J |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1107-1113,2019 |
抄録 | 欧米とわが国を含むアジア圏では家族性前頭側頭型認知症(FTD)の頻度やその背景となる遺伝子変異が大きく異なるため,FTDの治療薬開発に向けた基礎資料を作成するためには,わが国におけるFTDの臨床像を把握することが必要である.そこで行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)と意味性認知症(SD)を対象としたコホート研究「日本人前頭側頭葉変性症の自然歴・生体試料レジストリと病態抑止治療開発フロンティア(FTLD-J)」が開始され,症例の収集が進められている.FTLD-Jでは,FTD診療に精通した全国の脳神経内科医と精神科医による協力のもと,現時点までに110例の臨床情報を収集した.収集された臨床情報の結果から,65歳以降に発症する高齢発症例が30%存在すること,指定難病の基準に達しない軽度例が20%程度存在することなど,FTDには多様な臨床像が認められることが示唆された. |
キーワード | 前頭側頭型認知症,行動異常型前頭側頭型認知症,意味性認知症,コホート研究,FTLD-J |
論文名 | <U.前頭側頭葉変性症と関連疾患> 嗜銀顆粒性認知症 |
著者名 | 齊藤祐子,コ丸阿耶 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1114-1120,2019 |
抄録 | 嗜銀顆粒性認知症の特徴は,@高齢発症であること.A初発はもの忘れの症例が多いが,アルツハイマー病(AD)と比べて,頑固さ,易怒性等の,前頭側頭型認知症との共通点があること.B進行は緩徐で,軽度認知障害(MCI)に比較的長期間とどまり,ADLも保たれる傾向がある.Cドネペジル塩酸塩の効果は限定的で,いわゆるノンレスポンダーのことが多い.一方,検査所見としては,@形態画像では,左右差を伴う,迂回回を中心とする,側頭葉内側面前方の萎縮を伴い,ADと異なる.またAVSRAD ZスコアがMMSEに比して高い傾向を示す.B機能画像では,左右差を伴う側頭葉内側面の低下が特徴的で,基底核,小脳のdiaschisisを伴うことがあり,ADと異なる.C髄液バイオマーカーでは総タウ・リン酸化タウのごく軽度上昇をみることがあるが,ADに比べて軽く,Aβは原則として正常である.したがって11C-PiB PETでは原則として陰性である. |
キーワード | 左右差,画像,タウ,VSRAD,迂回回 |
論文名 | <U.前頭側頭葉変性症と関連疾患> 神経原線維変化型老年期認知症 |
著者名 | 山田正仁 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1121-1126,2019 |
抄録 | 1.神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は,海馬領域に多量の神経原線維変化を有するが老人斑(アミロイドβタンパク沈着)を欠く高齢者の認知症疾患である. 2.臨床的にアルツハイマー病(AD)と診断される患者のなかにアミロイドマーカー陰性例が約20%含まれ,SNAP(suspected non-AD pathophysiology)と呼ばれる. 3.SNAPの背景疾患のひとつとしてSD-NFTは重要である. |
キーワード | 神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT),神経原線維変化(NFT),原発性年齢関連タウオパチー(PART),suspected non-AD pathophysiology(SNAP) |
論文名 | <U.前頭側頭葉変性症と関連疾患> 進行性核上性麻痺;最近の進歩と今後の方向性 |
著者名 | 饗場郁子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1127-1138,2019 |
抄録 | 進行性核上性麻痺(PSP)は,垂直性核上性注視麻痺および早期の転倒を伴う姿勢保持障害を特徴とするリチャードソン症候群(PSP-RS)以外に多様な臨床病型が知られるようになった.2017年に発表されたMovement Disorder Societyによる診断基準(MDS基準)の検証結果では,とくに早期の感度・特異度は高いとはいえず,病態抑止治療がスタートした今,いかに早期に正しく診断するかが今後の課題である. |
キーワード | 進行性核上性麻痺,タウオパチー,リチャードソン症候群 |
論文名 | <U.前頭側頭葉変性症と関連疾患> 大脳皮質基底核変性症 |
著者名 | 下畑享良 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1139-1144,2019 |
抄録 | 大脳皮質基底核変性症(CBD)は病理診断名,大脳皮質基底核症候群(CBS)は臨床診断名として使用する.CBS以外の臨床病型を含むCBDの臨床診断基準(いわゆるArmstrong基準)が作成されたが,感度,特異度は高くないことが判明した.この主な原因として,認知症を呈するCBDはアルツハイマー病との鑑別がむずかしいことが明らかにされている.タウを標的とした病態抑止療法の成功のために,発症早期からの正確な診断を可能とする診断基準の改訂が望まれる. |
キーワード | 大脳皮質基底核変性症,大脳皮質基底核症候群,Armstrong基準,タウオパチー,アルツハイマー病 |
論文名 | <U.前頭側頭葉変性症と関連疾患> 認知症を伴う運動ニューロン疾患(運動ニューロン疾患型前頭側頭型認知症) |
著者名 | 山崎峰雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,30(10):1145-1150,2019 |
抄録 | 「認知症を伴う運動ニューロン疾患」(MND-D)は,わが国では湯浅-三山型ALSまたは認知症を伴うALS(ALS-D)と呼称され,欧米に先駆けて臨床病理学的にその検索が進んだ.欧米では,臨床病理学的に前頭側頭型認知症(FTD)の亜型として運動ニューロン疾患型前頭側頭型認知症(FTD-MND)の名称でまとめられ,最近では,TDP-43プロテイノパチーとしてFTDとMND両者の連続性のなかでとらえられている. |
キーワード | TDP-43,運動ニューロン疾患,筋萎縮性側索硬化症,前頭側頭型認知症 |